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メメント森井もりさわ
2024-02-23 04:31:42
4755文字
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フロイトのおね〜ちゃん(妄想)
許してください。フロイトがすでに故人です。公式には無い設定が含まれています。主人公はフロイトのおね〜ちゃんだし。
たぶんレイヴンの火√が一番近い世界線です。
長くて読みにくい誤字脱字たち。
その箱を受け取った時、わたしはまだ片手に布巾を持ったままでした。
「この度は、ご愁傷さまでした」
玄関先でわたしに箱を渡した人はそう言うと、頭を下げました。突然のことに、わたしは戸惑いました。こんな箱を渡される心当たりがなかったのです。その上、「ご愁傷さま」なんて。
「ええと
……
ごめんなさい。お話がよく分からないのですけど
……
」
その人はにっこり笑って、
「わたくしは、アーキバス・コーポレーションで遺族支援を担当している者です。この度、ヴェスパー部隊主席隊長であらせられたフロイトさんが、残念なことに、殉死なされましたので、こうしてお悔やみを申し上げに参りました」
フロイト、という名前に覚えはありませんでした。
「こちらの箱には、フロイト主席隊長どのの遺品が入っております」
アーキバス・コーポレーションからやって来た人は、申し立てがあればこちらに連絡を、と言って名刺を置いて去って行きました。
わたしは何も飲み込めないまま、しばらく立ち尽くしました。フロイト。アーキバス。隊長。殉死。頭の中で知らない言葉がぐるぐる回っていました。
とにかく箱の中を見てみない事には何もわからないだろうと気づき、弟の部屋に戻りました。弟が使っていた机の上に箱を置きます。椅子に腰かけ、恐る恐るふたを開けると、まず手紙が入っていました。おどろいた事に、今時めずらしい手書きの手紙でした。癖の強い字で、
心配ない。大丈夫だ。
とだけ、ありました。見間違えようもなく、弟の書く文字でした。わたしは一度ふたを閉じ、椅子の背もたれに体を預けました。自然と指が、さっきまで磨いていた机の上を滑っていきます。この傷は、弟がナイフで削ったもの。この染みは、弟が機械いじりをして付けたもの。
あの子は、もうこの家に帰ってこないのでしょうか。それは悲しく、恐ろしい想像でした。
あの子が家を出て行って、何年が経ったのでしょう。わたしは父と2人でこの家に残りました。広いトウモロコシ畑を2人で管理し続けています。いつ弟が戻って来ても大丈夫なように。でも、それも無意味な事だったのかもしれません。
わたしは夕食を食べ終わるまで、話を切り出す事ができませんでした。わたしの話を聞いた父は深く、深くため息をつくと額を手で押さえました。
「それで、本当なんだろうね。その
……
」
それ以上何も言えないようでした。わたしが父の肩に触れると、手に小刻みな震えが伝わってきました。
「わたし、確かめてきます。もしかしたら、人違いかもしれないもの」
父を慰めるには、そう言うしかありませんでした。そうして、わたしは人生で2度目の恒星間航行をする事になりました。
行き先はアーキバス・コーポレーションの本社に決めました。わたしの手元にあるのは「遺品」が入った箱と、「遺族」支援の担当者が置いていった名刺だけだったからです。
出発の前の晩、わたしは伯父に電話をかけました。わたしが留守の間、父をひとりにしておくのは不安だったからです。事情ははぐらかしてお願いをしました。伯父と弟は仲が悪かったのです。いえ、どちらかと言えば、伯父が一方的に弟を嫌っていたようでした。妙に「大人びて」いて気味が悪い、かと思えばつまらない事をして「迷惑」ばかりかけるのだと言って。
確かに、あの子には人の機微に敏感なところがありました。そして、本人はそれをあまり好きでいないようでした。
わたしは息を吐くと、もう一度机に置かれたままの箱を見つめました。あれから一度も開けていません。でも、もし本当に人違いだったなら。出発する前に確かめる必要がありました。わたしはもう一度、箱のふたを開けました。
しかし、手紙の他に入っているものといえば、「ヴェスパー主席隊長」のパスカードや制服、その人が生前使っていたであろう、こまごまとした小物くらいでした。弟を示すような物が入っていなかった事にほっとため息をついたわたしは、箱の底に細いチェーンが入っているのを見つけました。ペンダントのつもりでしょうか。チェーンには何かの部品が通してありました。よく見ると、部品には引っかき傷のような痕があります。「スネイル」と読めないこともない、そんな引っかき傷でした。
星間航行のシャトルに乗っている間、わたしの脳内にはさまざまな思い出がうかんでいました。どれも弟に関するものでした。
わたしたちが初めてシャトルに乗ったのは、MTが好きな弟のために農業用MTの見本市に行った時でした。その頃は母も健在で、大はしゃぎする弟を目を細めて眺めていました。その後、はしゃぎすぎた弟が帰りのシャトルで熱を出してしまったのも、おぼえています。
シートに座ってうとうとしながら、わたしは弟の事を思い出し続けました。畑の中を駆けていく後ろ姿。誕生日プレゼントにラジコン機をもらった時の笑顔。ナイフで初めて指を切った時泣きついてきたその慌てよう
……
母が亡くなってしまった時から、わたしたちは少しずつ、ばらばらになっていってしまいました。わたしも父を心配するあまり、弟にあまり構ってやれなかったのです。わたしの中の弟は幼いままでした。
弟は、家を出た後いったいどうしたのでしょう。
何度もシャトルや列車や航空機を乗り継いで、アーキバス・コーポレーションの本社にたどり着いた時、わたしはへとへとに疲れていました。その上、入り口までは大きく長い階段が伸びていて、めまいがするおもいでした。でも、あと少しで本当の事が分かるのだと、自分をふるい立たせました。それは恐ろしい事ではありましたが、わたしにはもう1つ目的もあったのです。
受付で、わたしは事情を話すと「スネイル」という人を呼び出してもらいました。もしかしたら、いないかもしれない。ふと不安になりましたが、受付の人はにっこり笑って「しばしお待ちください」と言ってくれました。
そう待たないうちに、後ろから声をかけられました。そこには強張った表情の男性が立っていました。
その呼び出しを受けた時、スネイルは先の事後処理の真っ最中だった。被害報告やら責任追及やらで忙しく、誰かの面会に対応する時間も余裕も無かった。しかし、今の立場はあくまで“元”ヴェスパー部隊第2隊長であり、かつてなら些事として切り捨てていた面倒事も、いちいち応じなければならなかった。
エントランスに向かう最中もスネイルの頭の中は忙しかった。“あの”フロイトの遺族が面会に?生前、フロイトから親族の話を聞いた事は無かった。身寄りがないのかとも思っていたが
……
まさか、彼の死の知らせを聞いて本社まで出向いてくるとは。一体何を求めている?それとも、わざわざ罵りにきたのだろうか。だとしたら、それはお門違いだ
……
少しでも早く面会を終わらせるべく早足で歩いてきたスネイルだったが、受付前に立つ後ろ姿を見て、足が止まった。一瞬、そこにフロイトが立っているのかと思ったからだ。そんな馬鹿な。
錯覚を起こしたのは矢張りほんの一瞬で、フロイトの影が消え去った後には、ただの女が立っている、それだけだった。
「私が、スネイルですが」
そう声を掛けてやっと女はスネイルに気付いた。振り向いたその顔は、フロイトとはあまり似ていなかった。
フロイトの姉を名乗る女の話を聞いて、スネイルは頭を抱えたくなった。あの男は、アーキバス・グループ直属の部隊の主席隊長になったというのに、それを少しも自身の親族に説明していなかったのだ。女は、本当にフロイトがヴェスパー部隊にいたのか確かめたいようだった。聞けばそれだけのために本社まで出向いたのだという。どこまでも手を煩わせる男だ。スネイルは再び頭の中を忙しくさせ、業務の優先順位を組み立て直した。主席隊長の無茶振りには慣れていた。
しかし、問題もあった。今のスネイルには情報へのアクセス制限が掛けられているうえ、いくら親族とはいえ機密扱いのものは話せない。その中でフロイトがアーキバスにいた事、ヴェスパー部隊の隊長を務めていた事を説明するのは困難だった。
結局、社内のカフェへ場所を移したふたりは要領を得ない会話を繰り広げるだけだった。スネイルには説明のための材料が無く、女はあまりにも企業やACについて無知だった。遠いルビコンで起こった事件の話にもピンときていない様子だった。
とうとうスネイルはジャケットの内ポケットから折り畳まれた写真を取り出し、「この右端に写っているのがフロイトですよ」と見せる羽目になった。その写真は以前フロイトがスネイルの部屋に置き忘れていったものだった。彼の死後、捨てる理由も無いので取っておいたのだ。ガレージで整備班の人間と一緒に並んで写っているだけの姿を見せても仕方ないと思ったが、女は何か感じたようで黙って写真を見つめていた。
フロイトが残していった写真のおかげでフロイトの姉は多少納得したようだった。妥協、だったのかもしれない。
「ご迷惑を、おかけしました。もう、お暇します」
その言葉にほっとしたスネイルは、ほんの思い付きで本社のメインゲートまで女を送っていくことにした。今更時間を惜しんでも変わりはない。
本社前の長い階段を降り始めた時だった。女が、突然立ち止まった。スネイルが振り向くと、彼女は驚きとも喜びとも言えぬ表情をしていた。
「今、わかりました。あの子は、確かにここにいたんですね」
スネイルは彼女より先に階段を降りていただけだった。その時、普段の癖で相手の左側をキープしていた。それだけの事だった。
彼女はポツリと言った。
「あの子
……
弟は義肢を着けていました。左脚に」
スネイルは応じた。
「ええ。修繕やパーツの交換はしていましたが、型番など大きな変更はしていなかったようです」
フロイトは、あえて古い型番の義肢を着け続けていた。そのため、スネイルはフロイトといる時は必ず階段を先に降りなければならなかったし、歩くスピードにも気を配る必要があった。彼女はスネイルの振舞いにフロイトの影を見たのだろう。
「弟が家を出る2年くらい前の事です」彼女は話を続けた。「弟が農業用のMTで事故を起こしたんです。左脚が挟まれて
……
切断するほかありませんでした。義肢を着けてすぐの頃は、体がおもうように動かせなくて悔しかったようです。父も二度とMTには乗るなと言って、あの子から取り上げてしまいました。
……
それで、弟は、誰にも相談せずに家を出ていってしまったんです」
フロイトの姉は寂しげに微笑んだ。
「ずっと待っていたんです。帰ってくるのを。でも、もう
……
帰ってこないんですね」
「ええ」
スネイルさんと別れる時、わたしは持ってきていたペンダントをお渡ししました。あの箱に入っていたものです。これが、もう1つの目的でした。本当にここに弟がいたのなら、これは「スネイル」のものであるべきだから。突然ペンダントを渡されて、彼は戸惑ったふうでした。飾りに使われているのは弟が乗っていた機体の古い部品だというのです。それを拾ってわざわざアクセサリーに仕立てていた事に、スネイルさんは呆れていました。
話を聞いた今ならわかるのですが、きっと弟は誰かとやり取りをする時、AC越しに行うくらいが丁度よかったのでしょう。
家に帰る途中、わたしはスネイルさんから貰った写真を見てみました。作業着を着た人達と写っているあの子は、確かにわたしの弟なのでした。家を出た後も、変わらずにいてくれた事は、わたしの心を慰めました。
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