シアン
2025-11-28 01:36:52
5451文字
Public
 

ズレてる二人の邂逅録 Side:Nayshiela

K-Trider氏の『ズレてる二人の邂逅録』に登場するネイシーラが、裏ではどんなことを考えていたのか?
……という感じのSSになっております。セリフ部分は(記法除き)ほぼ共通。
なんかあれこれ付け足すうちに、ネイシーラの脳内がめちゃくちゃうるさくなりました。ご容赦ください。

参照: https://x.com/trider_k/status/1992248877433675979

*ワタシは、ふと。*
*もはや日付も覚えてはいない、ある日のことを思い出す。*

*今思ってみれば、妙な出会い方を選んだものだ……*




…………

ワタシは常のように宙を往き、眼下に人々の営みを見下ろしていた。
この位置こそが、ワタシに相応しいところであるから。

散策を始め、少しした頃。この高さから降りたいと思う理由を見付ける。
外を出歩くには少々奇妙なシルエットをしたエレクトリアを、ワタシは認めた。

「ふむ……

タコを模した脚部に、そのすぐ近くにはコンバットアーム。
何かしらの物体を把持することに特化した装備と言えるだろうか。

そして――よくよく目を凝らしてみれば、"表情もなく"。
奇異の目を避けようともせぬその振る舞いには、何か惹かれるものがあった。

面白く、思った。


ならば、敢えてまごつく時間を挟む必要もあるまいと。
ワタシは高度を落として、その背中を追い……
よき印象を与えるよう、適切な距離を開けつつ、正面に回って。

降り立つとともに身長のギャップを埋めるべく屈み、
その"センサー部"に視線を合わせて、言葉を投げてやる。


……やあ。お初にお目にかかる。
 ワタシは ネイシーラ という者だ。オマエの容姿に興味を惹かれ、こうしている」

……言葉を投げれば、幾らかの間が生まれる。
警戒も尤もだ、無理もない。
見知らぬ者。そして、規格を外れた者。それが彼女にとってのワタシなのだから。

だがそのうえで…… 配慮も、さして要るまい。
無害と騙せぬのなら、それも本望である。


さて。言葉の返ってくるまでに、改めてその全身を観察することとした。
やはり、一瞬の推察は正しかったようだ。『My eyes are here!』のゼッケンが示す通り、
首元が視界等を得る要のようで、その頭部にもはや機能らしい機能はないらしい。

ああ、何もないものだ。
美しいと思うほどに……


……それは新手のナンパかしら?
 お生憎様。そういうのは間に合ってるわ』

と、考えていたところで返って来たのは、あしらうような態度。
不躾に踏み込めば、その分の拒絶が返ってくるのも当然か。

しかし――ワタシの思い通りにならぬぐらいが、丁度いい。
もう少し、直接的に踏み込んでやるとしよう。
どのような反応を見せるのか? 予想など、立てる必要もない。

「そう突っぱねず、聞かせてはもらえんものかね。
 オマエはなぜ、顔がそのように──」


――む、」

紡ごうとした言葉は、タコ脚のうちの一本の接近によって制される形となった。

『あるべきもの位置が変わっているだけよ。今の眼はここ、耳はここ、
 声が出てるのはここから…… 元々のは焼けて無くなったわ』

ワタシに対して、身体の一部を鼻先に触れんかというまでの距離へ寄せ、
こうも言ってのけるとは。度胸があるのか、どうなのか。

……しかし、焼けてなくなった、か。
それだけならば、ただ正常な動きをするパーツに取り換えればよいだけのこと。
ならば、その出来事で"焼けた"時に感覚プログラムに不整合が生じたのか、あるいは……


これで満足? それじゃあね

――何? これで会話を終わりにするつもりか? このワタシに対して?
彼女はワタシのすぐ横を通り過ぎてゆこうとするが…… そうはさせん。
ワタシがオマエに発したのは、まだ二言だけなのだぞ。

我が体格と体さばきで止められぬ歩みなど、存在しない……
再び、正面へ回り込む。

……まだ何か用なの?』

おお…… "迷惑だ"というオーラが目に見えるようだ。
恐れも、少々。少々か……
しかし数多の前例から、これも強がりに過ぎぬだろう。

だが、そうだな。何から話したものか。
話を長続きさせるにあたって、何が必要か……


……そうだ。このアプローチだ。
我が威力を見せつけ、然る後に契約にて縛る。これがいい。


先ず、屈んだ姿勢から立ち上がり、目線のギャップを作る。
これが不可欠。

「ワタシの趣味は、専ら戦闘だ。インターネットの仮想アリーナでも、近隣で起こる"困りごと"でも、
 有り余った力をふるうことのできる場を好いている――

ポージングは、暗に脅迫するが如きものとすること。
頑強な肢体にて視線を誘導し、"我が右腕スパークネイル"の威容を誇示する。

エレクトリアにとって、ワタシの存在は言わばアルファ頂点捕食者にも等しい……
この身すべてをその視界に収めたならば、否が応でもその強大さを理解することだろう。

……

…… 効果は計算の通り。そうとも、慄かずにはいられまい。
ない眉が寄るのがわかるほどだ。
こうして身構えたところに、緩急の緩を持ってきてやればバッチリだ。

「──だが、仔細あって、近頃はアリーナへの出場は控えている。
 よって、少し趣向を変えて――そこらのエレクトリアと少々仲良くしてみるのがマイブームだ


……は?』

呆気にとられた様子…… これは予想できる反応のうち、上から何番目かに相当する。
完璧に理想的ではないものの、我が策が確かに効いている証拠ではある。


この瞬間に掴みかかれば――
五体を砕くまでに、そう時間も掛からぬ。


……無論、そんな野暮は"この場での"本望ではない。
続けよう。


「我がマスターは、他人との信頼関係を築くににあたっては"ギブアンドテイク"が基本だと言っていた。
 そしてオマエは今、ワタシが欲した情報の一部を"テイク"しただろう? 然らば、ワタシからオマエへの"ギブ"も必要となる──」

――未だ名も知れぬ者。望みを言え。叶えてやろう。
 ワタシからの名乗りへの"テイク"も、同時に受け取ってやるぞ」


……どうだ?
決まったのではないか? ん?

道端での出会いからスケールを極大化し、我が"世界"へと引きずり込む手法……
そこに、その名前からしてサイズを想起しやすい人間の存在も介在させれば、
"大きなものと対峙している"という意識をより深められる。

さあ、従ってもらうぞ。
ワタシの中に根付く理に、オマエもだ。


『それはお伽噺のランプの魔人の真似事? それとも悪魔と契約するご提案かしら?』

またしても――またしても。反応が想定外にブレる。
普通…… ここは圧倒されるところだろう?
というより、もっと前に圧倒されていないのがおかしいのか……

いや、予想外は歓迎すべきことなのだが……
素直にこの流れに乗ると、うやむやにされかねないのは呪わしい点よ。


……然らば、誇示を続けよう。
コミュニケーションも力で押すのが一番だ。

「フ。そう茶化していていいのか?
 ワタシの機嫌が変わらぬうちが、身のためなのだがな……


『んなこと言ったって、アンタの理屈によれば私が"テイク"した情報には既に重みがあるわけでしょう?
 それに、一方的に私のことを知りたがったのもそっち。私はさして貴方に興味がないし、茶化そうが何しようが勝手だわ』

「む……
 まあ、それも一理あるか……


……ん?
今、ワタシは何と?

流れを綺麗にスッパリ切られつつ、茶化されたことも受け入れた…… のか?
ワタシが? 流されるままに?


……これではまるで、暖簾に腕押し、糠に釘、バイクに桶というやつだが……
にしても、なんという身の躱し方だ。
その特異な外見も含め、素性が猶のこと気になる。……などと考えている間にも、
彼女はワタシを置いて、他の目標へ向かおうとしている。


……ううむ。既に過去に類を見ないコミュニケーションとなっているが、
このまま去られるのは面白くない。事態には、まだ更に面白くなる余地がある。
ワタシへの"テイク名乗り"がまだだ。ワタシからの"ギブ施し"もまだだ。
このようにワタシの思い通りにならぬ者から、名すらも聞き出せずに終わるというのは完全な敗北……

……

かといって――ここで口を開くのも野暮。
声を掛けたとて、最早足を止めるかも怪しい。
回り込んで止めるのは更に野暮だ。ソースの二度漬けにも等しい。

ならば…… 後ろから圧を掛け続け、根負けを狙うべきか。




黙って彼女の背を追ううちに、人通りが増えてきている。

……ここらは知らぬ土地だが、外出の目当ては…… 商店街だったのか。
把持機能に優れる装備で出歩いた理由にも、納得が行く。

それはそれとして、把持機能を高めるにも、
もう少し見た目に気を遣う余地もあったはずだが……


しかし――追い続けたというのに、ここに至るまで一切振り向かれることがないだと?
普通、ワタシのように強大な力が背後に存在すれば、心配が掻き立てられるものなのではないのか?
認識していないわけではなかろうが、まさか、このまま無視を通されるなどと……

いや、まだだ。そのようなことはありえない。
相手もコンクリ打ちっぱなしの壁などではなく、意思を持つ存在…… エレクトリアなのだ。
我慢にも、限界は来る。

人のモノであろうと、誰にも所有されていないモノであろうとも、関係ない。
ワタシはそれを知っている。




……はあ、分かったわよ。仕方ない』


やっとか………………

……彼女が言いながら振り向いたのは、商店街に入ってゆかんとする、
まさにその瞬間であった。
耐えかねたのか、それとも…… 憐れみを掛けたとでも?

否、それはないか。あるはずもない。
ワタシは哀れな変質者なぞではないのだから、同情など欠片も買うものか。


しかし、フ……
この程度の忍耐、耐えきった後となっては、大したものでもなかったな。
オマエもなかなか耐えたほうだったが、ワタシには遠く及ばぬ。

――さあ、オマエの願いは何だ? 名前は?
叶え難き願いであるほど、オマエの返すべきモノもまた大きくなる……
即ち、関係の強制的な継続。そしてオマエが自らそれを望むのだ。

名も知れぬ者よ、つまびらかにせよ。
そして、ワタシに返しきれぬほどの借りを背負うがいい!
それによって、ゆくゆくは……


――私は クラリス 。近くにあるオートエレクトリア向けのパーツショップで働いてるわ。
 今日外出してる趣旨はマスターの体調不良で必要になったものの買い出し。アンタの"ギブはその荷物持ち


――にもつ、もち……

『コレでいい?』




――ワタシの中を、スパークのように駆け巡る思考の嵐。
それが、あまりにも叶えるに易すぎたが故に。


なぜだ……? ワタシの力は十分肌で感じたろうに、なぜそんな程度のことを願う?
このエレクトリアは――クラリスはなぜ、"ワタシに合わせない"?

脅威に思わせることにせよ、まるで一介の厄介者のようにあしらわれているような……
想定外にも、限度というものがある。
丼いっぱいのスパイスを食わされているようなものだ。或いは、ステーキの形に成型したスパイス……
……ええい、ワタシはこの鈍化した意識の中で何を考えている。

というか…… いや、お手伝いではないか、これでは。
願いというか、お願いではないか!


……もういい…… この際、ヤケだ。
本当に"荷物持ち"がワタシへの最大の望みであるのならば、完璧に全うしてやろうではないか。




……フッ、ハハハ──よかろう、よかろう。叶えるに易き望みよ!
 クラリスよ。天を穿ち地を引き裂く、我が比類なきパワーの一端──その目に焼き付けるがいい!

それらの装備による把持と、我が肢体の出せるバルクとの違いを見せつければ、きっとすぐに……

『ただ買い物行くだけだって言ってるでしょうに……
 まあいいわ。この際だからアンタには持てるだけ持ってもらうわよ』

……うむ……




*……そうして今日に至るまで、重大な"ギブ"をのしかからせる機会をのらりくらりと躱され続け、*
*ワタシはクラリスのいいように翻弄されている。*


*確かにワタシは、思い通りにならなさを求めていた。*
*しかしクラリスは、様々を鑑みても、あまりにもワタシの思い通りにならない。*
*意志の強さにはこの出来事の後に、納得することがあったとはいえ……*

*なぜ、ワタシからの言葉を…… 力の誇示を。暗に忍ばせた脅迫を。*
*こうもなんでもないもののように、跳ねのけ続けられるのだ?*
*等身大の"迷惑"として、処理できるのだ?*


*そのような時間が、会った時からそう性質を変えず、長く続いたことによって。*
*ワタシの心にも、変化が生じ始めているのが嫌でもわかる。*

*求めていた"予想外"は、こういう種類のものだったのかもしれない と。*