匣舟
2025-11-25 22:47:26
3607文字
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降り積む愛

秋リクエストの山で散歩デートをする利乱の話を書かせて頂きました!
リクエストありがとうございました!


 微睡みの中から目覚めた乱太郎は寝ぼけた目を擦りながら辺りを見渡すとどこか自分がいつも寝ている自室と違う気がして、んん~?と言いながら立ち上がろうとすると、乱太郎の頭上からよく聞き慣れた声が聞こえた。
「乱太郎、おはよう。」
んぅ、りきちさん?」
 そうだ、昨日は利吉さんの家に泊まったんだった。と起きたてほやほやの頭で考えながらおはようございますぅ。と未だに寝ぼけて大きな欠伸をする乱太郎に呆れながらもおはよう。と彼の額にキスを落とす利吉はベットのなかで乱太郎のことを抱きしめる。
「まだ眠い?」
……んぅ、」
 利吉の問いかけに眠たげな瞳を瞬かせながらコクリと頷く乱太郎に可愛いなぁ。と思いながら、利吉は彼の瞼にキスを落とす。
「じゃあもう少し寝てていいよ。」
……でも……りきちさんは……?」
「私はもう起きたから、ピクニックの準備でもしてこようかな。」
 きみはまだ眠たそうだからまだ寝てていいよ。と利吉が言えば、乱太郎が少し不満そうに唇を尖らせる。まだ寝てていいよと言われたことに不満なのか、それとも自分と離れることが嫌なのか。利吉のパジャマの袖をきゅ、と掴みながら利吉を見つめるそんな乱太郎の仕草に愛おしいと思いながら利吉はまた額にキスを落とす。
「大丈夫。ご飯を炊いてくるだけだから。」
「ほんと?」
「本当だよ。」
 疑うような眼差しで見つめてくる乱太郎に、お前に嘘をつくわけなんてないだろう。ご飯が炊けたら一緒にお弁当作ろう。と利吉は笑うと、そっと乱太郎の体をベッドへ沈ませる。そしてもう一度額にキスを落とすと、じゃあ行ってくるね。と寝室から出ていった。利吉の後ろ姿をぼうっと見送った乱太郎は、また夢の中へと微睡んでいくのだった。
……んぅ……?」
「ふふ、起きた?」
 乱太郎が次に目を覚ました時には窓から入ってきた光によって部屋が明るくなっており、その眩しさを感じながら乱太郎は目を覚ます。起き上がるにはまだまだ気怠い身体をどうにか動かして欠伸をしながら起き上がる。
「おはよう。」
「おはようございまぁす……。」
 まだ寝ぼけた様子で呟く乱太郎にふふっと微笑みながらおはよう。と今度は利吉が乱太郎にキスを送る。それに応えるように乱太郎もまた利吉へとキスを返したのだった。
「今何時ですか?」
「十時くらいかな。」
「結構寝ちゃいましたね……。」
ふふ、昨日たくさん動いたから疲れていたんだろう。」
疲れさせてくれたのは誰ですかー?」
「ふふ、私かもしれないね。」
「もう!何平然とした顔で言ってるんですか!」
 恥ずかしいからやめてくださぁい!と顔を真っ赤にして抗議する乱太郎に謝罪の意味を込めて軽く額にキスを贈ればすぐに大人しくなる乱太郎にやっぱり可愛いなぁと思いつつ利吉は微笑む。
 そんなかわいい恋人の頭をそのまま優しく撫でると、乱太郎は気持ちよさそうに目を細めながらその手に擦り寄ってくるのだ。その姿があまりにも猫みたいで可愛らしくて思わず口角が上がってしまい、ずっと恋人とイチャイチャしたい気持ちがあったが、今日は秋の空気を感じてみたいという乱太郎のリクエストに応えて都会近郊にある山の中の植物園と公園が一緒になっている施設で散歩とピクニックデートを決行する日であるので利吉は乱太郎の手を引いて洗面所へと行った。
「利吉さん、今日は何処に行くんですか?」
「秋の雰囲気をいっぱい感じられるところ、かな?」
「秋の雰囲気……ですか?」
「あぁ。今日は天気もいいしきっと綺麗だと思うよ。」
 お弁当も張り切って作ったし、乱太郎もきっと気に入ると思うよ。楽しみだね。とにこやかな表情を浮かべる利吉につられて乱太郎も思わず笑みを零す。
どんなところなんでしょう?」
「それは行ってみてからのお楽しみってことで。」
 そう言いながら楽しそうに微笑んでいる利吉を見て、きっと素敵なところなのだろうと思うと同時に今から行く場所への期待がぐんぐんと高まる乱太郎であった。そんなこんなでお互いの身支度が終わり、冬用の服に着替えて外へ出ると外は快晴で気持ちの良い天気だった。
「さ、行こうか。」
「はいっ!」
 乱太郎は差し伸べられた手を握り返し、二人は手を繋いで家を後にした。家から最寄りの駅に着いた二人は電車を乗り継ぎまたそこから三十分、どんどん山の方へと入っていき、都会近郊の駅で降りてそこから暫く植物園のある方面へと歩いて休憩もしながら遊歩道を登っていくと、植物園の入り口が見えた。
 そこで入園料を払って、入り口を潜り抜けるとそこには見渡す限り、秋一色満載の世界が広がっていた。
 夏の燦燦と照り付ける太陽の日差しを受けて青々と育った新緑の葉から夏から秋に移り涼しくなった影響で鮮やかに赤く変わっていく紅葉を中心にピンクや白色が揺れているコスモス畑や秋の香りと言えば金木犀ではないかと言える金木犀などありとあらゆる秋の花々が咲き乱れるそこはまるで秋の楽園の中のような光景であり、乱太郎は驚きと感動のあまり言葉が出なかった。
……すごい。」
 ぽつりと小さく呟いた彼の声を聞いて利吉が笑う。そしてそのまま優しく彼を抱き寄せると、耳元で囁いた。
「きみを連れてきて正解だったみたいだね?」
「ふふ、はいっ!」
 彼の声色にはどこか嬉しそうな雰囲気が含まれていて乱太郎も釣られて笑みを溢してしまうほどだった。
 そしてそのまま暫く二人で景色を眺めてからゆっくりと園内を散策していくと次第に人影はまばらになっていき最終的には二人が訪れたのが平日ということもあって貸し切り状態となっており、完全に二人っきりの空間となったそこで周りを気にすることなく秋景色を楽しみながら手をつないで歩いていた。
「本当に綺麗ですね……。」
「そうだね。」
「来てよかったなぁ。」
「良かった。喜んでくれて嬉しいよ。」
「だってこんな素敵な場所教えてもらったんですよ?嬉しいに決まってます!」
 そう言って笑う乱太郎を見て利吉も自然と笑顔になる。そんな幸せそうな二人の前をひらりと一枚の紅葉が舞い落ちていったのを目で追っていると突然視界の端に入ってきたそれに惹かれてしまい自然と足を運んでしまう。
 乱太郎と利吉の間に落ちた紅葉を拾い上げた乱太郎はその紅葉をくるりと回転させて何かを考えたと思えば、そうだ!と何かを閃いたらしく、置いてけぼりの利吉は隣で首を傾げる。
「何かを閃いたのかい?」
「ふふ、はいっ!利吉さんにここを連れてきてくれたことを覚えていられるように押し花にしようと思って!」
 利吉さんも私も本を読むことが多いから栞にしたらどうでしょうか?と提案する乱太郎に確かにそれなら普段使いもできるし何よりこの楽しい、幸せな思い出を手元に残せるのが素敵だと思った。
「いいね、紅葉だけじゃなくて落ちてる金木犀とかも集めようか?」
「はいっ!」
 そう言いあって二人はまた園内を回って綺麗に色づいているものを探すことにした。しばらく探しているうちに金木犀や銀杏の葉など綺麗なものを見つけたのでそれをもっていたティッシュにくるんで採取して持ち帰ることにした二人は再び手を繋ぎなおして歩き出すことにした。
 そして一通り園内をぐるりと一周して栞にする葉や花を探し終えた後、ベンチに座って休憩する二人。休憩しているその間もずっとお互いの手は繋がれたままだった。
 会話もなく、ただただ近くにある金木犀特有の甘ったるい香りが風によってふわりと香ってくるのを感じながら、遠くにある山々の紅葉に目を向けていると、隣にいる乱太郎がこちらを見ながら自分の名前を呼んだ。
 なんだろう?と視線を向けると、そこには自分のことを愛おしそうに見つめながら満面の笑みを浮かべていた乱太郎がいた。
「来年も、再来年も、そのまた次の年も、ずっと、ずうっと、利吉さんとこの景色を見に来たいです。」
 乱太郎からその言葉たちが紡がれたあと、利吉は力強く彼のことを抱きしめる。乱太郎もまた彼の背中に腕を回すと優しく抱きしめ返したあと、利吉が口を開く。
もちろん、ずっと、ずうっと、」
本当に?」
約束する。来年も再来年も、毎年必ず一緒に来よう。」
 利吉が力強くそう言うと乱太郎は本当に嬉しそうに微笑んで頷いた。その笑顔にまた胸が高鳴るのを感じながら利吉は乱太郎の頬に触れて優しく撫でる。そしてそのまま触れるだけのキスを落とした後、ゆっくりと離れたあとに改めて向き合って見つめ合うとどちらからともなく顔を近づけてまた唇を重ねた。
 そんな二人をバックに風によってひらり、ひらりと落ちて地面に溜まっていく紅葉が、二人の変わらぬ愛の証明をするかのようにまたひらりと地面へと落ちていくのだった。