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メメント森井もりさわ
2024-05-28 23:12:03
7321文字
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あいわな・ごちゃまぜ・ぷりん・ふぉー・ゆー
たぶん解放者√が一番近い世界線です。
レイヴンとラスティ、エア、フラットウェルが出てきます。
途中、ラスティがちょっとだけ可哀想かも。でもハッピートンチキエンドです!
許してください。
『レイヴン!』
エアの叫びが警告音に掻き消される。同時にガツン!という衝撃が、コア内のレイヴンの身体にまで伝わってきた。被弾した!脳が揺すられて、一瞬、視界がブラックアウトする。
しまった。
レイヴンは咄嗟に腕を伸ばし操縦桿を掴み直そうとしたが、手は空を切るのみ。両腕にまるで力が入らないことに気付き、愕然とし、しかし戦場の常としてすぐに平常心を取り戻す。続けて飛んでくる砲弾はパルスアーマーを展開させることで何とか凌いだ。レイヴンはペダルを踏んで、記憶を頼りに遮蔽物までブースト移動する。
サポートに徹してくれるエアの声もどこか遠い。先程の衝撃で、どこか“ズレて”しまったらしい。両腕が動かないのも、そのせいだろう。
『やは、り
…
敵機へのターゲッ
…
ングができない
…
うです。一種のジャミ
……
、しょうか』
今、レイヴンはひとりで複数の敵機を相手取っていた。これまでにも経験した事があるシチュエーションではあったが、場所が悪い(崖下に誘い込まれてしまった)。敵機をターゲッティングできない。援軍も呼べない。何より、身体が思うように動かない。と、中々のピンチであった。
遮蔽物に隠れたレイヴン機のすぐ横を砲弾が掠め通る。空気が切り裂かれて機体がびりびり震えた。
レイヴンの頭の中に「ジリ貧」という言葉が浮かぶ。レイヴンにとって久々の苦戦。久々の命の危機だった。
「
……
」
レイヴンは痙攣する腕を自身の身体に沿わせた。強く意識していないと動かせない程、ダメージを受けているのが分かる。レイヴンはやっとの思いで指先を身体に巻き付けられた包帯(ラップ)の隙間に差し込むと、それを力いっぱい引き裂いた。
ーーー
ルビコン一斉蜂起から数年が経った。
星外企業も惑星封鎖機構も追いやって、真の自由を手に入れ喜びに沸き立つ惑星ルビコンⅢに、独立傭兵レイヴンはいた。本来であれば英雄として迎え入れられるべき人物であったが、他ならぬレイヴン自身がそれを拒否した。今更誰かの味方になるには、あまりにも殺し過ぎたと言って。それでも、レイヴンはルビコンから離れることも選べなかった。
レイヴンの心の一部は、恒星間移民船ザイレムでの戦い
……
自身のハンドラーとの決着に囚われていた。あの時見た噴き上がる炎が、燃え立つコーラルが、ハンドラーの言葉が、焼き付いて離れないのだ。それが何故なのか、レイヴンは正しく理解したいと思っている。
ルビコンで生きることを決めたレイヴンだったが、その側には、ふたりの友人が寄り添った。姿無きルビコニアンのエア。そして、元・ヴェスパー部隊第4隊長のラスティであった(彼は奇跡的な生還を果たした!)。こうしてレイヴンは、ふたりの友人に支えられながら、ルビコンで無名の傭兵として暮らすこととなった。
しかし、ルビコンの平和は長くは続かなかった。程なくして新たな星外企業がルビコンに攻め入って来たのだ。ライバル企業がいない今が好機と考えたのだろう。もちろん目的はコーラルだった。
惑星ルビコンⅢは、再び戦場と化した。
旧ルビコン解放戦線も即座に抗戦に移ったが、相手は新兵器を持ち込んでいた。旧RLFは苦戦を強いられた上、いくつか地上の拠点を奪われてしまう結果となった。
困った旧RLFはルビコン在住の傭兵達に依頼を出した。レイヴンも依頼を受け取ったひとりだった。受けた依頼は通信拠点の奪還
……
では無く、そのための陽動だった。できるだけ多くの敵を引き付け、拠点から離れさせることが必要だった。
「それを単機でやってほしいとのことだ」
レイヴンのカットアウトを担当しているラスティが、ため息まじりに伝える。新兵器を所有した相手には無謀とも言える内容だったが、旧RLFが常に人員不足なのも事実なのである。依頼を寄越した人間は知らなかったとはいえ、結局はレイヴン頼みか、と思わずにはいられないラスティだった。
「了解した。依頼を、受けよう」
「
…
感謝する。私も近くの作戦領域にいる。こちらが片付き次第、合流しよう」
レイヴンとの通信を切ると、ラスティは機体の調整に向かった。
ーーー
レイヴンの元へ駆けつけたラスティが目にしたのは、珍しく危機に陥っている戦友の姿だった。依頼通り多数の敵機を拠点から呼び寄せたものの、両側を崖に挟まれた渓谷に誘導されてしまったらしい。
「戦友、聞こえるか?」
レイヴン機から「ジャッジャッ」とジッパー音で応答があり、ラスティは安堵する。とはいえ、手が離せないほどには苦戦しているらしい。助力に駆けつけて正解だった、とラスティは思った。そのまま地上へは降りずに、上空から敵機をロックオンしようとしたところで、眉を顰める。
「ジャミングの一種か。少々面倒だな」
これが敵勢力の新兵器の1つだった。敵機が潜む崖上はモヤのようなもので覆われていた。ラスティはセンサーと目視、両方の索敵が阻害されていることを理解する。
平地ではあまり意味をなさないが、こういった地形では効力が増す。ちょうど今、レイヴンが追い詰められているように、ジャマーを張って崖上から狙撃するだけで十分な制圧力となる。ラスティは上空を旋回しながら通信する。
「撤退するのであれば手助けできる。幸い、敵はまだこちらに気づいていないようだ
…
」
突然、レイヴン機が遮蔽物から飛び出した。すかさず、崖上から砲弾がレイヴン機目掛けて飛んで来る。レイヴン機はクイックブーストでそれを躱すと急停止し、右腕部のライフルで崖上をピタリと示した。
「! そういうことか、戦友
…
!」
ラスティは示されたポイントに向かって射撃した。モヤの中で爆発が起こる。敵機を撃破した手応えがあった。
続け様に、崖上からレイヴン機に狙撃。今度は2発。レイヴンはACを巧みに操って回避。反転してライフルを振り、ピタリ、ピタリと敵の潜伏位置をラスティに示してみせた。過たずラスティの狙撃が敵機を穿つ。爆発。爆炎。
わざと撃たせて敵の位置を知る。危険だが、レイヴンと自分になら成し遂げられる。ラスティは高揚した。
「君とこの私が揃っていて不可能な事なんて無い。そうだったな、戦友」
ようやく敵方が異変に気付いた頃には、その半数がレイヴンとラスティに撃破されていた。慌てた様子で上空からの狙撃元
……
ラスティを見つけようとするも、それを許すレイヴンではない。おおよその当たりを付けて放たれたミサイルの爆炎や噴き上がる砂塵が敵の注意を削ぐ。そこへラスティ機の放つプラズマが命を奪いに飛んで来る。
追い詰めていたはずが、反対に狩られる立場となって敵方の混乱はピークに達した。逃げる相手にもレイヴンは容赦が無い。もちろん、ラスティも同じだった。結局、1機残らずふたりの餌食となってしまった。ラスティが合流してから僅か十数分で戦況は決した。
「状況は終了した。帰還しよう。
…
戦友?」
帰還のために飛び立とうとして、しかしラスティは異変に気付く。レイヴン機がライフルを中空に向けたまま動かないのだ。
…
まるで、命の無い彫像のように。
「どうした⁉︎ 応答してくれ、戦友!」
戦闘中は聞こえていたジッパー音での返答も無い。不吉な予感があった。ラスティはたまらなくなって自機のコアを開くと、つい数分前まで戦場だった空間に生身の体を晒す。レイヴン機のコアを開けるためだった。
ラスティにとって永遠とも感じられる時間が掛かって、やっとレイヴン機のコアが開く。ラスティはコアの中へ身を乗り出し、レイヴンに呼び掛ける。
「せんゆッ、」
途端、コアから溢れ出す蒸気がラスティを襲った。じゅわじゅわと音を上げる蒸気は酷いにおいがした。
操縦席は空っぽだった。
レイヴンの姿は、良く知る戦友の姿は、どこにもなかった。
シートの上で包帯と縮んだ肉塊が燻っているだけ。良く見ると、肉塊はコックピットの至る所にこびりついていて
…
ラスティは身を捩り、コアから飛び出すと嘔吐した。レイヴンが死んでしまった。冷えた頭の中が、そう結論を出した。
ーーー
レイヴンがルビコンに残り、無名の傭兵として仕事を続けることを選択したのには理由があった。端的に言って、金が必要だったのである。
金を貯め、再手術を受ける。それがレイヴンにとっての新たな目的となっていた。再手術を受けること。人間らしい普通の生活を送ること。それは自身のハンドラーの望みでもあった。かつてはハンドラーの命令が、頼みが、望みが、レイヴンの道標であった。その最後の1つを達成したいという思いがあったのだ。
仕事には困らなかった。ルビコンは一斉蜂起からの復興に忙しく、また、コーラルの安全な運用についての研究が着手され始めてもいた。
護衛。輸送。調査。何でもやった。全ては再手術のため。いつか“人間”らしい“普通”の人生を送るためだった。
ところが。いざ再手術を受けようという段階になって問題が発覚した。
レイヴンは旧世代型の強化人間であった。劣悪な保存環境、そして、解凍されてからも度重なる無茶苦茶、破茶滅茶を命からがら乗り越えてきた結果。レイヴンの身体はよくシェイクされたごちゃまぜプリンのような状態になっていたのだった。かろうじてその体に巻き付けた包帯がヒトの形を作っているに過ぎず、もはや再手術を受けるとかそういうレベルではなかった。
当然、レイヴンはその事実にショックを受けた。生きていく道標を失ったに等しかった。輪をかけてボンヤリするレイヴンに、それでもエアとラスティは語り掛け続けた。希望を失ってはいけない、と。どんな貴方でも貴方のままなのだ、と。きっと他の方法でも“人間”らしさは取り戻せる、と。
今のレイヴンは、そんなふたりに感謝してもしきれない思いでいた。ごちゃまぜプリンな自分を受け入れてくれたこと。立ち直るまで励ましてくれたこと。これからはエアやラスティ、そしてふたりが暮らすルビコンのために尽くそう。レイヴンに新たな目的が生まれた瞬間でもあった。
だから。レイヴンはあの戦場で自ら包帯を破く選択をした。包帯から溢れたレイヴンの中身は、うねり、蠕動し、コックピットの隙間という隙間に流れ込み、ACと一体になった。もちろん、一度流れ出した身体を元通りにするのは非常に困難なことである。その上、曝け出されたレイヴンの身体は常に排熱に焼かれ、コーラルやプラズマに侵され、崩壊していく。
それでも。それが現状を打破する一手なら。何も躊躇う理由にならなかった。レイヴンは剥き出しの筋肉、腱、その他もろもろの全部を駆使してACを操った。激痛と混濁する意識に抗い、ラスティの手腕を信じて、レイヴンは最期の戦闘に挑んでいた。
そして。レイヴンとラスティの戦果
……
陽動の成功が今回の戦争のパワーバランスを傾けた。辛くもルビコニアンは星外企業に打ち勝ち、勝利をおさめることができたのだ。しかし、勝利の影で、ひとりの傭兵が死んだことに気付く者は少なかった。
レイヴンは表向きは無名の傭兵だった。その最期は戦死者リストに小さく記載され、やがて誰もが忘れていくだろう。元・レイヴン機はクリーニングを掛けた上で、ほとぼりが冷めた頃競売に出されることに決まった。これは新生RLFの決定だった。
レイヴンはすでに過去の存在になろうとしていた。
ーーー
元・レイヴン機がクリーニングのためガレージに入れられた、その晩のことだった。誰もいないはずのガレージに人影が現れた。ラスティである。ラスティは機体のコアを開くと、中にそっと忍び込んだ。
数分後、コアから出てきたラスティが手にしていたのは
…
ーーー
新生RLFでラスティは良く働いた。元々ルビコンのために生きていた男である。何でもそつ無くこなし、また無駄も無かった。いつかヴェスパー部隊にいた頃のように“完璧な”仕事ぶりだった。
フラットウェルには、あのレイヴン機が競売に掛けられた時に一番に買い取りにいくためだと説明した。嘘ではなかった。しかし、とにかく金が必要だった。
分かりやすい変化もあった。仕事が終わった後、そそくさと帰宅するラスティの姿が何度も目撃されていたのだ。ついに良い人でも見つけたか、と噂するルビコニアン達を他所に、フラットウェルは疑問を抱いていた。あのラスティに「良い人」だと?そんなはずが無い。あれ程入れ込んでいた戦友の死から立ち直るには早過ぎる
…
嫌な予感がした。
ーーー
フラットウェルは、ラスティが遠方へ任務に出掛ける時を狙って彼のセーフハウスに忍び込んだ。多少のトラップは予想していたし、解除は難無くできた。しかし、数が多すぎるのが引っかかる。
キッチン。リビング。バスルーム。決して広くは無かったが、フラットウェルは念入りに調べた。異常は無い。どこにも。
最後に残ったのはラスティが寝室にしているであろう部屋だった。最新の注意を払ってドアに付けられた装置を外す。
……
鍵が開いた。フラットウェルがドアを開くと、中から冷気が流れ出してきた。フラットウェルは寝室に入り、その中のものを見て、絶句した。
「そこから離れてくれ、フラットウェル」
フラットウェルの背後にラスティが立っていた。気配でラスティがこちらに銃口を向けているのを感じる。フラットウェルはゆっくり振り向いた。その顔には憤りの表情が張り付いていた。
「ラスティ
…
これはどういう事だ」
寝室の奥で見つけたのは1台の培養槽だった。中には一片の肉塊が浮かんでいる。悍ましい予想をフラットウェルの頭脳が示すが、彼自身はそれを認める訳にはいかなかった。しかし、尋ねずにはいられない。
「これは、一体何なんだ」
ラスティは拳銃を構えたまま、微笑んだ。
「その中にいるのはレイヴン
…
私の戦友だ」
瞬間、フラットウェルは激昂した。
「死者を冒涜するつもりか!こんな事は人倫にもとる!」
「違う!」ラスティから微笑みが消えた。「人倫にもとるだと?笑わせないでくれ。戦友の成した事を否定した貴方達にとやかく言われる筋合いは無い
…
!」
今のラスティから拳銃を奪うのは容易いが、フラットウェルはそれをしなかった。そして、掛けるべき言葉を見つける事もできなかった。ただ、この若い狼が哀れでならなかった。
「あのレイヴンが、誰にも顧みられずに死んでしまって良いはずが無い!貴方に、この怒りが、この悲しみが理解できようはずが無い!」
ラスティは身体の震えを抑えきれぬまま、それでも拳銃を下さない。ここで帥叔と訣別する意思さえあった。レイヴンを諦める選択肢は始めから無い。
「帰ってくれ、フラットウェル。
…
ッ、帰れ!」
フラットウェルが去った後。ひとりになったラスティは大きく息を吐くと、ベッドに座り込んだ。手に握られた拳銃をぼんやり見つめる。もうここにはいられない。
次の行動に移るべきだった。
ーーー
こうして、ラスティはレイヴン機が収められたガレージに再び忍び込むこととなった。前回同様、警備はザルも良いところで(これはレイヴン機が全然特別な兵装をしていなかったためだが)、ラスティは有難いやら哀しいやらで気持ちがめちゃくちゃだった。
ラスティは慣れた様子で操縦席に腰を下ろした。
このままレイヴン機を盗み、培養槽の中のレイヴンと脱走するつもりだった。誰にも邪魔されない所で、戦友と“ふたり”で暮らしたかった。多くの困難が予想された。ほとんど不可能に近い、そんな希望だった。
「
…
いや。私と君が揃っていて不可能な事なんて、きっと無いさ」
ラスティは微笑むと、レイヴン機を起動させた。僅かな振動と共に、モニターがオンになり、コックピット内のランプが点る。
と、何故かスピーカーまでもオンになった。ザザッと音声が流れる予兆にラスティの全身が強張る。フラットウェルの横槍を警戒していない訳でも無かったが
…
ラスティは息を潜めてスピーカーから聞こえる音声に耳を傾けた。不明瞭だったものが徐々にハッキリ聞こえ始める。
「
…
ティ。ラス、ティ。
…
聞こえるか?」
「戦友!?」
ラスティは思わず立ち上がり、強かに頭を天井にぶつけた。痛みを忘れる程の驚き。ラスティはびっくりしていた。スピーカーから聞こえてきたのは、間違えようもなく、レイヴンの声だったからだ。しかし、何故?
「良かった。俺の声が、聞こえているんだな、ラスティ」レイヴンの声には安堵が滲み出ていた。「もちろん、これは録音じゃ、ない」
「ど、」
「ど?」
「どこにいるんだ?」
驚きからやっと復帰したラスティは、そう尋ねるのが限界だった。
「そうだな
…
いや。まず、これまでの、経緯を説明した、方が良さそうだ」
レイヴン曰く。先日の戦闘で「奥の手」を使ったため、肉体を失ってしまった。意識も散逸する寸前だったが、エアの機転でACに移し替えることができた。誤算だったのは、レイヴン機のシステムが落ちた後、誰も再起動しようとする者がおらず、自分の存在を知らせる事ができなかった事。
「だが、君が来てくれた」
レイヴンは嬉しそうに、そう言って話を締め括った。ラスティは唾を飲み込むと、恐る恐る尋ねる。
「じゃあ、君は
…
死んでなんかいないんだな?ここに、いてくれているんだな?」
「そうだ」レイヴンの返答はシンプルな肯定だった。「より一層、人間らしさを無くして、しまったが
…
君こそ、こんな俺にがっかり、しないか?嫌悪感は、無いか?」
首を振るラスティ。続く言葉が、声が震えた。
「今は、君が生きていた事が分かって、それで充分だ
…
充分すぎる」
ラスティはコックピット内のカメラに、指先でそっと触れた。
「生きていさえすれば、どうとでもなるんだ。君とこの私が揃っていて不可能な事なんて無い。そうだろう、戦友?」
「もちろんだ、ラスティ」
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