ヴェスパー部隊首席隊長・フロイトが第五部隊のオペレーター室に入ってきたのは、第五部隊メインオペレーターが作戦終了を告げた時で、戦闘員もオペレーター達も作戦中みなぎらせていた緊張感を緩めた、その瞬間だった。
それゆえに、ふらふらと入室してきたフロイトに始め誰もが気付かず、暫くして誰かが(恐らくドア付近にいた記録員が) ぎゃっ、と叫んだ声に振り返ったオペレーター室スタッフは残らず青褪めた。
「しゅ、首席隊長どの!」
遅れて全員が起立し、フロイトに敬礼を送る。全員の脳内にはヴェスパー上位への恐怖が(具体的には第二隊長閣下への恐怖なのだが) こびり付いている。これは明らかな失態だった。
しかし、対するフロイトはスタッフの狼狽ぶりを意に介さず、それどころか自身の両手をポケットに突っ込んだままだった(敬礼を返す事も無い!)。フロイトは徐ろに、
「途中、ブリーフィングには無かった指示を出した奴がいたな。どのオペレーターだ?」
と尋ねた。
途端、オペレーター室スタッフの間に緊張が走る。
アーキバスの作戦立案に不備は無いが、実際には不測の事態も起こり得る。そのため、ある程度の逸脱は、いちオペレーターにも許されていた。今回も作戦自体は成功をおさめ、大破した機体も無い。しかし、首席隊長がわざわざ指摘する以上は何か重大な問題があったに違いない……
−−−
「わ、わたし、です」
わたしは、やっとの思いで手を挙げた。こうなったら名乗り出るほかない。自分で自分が青褪めているのが分かるし、腕も膝も震えてしまう有様だったけれど。
フロイト隊長がこちらを見た。でも、その視線は犯人探しをしているには厳しさに欠けている感じがした。
「理由は?」
そう、短く尋ねられる。
わたしは先程の戦闘を思い出す。
−−−
相手はルビコン解放戦線。わたし達の目的は、コーラル調査基地を建てるための場所を確保すること。
いくらアーキバスでも、不毛の惑星・ルビコンⅢに新たにインフラを作る余裕は無い。だから、ルビコニアンから土地を奪うしか方法が無いのだ。当然、ルビコニアンは抵抗する。その制圧を第五部隊が請け負ったのだった。
敵拠点の先行調査では、手練れのMT乗りがいるものの、その数は少ない、とあった。だから"上"からは、熟練MTを叩き敵拠点を一気に占拠する、という短期決戦型の作戦をもらっていた。
でも、わたしは。
先行調査の結果を見て、その立地から敵は増援を潜ませている可能性があるんじゃないか、と思った。もっと慎重に、もっと多くの戦闘員を使って、敵拠点を周りからゆっくり押し包むように進めるべきなんじゃないか、と。
一応、メインオペレーターに相談はしてみたものの、やっぱり意気地なしなサブオペの心配事として一蹴されてしまった。ルビコニアンにそんな兵力を割く余裕なんて無いって言われて。
そして、今日。作戦当日。
ホーキンス隊長率いる第五部隊は、つつがなく進軍し、伏兵や罠にも遭わず、定刻通りに敵拠点付近に到達することができた。
この前メインオペにした話は、確かに出しゃばりだったかも、と思った矢先。
わたしの担当する偵察ドローンがアラートを鳴らした。こちらの部隊を囲うように、新たに四つの集団が向かっている、と。言うまでもなくルビコン解放戦線の戦闘機体だった。敵集団はそれぞれ十機。合流してしまえば四十機になる。対するこちらは二十六機。
このまま進めば敵に包囲されるのは分かりきっていて。
だから、わたしは。
「敵部隊が全て合流する前に、ひとつひとつを撃破することを進言、しました」
スピード勝負にはなるけれど、合流前の敵部隊はそれぞれ十機しかいない訳で。数で優っている以上、敵に遅れを取るヴェスパー部隊ではないと思った。
果たして、わたしの提案は受け入れてもらうことができた。そして、敵の増援を残らず平らげることも。それから、第五部隊は元々の目標だった敵拠点に突入。MTやら戦闘ヘリやらを排除して、無事、作戦を終了したのだった。
−−−
我ながら辿々しい説明を終えると、フロイト隊長は、ただ「そうか」と言ったっきりで頷きもしない。
どういうこと?
わたしは(恐らくオペレーター室にいるみんなも) 混乱していた。問題を指摘しに来たんじゃなければ、いったい何をしに来たのだろう?
ふい、とわたしから目を逸らしたフロイト隊長は、たまたま近くにいたオペレーターからマイクを奪うと、
「おい、ホーキンス。聞こえてるか?」
と、やっぱり突然話し出す。帰還準備中だったホーキンス隊長は、突然聞こえてきたフロイト隊長の声に面食らいつつ、返答。
「どうしましたか?首席隊長どの」
「このオペレーターをうちの部隊にくれ。それと、敬語はやめろ」
フロイト隊長が指差しているのは……わたし?
なんで?
わたしは頭の中が真っ白になっていて気が付かなかったけれど、この時第五部隊のオペレーター室は、かなり騒然としていたそうだ。それもそうで、わたしはまだサブオペだったし、他のスタッフと比べて目立った功績も無かった。このまま十年は偵察ドローンを飛ばしているだけの仕事を続けるはずだったのだから。
「今は返答しかねるよ。とにかく、僕が戻るまでは待っていてくれるかい?」
ホーキンス隊長は決定を先延ばしにしてくれたようだった。助かったのか、そうじゃないのかも良く分からない。
ここ、アーキバスで悪目立ちをすることは死に直結する場合もある(悲しいことに比喩では無いのだ。泣きたい)。メインオペレーターの視線が痛い。ううん、今この瞬間、フロイト隊長を除いたオペレーター室の全員が、わたしの振る舞いを注視している……
ホーキンス隊長に一秒でも早く帰って来てほしかった。
−−−
この時のわたしは、まだ知らなかった。
わたしが、ACパイロットになるなんて。
彼らの敵になるなんて。
−−−
結局、わたしは第一部隊に転属することを選んだ。はっきり言おう。おカネに目が眩んだのだ。
ホーキンス隊長は、フロイト隊長の無茶に少し呆れていた様子だった。隊長室にわたしを呼ぶと、
「大抜擢になっちゃったね。さっきはああ言ったけど……(ここで、わたしの顔色を伺う感じ)……僕としては君の意見を尊重したいかな」
と、暗に「イヤなら断っても良い」と言ってくれた。ホーキンス隊長は、わたしみたいなサブオペにも気を配ってくれる、やさしい人なのだ。
わたしも始めは辞退しようと考えていた。アーキバスで生き残るためには、それがベストな選択だから。
でも。
「ああ、僕がこんな言い方をするのはフェアじゃないね。ちなみに、第一部隊に入ると、このくらい……参考までに、ね」
そう言ってホーキンス隊長がコッソリ見せてくれたお給金額を見て、わたしはひっくり返るかと思った。今の何倍になるだろう……!
そして気が付けば、第一部隊転属を自ら希望し、書類にサインし、受領してもらっていた。
あ〜あ、という感じ。わたしって、いつもこうなのだ。
わたしの複雑な心境を想像したのか、ホーキンス隊長は、
「そう言えば、君はご実家に……」
「はい。家にお金を入れてるんです。兄が、パイロット志望で……」
「家族思いなんだね」
「……そういうことに、しておいてください」
ホーキンス隊長の困ったような笑い顔とも暫くお別れなのだと思うと、やっぱり短慮だったかな、と後悔の念が押し寄せてくる。
あ〜あ。
−−−
怒涛の日々が始まった。
噂には聞いていたけれど、第一部隊は普通じゃなさすぎ、特殊すぎ、イレギュラーすぎって感じで、わたしは初日にして自信を失いかけた。
やっぱりフロイト隊長の影響なのだろう。この人が一番“変”だと思う。
転属して最初の挨拶に行くと、いきなり。わたしのことを「サム」と呼ぶことに決めたのだと言われた。フロイト隊長自ら曰く、他人の名前を覚えるのが苦手で、わたしは昔飼っていた犬に似ているから「サム」にしたのだと。
飼い犬扱いを跳ね除けられるほど、わたしは気持ちが強くないし、大人しく隅っこでジッとしているのが染み付いていた。ここでフロイト隊長に嫌だと反抗して、入りたての第一部隊で浮きたくない。
それで。わたしは、その日から「サム」になった。第一部隊サブオペレーターのサム。それが、わたしになった。
−−−
転属から一年。
第一部隊での怒涛の日々は続く。
首席隊長のいる部隊なだけあって、割り振られる任務はどれも尋常じゃない内容だったし、任務内外でフロイト隊長は気紛れな行動ばかりするし、他の隊との合同作戦ではわたしが折衝に駆け回る羽目になった。
暫くやっているうちに、仕事に慣れる、ということが不可能な職場だと気付いて慄いたけれど、不思議と辞めたい気持ちは湧かなかった。
フロイト隊長は、わたしのことをまだサムと呼んでいる。名前を覚えてもらうことは、とっくに諦めていた。それに、もしかしたら本当にわたしを犬だと思っているのかも……
わたしは溜め息をつくと、モニターの映像を止めた。見ていたのは、以前に第一部隊が参加した作戦のアーカイブ。アーキバスに所属するオペレーターには過去の作戦を閲覧する権利が与えられている(もちろん、検閲可能なものを、閲覧室の中のみで、だけれど)。
こうして復習していると、その場では不可解だったフロイト隊長の振る舞いが全て合理的だったりするのが不思議だ。それに、どんな相手でも負け知らずの、その強さ。センスと鍛錬だけでこの高みに辿り着いているのは、にわかには信じられない。
わたしは、また溜め息をつく。
ふと、背後に誰かの気配を感じた。
「サム」
わたしが振り返るより先にフロイト隊長の腕が伸びてきて、髪を乱暴に掻き混ぜられる。わしわし、と。その感じが本当に犬を撫でるような具合なのだ。やめて下さい、とも言えないわたしに、
「この前の戦闘アーカイブか。珍しく解放戦線がACを出してきた時だな」
頷く。
そのせいで、敵ACに好奇心を刺激されたフロイト隊長をこちらの戦力から一度外し、残った部隊員のために進行ルートを修正することになった。半ばそうなることは分かっていたけれど。第一部隊では不測の事態は隊長自らが起こすものだ。それには、少し慣れてきていた。
「これ、読んでおいてくれ」
フロイト隊長は何かの書類をデスクに置くと、どこかへ去っていった。去り際にまた髪をわしわしされた。これにはまだ慣れていない。
髪を整えながら、わたしは書類に目を通す。パーツ申請のための口裏合わせだろうか……?
予想はいつも裏切られる。
そこには、わたしをメインオペレーターに任命した旨が書いてあった。「する」ではなく「した」。
もちろん、何も知らされていなかった。
わたしは閲覧室が閉まる時間になるまで放心していた。
−−−
その日の任務は、ルビコニアンのコーラル貯蔵基地を奪取することが目標だった。
出撃するのは第一部隊。
隊長は、もちろんフロイト。
メインオペレーターは、わたし。
メインオペレーターとして初めての仕事だった。
はっきり言って頭が痛かったし心細かったけれど、これまでの任務に比べれば比較的危険は少ない内容だった。もしかしたら、フロイト隊長はわたしの初仕事が易しい任務になるように調整してくれたのかも……と思いたかったが、きっと偶々そうなっているだけなのだろう。
でも、溜め息をついているばかりじゃいられないのだ。
「ヴェスパー・ワン。聞こえていますか? 間も無く作戦領域に入ります」
「了解した」
「該当基地はAC所持の可能性があります。敵ACの投入が確認された場合には、」
「分かっている。俺がやれば良いんだろう」
フロイト隊長は、いつも通りの感じだ。強敵にぶつかることを、どこかで期待している。
もし、敵がACを出してきてフロイト隊長と戦闘になったら、メインオペのわたしがその戦闘をモニターすることになっている。その間、サブオペが残りの部隊員をエスコートするのだ。
そうブリーフィングで通達したものの、AC同士の戦闘が始まった時、フロイト隊長に対してオペレーターが何かサポートできるかというと、ほとんど無いに等しいのが現実だ。オペレーターは、敵の接近を告げた後、ただ戦闘を見守るだけになる。
敵の弱点も、癖も、どんな情報も、わざわざフロイト隊長に伝える必要なんて無い。フロイト隊長は自ら戦闘の中で相手の特徴を掴み、勝利への道を切り開いていく。その過程を楽しんでいるのかもしれない。
何もかも普通じゃないのだ。
だから。本当にルビコニアンがACを投入してきた時も、フロイト隊長がそのACに接敵した時も。わたしは落ち着いたままだった。愚かなことに。
わたしはメインオペレーターとしての責任を果たしていなかった。その覚悟が足りなかった。
これは単なるAC勝負なのでは無く、命がけの闘争なのだということを、忘れてしまっていた。
侵入した基地の施設内で、第一部隊はAC一機と四脚MT三機からなる敵集団と接敵した。わたしは手筈通り他の部隊員とフロイト隊長を切り離し、フロイト隊長が存分に暴れられるように場をセッティングする。
流石というか、フロイト隊長は難なく敵集団を撃破した。
「サム。他に敵は?」
MT三機は完全に炎上。敵ACも両脚を吹き飛ばされた後、コアをブレードで切り裂かれて戦闘続行が叶わない状態になっている。
「周囲に敵影なし。部隊に合流してください。今、ルートを、」
フロイト隊長のマップを新たなデータに更新しようとした時だった。
もう起き上がれないはずの敵ACの右腕部が、動いた。
ヴェスパー・ワン!と、わたしが叫ぶより先に、
「まだ動けたのか」
ロックスミスのライフルが敵ACに向けられる。
でも。
敵パイロットが狙ったのはフロイト隊長ではなく、施設に電力を行き渡らせるためのジェネレーターだった。
敵パイロットが呪いのような言葉を吐き出す。
「ルビコンよ、コーラルと共にあれ!」
敵ACの銃撃がジェネレーターを破壊した。ぼん!どがん!と音を立ててジェネレーターが弾ける。その爆発が、衝撃が、炎が、施設内の他の設備にも誘爆する。
わたしは任務失敗を悟った。ここは、コーラル貯蔵基地なのだ。地下に溜めてあるコーラルまで爆発すれば第一部隊は壊滅する。
はじめから、これが狙いだった?命と引き換えにしてまでヴェスパー・ワンの部隊を消すことが?
わたしは混乱と恐怖に飲まれる一歩手前だったけれど、何とか全隊員に撤退を指示し、退避ルートを示し、でも、それだけで精一杯だった。
目標だったルビコニアンのコーラル貯蔵基地は爆発に飲まれて消えた。それどころか、地下のコーラルが地表に流出し、半径五キロメートルが汚染区域になった。
第一部隊の戦闘員も数名が爆発に巻き込まれて、あるいは、施設の瓦礫に押し潰されて亡くなった。
不幸中の幸いは、フロイト隊長が無事だったこと。でも、コーラル被曝の疑いから数日間の検査と治療を受けることになった。
ぜんぶ、わたしのせいだった。
戦闘に対して楽観的になり、部隊のメンバーを生きて帰すという仕事を怠ったのだ。
わたしはメインオペレーターからは外され、謹慎処分になった。実質的なクビ。アーキバスで生き残る道は閉ざされてしまった。
−−−
ひとり、自室で。わたしは、実家と連絡を取ろうかと迷っていた。第一部隊に転属になってから、携帯端末には長らく触れていない。
ごくり、と唾を飲み込んだ。兄はコールに応じてくれるだろうか?兄が駄目なら、気が進まないが母に連絡しなければいけない。
端末を起動させると、メッセージが入っていた。兄からの。わたしは、そのメッセージを開いて、すぐに後悔した。
そこには、わたしに対する罵倒しか書いていなかった。わたしが、いつも兄のチャンスを奪っていて、その利益を独占している、と。自分は強化手術の適性がなくて苦しんでいるのに、わたしはのうのうと暮らしている、と。出来損ないのお前が、恵まれた地位にいるのは間違いなのだ、と。
わたしは端末を投げ捨てた。目に入るのも嫌だった。
わたしと、わたしの兄はパイロットを目指していた。無邪気な子どもの頃は。でも、成長するにつれ現実の厳しさにぶつかった。ふたりとも、ACパイロットになるには必須となる強化手術の適性が無かったのだ。
わたしは早々に諦めて、オペレーターになることにした。兄は、諦められなかった。無強化でも立派にパイロットが務まることを自分が証明すると言って、夢を捨てなかった。
わたしも、そんな兄を尊敬していたし、せめて金銭面で支えようと実家に給料の一部を送り続けていた。
でも……
無強化の人間がエースパイロットになるというのは、あまりにも長くて険しい道で。兄は次第に心を壊していってしまった。夢を早くに見捨てたわたしを責めるようになっていった。
ぼろっ、と涙が溢れた。
大好きだった兄と、叶えたかった夢を嫌いになりたくない。両方とも大切なはずで、捨てられないはずだった。
明日、と、わたしは思う。明日、フロイト隊長に会いに行こう。そこで、オペレーターを続けられるようにお願いしよう。ううん、こうなったらオペレーターじゃなくても良い。とにかく、アーキバスに居させてもらう許可をもらえたなら、何でも良いのだ。
涙は勝手に溢れてくる。
−−−
「サム」
ベッドに寝かされたフロイト隊長は、忍び込んできたわたしを責めないどころか、椅子を勧めてきた。退屈な検査に死にそうになっていたのだそうだ。
「フロイト隊長。実は、お話があって伺ったんです」
「メインオペを外されたことか?」
頷く。
不思議と、フロイト隊長に隠しごとはできないのだった。そう、わたしはフロイト隊長にお願いをしにやって来たのだ。ここに忍び込むのは容易なことでは無い。見つかれば、その場で射殺されても文句は言えない。命がけのお願いなのだった。
わたしが口を開こうとした、その時。
ふいに、フロイト隊長の腕が伸びてきた。
飼い犬の頭を撫でようとしているのだ、と気付いて、わたしは、
わたしは、その手を振り払った。
「わたしは、あなたの犬じゃない」
あれっ?
「わたしはサムなんかじゃ、ない…!」
そんなことを、わたしは口走っていた。そして、止めるとこもできなかった。
「オペレーターじゃなくて、本当はっ、本当はパイロットになりたかったんです…!わたしも、ACに乗りたかった!」
「じゃあ、なれば良い」
フロイト隊長はそんなことを言う。
「でもっ、わたしは、強化の適性が無いから無理なんです! それなのに、あなたはっ」
「そうだな、俺は無強化だ」
その言葉に、ふざけるな!と思った。彼が強化人間じゃないことは薄々気付いていた。でも、認められなかった。それは、わたしが叶えられなかったものだから。その事実に目を向けたら。妬ましくて、眩しくて、届かないその栄光に目を向けたら。
「また、パイロットになりたいって、思っちゃうじゃないですかっ…!」
強化手術の適性が無くても。センスも技量も足りなくても。戦場に出れば他人の命を奪い、いつか惨たらしく死ぬと分かっていても。
わたしはACパイロットになりたかった。
だって、ACは死ぬほど格好良いから。
だから。
「わたし、アーキバスを辞めます。オペレーターも、辞めます。家族も捨てます」
「それで?」
彼はニヤニヤした顔で言葉の続きを促してくる。
「ACのパイロットに、なります」
「ははっ、今までで一番面白い宣言だ。俺と戦るまでせいぜい強くなっておいてくれよ?」
−−−
こうして、わたしは彼らの敵になった。
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