戯れにカミキリの髪を結った手前、断る道理が見当たらずカミキリに髪を結われた東雲は高い位置で結われた黄色い尾を揺らすどころか微動だにせず猫背気味に俯いていた。
俗に言う女性らしさ弾ける可愛い髪型をしている事実に気恥ずかしさが募るのに比例して東雲の中にある否定的な蜃気楼が揺らめく。自分には到底似合わないツインテール。すぐにでも解きたい衝動が先程から鼓膜を擽り続けるたどたどしくも透明感溢れる少年の声に東雲の眉尻が下がった。
「…まだ解かなイで……」
髪を結いっこしあい汗ばんだ肌と赤らめた頬、カミキリが頑なに視線を落としている割に服を控えめに掴み離さない手と口から紡がれる言葉の種類が増えるにつれ東雲の冷める気配がない顔の熱が上昇の一途を辿る。
特に意を決してか殊更音程ちぐはぐで音量調節し損ねたカミキリ渾身の叫びに東雲の体が強張った。
「…可……ッスゥ~……可愛イッッ!!」
すわ背中から吹く突風に二つの尾が揺れた気がして一度目を瞠るもすぐさま半分隠した東雲が振り返る。
果たしてそこにいたのは、相変わらず東雲と目を合わさないで視線を落とし続けている茹ったカミキリがいた。
その姿を背中越しに見遣る東雲は、聞こえないフリを通すには難しいカミキリの言葉を。
「(お世辞言わせて情けねェ…)」
後ろ向きに捉えてしまった。顔を前に戻した東雲の視界に何の変哲もない床と組んだ足が映り込む。
薄っすら痛む心からそっぽを向き、普段であれば乾いた笑い声の一つや二つ落としたついでに適当な言い訳を残して立ち去るはずが、東雲が胸中独り言ちた想いを察したかの如くカミキリの手が東雲の上着を掴む力が増した。
男の片鱗を覗かせるカミキリの成長真っ盛りな手が逃げ腰になっている東雲を繋ぎ止め、微かに震えている囁き声に近い声音でまた彼女の髪型を誉めそやす。
飽きもしないで「似合ってル…」「可…、可愛イ…」繰り返す声に胸の奥がむず痒くなってたまらない。
じわりじわり否定的な感情を上回る今まで言われた事のない肯定的な言葉の花束に慣れなくて、さり気ない撤退を図る東雲が腰を上げ掛ければ細くも筋肉質なカミキリの腕が鳩尾に巻き付いてきた。
上げ掛けていた腰が半強制的に下ろされただけじゃなく、いつの間にか両脚をハの字に曲げていたカミキリの脚が東雲の胡坐を掻いた脚を覆い被さり絡みつきいよいよ立てなくなってしまった。
首だけ捻り「離してくれや」と目で訴えようにもカミキリが固く目を閉じ顔を埋めていては意味がない。
服越しに広がる熱と巻き付く蔓たちの強さに東雲の眉尻を頼りなく下げ、くぐもった声でまた髪型を褒め始めたカミキリに東雲が弱々しく白旗を上げたのは言うまでもない。
されど東雲の降伏虚しくカミキリの噓偽りのない直向きな想いは彼女の頭を焦がし続け、長時間直射日光を浴びる以上に逆上せた東雲がやおらカミキリに凭れ掛るまで終わらなかった。
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