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メメント森井もりさわ
2024-01-29 23:48:58
4122文字
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独立傭兵レイヴンはルビコニアンふつうワームの夢を見るか?
都合のいいifの妄想です。たぶん解放者√が一番近いです。許してください。621とウォルターとエアとラスティとミールワームと医者(モブ)が出てきます。師叔も名前だけ出てきます。
これはもしかするとあったかもしれないお話。
かくして強化人間C4-621はルビコンの解放者になったのだった。今は愛らしいコーラルの妖精・エアと、奇跡的に命が助かっていた元ヴェスパーⅣ・ラスティと、これまた奇跡的に命が助かっていたハンドラー・ウォルターの側で日々を暮らしている。
621はルビコンの解放者として、あの後も戦い、惑星ルビコン3から企業を撤退させ、惑星封鎖機構にも事実上の不干渉条約を締結させるに至った。まぁ、非言語的なコミュニケーションが得意な621はもっぱら戦闘に出ていたのであって、言語的なコミュニケーションによる交渉はミドル・フラットウェルが担当していたのだが。適材適所、という言葉もある。
そんな八面六臂の活躍を見せる621だが、心には不安もあった。自分のハンドラーのことである。一命は取り留めたものの、あれから意識が戻らない。621は稼いだ金を次々とウォルターの治療につぎ込んでいった。医者が言うには(彼はラスティが紹介してくれたルビコンで一番の腕をもつ医者だ)、ウォルターの肉体は完全に回復しているらしい。確かに、ベッドに横たわるウォルターは顔色が良く、ただ眠っているだけにも見える。早く目覚めてください、とウォルターの顔を覗き込むのが621の新しい日課になった。
そうして何ヶ月かが過ぎた。
ラスティとの歓談中のことである。621はウォルターの容体について、ラスティに相談することが多かった。なんとなく、医者との問診よりも気合いで大怪我から回復してみせたラスティとの会話に、ウォルター覚醒のヒントがあるように621には思えるのだった。ラスティの方も621と話す時にはより一層表情が明るくなるというデータも存在する(エア調べ)。
「ともかく君は良くやっているよ、戦友。尊敬に値する」
「そうだろうか
……
先生は、本当ならもう目が覚めてても良いはずだ、と言っている。まだ足りない何かが、あるのかもしれない
……
」
ラスティは励ましと労りの気持ちを込めて621の肩を叩いてやった。
「あまり根を詰めすぎるなよ。過労で倒れでもしたら、それこそ君のハンドラーは悲しむんじゃないか?」
「そうだな
……
」
そう言ったものの621の気は重い。最近は心配のあまり食もすすまないし、夜もよく眠れていない。おまけに今朝から頭痛もするのだ
……
これは本格的に不調かもしれない。困ったな、と621は思いながら自身の身体が傾いて椅子から落下し始めているのを感知した。
「戦友っ!」『レイヴン!』
ふたりの声を聞きながら視界が暗くなっていき、ゆっくり意識が落ちていって
……
何者かに身体を撫でられている感覚で意識が浮上した。初めはラスティか(これはあり得ないことだろうが)ウォルターに触れられているのかと621は思ったが、どうもそうでは無いらしい。上手く言葉にできないが、こちらに触れる手(後から思えば手では無かった)には、621が何者であるか探ろうとする意思が感じられる。くすぐったさに身をよじろうとして、621は驚愕した。
(身体が、無い?)
奇妙な事だが、621の身体は“そこ”には無かった。まるで魂だけが肉体から離れ、漂っているような状態であった。
(俺は、どうなってしまったんだ?)
そうした621の強い反応があったためだろうか、621に触れているものの方からも、はっきり意思が感じ取れるようになってきた。初めてエアと交信した時のような耳鳴りの後に、頭の中に相手からのメッセージが響いた。
ただ、それは凡そヒトが理解できるものでは無く、この特殊な状況下でのみ受け取れるメッセージである。以下は621による訳である。
「これは「わたしたち「あなたは「はじめまして」だれですか?」じゃない」なんだろう」
(俺は
……
)
「なるほど「あたらしい「なかまに「ようこそ」するの?」たましいだ」わかりました」
相手はどうやら、ひとりでは無いらしい。エコーがかった言葉がほぼ同時に響くので621は戸惑った。エアと同じ、意思をもったコーラルの波形なのだろうか?
(君は
……
)
「ふしぎ「みんなで「コーラルが「ようこそ」つないでくれる」ひとつだから」がってる」
言葉の響きと共に、621の頭の中に彼らの姿が浮かび上がった。今の621にとって見知った食材となった、ミールワーム達である。ゆうに100匹を超えるだろう、大きな群れだった。そして少々巨大過ぎるその姿に、地下の洞窟で出会ったワームが思い浮かんだ。
(確か、コーラルを摂取していた、のだったか
……
)
コーラルは情報やヒトの意識をも伝播させる。コーラルの恵みに預かっていたワーム達にも何かしらかの影響があったようだ。
621の推測を肯定するように、イメージとして浮かぶワーム達がぶるぶる身をゆすっている。少し、不気味だ。
ともかく、と621は気を取り直した。何とかしてここから戻らなくては。このままではウォルターの治療も進められないし、ラスティやエアにも会えなくなりそうだ。621は戻り方をワーム達に聞くことにした。
(ええと、)
「どう「かえるひつようは「ここに「ようこそ」いてください」ありません」しましたか?」
(それでは困る)
「かえりたい「なんで「まっている「あなたも「ようこそ」かんげいします」ひとがいる?」だろう」のですか?」
だんだんと621にまとわりついてくる意思が強くなってきた。理由は分からないが、ワーム達は621も自分の群れの中に取り込みたいらしい。群れを大きくしようという生き物としての本能なのかもしれない。ワーム達はざわめいた。
「ここはとて「どうしてう「いっしょ「あつま「ようこそ」っておおきく」にいましょう」けいれない?」もあんぜんです」
(帰らなければ、いけないんだ。どうしてもだ)
ワーム達のざわめきに負けないように、621は強くはっきりと帰る意思を示した。
一瞬の空白の後、ざわざわざわざわざわ、とワーム達から言葉にならない“戸惑い”が伝わってきた。群れに入るのを拒否した初めての個体に、どう対応すれば良いか分からないようだった。しかし、ワーム達はそれでも621を離そうとはしなかった。それどころか、621の事を新入りとして群れに取り込もうとし始めたのだ。621は自分の輪郭とも言えるものがボヤけてきている事に気づき、焦った。
(やめてくれ!)
そうワーム達に伝えたが、相手からは最早、行かないで、行かないで、としか返ってこない。621はもう何が何だか分からなくなってきた。このまま、ワーム達の意思と溶け混ざり、ルビコンを漂う羽目になってしまうのか
……
きっとラスティにも、もしかしたらエアにも気づいてもらえないまま
……
621が諦めかけたその時だった。モヤモヤごにゃごにゃしたワーム達の意思の中に、懐かしい気配を感じ取ったのだ。
(ウォルター?)
間違えようはずがない。あの人の気配だった。
621はワーム達の騒めきの中をもがもが掻き分けて行った。ついさっきまで曖昧になっていた自分自身が、確固たるものになっていく。自分自身の身体の輪郭を強く意識した。そうだ。この手は、この腕は、あの火の海からウォルターを救い出した腕ではなかったか。621はウォルターの為ならばどんな無茶な任務も成功させて来たのだ。この仕事だってやりおおせる。621はウォルターの元までグングン迫って行った。
(ウォルター!)
621はウォルターを掴むとワーム達から引き剥がした。
途端にワーム達から悲鳴と嘆きが溢れ出す。どうやらウォルターがこの群れの核になっていたようだ。群れはあっという間に離れ離れになって壊れていく。嵐のような悲しみと爆風のような叫びの中で、621はウォルターを強く抱きしめた。
ハッと気が付いた時、621はベッドの上だった。
『レイヴン!あぁ
……
!気が付いたのですね』
「エア
……
」
『今、ナースコールを押しましたから、すぐに誰か来るはずです』
「ありがとう」
駆けつけた医者(とラスティ)が言うには、621が気を失っていたのはほんの10分ほどらしい。脳震盪などの心配は無いそうだ(ラスティが身を挺して床への激突を阻止してくれていた)。
「過労でしょう。今日はもう帰ってゆっくり休むように」
そう言い残して医者は病室を去って行った。621は医者を見送った後、ラスティに視線を向けた。
「ラスティ」
「! あぁ。何だい、戦友?」
「君にはいつも迷惑を、かけてばかりだ」
「そんな事!
……
そんな事は無いさ。戦友、君が無事で嬉しいよ」
「ありがとう、ラスティ。感謝する。
……
感謝、しているのだが」
621は左腕を持ち上げた。すると一緒にラスティの両腕も持ち上がった。
「そんなに強く、手を握られていては、流石に少し、痛い
……
」
ラスティは赤面した。
結局あれは夢だったのだろうか。自分のセーフハウスに戻った621は首を傾げていた。エアに聞いてみたが、ワーム達の事は感知していなかったらしい。やっぱり夢だったのか。少しがっかりしながら、621はいつもの様にウォルターの部屋へ向かった。帰還の報告は欠かせないからだ。ウォルターから教わった通りにノックをする。
「621か」
何故?とか幻聴か?とも思わなかった。部屋の中からした声に、621はバタン!と大きくドアを開け飛び込んだ。
「ウォルター!」
ハンドラー・ウォルターはベッドに腰掛けて、621を待っていた。そして、いつもの口調で言った。
「戻ったか、621。
……
少し、遅かったか?」
その時621は理解した。俺のハンドラーは、前からずっと俺の事を待っていたんだ。いつもの任務の後や、あの火の海の中や、ワーム達の群れの中で。
「C4-621、レイヴン。帰還しました」
621は顔の筋肉を総動員して微笑んだ。そうしなければ泣いてしまいそうだった。
「そして貴方も。俺のハンドラー。
……
おかえりなさい。貴方の帰還を、心より歓迎します」
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