召集会議にて

ひとここ。キーファー視点の短文。
※会社名をわざと伏せているので読みづらいかもしれませんが、秘書の人たちの会話です。秘書の人たちは全員同じ会社の所属です。

 ごくごくと紅茶を飲み干して、かちゃりとソーサーにカップを置きなおす。すると、向かい合って座っているキャロルがすっと違和感のない所作で紅茶を追加で注いでくれる。こいつがやることは呆れるくらいなんでも様になっている。秘書としても、警護人としても。ジャパンのコミックに出てくる戦えるメイドや執事みたいな奴。

「キャロルはなんでうちにいるの」
……ふふ」
「ふふじゃないよ、笑って誤魔化すのあんたとあんたの主人の悪いとこ」
「おや、私の悪口はいくら言っても構いませんが、ウォルター様の悪口は許しませんよ」
「そう言っても別になんもしないじゃん」
「許さない、と警告しておくことが重要なのです。それでもなお、度が過ぎる行いをするのならば動くだけです」

 こいつは本当に敵に回さないでおこう。話す度にそう思う。「軽口や冗談で済むうちは許すが、それ以上は許さない」とはっきり示しているのだ。しかしそれを示すのはまだ優しい方だ。何故ならばラインを間違えて踏み越えれば本当に徹底的に痛い目を見せられるだろうから。物理的にか社会的にかはわからないが、キャロルとその主人であるヴィクター・L・ウォルターにはそれができる。
 ”うち”というのは、俺たちが所属している会社のことだ。警備、要人警護、それと警護をするなら守る人に寄り添うことができるようにと、オプションで秘書業なんかもやっている。とはいえ俺みたいな行儀が悪い奴に秘書はあんまり向いていない。あくまで警護がメインの業務で、元軍人の奴や、一見筋肉バカみたいな奴も多い。俺の爺さんとか。
 だからキャロルみたいなどっちもできる奴は重宝される。この国でも指折りの金持ちであるヴィクター・L・ウォルターは、詳細は知らないがキャロルとかなり固い契約を結んでいるらしく、おそらくヴィクターが死ぬまで付きっ切りなんだろう。ヴィクターだからこそできることであって、キャロルにもそれ相応の金が入っているはずだ。

「では、キーファーさんは何故?」
「俺は、他にできそうなことなかったから」
「そんな弱い理由で入社はできません」
「しらないよ。爺さんが入れって言って通ったんだし」
「ふふ、では入れるほどの能力と秘めたる信念が貴方にあったのでしょう。それを社長が見抜いていたのですよ」
……そんな大したもん、持ってないけど」
 俺がうちに入ったのは、——……俺は、今も当時も馬鹿だとは思っているが、殴り合いの喧嘩ばかりしているような人間だった。スクールの成績は悪くなかったが、一方でそういった荒れた行動をすることもやめられなかった。何かに不満があったわけでもない。ただ、ガキの頃に一度ガラの悪い奴に手を出されたのをやり返してから、そういう奴ら相手にずっと拳を振るうことがやめられなかった。
 周りにも両親にも心配も迷惑もかけ続けて、やっと成人した日に言われたのだ。「お前はうちに来い」と、社長である爺さんに。それで就職活動をしなくてもよくなったかと思いきや、しっかり面接はあったので苛ついたが。まあ、業務内容的に命をかけることもあるから仕方なくはある。
 とはいえスムーズに採用が決定して、せっかく得た就職先を無駄にしたくもないからそれから喧嘩は我慢をするようになった。しかし、それまでの行いから逃げることができるわけがなく、よく喧嘩をしていた相手やチームから吹っ掛けられることは向こうが腑抜けと呆れて諦めるまで何度もあった。それを耐えに耐えて(その頃が一番キツかった)、今ここにいる。

「社長はよく貴方をお褒めになっていますよ」
「爺バカなだけ……
「何だキーファー!俺の陰口か!?直接言いに来い!ハハハ!!」
「ゲ、ちょっと……何であんたがいるの」
「居て何の問題がある!」
「うるさいんだって……。ねえキャロル、気付いてて話題振ったでしょ……
「ふふ」
 キャロルは笑って、ぬるくなった紅茶にやっと口をつけた。
「後輩いじりだ」
「いいえ、そんな。ご家族の微笑ましいやりとりではないですか」
「微笑ましいか!写真でも取るか!?なあ、キーファー!」
「あー、いいよもう、前もやっただろこのやりとり……
「ご家族での記念のお写真はいくつあっても困りませんよ」
「記念てなんだよ、ただじじいと孫が仕事で一緒になっただけじゃん」
「我々が一堂に会すことも、いつ不可能になるか分かりませんから」
…………
 そう話を急にシリアスにするなよ。
「五月蝿いぞカイ!扉から筒抜けになるような声量をやめろと言っているだろう!!」
 バン、と大きな音を立てて会議室の扉が開いた。部屋の中からツカツカと男がこちらに文句を言いながら向かってくる。こいつが件のヴィクター・L・ウォルターだ。俺の爺ちゃん、カイとは幼馴染の仲だ。このふたりが揃うとろくでもない。シリアスは一瞬で終わった。
「なんだ!お前こそ五月蝿いぞヴィク!」
「黙れ老害、貴様集まりに遅れていたな!また女を誑かしていたのだろう、この恥知らずが!!」
「ハッハッハッ!今回は迷子の子供の親を探してやっていただけだ!残念だったな!」
 こうやって大声での口論が始まるのだ。元気な事は一般には良いことだろうが、うるさいのはもううんざりだった。
 ——今回の重役たちが集まった会議も、会長であるヴィクターとうちの社長である爺さんが口論をはじめたことで台無しになった。

「次からは爺さん抜きで、人員増やして対応しようよ……
「考慮しましょう」