メメント森井もりさわ
2024-06-10 22:42:35
4031文字
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それがどうした

たぶん1周目。√分岐前。独自設定ありのパラレルワールドです。
レイヴンとヴォルタ、イグアスが出てきます。
何とかしてヴォルタとデートがしたかった。
許してください。

 その日、ベイラムインダストリー直属部隊レッドガン所属G4・ヴォルタは、ナンパを試みていた。誰に?とある独立傭兵に。
 相手は旧世代型の強化人間で、先日、ガリア多重ダム襲撃作戦において僚機として戦ったACパイロットだった。識別名はレイヴン。レッドガン部隊総長よりG13のナンバーを貸与され、しかし、あくまで立ち位置は独立傭兵という、なんとも掴み所の無い人物であった。
 ミシガンが新メンバーを“拾って”来る事は別に珍しいことでは無かったが、新人にしてはレイヴンは腕が立ち過ぎた。そしてその背景も謎のままだった。だから、ヴォルタは作戦中レイヴンに対し警戒を怠らなかったし、頭の片隅では「この後ルビコニアンに買収されても可笑しくねぇな」と考えていた。しかし、ヴォルタの懸念に反してレイヴンはレッドガンを裏切らなかったし、ルビコニアン専属の傭兵になる事も無かった。
 それならそれで良い。
 ヴォルタのレイヴンに対する関心はそれで一度終わった。そして二度と意識にのぼることも無いはずだった。

 きっかけはG5・イグアスの苛立ちだった。
 イグアスも先の作戦に参加し、レイヴンの素晴らしい立ち回りを目の当たりにし、その結果、レイヴンに対する敵意をめちゃくちゃ露わにするようになった。レイヴンを指して「野良犬」と言って憚らない。立場上ビジネスパートナーたり得る相手に礼を失しすぎるその態度は、周囲を緊張させた。しかし、当の本人……レイヴンからの苦情も無く、イグアスは肩透かしを食らった形となった(それもイグアスを苛立たせた)。
 その様子を横で見ていたのがヴォルタであった。普通、イグアスからの「煽り」をスルーできる奴はそうそう居ない。かく言う自分もイグアスとはしょっちゅう喧嘩しているのだ。レイヴンとか言う奴は、とんでもなくとぼけた奴か、言い返す度胸も無い臆病者に違いない。
 だが、それはレイヴンがガリア多重ダムで見せた印象と繋がらない。あれほど苛烈に、効率良く破壊をもたらしたパイロットとは。
 レイヴンとは何者なのか。
 ミシガンは一体何を拾ってきたのか。
 少し、興味が湧いていた。恐らくスラム時代の名残り……危険な相手をマークする本能がヴォルタにそうさせたのだろう。狩りの獲物を品定めするかのような興味だった。

ーーー

 レイヴンとの再会は予想外に早かった。
 多重ダム襲撃作戦から程なくして、次の作戦が組まれていた。内容はベイラムが捕縛したルビコニアン捕虜の輸送護衛だった。ナンバー付きを駆り出す位には重要な捕虜なのだろうが、ヴォルタの感想としては「かったりぃ仕事」でしかない。
 しかし、共にアサインされていたのがG13と聞いて気が変わった。どうせ輸送ヘリを遠巻きに並走するだけの簡単な仕事だ。目的地に着くまであれこれ聞いてやろう、そうヴォルタは考えていた。

ーーー

 が、しかし。ヴォルタの企みはあっけなく崩された。
 何故か?
 ルビコニアンが輸送ヘリを襲って来て質問どころじゃ無くなったからか?否。捕虜の輸送は滞りなく行われていた。時間潰しの通信は可能だったし、他の隊員もそれを黙認していた。
 レイヴンが一切通信に応えなかったからか?否。任務中にも関わらず通信を繋げてきたヴォルタにも、レイヴンはちゃんと応答した。
 では、何故?

 それは、レイヴンが旧世代型の強化人間だった事に由来していた。手術の結果、レイヴンの脳はコーラルに焼かれてしまった。それまでの記憶を失い、感情の起伏を失い、自己を失い、人間らしさと無縁の存在になっていたのだ。
 だから、背景を探るも何も、レイヴンには初めからそんなものは無いに等しい。
《回答不能。私は答えをもっていない。作戦上必要ならばハンドラーに確認することは可能だ。》
 レイヴンから返って来たテキストメッセージ……レイヴン曰く発話機能はリハビリ中らしい……に、ヴォルタは溜め息を吐いた。
 年齢、性別(!)、出身、家族の有無などなど。護衛の道中、ヴォルタはそれとなく、あるいは大胆に質問を続けた。恐ろしい事にレイヴンには秘密にしている事は無いらしい。尋ねられるままに答えてしまう様子は悪意を知らぬ幼児のようだった。「ハンドラー」にも口止めされてはいないらしい。
 逆を言えば、レイヴンはそれ程までに自身に関する記憶や情報を持ち合わせていないのだ。
 レイヴンの過去を探ることはできないとヴォルタは諦める。
 では、現在は?
 ヴォルタはアプローチを変える事にした。

ーーー

「どうして独立傭兵なんぞやってんだ?ミシガンにスカウトされたんじゃないのか?」
《前者の質問に回答する。金が必要だからだ。
 後者の質問へは回答不能。質問の意図が不明。》
「なんでレッドガンに入らねぇのかって聞いてんだよ」
《それはハンドラーの決定に依る。》
「また、ハンドラーか
 ヴォルタの試みは上手くいった。質問の方向性を変えたところ、レイヴンから《回答不能》以外の返事を引き出すことに成功したのだ。曖昧な聞き方をすると答えられないらしい。いちいち言い直すのは面倒だったが、明らかな反応の違いをヴォルタは面白がっていた。レイヴンからの回答がシンプルで何でも素直に答えるのも、良かった。
 それにしてもレイヴンのハンドラーとか言う男は気に食わない。レイヴンを買い取り、まるで手足のように扱っているようだ。人を人とも思わない冷徹さをもつ、鋼鉄とかでできた奴なんだろう。
「金が貯まったら何するつもりなんだ?」
《再手術。コーラルの焼き付きが中和される可能性がある。》
「へぇ、良いじゃねぇか」
 そう答えながら、ヴォルタは核心に近付いた手応えを感じていた。
「となると、相当な金が要りそうだな?目的はここのコーラルか?」
《肯定。》

 決まった。
 レイヴンは俺たちの脅威になり得る。

 ヴォルタはそう理解した。その上で、同時に、レイヴンを憎めない自分がいる事にも気付いた。
 自身の悪友たるイグアスと同じ旧世代型であること。素直で子どものような部分があること。ハンドラーに良いように使われていること。
 レッドガンに勧誘(ナンパ)してぇ〜。
 いつの間にか、同情のような、庇護欲のようなものが刺激されていた。

ーーー

《うみ?》
「海も知らねぇのかよ
 ヴォルタはレイヴンへのインタビューを切り上げ、単なるお喋りを楽しむことにした。
「海ってのはな
 レイヴンへ画像データ(ビーチを楽しむマブいね〜ちゃん達の図)を送信したヴォルタは、人知れず苦笑した。こんな事して何になる、と頭の冷静な部分が嗤っていた。コーラルに脳を焼かれているレイヴンは主体的な選択ができない。いくら楽しくお喋りをし、レッドガンへの好印象を植え付け、勧誘したとて、結局はハンドラーが是と言わなければこちらへは来ないだろう。

 それがどうした。

 ヴォルタは反骨精神ある男だった。
 意味が無いとか言われると、それを跳ね除けたくなる。そういうムカつきが今のヴォルタを動かしていた。
 だから、レイヴンと色々話をした。話題は転々ところがっていって、そのうち自分の未来の計画を話していた。
「金貯まったら、こういうビーチで店やりてぇんだよな」
《それが、あなたの目的?》
「目的ってか夢だわな、夢」
《ゆめ》

 レイヴンとのお喋りはそこで打ち切られた。輸送ヘリが目的地に無事辿り着いたのだ。任務は完了し、ヴォルタとレイヴンはそれぞれの拠点へ帰還した。
 G4・ヴォルタとG13・レイヴンが行った最期の会話となった。

ーーー

 知らなかったのはレイヴンだけでは無かった。
 G5が壁越え作戦から外された理由。G4がどう死んだのか。最期に何を考えていたのか。

 ベイラムによる壁越え作戦の直前で起きた事件だった。
 始まりはイグアスが突然ヴォルタに殴りかかったこと。普段から戯れ程度の喧嘩を繰り返していた2人だったが、今回の殴り合いはシャレにならない程激しかった。異変に気付いた周囲の隊員が数人がかりで止めに入る事態になり、結果、備品の損壊や多数の怪我人が出た。
 目撃者の発言からイグアスが吹っ掛けた喧嘩と判断されたうえ、他の隊員とのトラブルもイグアスの方が圧倒的多いことから、イグアスだけが営倉行きになった。

 そして、イグアスのいない壁でヴォルタは戦死した。

 ……こんな噂もあった。
 殴り合いが起こる前、2人の会話を耳にしていた者がいたという。その隊員曰く、ヴォルタはイグアスにレッドガンを抜けて商売を始める計画を持ち掛けていた、と。
 イグアスはレッドガン部隊総長・ミシガンの顔面に一発お返しを食らわせる事を目標にしていた。そして、自分の悪友で相棒でもあるヴォルタも、ずっと同じ目標を目指してここまでやってきたと、純粋に信じていた。それを“裏切られた”衝撃たるや。
 ヴォルタもヴォルタで、「ガキじゃねぇんだから」そろそろ将来を考えるべきだと主張した。何故分かってくれないのだと憤った。
 2人は互いを思うがゆえに。

 不幸だったのはイグアスとヴォルタの背景を知る隊員がほとんど居なかったことだ。もし、事情を知っている者が証言していたら……
 しかし、今更何をいってもG4の戦死は覆らない。誤解は誤解のまま、無知は無知のまま終わりを迎える。

ーーー

 辿り着いたグリッド086の、その縁にACが一機佇んでいる。
 レイヴン機であった。
「海
 整列されて並んだカーゴ群の間から、はるか先に海原が臨む。これからこの海を越えて行くのだ。
 この先には困難が待ち受けている。ハンドラーから与えられる仕事は、よりハードになるだろう。
 しかし、

 それがどうした。

 レイヴンは海に背を向けた。