三毛田
2025-11-25 21:54:13
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87 087. 疑うことは容易く、だから苦しい

87日目
それでも、君は信じられる

 彼もまた、そうなのだろうと一度でも疑ってしまった愚かな自分が嫌いだ。
 出会う人全てを疑う気持ちを抱く羽目になった環境も、元凶たちも恨めしく。
 己の無力さに、涙が出そうだ。
「丹恒先生! ノートを見せてくれ!」
「お前はまた……
「急いで重要なところは書き写すから!」
「ほら」
 机をくっつけて、真ん中にノートと教科書を両方広げる。
「恩に着ます」
 穹はシャーペンと赤ペンを手に、必死にルーズリーフへと書き写していく。
 嫌な夢を見た。
 突然距離を置こうと離れていく穹と、それを止められなかった俺の夢。
「よ、よしっ」
「ずいぶん早いな」
 ノートの罫線の上に散らばるのは、ミミズがのたくったような文字たち。
「お、俺が読めればいいんだよ! これは仮だから!」
 俺の視線に気づくと、必死に言い訳して。叱ろうか、呆れたと告げようか迷う内に、次の授業のチャイム。
 教師が入ってきたので、仕方なく諦める。
 授業を受けながら、穹ならば、言葉と同時に行動するだろうなと思い返し。
『何があっても、何度でも、俺はお前に手を伸ばし続けるからな!』
 いつになく真面目な顔で、俺の手を取りながらそんな言葉を向けてきた。
 他の人達からしたら、些細なことだろうし、青春だと茶化すだろうが。
 俺はとても嬉しかった。今まで、誰もそんなことを告げる人間などいなかったのもあるし、姫子さんに保護されるまで、周囲は俺の敵だらけだったから。
「ん〜……うへ」
「すごい音だな」
「真面目に授業を受けると、肩がこるんだよ」
「普通は真面目に受けるんだが」
 授業が終わり、大きく伸びをして首を回す穹。と、ゴリゴリとほぐれる音なのか何なのかよくわからない音が、彼の体から俺の耳まで届き。
 思わず呆れた声を向けてしまった。
「だって、解ってることを何回もやったってつまらないだろ」
 その言葉に、彼の後ろで談笑していた奴らは、化け物でも見るような表情を穹へと向ける。
 おちゃらけた態度をとるけれど馬鹿ではないし、自頭がいい男だ。
 だが、流石にそれは口にしてはいけない。それだけはわかる。
……お前の頭の良さは、俺だけが知っていればいい」
「んふぅ。てっ」
 俺がボソッと零した言葉に、だらしない顔になる。それを他の人に見られたくなくて、思わず手が出たのはご愛嬌として欲しい。
「丹恒先生、ひどい!」
「それは、俺の前でだけにしてくれ」
「じゃあ、丹恒も。その表情は、俺の前のだけにしてよ」
 と言いながら、俺の手をそっと握ってきて。