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haruon1018
2025-11-25 12:28:51
5276文字
Public
ヘクマン
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you're king of kings
某長期連載ボクシング漫画で主人公と戦った選手がなぜかカラオケ映像に出ていた話があったのでそこから。
https://x.com/Haruon1018/status/1993159476413870403?s=20
元ネタ
ブラウン管とか昭和チックなのは漫画の影響です(アレ一応平成だけど、)
いかにも中高年が好みそうなスナックで、マンドリカルドが烏龍茶を飲みながら、やり過ごす。
古ぼけたソファーに今時珍しいブラウン管のテレビ。
とんと見なくなったぶ厚いカラオケ曲目が汚れないように端に置いても、困った様子を見せないところを見ると随分と通い慣れているようだ。
親の代理で自分の親と同世代の相手をすることはあるが、今回の面子はそれより更に上。
どちらかといえば祖父に近い年齢だけあって、皆唄いたがりである。
ならばもう少し設備の整ったカラオケ店に行けば良いのだろうが、古巣でこうして唄うから楽しいのだと彼らは語る。
「それじゃ次は、いや僕も昔は悪さしてね、あとになってこの曲が心に染みたんだ」
年寄りというのは内情を語りたがる。
今では見る影もない元不良の社長は半笑いを浮かべながら、マンドリカルドに視線を送る。
「そうすっか、」
「校舎の窓硝子割ったり、くだらない喧嘩をしたりね、」
一回なんて相手の腕折ったこともあったっけと笑いながらも誇らしげに語る年寄りだが、マンドリカルドのいたグループでは腕を折るなど武勇伝にもならない。
飲む打つ買う、三拍子すべて揃えた不良だった過去は消し去れないが、こうして酒の肴にされるは、イヤだなと思っているとマンドリカルドが思ったほど反応しないのを察してか年寄りが早々に歌い出した。
流れてきたのは七〇年代にリリースされた曲だった。
世代別ヒットソング特集などでよく流れるのでマンドリカルドも聞いたことがあったが、ふと画像の粗いブラウン管を覗くと、そこに映っていた人物に思わず声を張り上げそうになった。
なぜヘクトールがローブ姿で颯爽と登場し、ローブを拭い去ると曲に相応しくベルトを巻いていた。
どういうことだと疑問に思うマンドリカルドを他所にブラウン管の中にいるヘクトールは、試合の疲れを癒やすべく美女と褥を共にし、最後の伴奏ではまたリングに駆け出している。
トレンドマークになっている髭がないからおそらく二十代の頃、その頃はマンドリカルドはまだ小学生なのでこの曲を知らなくても無理がないが、自他共に認めるヘクトールオタクの自分が見逃すはずがないし、ファンクラブ内にもこの情報は上がってきていない。
一瞬そっくりさんかと疑ったりもしたが、とある箇所が本人であることを証明したので間違いはない。
曲が終わる数分間、新しく発見したヘクトールの姿を処理しようと押し黙っていたマンドリカルドを見た年寄りが、自分の曲に聴き入ったと勘違いし、二の次になっていた交渉を
マンドリカルド側有利に進めてくれた。
ヘクトール様々である。
もう少し鮮明な画像であのヘクトールを見ようとマンドリカルドは、情報を収集しようやく納得のいく場所を見つけた。
電子配信ではなく衛星配信だったので場所が限られていたが、それでも誰にも邪魔されずヘクトールの鑑賞会が出来るのは悪くない。
防音完備は古い設備なので心許ないが、ソファーもベッドがある部屋はマンドリカルドにとって都合が良かった。
ファンクラブの会員にも教えようかと考えたが、まずは本人に聞いてからだとマンドリカルドはヘクトールに会える数日間、ブラウン管にいる彼のお世話になった。
**
「ただいま、」
「おかえりなさい、お疲れ様っす、お風呂と食事がどちらを先にします?」
新妻のような台詞を吐いたマンドリカルドがはっとしたがヘクトールは気づいてないようで、ソファーで寛ぐ。
推しであるヘクトールに助けて貰っただけでも奇跡なのに、紆余曲折を経て交際することになった。
幸せだなと感じていればヘクトールが腕を伸ばしてマンドリカルドを誘ってくる。
「へ?」
「マンドリカルド、オジサン、疲れたからマンドリカルドが欲しい」
「
……
し、失礼します、」
ソファーの前まで歩き、とりあえず後ろ向きでと背を見せるとダメだとそのまま抱きかかえられた。
「はぁ~癒やされる、」
マンドリカルドの黒髪をわしゃわしゃと撫でたかと思えば、項を吸われる。
首筋にヘクトールの鼻梁や髭当たるので、気恥ずかしくなるがこれでヘクトールの疲れが抜けるのならとマンドリカルドは思う存分に吸わせた。
「今回の撮影って確かアウトレイジシリーズの映画の撮影でしたっけ」
「そう、毎日血飛沫と野郎の怒声と悲鳴だけの現場でさ
……
今回は、」
アウトレイジシリーズはヘクトールの代表作ともいえる作品だが、今や月9から大河にと引っ張りだこのヘクトールは幅広く活躍している。
アウトレイジシリーズはコアな視聴者層向けの作品だが、新シリーズが配信されるごとに人気が上がり、この度めでたく映画化が決定した。
「ネタバレNGっす、ファンだからこそ公式の情報が来るまで待たないと」
「律儀だね
……
」
ヘクトールはマンドリカルドを信頼して話してくれるのだろうが、マンドリカルドにもファンとしてのプライドがある。
ヘクトールの所属する事務所からは何度かこちら側になれば問題ないと云うが、躯を動かすことは得意でも演技はからきっし、マネージャに関してはヘクトールにやり込められる自信しかないので断っている。
「でも初日には絶対に観に行きます!」
「今回もかなり悪役面だけど」
「そこがまた魅力的というか、若い頃にはない味というのが
……
」
「お前さん、戦隊ものからオジサンのファンだからね、」
マンドリカルドがヘクトール推しになったのは彼が演じた特撮戦隊のヒーローからだ。
ヘクトールの経歴などを考えると異例の抜擢ではあったが、それでも彼は見事にヒーローを演じきった。
そこからは親曰くとりあえずヘクトールを与えておけば落ち着かないがお利口さんにしているため、マンドリカルドが成長し、マンドリカルドが観ても大丈夫な作品には極力触れさせてくれた。
だがマンドリカルドが中学に上がる頃、ヘクトールは突然、芸能界から姿を消した。
俳優としてのスキル磨くため留学すると文面だけ発表したヘクトールをワイドショーなどが面白可笑しく騒ぎ立てたが、マンドリカルドはもう彼に会えないと思うと胸が押しつぶされた。
それが原因ではないが、丁度思春期が重なり勝手な事情でマンドリカルドは荒れた。
喧嘩に明け暮れた日々を送ったマンドリカルドを救ってくれたのは、ヘクトールだった。ゴミ捨て場に文字通りゴミのように捨てられたマンドリカルドを拾い、介抱してくれたかつての英雄に恥じないよう更生したマンドリカルドだが、ヘクトールもマンドリカルドに救われたらしい。
「もう一度あの泥濘に潜っても良いと思ったのはマンドリカルドの言葉の御陰」と、笑うヘクトールにマンドリカルドは静かに恋に落ちた。
それから十年、どういう訳だかヘクトールと恋人になったマンドリカルドをヘクトールは離したくないと手と脚両方使って包み込む。
「オジサンがいない間、何していたの? 何処かへ行っていたみたいだけど」
「あっそれは、」
ヘクトールとマンドリカルドは携帯端末でお互いの居場所を共有している。
ヘクトールの職業柄、それは良いのだろうかと思ったがマンドリカルドだけ束縛するつもりはないと云われたのでそのままにしている。
お互い恋人を裏切るような真似はしない。
ただヘクトールの心の安定と有象無象が蔓延る芸能界では、役者の弱みを握ろうと記者だけはなく薄暗い職業の輩も役者の周りをうろつく。
「別にお前さんを疑ってる訳じゃないけど、場所が場所だし」
「ヘクトール様に誓って浮気はしてねぇっす、その
……
今からそこに行きませんか
……
」
本人を前にして本人に誓うとはおかしな言葉だが、ようするにやましいことは何もしてないと云うことだ。
車を飛ばし、高速道路脇のホテルに着くとマンドリカルドは慣れた手つきで部屋を選ぶと、自販機のボタンを押して鍵を受け取った。
男同士のホテルの利用は嫌がられたりするが、ここは無人なのでとやかく言うフロントはいない。
少々年代物のエレベーターを使い、いつもの部屋の扉を開けるまでヘクトールは無言だった。
「ここっす、えっと今から準備するので座って待っていてください」
今時珍しい幾何学模様の壁紙に、ベッドの上の掛け布団は古風な端切れがついている。
合皮で出来たソファーが傾向とに照らされ傷を露わにしているが、ヘクトールは気にすることなくそこに座った。
コンセントを差し、赤白黄色のプラグをブラウン管に繋ぐとマンドリカルドはリモコンを使い、すっかり覚えた番号を入力する。
「これです、その二十代の時に撮影したと思うのですが、覚えています、」
操作を終えたマンドリカルドがヘクトールの隣に座ると、
独特なギターのリズムが流れ、暫くして若き日のヘクトールが画面に映り出す。
「ああこれ、確か別の役者で撮る予定だったけど急遽俺が代役で撮ったんだっけ」
ボクサーらしくサンドバッグを叩くヘクトールが爽快な笑顔を見せると壮年のヘクトールもぽんと手を叩き、納得した笑みを浮かべた。
「っす、そのこのカラオケサービス大手のカラオケチェーンでは置いてなくてそれで」
「勝手に疑って悪かった、マンドリカルドが浮気するはずないと分かっていたけどさ」
「俺も先に聞いておけば良かったっすけど、あっこれファンクラブの情報掲示板に載せて良いっすか」
「いいけど、この画像、こういうところでしか流れてないんだろ」
男のマンドリカルドは兎も角、ヘクトールのファンは女性も多い。
最近では繁華街で女子会をやる文化もあるようだが、繁華街というのは治安が悪い。
「あ~そうですよね、けど俺だけ知ってるのも、ヘクトールの魅力は全人類が共有すべき、」
マンドリカルドがどうすれば他のファンにも新たに見つけたヘクトール映像を健全に見れるか考えていればヘクトールが笑う。
「けどなんでまたこんな映像を」
「あ~親の代わりに行った接待でオッサンが歌い出して、それにしてもよく引き受けましたね」
「昔はここ一強だったし、いやはや栄枯盛衰とは、こういうことなんだろうねぇ」
確かに若き日のヘクトールを代打で起用できるあたり、コネや業界内で力があったのだろう。
最後の独特なメロディーが終わり、画面が暗くなるとヘクトールがマンドリカルドの手の甲を指で叩いた。
「唄ってあげようか」
「ふぇっ!」
「二番からの歌詞はあやふやだがどうにかなるだろ、聞きたい」
「
……
お願いします、」
他のファンには悪いがヘクトールの歌が聴けるとなれば頷くしかないとマンドリカルドは、数字を打ちこんでいった。
「画面にヘクトール、目の前にいるのもヘクトール、生きていて良かった」
歌声を聞きながら画面を追い、目の前にいるヘクトールを堪能したマンドリカルドが顔を伏せて叫んでいた。
「マンドリカルドはさ、若いオジサンと今のオジサンどっちが良かった、」
「えっ、」
「それこの曲聴いた位でそうはならないだろ」
顔を上げたマンドリカルドの太股の間を指さしたヘクトールが嗤う。
何度もお世話になったせいで躯が無条件に反応したマンドリカルドが狼狽えれば、ヘクトールがソファーに長い脚を置いて迫ってきた。
「い、今のヘクトール様っす、その若い頃の貴方も素敵でしたがでも俺が惚れたのは出会った頃のヘクトール様で愛してるのは今の貴方です、」
「でもおかずにはしたと」
「それはその俺も男なので
……
」
「そう、素直でよろしい」
墓穴だった。
若き日の半裸のヘクトールという貴重な存在を前にして耐えきれなかったとマンドリカルドが、目を背ければ今度は腕が伸びてきた。
「浮気ではないだろうが、ごめんね、オジサンまだ役が抜けきってないみたい」
だから覚悟してねと目が笑ってないヘクトールに抱きかかえられ、ベッドへ沈められたマンドリカルドが起き上がれたのは翌日のチェックアウトギリギリであったし、当然車の運転など出来るはずがなかった。
『アウトレイジシリーズの最新作を記念して期間限定、若き日のヘクトールが流れるカラオケ映像と本人の歌声を動画配信』
「ありがてぇ
……
」
あの日ヒドく抱かれたことを忘れて流れてきた情報を手にマンドリカルドは、ファンの集うチャットサイトを開く。
本人は代役と云うがよく見ればガウンの模様はヘクトールをイメージして作られている。
流石は魑魅魍魎しかいない芸能界だ。
ファン達のお互いどれほどヘクトールを好きでいるかの会話を楽しんでいれば、ピロンとヘクトールにしか繋がらないスマホが鳴る。
「いつになったら慣れるのだろうか」
バスローブを身につけたヘクトールが画面に出る度にマンドリカルドの心臓は跳ね上がる。
可愛いお人だと思いながら、もうすぐ帰るというヘクトールの言葉に待ってますとマンドリカルドは返事をした。
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