山茶花
2025-11-27 11:29:41
7202文字
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どうしてこうなった【172SK032】

シル→→→デュ、半ば無理やり頷かせる話、コメディ/6800字程度


 それは、幼い頃に聞いたおとぎ話。
 伝説の剣と盾を手にした王子が、自分だけの姫君を迎えに行く話。
 その話を聞いたとき、俺は思ったものだ。
『そんな風に人を突き動かすほどの想いとは、なんなのだろうか』
『恋とは、なんなのだろうか?』
 その疑問は解決しないまま、齢十七歳のこの日まで来た。
 そうして、出会った。一目見たその瞬間に、ソイツは俺の目を引いた。
 これが恋か、と。理屈でなく、納得させられた。
 俺が迎えに行くべきは、デュース・スペード。その人であるのだと。

 初めのうち、デュースは俺のことをあまり快く思っていないようだった。
 というよりは、俺がデュースのことを快く思っていないように思われていた、と言った方が正しいか。
 俺は、考えていることが表情に出にくい。だから、近寄りがたいと思われることも多い。
 それはデュースにとっても例外ではなかったようで、あまり交流を多く持つことは出来なかった。
 だが、転機が訪れた。それは星送りの祭りのことだ。トレイ先輩が、願い星集めの際、デュースを俺のところに寄越してくれた。
 そのときにした、ちょっとした会話がきっかけで、俺とデュースは打ち解けることができ始めた。
 デュースの方にあった苦手意識が、お互いに親近感を持つ会話によって、払拭されたと言えばいいのだろうか。
 ともかく、それで、デュースとはようやくまともに会話が出来るような関係になれたのだ。

 それからのデュースは、懐っこいものだった。朝から廊下ですれ違えば、元気な挨拶をしてくれる。
 どこかで俺の姿を見れば、何かと駆け寄ってきて、声をかけてくれる。
 間違いなく、デュースは俺のことを先輩として慕ってくれていた。俺は、これを嬉しいと思った。
 それは違うことなく、デュースとの心の距離が近づいた証なのだろうと感じたから。

 ある日、気づいた。デュースから近づいてきてくれるのを待つだけではなく、俺からも距離を縮めて良いのではないか、と。
 昼休みの際、席を探している体を装って、一年生たちの隣に座らせてもらった。
 そのときも、デュースは自分の隣を指して、ここどうぞ、と言ってくれた。俺が隣に座すことを嫌わないで受け入れてくれる、その些細なことさえ、嬉しく感じた。
 俺は、その喜びの礼にと、あらかじめ取っておいたプリンをスプーンにひとさじすくって、デュースへと差し出した。
「席を見つけてくれた礼だ、食べてくれ」
「あ、ありがとうございます……っ、でも、僕、自分で……
……ん?」
「い、いえ。いただきます……
 デュースは俺の手ずから、プリンを口にしてくれる。少しむずがゆそうにプリンを飲み込むデュースを満足な心地で見つめていれば、何やら一年生たちの視線を感じた。
「なあ、シルバー先輩ってさ、前から薄々思ってたけど……
……うん。でもデュースクン、まだ気づいてない、かな?」
「その可能性は85%以上あるね……
「面倒くせぇ……。放っとこうぜ。あんだけ分かりやすけりゃ、アイツでもそのうち気づくだろ」
「さんせー。触らぬ神に祟りなし、ってね!」
 彼らは何かひそひそ話をしているようだ。一年生たちの間だけでの内緒話だろうか。仲が良いことだな。
 デュースが無事食事を終えるのを確認して、俺も彼らと時を同じくして席を立つことにした。
「なあ、デュース。このあと、何かする予定はあるか?」
「えっと、特には。宿題とかやんなきゃって思ってはいましたけど……
 僕になんか用でしたか、とデュースは言う。
「いや、特にこれといった用があったわけではない。ただ、お前と時間を過ごしたいと思ったのだが、邪魔してはいけないからな」
「へっ……
「お前の邪魔にならないのであれば、共に過ごさせてほしい」
「そ、それは、いい、ですけど……
「そうか、ありがとう。代わりと言ってはなんだが、俺に出来ることなら、なんでもしよう」
 勉強などをしっかりと教えられるかは分からないが、一年生の範囲ならなんとかなるだろう。
 そう告げると、デュースは、それじゃあ宿題を見てくれませんか、と頼んできた。
「分かった。存分に俺を使ってくれ」
 それからの昼休み、俺は一年生の教室でデュースの宿題を見て過ごした。
「できた! いつもよりずっと早く解き終わりました!! 先輩がいたお陰ですかね」
「役に立てたのなら、何よりだ」
 デュースはとんとんと宿題のプリントを揃えながら、上目遣いに俺を見た。可愛い。急に俺を悩殺してどうしたいのだろうか。
「あ、あの。なんで、シルバー先輩……今日、僕と過ごしたいって思ったんですか?」
「お前と過ごしたかったからだが」
「だから、それがなんでなのかって聞いてるんですけど……
 何か理由があるんですよね、とデュースは言う。困った。俺がデュースと過ごしたかった、以外の理由は、本当にない。
 別に、デュースに会うことで何か別のことを得ようとしていたわけではなく、ただ単に、一緒にいたかっただけだ。
……困った。本当に、お前に会いに来て、一緒に過ごしたかった、以外の理由が見つからない」
「え……
「このような理由で、会いに来てはいけなかったろうか?」
「べ、別に……悪いとは、言いません、けど……!」
 それじゃまるでシルバー先輩が……とデュースは何かを言いかけて、言い淀む。
「俺がまるで、なんだ?」
「ま、まるで、その、ええっと……
 僕のこと好きみたいな、とデュースは照れながら口にする。俺はなんだそんなことかとデュースの言葉を肯定した。
「ああ、好きだが」
「え!?」
……何か、俺はおかしなことを口にしているか? お前に会いに来たのは、会いたかったからで、お前に会いたかったのは、俺がお前を好きだから、だ」
 何もおかしなことはなく、筋は通っているだろう、とデュースに問いかければ、それはそうなんですけど、とデュースは言った。
「え、それって、告白……ってことですか?」
「ん? ……もしかして、お前には初めて口にしただろうか」
「は、はい、まあ、初めて聞きました……
「なら、そういうことになるかもしれないな。俺はお前が好きだ」
 俺が好きだと言葉にする度、何やら、一年生の教室中がざわつく。一体、何が疑問なのだろうか。俺がデュースを好きでいることは、当たり前のことだろうに。
「何やら騒がしいな」
「先輩のせいですよ……!?」
「そうなのか。そこまで騒ぐことでもないと思うが」
 デュースは、呆れたような溜め息をついた。溜め息すら可愛らしいとは、どういう生き物だろうか。
「あの……先輩。僕、ちゃんと考えてから答え出したいんで、今日のところは、ひとりにしてもらっていいですか」
……そうか」
 デュースの傍にいられないのは淋しいが、ひとりになりたいというのであれば、仕方ない。
「そ、そんな、捨てられた子犬みたいにしょげなくても……! 明日! 明日にはちゃんと答え出すんで!!」
……分かった。明日まで、どうにか耐えることにする」
 明日までお前に会えない代わりに写真を撮ってもいいだろうか、とデュースに尋ねると、今ですか、と難しい顔をされてしまったが、最終的には、分かりました、とデュースは写真を撮らせてくれた。
 2年生の教室に帰り、スマートフォンのフォルダに増えたデュースの写真をほくほくとした気持ちで眺めていると、横から声をかけられた。
「シルバー。君がスマホを見ているなんて珍しいな」
「なー! いつも、スマホにはカメラと電話以外いらないって言ってたのに。いいものでも見つけたのか?」
「カリム、ジャミル」
 明るい声の友人たちに、俺はたった今手に入れた宝物を自慢する。
「デュースの写真を手に入れた」
「隠し撮り……では、なさそうだな。本人の了承を得た目線だ」
「おっ、デュースの写真撮らせてもらったのか、良かったなー! シルバー、デュースのこと大好きだもんな!!」
「ああ」
 同級生の友人たちには、俺の想いはとうの昔に知られている。これが一年生に伝わっていないとは思っていなかったから、向こうが驚いていたことに少々俺の方が面食らってしまったが。
「明日までデュースに会うことが出来ないから、代わりに撮らせてもらったんだ」
「なんだって明日まで会えないんだ?」
「デュースに好きだと伝えたら、驚かれてしまって。返事をするから、明日までひとりにしてくれと言われた」
「おっ、とうとう本人に言ったのか! おめでとう! きっとうまく行くぜ!」
「ありがとう、カリム」
……デュースがどう思っているのかはまだ分からないんだ、無責任に囃し立てるべきじゃないだろう、全く……
「だが、悪くは思われていないと俺も感じている。もし、すぐには恋人になれないとしても、前向きな返事をもぎ取りたいところだ」
……もぎ取るのか。そうか」
「ああ。努力なしには、何も始まらないからな」
「まあ、応援しているよ」
「頑張れよ、シルバー!」
「ありがとう、カリム、ジャミル」
 それからすぐに午後の始業の鐘が鳴ったので、ジャミルは己の教室へ帰り、俺とカリムは授業へと臨んだ。

 放課後。馬術部に顔を出すと、セベクとリドルに詰め寄られた。
「シルバー貴様、デュースに告白したとはどういうことだ!? 1年生の間はその噂で持ち切りだぞ!!」
「キミの想いは、2年生の間では勝手知ったるところだけれどね。改めて本人に伝えるのなら、時と場所を考えるべきだったと思うよ」
 何か行き違いがあるな、と俺は2人に弁解する。
「告白しようと思って、したわけではない。デュースや1年生の皆も、もう俺の気持ちなど知っているものだと思って改めて伝えたところ、知らなかったようで、騒ぎになっただけだ」
「阿呆!!」
 セベクの怒号が飛ぶ。何か良くないことをしたわけでもないのに、そんなに怒ることだろうか。
「俺は何も悪事などしていないし、ディアソムニア寮やマレウス様の評判を落としたわけでもない。何を怒っているんだ?」
「騒ぎを起こしただけで十分だろう!!」
……まあ、シルバーの言い分は分かったよ。ただキミは、向こうが知らないことを知らなかった、と」
「そうだ」
「どうしてそう思ったのか分からないけれど……デュースは今、とても悩んでいるよ。キミの想いに、どう答えを出そうか、とね」
 本当に真剣に悩んでいるみたいだから、見世物にされているようなのは寮長としてもあまり気分が良くないね、とリドルは言った。
「そうなのか。確かに、注目を集めてしまったのは良くなかったかもしれないな」
「まあ、集めてしまったものは今からどうしろということもできないことではあるけれど。これ以上騒ぎは起こさないように!」
「分かった。教えてくれてありがとう、リドル」
「このことは若様とリリア様にも報告するからな、シルバー!!」
「かまわないが……笑われるだけじゃないか?」
 それから、部活を終え、ディアソムニア寮へと帰る。すると、予想通り、セベクの報告を聞いた親父殿は、笑っていた。
「そ、そうか、もう知っとると思っとったのか……デュースが既に……っ!!」
「はい、思っていました。俺の勘違いだったようですが……
「スペードはなんと?」
「明日、答えを出すと」
「では答えを待つしかないだろうな」
「よろしいのですか、若様!?」
「よろしいも何も、シルバーにスペードへの恋心が芽生えていたのは、僕たちとしても承知のこと。むしろ、ようやく本人に伝える気になったのか、今まではなんだったのかと思っているくらいだが……セベク、お前は何か気に入らないのか?」
「気に入らないなんてものではありません! そりゃ、シルバーはやたらとデュースを気に入っていましたが、こんな騒ぎを起こして告白するなど……。だいたい、向こうはシルバーのことをどう思っているかも分からない中で……
「なんだ、俺のことを心配してくれていたのか、セベク。安心しろ、いい答えはもぎ取るつもりだ」
「良いぞ、その意気じゃ!」
「誰が貴様なんぞ心配するか!! 僕が心配しているのは……
……?」
「まあ、いい。……ふん! せいぜい、いい答えが来るのを願って待つことだな!! お前が良い答えを貰えるのなら、何も問題はないことなのだ!!」
 セベクは一体、何を心配しているのだろうか。懸念があるのなら、教えてもらいたいのだが。
 あの様子では、もう今日は口をきいてはくれなさそうだ。
「では、俺もこれで今日は失礼します」
「ああ。明日の報告、楽しみにしている」
「はっ」

 そうして、告白(俺にはそのつもりはなかった。ただ、当然の想いを口にしただけなのだが……)翌日。昼休み、改めてデュースから中庭に呼び出された。
「シルバー先輩、昨日の返事、なんですけど……っ」
「ああ」
「その、前に……
 デュースは大きく息を吸い込んだ。
「ギャラリーが多い!!」
 何やら、昨日の噂を聞きつけた1年生や、面白半分の2年生が、覗きに来ているようだ。
「お前たち、大事な話だ。外してくれないか」
 声をかけてみるが、ブーイングの嵐だ。席を外してくれる気はないようだな。
 これではデュースも、落ち着いて返事ができないだろう。
 セベクが心配していたのは、こういうことだったのか。
……仕方ない。行くぞ、デュース」
「えっ?」
 デュースの手をしっかりと握りしめて、俺は、全速力で走りだした。デュースの足の速さなら、きっと俺にもついてこられるだろう。逆に……全力の俺たちには、誰もついてこられない。
 校舎裏に差し掛かり、全員を振り切ったと分かった頃、デュースを振り返った。
「急にすまなかったな。人のない場所の方がいいかと思い、全員を振り切りたかった」
「そ、それは大丈夫ですけど……
「平気か? 息は上がっていないな。それでは……改めて、答えを聞かせてほしい」
 改めて、デュースに対峙する。小さく開いたデュースの口から出てきた言葉は、このようなものだった。
「僕、先輩のこと……好き、かどうかは、まだ、よくわかんなくて。でも、一緒にいたいとか、言われたり、かまってもらえるのは、嫌じゃなくて……
 だから、ホントによくわかんなくて、とデュースは言う。
「すいません、答え出すって言ったのに、煮え切らないってか、ハッキリしない答えになっちまって……
 でも、こういう状態で完全にフるって言うのも、お付き合い始めるってのも、悪い気がして、とデュースは眉を下げる。
 俺は。これなら、もぎ取れる、と思った。
「なら……俺とのことは、前向きに考えてくれる、ということでいいだろうか?」
「え?」
「俺は、そもそも、答えを今すぐに必要としていない。俺がお前に常なる想いを伝えたら、お前が、答えを今日出すと決めただけだ」
「そっ、そうでしたっけ!?」
「ああ。その証拠に、2年生の間では俺がお前を好きだということは常識扱いされている」
「そうなんですか!? 寮長も……!?」
「ああ。……だから、デュース。俺は今まで通り、お前に愛を伝え続ける。お前は、そのうち俺に振り向いてくれれば、それでいい」
 デュースの手を取り、手のひらにくちづける。
「や、先輩、僕その……っ」
……嫌か?」
 顔をぐい、と近づけて、壁際に追い詰める。
「い、嫌ではないけど、その、僕そこまでの気持ちも持てるかっていうか……っ」
「ダメ、か?」
「だ、ダメっていうか、ダメって言ったら、ダメ、なのかも……っ」
 デュースは顔を真っ赤にして、追い詰められている。
「嫌だ。俺のものになる前提でいてくれ」
……~~~~っ、なんで、そこまで、僕なんかに……っ!!」
 デュースの耳元でささやく。
「好きだ、デュース。俺のものになれ」
 デュースは、身体から力が抜けたようで、腰を抜かしてしゃがみこんでしまった。
 これ幸いと、俺はデュースを壁と己の間に捕まえる。
「デュース。頷いてくれるまで何度でも言うぞ? 俺とのことを、前向きに考えてくれ。好きだ、デュース。いつか俺のものになると、約束をしてくれ」
「せんぱい、ずるいって、よく言われませんか……?」
「お前になら、これから何度でも言われる予定だ」
 デュースの手の甲にくちづける。するとデュースは、半ば俺を睨みつけた。そんなことをされても、真っ赤な目と頬が可愛らしいだけだが。
……絶対、責任取ってくださいよ」
「もちろん。他の男に、譲る気もないな」
「なら……これから、よろしくお願いします……
 っていうか、そう言うまで離してくれないんでしょう、とデュースは口にする。そうだ、と俺がうなずいて、デュースに手を差し出すと、デュースはその手を不満げに取って、ようやく立ち上がった。
「その。先輩が僕のこと好きなのはわかりましたから、えっと。……あんまり、皆の前で、甘やかさないでくださいね……
「二人きりの時に、好きなだけ甘やかせと言うことだな。分かった」
「なんでそうなるんだよ!? ったく……
 デュースは耳まで赤くしたまま、教室帰ります、と前を歩いていく。
 俺はその背中に、声をかけた。
「デュース。そうは言うが、今も悪い気はしていないんだろう?」
……るっさいです!」
 憎まれ口を叩いて、デュースは走り去ってしまった。俺も、さて皆に良い報告をするか、と同級生たちと親父殿、マレウス様、セベクにデュースとの朗報を告げに行こうと思うのだった。

*おしまい