スタァライトのキラめきに目を焼かれてから世界の全てをスタァライトだと認識するようになった人間が書いています。スタァライト99組は箱推しですが特に大場ななが好きです。その割に可哀想な目に合わせています。ごめんなさい。
誤字脱字セリフの書き間違え等あるかと思います。許してください。
ルビコン解放戦線(RLF)は自らの身を切り出すがごとく、その手足として働く手勢を各所に潜ませた。星外企業に、惑星封鎖機構に、そしてまた、独立傭兵の群の中に。
ここに、ひとりの少女……名も無き独立傭兵として振る舞うよう使命を受けた者がいた。RLFが公的には出せない任務を、あくまで外部のものとして遂行するためだ。諜報や破壊工作、時には暗殺の依頼までをも受け持った。
彼女は優秀なACパイロットであったが、僚機となる者はいなかった。常にひとりで仕事をした。惑星内を転々とし、ひと所に留まることも無かった。故に、どれほど輝かしい勝利を手にしても、どれほど多くの生命を救ったとしても、その光に気付く者も存在しなかった。
彼女は惑星ルビコンⅢにキラめく孤独の星だった。
大場なな。
それが彼女の名前だった。
*
噴き上がる炎。爆発に次ぐ爆発。
地上はどこを見ても戦場。
でも、通信で喚く声たちには、はっきりと歓びが込められていて。
みんなで空を見上げたあの日。
私たちは並び立って、同じ星に手を伸ばした。
*
それが、彼女……大場ななのもつ無上の思い出。大場ななが目にした至高のキラめきだった。
ルビコニアン一斉蜂起。
とある独立傭兵の声明は惑星ルビコンに生まれた全ての戦士を立ち上がらせた。ルビコンに真なる自由をもたらすため、星外企業を相手取った大規模な、惑星規模での戦闘が起きたのだ。
その光景は、孤独に戦ってきた大場ななの目に、あまりにも眩しく映ったのだった。目を焼かれるほどに。それは少女の網膜に、脳に、心に焼き付いて、何ものにも掻き消されることはないだろう。
しかし、惑星と人々との蜜月は余りにも短かった。解放された惑星には未だ争いの火種が燻っている。
バスキュラープラント。
星外企業が掘り出し完成させた、コーラルを吸い上げ貯蔵する巨大な建造物。星外企業が残した厄介な贈り物だった。言うまでもなく、プラントの中には大量のコーラルが貯蔵されたままだ。
であれば。
コーラルを巡る争いが再燃するのも、自然なことなのだろう。
折悪しくも、ルビコンからは惑星封鎖機構が撤退ていた。新生RLFも立て直しが間に合わず、一斉蜂起の旗頭となっていた独立傭兵も不気味に沈黙している。バスキュラープラントを悪手から守る力は失われていた。
もはや誰もが、無名の個人までもが、惑星内の全てのコーラルを占有することも夢ではなかった。
プラントと、それに貯蔵されたコーラルを求める戦争が……後にバスキュラープラント争奪戦と呼ばれる戦争が、再びルビコンに悲劇をもたらした。
*
戯曲 スタァライト。
子どもの頃、大好きだったお話。
フローラの勇敢さも、クレールの強さも。
ふたりが共に手を取り合って困難に立ち向かう、そのキラめきも。
大好きだった。
でも……
それは、ふたりの別れを描いた悲劇。
せっかく一緒になれたのに、離れ離れになってしまうお話。
だから、今の私はスタァライトのことが⬛︎⬛︎⬛︎。
星摘みの星なんて、はじめから無ければ良かったのに。
*
警告音が鳴り響くコックピットで、大場ななは息を整えていた。
あと少し。あと少しで手が届く。
「どうして今になって……!?大場なな、お前だって共にルビコンのために戦った同志なのだろう!?」
煩い。
大場ななの駆る機体〈輪舞〉のブレードが閃く。
とうに機体の限界を迎えていてもおかしくなかった。だが、パイロットの思いに応えるかのように〈輪舞〉は滑らかに駆動し、優美にも感じる動作で目の前のMT機を斬り捨てる。
爆炎と沈黙。
MT機は船内に散らばる残骸の一部になった。
彼らは新生RLFから送り込まれた刺客だったのだろう。かつては共にルビコンの解放を夢見た仲間が、刃を向けてきたということだ。しかし、大場ななからすれば、最早どうでも良いことだった。
大場ななは、バスキュラープラント争奪戦に参加するなり、ほんの数週間でカーマンラインを超えた。数多の妨害、襲撃、戦闘があったが、彼女はそれを全て打ち負かし、乗り越えてきた。
そして今。
大場ななの乗り込む船は、バスキュラープラントを目視で捉えられる距離まで迫った。
新生RLFの妨害は予想内の出来事だった。プラント本体にも多数の警備兵が置かれていること(そして、もちろん“不法な”占拠を目論む有象無象も)は想像に難くない。中には大場ななと同じか、それ以上の技量をもつパイロットがいるだろう。
今、大場ななはその状況に“飛び込もうと”していた。どれほど腕の立つパイロットであろうと単機でプラント占拠に挑むのは自殺に等しい。これまでプラント占拠を成し遂げられた個人がいなかった現実が、それを証明している。
だが、大場ななにとって、それは問題ではなかった。
なぜなら。
*
大場ななは、船の進路をバスキュラープラントに固定するとシートにゆったりと身体を預けた。
最期は苦楽を共にした愛機と逝きたい。
素朴だが、パイロットらしい望みだった。
恒星間航行船をプラントにぶつけて爆破すること。
それが大場ななの出した答えだった。
この、惑星に聳え立つ忌々しい建造物が、呪われたコーラルが、ルビコンの人々を引き裂くのであればこの世界から消し去ってしまえば良い。
私が変えなきゃ。この運命を。
大場ななを乗せた船は、真っ直ぐにプラントへ突っ込んだ。
一呼吸ぶんだけの静寂の後、
コーラルが爆発した。
船の衝突でひしゃげたプラントは完全に破壊され、ばらばらになった外壁や支柱が地上へ降り注いだ。あるいは、惑星ルビコンの重力を振り切って遠くへ吹き飛ばされ、他の惑星にクレーターをつくった。
爆発したコーラルのエネルギーがプラントを焼き、ルビコンを焼き、惑星系規模での嵐となった。運悪くルビコン周辺を航行していた船は残らず焼き尽くされ、跡形もなくなった。
惑星上の人、木、原生生物、車両、建築物は熱波に晒され衝撃波に擦り潰され、とうとう灰にもなれなかった。
ルビコンの火の再現……いや、それ以上の災害が撒き散らされた。
全てが燃え上がり、赤い光が宇宙を満たさんとするかのようだった。
*
大場ななが“目覚めた”時、彼女はどこか……舞台のような場所に立っている自分を見つけた。
さっきまで燃える機体の中にいたはずなのに?
幕は降り、客席には誰もいない。
舞台袖にも人影は無く。
舞台に、ひとりぼっち。
耳鳴りが鈍い頭痛をもたらした。
死後の世界にしては不釣り合いな場所。
《大きな星を摘んだなら、》
どこからか、声が聞こえる。
《あなたは大きな富を手に入れる。
小さな星を摘んだなら、
あなたは小さな幸せを手に入れる。》
歌うようなその声は、大場ななも良く知る戯曲の言葉を紡ぐ。
子どもの頃、大好きだったスタァライト。
星摘みの塔の歌だった。
《その両方を摘んだなら、
あなたは永遠の願いを手に入れる。
お持ちなさい。
あなたの望んだ、その星を。》
不意に、スポットライトが大場ななを照らした。
強い光が、彼女の姿をステージ上にくっきりと浮かび上がらせる。
熱くて、眩しい。
《……眩しいですか?》
「……え?」
問いかけられたのだと大場ななは気づく。
《眩しいですか?》
大場ななは顔の前に手を翳し、眩い光の中、声の主を探そうとした。
「あなたは、誰?」
《私達はあなた達をずっと見てきました。
そして、あなたが勝者となった。
あなたには権利があります。自由があります。
あなたが望めばどんな世界(ぶたい)だって叶いま
す。》
意味が理解できない。でも、分かってしまう。
意図が読めない。でも、受け入れてしまう。
声は頭の中にわんわん響いてくる。
耳鳴りが、ひどい。
「わたし、は……」
大場ななは願いを言葉にした。
《お持ちなさい。
あなたの望んだ、その星を。》
光が彼女を包み、やがて何も見えなくなった。
***
コーラルリリースは、果たして、ひとりの少女の願いを叶えた。
もう一度、あの戦場(ぶたい)を!
気が付けば、大場ななは再び戦場に立っていた。
プラント争奪戦よりずっと前、ルビコン一斉蜂起よりもさらに前、いまだ武装採掘船ストライダーも健全だった頃に“戻っていた”。離別も死も、何もかもが起こる前に時間が巻き戻っているかのように……いや、実際そうだったのだ。
大場ななは戸惑った。彼女の他に巻き戻りを認識している者は皆無だったためだ。彼女は再び孤独(ゆいいつ)となった。
それでも、大場ななは嬉しかった。
また、あの戦場に向かう事ができると分かったから。また、みんなと共に闘えると分かったから。
そして、再びルビコン一斉蜂起は起きた。
……プラント争奪戦も。
大場なながその回避に奮闘したにも関わらず、それは起きてしまった。
人々は互いに憎み合い、相手を出し抜こうと躍起になった。巨万の富、永遠の栄光。それらが彼らの目を眩ませ、争いへと、別れの悲劇へと走らせた。
ひとりの少女の静止を求める悲痛な叫びは……たとえそれが腕利きのACパイロットの訴えだとしても……顧みられる事はなかった。
結局、大場ななはバスキュラープラントを爆破させる事を、再び選んだ。
このままでは、ルビコニアン同士の内輪揉めでは済まなくなる。互いに削り合いを続けて星内の兵力が弱まれば、星外から傭兵や企業が争いに参画してくるだろう。そうなれば、またルビコニアンは虐げられる日々を送る事になる。
決定的な絶望の前で折り返す必要があった。
*
大場ななは、もう“何度目か”のコーラルリリースを起こした。
彼女にとってそれは絶望の輪廻だった。
何度繰り返しても、どんなに手を尽くしても、ルビコニアン達は争い合う運命にあるかのようだった。
ルビコン一斉蜂起の戦闘で共に同じ星を見上げた仲間だけあって、返ってそれが大場ななにはつらかった。
ルビコニアンを破滅から救うため、大場ななは彼女の絶望を繰り返した。仲間との別れ、諍い、ひとりぼっちの恐怖。
それでも大場ななは諦めなかった。
スタァライトのお話みたいな結末は、私達には似合わない。永遠の別れなんて……。
もう何度目であろうか、惑星ルビコンⅢは、大場ななの手によって焼き尽くされた。
真っ赤なキラめきが、宇宙を覆う。
*
「え……?」
ストライダー大破の知らせを聞き、大場ななは狼狽えた。ストライダーを破壊したのは、独立傭兵ではなく不明の機体群だった。
こんな事は“はじめて”。
何かが、少しずつズレていった。
そこは、彼女の知らないルビコンになろうとしていた。
変化は彼女に恐怖をもたらす。
私の“再演”が途切れちゃう。そんなの、駄目。
大場ななにとって、未来は再び未知のものになる。大場ななは焦燥と困惑の嵐に晒され続けた。
一体誰が彼女の再演を狂わせているのか、確かめる必要があった。大場ななは情報を洗い直し、傭兵支援システムに干渉し、紆余曲折の末、とある個人……レイヴンの名で呼ばれる独立傭兵に辿り着いた。そして、エアという存在にも。
彼らの背景も、行く先も未だ不明な事ばかりだった。しかし、“ひとりとひとり”が“ふたり”になって、変異が発生した事は疑いようがなかった。
やがて情勢は、大場ななの手に負えない程に変わっていってしまった。
彼女はそれを、呆然と見ている。
レイヴンと対決する余地さえ無かった。
*
ルビコン一斉蜂起は起こらなかった。
コーラルリリースの主人には、あの独立傭兵が選ばれ、大場なながリリースのトリガーを引く指になる事は2度となかった。
*
新たな地平で人類は、別れと死を乗り越え、出会いと誕生を消し去り、いつでもどこにでも“いる”。
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