メメント森井もりさわ
2024-01-31 22:48:37
2024文字
Public
 

私達のハンドラーには秘密がある

たぶん火√が1番近いです。
完璧に妄想です。許してください。

 私達のハンドラーには秘密がある。
 我々が共に仕事をするようになって、はや2年が過ぎようとしていた。他人のままでいるには長すぎ、個人を理解するには短すぎる時間の中で、それでも私は自分のハンドラーが隠し事をしていると感じるようになった。
 だが、何を?
 私達は仕事で十分な結果をもたらし、ハンドラーもそれに満足している。ハンドラーは、我々が確実に目標に近づいているとも言っている。
 しかし、ハンドラーは時折ひとりでガレージに佇み、物思いに耽っている様子を見せる。じっと何かに耐えるような表情に、私はどうしても不吉さを感じてしまうのだった。



「よくやった。戻って休め」
 ハンドラーからの労いの言葉に作戦が終了した事を理解する。チームの猟犬達の点呼を取れば大きな損傷を受けた機体は無く、私は安堵のため息をついた。
「了解した。帰投する」
 今回の仕事はハードだった。相手方は私達の戦力を警戒してか、基地の防衛に大量の人員を割いていた。こんな辺境の土地にもハンドラーの名は知れ渡っているのだ。これからもっと仕事が困難になっていくのは想像に難くない。
 だが、我々はハンドラーの前に立ち塞がるもの全てを討ち倒す。一歩一歩、確実に任務をこなして来たが、今回の作戦行動で最終目的に手が届いたと言っても過言では無い。これで少しでもハンドラーの気が晴れたら、喜ばしい。



 ハンドラーが倒れた。
 猟犬のリーダーである私だけが呼ばれたブリーフィング中に。
 ……あぁ、なんと言う事だろう!確かにハンドラーは老境に差し掛かった身ではあった。しかし、こんなに状態が良くないとは!
 メディカルチェックの結果から、素人判断ではあるが、繰り返し手術を受けていた痕跡が読み取れる。元から身体が弱いのかもしれない。
 でも、どうして。どうして一言も教えてくれなかったのだろう。分かっていればいくらでも治療の仕様があっただろうに……

 ハンドラーは私にとってただの雇い主ではなく、恩人であり師でもあった。私を常に導いてくれる人だった。
 コーラルの根絶。
 それがハンドラーの示す最終目的だった。
 コーラルは、禍そのものだ。惑星ルビコンで起きた大火に呑まれ、私の家族は死んだ。その出来事は、私の中に家族を失った悲しみと、災害を起こした全てのものに対する憎しみを残した。
 孤児となった私を拾い、育ててくれたのがハンドラーだった。ここには似た身の上の者が集められ、優秀な猟犬になった。ハンドラーに恩を返す為だ。ハンドラーの望みが我々の生きる道標となっていた。
 ここでハンドラーを失うわけにはいかない。
 私は次の作戦の延期を進言したが、ハンドラーは首を横に振るばかりだった。それどころか、チームの動揺を防ぐ為に、他の猟犬にこの事を伏せておくよう厳しく指示されてしまった。

 ハンドラーの病状は悪化いていく一方だった。
 認めたくはないが、我々の拠点では治療設備に限界がある。今はハンドラーの苦痛を和らげるので精一杯だ。
 そして、とうとう最終目標を目の前にしてハンドラーはベッドから起き上がる事すらできなくなってしまった。



 ハンドラーが猟犬達を呼んだ。大切な話があると言って。
 ハンドラーは、集まった私達の顔をひとりひとり見つめ、こう切り出した。
「お前達に、話していなかった事がある」

「ある、男の話だ。コーラルによる大災害を阻止する為、戦った男だ。その為には1つの惑星系を道連れにする他なかった。男は汚名と罪を背負う事を厭わず、友人と自分の使命に殉じた。

「俺はかつてその人の猟犬だった。初めは金の為だったが、すぐに彼の為に仕事をするようになった。
 彼は俺の事を自分の手足としてではなく、ひとつの人格を持つ者として扱っていた。結局のところ、俺は部外者としても扱われていた訳だ。本当に仕事が終わった後、俺がどこにでも行けるように。

「俺は彼が望んだように、再手術をし、顔と名前を変え、自由に生きる事にした。あの火の海で、赤子が産湯に浸るのと同じように、炎と爆風を浴びて、俺は新しく生まれ変わったつもりだった。きっと彼だってそれを望んでいただろう。
 だが、駄目だった。あの惑星で俺を知る者は全て燃え落ちたはずなのに、俺の中には彼が消えない。一度起きた事は無かった事にはできないのだと、深く絶望した。だから、ルビコンから持ち出されたコーラルを追い続ける事にした。それが、あの人のやり残した仕事のはずだから……

「そうだ、俺があの惑星を燃やした。レイヴンと呼ばれた事もあった。……お前達にとっては仇だろう。憎むべき相手だろう。しかし申し訳ないが、お前達からの報復を受けるほどの時間は俺には残されていないらしい……


 私達のハンドラーは、天井を見上げ、ゆっくりと瞬きをした。
「あぁ…… ウォルター、今はとても、貴方に会いたい」