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沙里
2025-11-28 00:05:08
1071文字
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月の夜の王の戯れ
シウ綱(闇綱)と言い張る
夜の帳は静かに降りて、月の光が淡く大地を照らす。
シウグナスは、些かの手持ち無沙汰を解消するかのように、手を伸ばした。
穏やかな寝息を立てて横たわる青年の、柔らかい髪の感触が手のひらに、指先に伝わる。絹に触れるかのように優しく撫で、指の合間を滑らせるように梳いた。
月明かりに目を細め、空腹を満たしたかのように、満足げに笑む。しかしすぐにその笑みは消え、静かに顔を上げて「何用か」と問うた。呼応するように扉が開けば、やぁ、とひらひら振られる手が見えた。
「お邪魔だったかい、伯爵?」
哲人と呼ばれる男はにこやかに微笑んでそう尋ねた。悪びれた風もなく、その通りだと言われるのを待っているかのようにも思える。シウグナスは片方の眉を少し吊り上げはしたが、何も言わなかった。
「少し長めに待ち時間を取ったんだから、感謝して欲しいくらいなんだけどね?」
これでも気を遣ったんだよ? と男はケラケラと笑う。
「ま、君は気にしないだろうけど、彼は君と違って良識ある一般人だからねぇ」
闇夜の王は何も言わず、静かに手を滑らせた。手の甲の、骨ばった箇所が寝息を零す口唇に触れる。
「何が言いたい、哲人よ」
にらみつけるような紅い瞳。血のように冷たく妖しい。哲人は少しばかり、ゾクッとする感覚に口元を引きつらせた。
「馬に蹴られるのは本意ではないから、そう怒らないでほしいね。将軍が伯爵のことをお呼びだよ。彼もなんだけど
……
」
ちらりと視線を向けはしたが、肩を竦めて「ま、伯爵だけでいいんじゃないかな」と、無責任に言い放った。
「行先が決まったということか」
「だと思うよ。ずっと唸ってたけど、閃いたって叫んでたから」
「ならば、機嫌を損ねぬうちに聞いたほうが良さそうだ」
ふ、と王は笑って立ち上がり、帽子を深くかぶり直した。
「逢瀬はもういいのかい?」
揶揄うように哲人が尋ねる。気遣いよりも好奇心が勝っているのは、誰が見ても明らかで、シウグナスもまた呆れたようにやれやれと口の中で呟いた。
「綱紀が寂しがるより、将軍の怒鳴り声のほうが五月蠅いからな」
それに、と指先で口唇を撫で、
「今宵は存分に堪能した」
と、嗤う。そうして行くぞ、と誘う王の背と、いまだ夢の中の青年とを交互に見遣って、哲人は大きく肩を竦めた。
「いつか刺されるんじゃないのかい、伯爵」
「お前が馬に蹴られるほうが先だろう」
どっちもどっちだよなぁという感想が口から出そうになったのを、いちおうは堪えて、
「ま、お互い気を付けよう」
と、肩を叩いた。
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