白殊皎(しらよし こう)
2025-11-27 20:00:00
5204文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

蒼き炎の祝福

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
この作品はぐだ鯖WEBオンリー『ボイラー室横より愛をこめてW 』に連動した(白殊が勝手に考えた)【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけよう】企画にてリクエストいただいたものになります。

◆リクエスト内容
「歳勇で、北海道から帰って来た後、五稜郭で会った犬が恋しくなって、犬を連れているサーヴァント達の犬や、ヘシアン・ロボと触れ合って仲良くなってる話。水着カーミラさんのわんこ2匹も加えて」


わきゃわきゃさせて明る可愛いコメディにするつもりが、白殊のロボに対する考えが重すぎてコメディになりませんでした。
ロボと土方さんの関係は白殊の妄想です。
軌道修正もできず、こうなってしまいました!(開き直り)
ご笑納ください(土下座)

「何してんだ、近藤さん」
 かかった声にぴゃっと声が出そうになって近藤は慌てて手を離した。
 自分はいつの間にか土方の髪をわしゃわしゃなでなでしていたらしい。
「い、いや……その……
 正直に言えば、手持ち無沙汰──もとい手元が寂しい。
 数日前に主から許されて土方と行った蝦夷地への旅行で、近藤は北海道犬という犬と触れあって以来その虜になってしまったのだ。
 今でも思い出す、あのつぶらな瞳に寒冷地の犬らしいふわふわの毛並み、日本犬の特徴たるピンと立った耳にくるりと巻いたしっぽ。
 カルデアではペットは飼えない、と土方に釘を刺されて後ろ髪を引かれる思いで帰ってきたので、ふとしたおりに思い出し、無性に恋しくなるのだ。
 そして、無意識にすぐ近くにいた土方の髪を弄っていたらしい。

「まったく……しょうがねぇなぁ」
 土方は近藤の奇行がどこから来るものか既に理解しているらしく、近藤の手を引いて立ち上がった。
「歳?」
 いぶかしがる近藤を連れて、そのまま数カ所カルデアの中を歩き回ると、目的の人物を見つけたかそちらに声をかけ歩み寄る。
「おい、セタンタ」
「お? 土方のおっさん。お姫さん連れでどうしたんだ?」
「ひ、姫!?」
 蒼髪のセイバー・セタンタは、土方に声をかけられて悪気も何もなさそうにそう答えた。
 姫と呼ばれた近藤は混乱した様子だが、土方もセタンタも意に関しないように話を進めていく。
「お前、犬連れてたろう。あの白い」
「おう、クラン二世な。呼ぼうか?」
「あぁ。近藤さんが旅行先で構ったやつが忘れられないらしくてな。面倒でなければ頼むぜ」
「おっけー。ほら、出てこい~」
 セタンタの声と共にぽん、と軽い音がして何もいなかった空間に丸い真っ白な犬が現れ、ワンと一声鳴いた。
「触っても平気か?」
「あぁ。最初はゆっくり目線をあわせて屈んで、近づいてきたら手の甲の匂いを嗅がせてやってくれ。噛まないとは思うけど、こいつも猛犬だからな!」
 話について行けてない近藤の手を引き、クラン二世の前に一緒になって屈んだ。
 言われたとおりに近づいてきたところに手の甲をを差し出す。
 クラン二世はふんふん、と土方の手の匂いを嗅ぎ、ぺろりそこをと舐めた。
「だ、そうだ。近藤さん」
 俺は許可が下りたみたいだぜ、と近藤の袖を引く。
「あ……
 そこでやっと土方が自分が寂しがる理由を知った上で、犬を連れたサーヴァントの元へ連れてきてくれたことを理解した。
 目の前のもふもふなクラン二世は北海道でのあの犬とはまた違ったが、十二分に可愛い。
 土方を習って手を差し出すと、クラン二世は匂いを嗅いだ後、自分から近藤の手にすり寄ってきた。
「ははっ、お姫さんを気に入ったみたいだな」
「えっと……セタンタ殿……その、姫というのは……?」
「はれ? 違うの? 土方のおっさんがメチャクチャ大事にしてるおひぃさまがやっと来たって聞いてたんだが」
…………
「──ンッ!!」
 セタンタの言葉に土方は大きく咳払いをした。
「あ、これ、言っちゃいけないやつだったか? すまんすまん」
 咳払いを聞いてあはは、とセタンタはその場を笑い飛ばした。
「しばらくその犬を構ってやっててくれ、ちょっと外す」
 土方はクラン二世の頭を撫で、近藤の背を軽く叩くと立ち上がってどこかへ行ってしまった。
 どこへ行くのだろう、と思いつつクラン二世をしばらく撫でているところり、とお腹を見せてもっと撫でろ、という風にするので余り気にならなくなってしまった。



「まぁ~。美しきお方があのように可愛らしい子犬と戯れられて……眼福でございます」
 しばらくすると軽やかな声の自分も犬の耳と尾らしきものを付けた女性サーヴァントを連れ、両脇に合わせて三匹の犬を抱えた土方が戻ってきた。
「歳!? その女性は?」
「曲亭馬琴だ、近藤さん。ちなみに今は義娘むすめさんが意識の方を握ってる」
「曲亭馬琴! あの南総里見八犬伝の!」
「初めまして、近藤様。いまは父の代わりに出張っております、路と申します」
「ご丁寧に。お噂は聞き及んでおります、馬琴殿の目の代わりとして執筆にあたられ、非常に苦労を重ねられたとか」
「まぁまぁ……お恥ずかしい事にございます。どうかお目こぼしくださいませ」
 そうこう話すうちにわふわふ、と馬琴と近藤の周りに犬が集ってくる。
「ほら、近藤さん。こいつらは聞き分けがいいから、すぐ撫でても大丈夫だとよ」
 自分が抱えていた三匹も解放し、近藤の方に差し向ける。
「え、え、え、これは……!」
「馬琴じーさんの使い魔、八犬士だ。例の八犬伝の侍の名がついてる」
 甘えていい人物とみるや、八犬士たちはわーっと近藤に群がる。
「あぁ、これこれ。みな近藤様に失礼をするのではありませんよ」
 お路が止める間もなく、近藤は犬まみれになった。
「まったく……何の用かしら、トシゾー? 犬を連れてこいなんて」
 そこにもう一人、サングラスにキャペリンハットらしきつばの広い赤の帽子と、同じ色の肩を大胆に出したサマードレスを身に纏ったミストレス・Cこと夏霊衣のカーミラが二匹のドーベルマンを伴って姿を現す。
「あぁ、すまねぇな。可愛い連中ならもういいかと思ったんだが、そればかりじゃな」
「ほんと、らしくないくらいの熱の入れようね。お熱いこと」
「はっ、よせや」
「まぁいいわ、行きなさい」
 とカーミラはクラン二世と八犬士にもみくちゃにされている近藤にドーベルマンも加わるように指示を出した。
 土方は今まで自分が築いてきたカルデアのありとあらゆる縁を以て犬を集め、近藤の北海道でのわんこ熱を収めさせようという気のようだ。
「わー歳ー! もう、もういいからーーー!!」
 犬たちを撫でながらも、袖や髪、羽織紐を引っ張られ、それでも楽しそうに近藤は降参を申し入れた。
 当然犬たちは近藤のそれくらいでは収まらないが……

 おぉん……

 そこに、一声違った微かな遠吠えが響くと、犬たちがピタリ、と動きを止めた。
「なんだ、お前さんまで来てくれたのか」
 土方は後ろを振り向き、遠吠えの主に視線を投げる。
 そこには青白い毛並みの巨大な狼──アヴァンジャーのロボが静かに佇んでいた。
 近藤に群がっていた犬たちが落ち着いたのを見ると、ロボは土方を一瞥だけして、去って行った。
「あぁ、もう。ありがたいけど、やり過ぎだよ、歳」
 その髪はボサボサに、羽織紐はちぎれかけ、浅葱の羽織は毛まみれだったが、近藤は満足したように土方の元に戻ってきた。
「これくらいしねぇと、あんた収まんねぇだろう」
 フッと微笑んで近藤の髪に触れ、ちょっとだけ直す仕草をする。
……彼は?」
 明らかにいままでじゃれていた犬たちとは全く違う雰囲気を纏うロボに、近藤は首を傾げる。
ロボあいつか? あいつは犬じゃねぇ、狼だ。もし、愛玩する対象として近づくのなら、やめておけと俺は言っておく」
 淡々と語る土方の口調もまた、近藤には疑問を抱かせた。
「愛玩だなんて、そうは思わないけれど、何故だい?」
 毛を払いずれた羽織を直してくる土方に改めて尋ねる。
「あいつは人間のせいでつがいうしなったんだ。その憎悪で座に刻まれた──だから、人間に懐いたりしねぇよ」
「そうなのか……。でも、助けてくれたように感じたんだけれど……
 楽しかったとはいえ、あのまま犬たちと戯れていたら収拾がつかなくなっていたことだけはわかる。
 ロボの一声で犬たちが収まったのも事実だ。
「さぁな」
 土方は多くを語らなかった。





「コンドウ、だったかしら。ちょっといい?」
 数日後、土方がマスターに伴われての周回中、一人で食事をとっていた近藤のところに、カーミラがやってきた。
 今日は夏の霊衣ではない。
「カーミラ殿。先日はどうも」
「挨拶はいいわ。きっとあなたが知りたがってることを伝えに来ただけよ。あの、ロボとトシゾーのこと」
 カーミラがそう言うと近藤の表情は引き締まった。
 トシゾーがちゃんと話さないから私がフォローする羽目になるのよ、と独りごちたあと彼女は続けた。
「彼が人間のせいで番をなくした、って言うのは聞いたわよね」
「はい」
「──トシゾーもそんなものよ」
「え?」
「だから、あの二人の間にはどこか通じるものがあったのでしょうね。──今までにロボのテリトリーの中に入れた人間は、マスターとトシゾー。あとはほんの一握りだけよ」
 一度きりだが、ある特異点調査レイシフトに同行した時、消耗し動けなくなった土方をロボが守るかのように身を寄せていたのを見たことがあるという。
「もう、ないでしょうけどね」
「?」
「だって、トシゾーの番は、戻ってきたのだもの」

──大切になさい。

 カーミラはそう言い残して去って行った。



「近藤さん!?」
 周回から戻ってきた土方は、薄暗い部屋で泣き腫らす近藤を見つけて驚いて駆け寄った。
「何があった? 誰かに何かされたのか!?」
「歳……!!」
 何もない、誰にも何もされていないと近藤は首を横に振る。
 灯りを点けた部屋のサイドボードの上に書物が一冊、あとはライブラリ閲覧用の端末が置いてあるのを土方は見つけた。
 書物のタイトルは……『シートン動物記』。
 あぁ、調べたのか、とそう思った。

 レイシフト先で血を流しすぎ、一時的に消耗して動けなくなった自分をあの狼王が庇護してくれたことが一度だけある。
 何故かはわからなかったが、その寂しげな瞳が気になって、自分も調べていた。

 ロボの物語は有名な一節だった。
 番の白狼が弱点と知られ、それを囚われることで死に至ったかの狼王。
 人間は人間の暮らしを守らなければいけなかった。
 狼たちは狼たちの営みを守らなければならなかった。
 そこに、何も間違いはない。
──けれど……結末としては何という悲劇だろう。
 番を喪った彼は、どれほど悲嘆に暮れただろう。

 そして理解した。
 彼は、自分の中に己を見たのだと。

 〝番〟を喪ったことを認められず、己の肉体がなくなろうと走って、走って、己が存在する限りそれは生き続けるのだと届かぬものに手を伸ばし続けた自分に、あの狼王は同じ番をなくしたものとして寄り添ってくれたのだろう。

 だが、今は──

「泣き止んでくれ、近藤さん」
 ひくひくと嗚咽を続ける近藤を慰めるように背を撫でる。
 永遠に届かぬはずだった自分の星は──番は、今ここに、自分の隣にある。
 あそこで犬たちを制してくれたのは、彼の最初で最後の祝福だったのだろう。

──二度と手を離すな。
 きっと彼はそう言ったのだと思う。

「あぁ……もう、絶対に……離さねぇ」
「歳……私は……もう……絶対に離れないから」
 独りごちた土方に近藤が腕の力を強くして抱きついてきた。
「ずっと、共に行くからな……! おまえが嫌だと言っても、絶対に手は離さないから!!」
 しゃくり上げ、泣き続けながら近藤は言う。

 子孫のために召喚に応じた──。
 以前、マスターの問いに答えてロボはそう語ったという。
 自分たちの子供が、生きている可能性は、ゼロではないからと。
 自分のこの邂逅も、限りなくゼロに近かったけれど……
 近藤がロボの物語とライブラリの記録だけでどこまで察したのか、それとも誰か入れ知恵をしたのかはわからない。
 けれど、それによって今まで以上に近藤が自分を求めてくれるようになったことには素直に感謝したい。

「大丈夫だ。俺も絶対に手は離さねぇ」
 近藤をしっかりと抱き返し、土方はその耳に囁いた。
 うん、うん、と頷く近藤の髪に顔を埋め、その匂いを懐かしむように頬をすり寄せる。
「歳……私達は、番だ。二度と離れない、永遠の──」
 近藤から出た言葉に土方は驚いた。
 時々、突飛もないことを言い出す彼だが、今回は流石に跳躍している。
「近藤さん……あんた、本気か?」
 土方が言えば、嫌か? と涙に濡れた顔を上げて縋るような目で見上げてくる。
「んなわけねぇだろう。願ったり叶ったりだ……
 突然の僥倖ぎょうこうに、夢ではないかと疑ってしまうほどだ。
「ありがとな、近藤さん……。俺の、手の届く場所まで来てくれて」
「歳も……手を伸ばし続けてくれて、ありがとう……。私を引き上げてくれて、ありがとう……
 二人は目を合わせ、見つめ合うとゆっくりとその唇を重ね合わせた。

 こうして孤狼だった男は再び歩き出す。
 だが、一人ではない。
──誰よりも想う、唯一の番と共に……