秋が来ると街に現れるオレンジ色で臭くてブヨブヨの『謎の物体X』を、木の枝や靴でつつき回すタイプのガキだった。臭い臭いと大喜びして、汁をなすりつけた枝を妹にも嗅がせようとしたところを、兄貴から首根っこ掴まれて叱られるまでがワンセット。テンプレート通りのガキだった。
その『謎の物体X』がイチョウの木の実だということは理科で習ったけれど、イコール茶碗蒸しの緑のあれだと言うところまで繋げてくれたのはマリアだ。ギルドに再び顔を出せるようになって二年、タッグでパトロールに出た夜のことだった。見回った公園に落ちていたそれを帰りに拾うと言い出したからつい、拾ってどうするんだと訊いたのだ。
どうするも何も食べる一択、茶碗蒸しが定番だが凝ったことをしなくたって蒸しただけでも旨い、そう気前よく教えてくれるマリアに倣っていくらか拾い、ギルドの裏の洗い場でブヨブヨの皮をそこげ落とすと現れた硬い殻。
この中にあの緑色の豆みたいなものが入っているのだとやっと理解した俺にマリアは、持って帰ってドラルクに渡せば完了だな、と言って笑った。
食に関してはすっかり任せきりだと見抜かれていたことには釈然としなかったものの、マリアの言うことも尤もだ。
「なんか臭うと思ったが銀杏じゃないか、お手柄だぞロナルドくん! ジョーン! ロナルドくんが銀杏持って帰ってきたぞ!」
そう思ったから助言通りに渡してみたら、これだ。臭いのが面白かっただけの物体Xは名を銀杏と言い、実は食べられる上に、ドラ公が大喜びするアイテムでさえあったのだ。
馬鹿だった俺はドラ公とジョンが何やら喜んだというのが無性に嬉しくて、翌日最大サイズのレジ袋一杯に銀杏を詰めて持ち帰ったものだから、限度を考えろ阿呆と一転叱られるというオチが付いたわけだけれど。
マリアの、そして銀杏のお陰ではあったけれど、ドラ公が俺のやったことで喜んでくれたという事実は、俺にとってかなりの衝撃体験だった。
今になって思えば、あの頃にはとっくに『芽が出てた』って事なんだろう。
今でも十月に入ると馬鹿の一つ覚えで銀杏を拾うが、流石に加減は覚えている。秋の間にジョンと俺、それから時々ヒナイチが炊き込みご飯やかき揚げを二、三回楽しめる分と、正月に使うだけ。きっかりそれだけ拾って綺麗にしておけば、ドラ公もドラ公で律儀に、俺と銀杏を交互に見て言うのだ。
「君、ホント銀杏好きだなあ!」
待ち望んでいた通りの言葉に、つい二ヤけてしまう。
だって、俺が好きなのはお前だ。揃いの指輪を付けてからも長いというのに、妙なところでこうしてボケやがるから、さていつまで気がつかれずに引っ張れるかと思うと面白くて仕方が無い。
「何、ニヤける程か?」
いよいよ不審がる鈍感野郎の手を取って、明日でいいからかき揚げが食いたいとリクエストする。多分、ぶつくさ言いながらも今夜のうちに作ってくれることだろう。
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