桜崎
2025-11-28 07:37:31
2542文字
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白く四角いその上で

れめゆみ いちゃついている

「ユミピコ〜オレが浮気してたらどうする?」
寝台に広がった長い髪をすくう。こまめな手入れがされているからいつも指通りが良い。普段、ふと触りたくなって手を伸ばすと乱れるからやめろと怒られる。だからこうやって二人で並んで寝転んでいる時くらいしか機会がない。
機嫌よく可愛がっていたのに太い腕が伸びてきて赤い色が乗った十指が首を掴む。
「神のものを勝手に人に分け与えたのか? 殺す、と言いたいところだが神は己の所有物には寛大だ、一人につき指一本で済ませてやる」
「別におまえのものになったつもりはないけどな。オレの国に神様として祀ってあげてるだけだろ」
 平行線の会話。睦み合うのに問題はないので決着をつけるのは永遠に後回しにされている。
首筋にあてがわれた指は顔を近づけるのに邪魔で絡めるように触れると存外簡単に外してくれた。くちづけた色のない唇は柔らかいけれど何だかべたついていて、不満気に舌を出して離す。
「ユミピコ、オレ、これ嫌いなんだけど」
「保湿するなと? おまえはいつもカサついている。切れて血がついているなど穢らわしい」
神様だって人を吊り上げて上機嫌な時は血まみれでも触れてくるくせに。しかも咎人の血なんだけど。反論したところであまり意味をなさないのでそれよりも黎明の下にある体躯に意識を向けた。
薄くて寒そうで脱がせやすそうな格好。白い首筋、は普段見られないでそこにまだ残るいくつかの情交の痕が優越感を満たしてくれる。
鎖骨にある薄くなった色に重ねて、唇を押し付けていると少しだけ上がった吐息に黎明、と名前が混じる。
……最近咎人が五人ほどわいた、畏れ多くも神に付き纏い命を狙う不届き者たちだ」
「へえ、多いな、大丈夫だったか? まあ大丈夫だよな」
「白々しいな。懺悔をきいてやったが、レイくんを誑かす悪魔、だとか、口にしていたな。不貞の相手を神に処理させるとは、どういうことだ、黎明?」
わざとらしく、そうだなあ、なんて言いながら、優しく肩から服を脱がす。
 名前を出さないように上手くやれって言ったのにな。ただの人間なんて神様を前にしたら勝手に自身の中身を開示してしまうのだから天堂相手にそれは難しいだろうけど。それにしても天堂の口からレイくん呼ばわりされるのも悪くないなと思った。たまに呼んでくれないかな、こういう時とか。
肌を撫でて、舐めて、柔い場所に歯を立てた。
帯びてくる熱、に比例して、冷えた黒い瞳が黎明を射抜く。まだ大丈夫だろう。神様は意外と寛容なので一線は超えてはいないのは分かっている。あんまり怒らせすぎて、この続きをお預けされるのは嫌だから、適度な落とし所を探さなければならない。
「だってユミピコったらさ〜匂わせてんの気づいてるのに気づいてないふりしてんじゃん。つまんねーって思って」
どうせこの神様は嫉妬なんてしないし、それなら怒りで黎明のことをずっと考えていればいい。吊り上げている時、絶対に目の前の咎人より黎明のことが頭にあったはずだ。
黎明が狂わせた人間を神様が黎明のこと想いながら裁く想像はとても気分が良くて、心臓が痛いほど高鳴る。
「なあ、オレのこと考えながら殺してくれた?」
 天堂の腕が背に回る。頭を撫でる手つきと耳の奥に沈む声色は真逆で、悪意じみた響きがあった。
「二人までだ。ふふ、信仰のさせ方が甘いな、黎明。残りは神の言葉を説いたら残りは敬虔な信者になってくれたぞ」
……へえ、さすが神サマ」
まあいっか。二人だけでも。
短期間で五人はさすがに雑だった。軽い遊び程度の関係を構築して依存させて、ただお前だけが頼りだと囁く。天堂に何人か取り込まれるのは想定内でべつに惜しいものでも何でもなく、テラリウムに飾る価値すらないので好きにすればいいと思った。関係を清算するのも面倒だし始末をつけるついでに天堂の関心がより黎明に向くならラッキーくらいの。もう目的は達成したからその後のことなんて興味を覚えることはないはずだった。
「この爪の色も」
引き寄せられた手に指が絡んで、力が入る。整えられた赤い赤い爪。
頭に触れていた天堂の片手が黎明の頬撫でで、唇が同じものに触れた。舌先が黎明の唇を舐めて離れていく。
「この唇も」
そいつらに手入れしてもらったな。先ほどと違って慈しむようなひどく甘い声が耳朶を打つ。
「ああ、そうだ、おまえが先ほど触れていた髪も綺麗にとかしてくれた」
黎明を煽るようにそれが特別、嬉しいことのようにくすくすと神様は嗤う。
誘導されるのも癪だが、つい舌打ちが散った。
「オレ以外に触らせんなって言ってるだろ」
「神が赦した。そもそもおまえから神のためへの有難い供物だろう? あんな適当な処理で好きに使えと言わんばかりなのに何を怒っている」
愉し気な天堂を見て、頭に上った血を下げる。もう手遅れな気もするけれど。理性が感情をなだめても一度生まれたこの腹立たしさは消えない。
「あーわかった、わかった。他に何させた?」
「さあな、確かめたらどうだ」
奥底に沈めた怒りが燻ぶっているのをわかっていてこの神様は余計に火をくべている。見え透いていても黎明が乗ってくるのを待っている。
「そうだな、お前とは違ってたまには他の拙い奉仕も悪くなかったな。施しを与えてやったら悦んでいたぞ」
くそ。嘘か本当か読めない。天堂の、この白い躰を差し出している場面を想像してしまってもう冷静さが欠けてきている。
黎明の軽い遊びを利用されて、天堂の望みどおりに動くのはなんだか釈然としないのだけど、それ以上に散々煽られた引っ込みはつかない。
……そんなにひどくされたいのか。いつも優しくしてやってるのに」
「そういう気分の時もあるだろう? 神の気まぐれを有り難く享受すれば良い。お前の神の声を訊いて好きに振舞え」
降参とばかりに噛みつくように口づける。
今から蹂躙される側なのに黒い瞳は、いつまでも愉快そうに黎明を見ていた。





……ところで、黎明、爪と骨、どちらが良い? 五本分だ」
……オレが誑かされたんだよ。そいつらのを剥ぐか折れって」
……まあ良いだろう。今の神は機嫌が良い。そういうことにしておいてやる」