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豆炭々炬燵
2872文字
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その他 漫画系
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【ネロコガ】夜の太陽
【ケモノクニ】ネーロ×コガネ
――すべては誇り高く強い貴方の隣に立つに相応しい自分になるために。
幼き日から敬慕を前金黄王あらためヒトカフェオーナーに抱き続けている若き金黄王の話。
陽の光に照らされた漆黒の毛皮が放つ光沢はまるで揺蕩う水面のよう。
躍動感溢るる動きを可能にする柔軟性と弾力性に富んだしなやかで洗練された肉体。
隆起した筋肉の細部にまで宿るは弛まぬ研鑽の賜物であり、絶対強者である金黄王の立場を鼻に掛けず悪戯に力を誇示しない優しき姿は民に慕われ
――
隙あらば自国のため他国の喉元に食らいつくのも厭わない貪欲にギラつく鋭い眼光から放たれるカリスマ性に誰しも尊敬の念を抱き憧れた。
威風堂々金色の鬣を靡かせ颯爽と歩くあとを歩幅の違いすぎる幼い足で追い掛けた。
無垢な瞳を貫く鮮烈で純粋な敬慕。後ろから聞こえる焦った母の声が遠のき、落ち着き払った耳触りの良い低く深みのある声が上からおりてくる。
膝を付き目線を合わせる若獅子の紳士な振る舞いに小虎の目が瞬いた。キラキラ輝く玉の瞳いっぱいに映り込む柔和に微笑む若獅子に拙いながらも知っている言葉で想いを伝えたことだけは未だに覚えている。
幾度か記憶のページを捲り直したが、そこだけ書き忘れたかのように欠落していた。でも、いつか若き金黄王になる小虎に取って大事な宝物であることには変わりなかった。
美しい彫刻のような肉体から繰り出される空を裂く俊敏な動き。目で追うのもやっとな卓越した強さで王の座を危なげなく護る凛々しい姿。誰も彼も黒き獅子王を称える光景に見惚れた小虎は憧れを強く抱くようになった。
「強くなりたい」
まずは基礎体力作りに励んだ。幼馴染に手伝ってもらい足腰を鍛え、短い爪を研ぎ切り裂く練習に勤しむ。
これで焦がれる黒き師子王に近付けた、と意気揚々勝負を挑み
――
相手にとってじゃれつく程度に終わった。二人の間に横たわる圧倒的な力の差。それでも黒き獅子王は邪険にせず小虎の相手をし続けた。
「このままじゃ勝てない
……
っ」
黒き獅子王と自分の違いは何なのか。種族云々や大人と子供の差ではない、もっと根本的な違いに頭を抱える。
「私はすぐ息が上がる」
スタミナ切れを起こすのは基礎体力がまだまだ足りない所為だ。
はじめて手合わせをしてもらったあの日、戯れに伸ばされた手の肉球の優しさに胸の奥がこそばゆくなった感覚を頭を振い一旦吹き飛ばす。あの日もっと大切なことを言われたのを思い出せ。
「体力を付けるには、いっぱい動いて鍛えること。そのパフォーマンスを維持するため沢山食べること」
小虎は自分に言い聞かせるように呟き即行動に移した。小食とまではいかないがあまり食べていなかった肉の量をまず増やして、その食べた分だけ鍛錬に回した。慣れていない食事量が徒党を組んで胃袋に攻め入った日は込み上がってくる吐き気と格闘していた。意地で喉元を駆け上がる苦くて酸っぱい味を飲み込み、くたくたになるまで鍛錬に明け暮れる。
幸いなことに小虎の手合わせを黒き獅子王は快く受け入れた。傍から見ても贅沢過ぎるマンツーマン指導に汗を掻き彼の動きを目で学び体に叩き込む。
本来ネコ科動物が苦手とする泳ぎを積極的に取り入れたのは、優しい幼馴染の波をかき分け優雅に泳ぐ姿をかっこいいと思ったから。かっこいいものは全部学び覚えたい。
「(まだ本気じゃないけど前回一撃入れられた
…
! 今日は相手の動きを見切って避けられた
…
!)」
確実に成長している事実に若き虎の胸が高鳴り躍る。
食事量も格段に増え食らった分だけ自分の体が強靭でしなやかな筋肉に育っていくのが分かった。頭で思い浮かべた動きを寸分の狂いなく動かせる肉体。視えなかったものを明確に捉えられた瞬間、願っていたものが手を伸ばせばすぐ届く昂揚感と興奮が世界を色鮮やかに染める。
「(
――
ここっ!!)」
重く鋭い黒き獅子王の一撃を風に舞う木の葉の如く華麗に躱した若き虎の鋭利な爪が漆黒の体を裂き地に伏させた。
若き虎の勝利に湧き上がる歓声。長年挑み続けて掴み取った勝ちに拳を天に突きあげ喜びを表す。
「(これでネーロの隣に立てる)」
直向きに憧れ続けた黒き獅子王
――
金黄王ネーロの隣に立つに相応しい実力を手に入れた。胸を張って彼の隣に立ち、「強くなったな」と褒めてもらうことを認めてもらえるのを幼き日に目の前を通っていくかっこいい姿に憧れた時から夢見ていた。ずっとずっとずっと夢に見て追い掛け続けてきた。
期待に満ち振り返ったコガネの瞳には、この世に存在するどんな黒よりも深く美しい漆黒と眩い太陽の鬣、そして力強く優しい金色の玉を映す事は叶わなかった。
追い縋る暇も与えられず新王の座に就いたコガネの日常は目まぐるしく変わった。
王として他国に舐められないよう知識と礼節を学び、民の上に立つ大変さと重責を違う角度から味わった。慣れない王の職務は意外なことに幼馴染であるフォルネウスが紫国王に即位したお陰で精神的負担が大幅に軽減された。他国の王でありながら親睦のある間柄は心強くなんと頼もしいことか。
忙殺に事欠かない職務に鍛えられ王たる余裕と風格のある態度を身に付けた。だが、一番褒めて欲しい夜の太陽の姿は何処にも見当たらない。
捜索願を出すだけしか出来なかった歯痒い日々を過ごし身分を隠して方々探し回ったこともあった。
「どうしていなくなった
…
どうしていなくなってしまったんだ
…
。私を残して消える理由が、何処にある
……
」
コガネの心に積もるぶつけようのない憤り。
何故一言も言わず立ち去ったのか、傷の手当は大丈夫だったのか、そもそも生きているのか。
藁にも縋る思いをひた隠し心配で締め付けられる心に蓋をするのが常だったコガネの前に現れた随分と細く老いた嘗ての金黄王。実しやかな噂を頼り漸く見つけたネーロの姿にコガネの海が揺れ、金黄王の立場が幼い小虎の前に立ち塞がり真直ぐな感情を押し込んだ。
急にいなくなった不安と憤り、こちらの気なんか知らないで楽しそうにしていた不満と
――
安堵でぐちゃぐちゃになる情緒を歯を食いしばって耐え忍ぶ。
あれだけコガネの中で燻っていた赦さない気持ちは疾うに霧散して見る影もない。それどころかネーロにあの時の非礼を詫びてもらっただけに終わらず、強者であるのを認められたことに春を忘れていた心が再び穏やかなあたたかさに包まれた。
「(まだこれしか出来ないが、いつの日にか
……
)」
控え目に額をネーロに摺り寄せる。たったそれだけなのに4年間堪りに堪った鬱憤が融けていき、その後紫国にナデナデを出店させたい積極的な姿勢に以前と変わらぬ雰囲気に頬が熱を持つ。
今回の問題が解決次第、紫国王に会わせナデナデを出店させる約束を取り付けよう。そうすれば蟲国本店では出禁だが紫国支店なら入店でき、あわよくば視察に来たオーナーと鉢合わせになるかもしれない。
「(まずは信頼を得てからだな)」
カジュアルな服装も格好良かったが、上下きっちり黒スーツ姿も格好良い。
バレぬよう瞳のシャッターを切ったコガネは自身の胸の内にいる幼い自分の頭を撫で抱きしめ、いつの日か敬慕を抱くネーロにしてもらう夢を再び見始めるのだった。
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