「アオキ、結婚してくださいですよ」
プロポーズされたのは少し前。いつものようにまったりとしていたら突然アオキに渡したいものがあるのですと言われ、片膝をつきポケットから箱を出して開ける
……指輪だ。この流れでプロポーズされた。
ハッサクさんなら高級なレストランでしそうなのに意外だなと思ったが自分がそういうのを嫌がると思ってくれたのだろうか。
……ともかく、正直結婚など考えていなかったので暫く長考してしまったのだが、ハッサクさんは自分が返事をするまでそのまま待っていてくれた。
正直独り身でいる方が気楽だったのでハッサクさんといざ一緒に暮らすとなると生活は最初大変だった。価値観が違うし、こだわりも違う。だがそれを擦り合わせてまあ何とかなった。
で、結婚となると。夫です妻ですなどとなるのだろうか? そもそもどちらも夫なのだろうかこの場合。まあ色々考えはしたのだが。
別に断る理由もない。もう一緒に暮らすようになってからそれなりに経つし、お互いのいい所悪い所はそれなりに分かっているつもりだ。そこに結婚という形になったところでまあ対して変わらないだろう。
「
……自分で良ければ、よろしくお願いします」
——だが、この認識は間違っていた。まず結婚となると手続きがそれなりに大変だし、色々面倒なことが厄介だということ。結婚式は絶対したくないと反対し、妥協案で後日写真を撮ることになる。
それからもう一つ。これは大変というか意外にも気持ちの変化がある、ということだった。そんなに変わらないものだと思っていたのだが
……。
◇
入籍した翌日。届けを出しに行ったのは前日の夜だった。その日はまあいい雰囲気になりハッサクさんに抱かれ、ピロートークを交しそのまま眠った。
思い返せばいつもよりやたら甘い言葉や愛の言葉を囁かれたが興奮していたのでそれどころではなく、結婚を実感したのは翌日目が覚めた時だった。
結婚、したんだな
……
じわじわとその事実に何だか変な気持ちになってきた。落ち着かないというか、そわそわしているというか。
ハッサクさんは自分よりいつも先に起きて朝食の準備をするので寝室には自分一人だ。
「
……」
結婚、ハッサクさんと結婚したのか
……
意識し出すとそればかりが頭を支配する。今日が仕事休みの日でよかった。こんな状態では仕事などこなせそうにない(まあ営業は最低限しかしていないが
……)。
とりあえずベッドから出ることにして寝室を出る。リビングへ行く前にトイレに行っておこう。歯磨きと顔も洗っておかねば。なにか落ち着かない。今日の自分は変だ。
「
……おはようございます、ハッサクさん」
「アオキ、おはようございますですよ」
リビングの扉を開けるとキッチンに立っているハッサクさんが声をかけてきた。いつも通り
……に見えるが、よく見ると何となくいつもより上機嫌にも見える。
自分はキッチンに立つハッサクさんの元へとまっすぐ向かうとハッサクさんはいつも通り今日の朝ごはんのラインナップを説明してくれる。
「今日はサンドイッチですよ。コーヒーと紅茶、どっちにしますか?」
「
……紅茶で」
ああ、何だろうか。やたらハッサクさんがキラキラして見える。なんだろうか、これは。それにこの気持ちは
……。
「紅茶ですね! 小生も今日は紅茶にしましょう。もう少し待っててくださいね」
「ハッサクさん現実ですよね?」
「え、どうしたのですアオキ
……痛っ!!」
自分の言葉にハッサクさんは不思議そうにこちらに顔を向けたと同時に自分は手を伸ばし、ハッサクさんの頬を抓った。痛いようだ。
「あ、やっぱり現実ですよね」
夢じゃない、現実だ。ハッサクと自分が結婚したのは
……。
「い、いきなりなぜ頬を抓ったのですか!!」
ハッサクさんの頬から手を離すと、ハッサクさんは明らかに動揺した様子で頬を擦りながらこちらを見てきた。
ああ、どう言えばいいだろうか。上手く言えそうにないが
……。
「いや
……あの、結婚している夢みたいだなと
……」
ポリポリと頬を掻きながらかろうじて出てきた言葉はそれだけだった。でもそうとしか言いようがなく。
「現実ですよ! まあ小生も少々浮き足立っていますが
……朝ごはんにしては作りすぎましたし
……」
そう言われてみるといつもより品数が多い気がする。朝から食べすぎるなといつもは注意してくるのに。そうか、ハッサクさんも自分と同じだったのか。
「ふ
……」
「!? 今、笑いましたかアオキっ!」
「笑ってません」
ハッサクさんが興奮気味に声を荒らげてきたので自分は反射で真顔になってしまった。いや本当はかなり内心自分も
……浮き足立っているのだが。
「絶対笑ってましたよね!? もう一度見せて欲しいのですよ、アオキ~っ!!」
「さあ、どうですかね。それより早くお湯沸かしてください」
「相変わらずですね、あなたは!」
スタスタと歩いてリビングにあるテーブルの椅子に座ると、ハッサクさんは呆れつつもどこか嬉しそうだった。
自分の心もなんだか少しだけ
……じんわりとあったかいようなそんな気がした。まあこれも、浮き足立っているのだろう。
それから間もなく、たくさんのサンドイッチと紅茶がテーブルに並ぶ。紅茶のおかわりもありますからね、とハッサクさんに言われ自分は頷いた。
二人で手を合わせて頂きますと言うと早速色んな種類のサンドイッチから、まずはオーソドックスな〝きほんのサンド〟に手を伸ばす。
なんてことない朝の光景だが
——この日ばかりはいつもより幸せを感じるようなそんな朝の時間だった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.