ふじしろ
2025-11-25 04:26:47
2510文字
Public 浄皇
 

Classic

カレマス3、お疲れ様でした。
イベントで展示した作品になります。
お誕浄日会企画に参加させて頂いたものとなります。浄皇です。
遅ればせながらじょーさん、お誕生日おめでとう!

誕生日が特別だという感覚が長いこと分からなかった。
人間は日々歳を重ねる、それはどの日でも平等にだ。
だからいわゆる誕生日だけが毎年特別だということが理解出来なかった。
親父やジンバと暮らしていた時は互いに誕生日を祝ったりもしていたが、正直そういうイベントだからというだけであまり気持ちは伴っていなかった気がする。
それが理解出来るようになったのはウィズダムで働くようになってからだ。
宗雲は客から誕生日だと言われれば顔を綻ばせて祝いの言葉を贈るし、彼の誕生日には客がこぞって祝う。
そして極めつけは浄だった。
彼の最初の誕生日はウィズダム始まって以来の混乱をきたすこととなる。
バースデーイベントの予約は早い時期から埋まり、彼の客は彼にデートの約束を取り付けようと群がった。
当然イベントに予約出来なかった客もデートが叶わなかった客も出ることとなる。
当初の予測を超える事態を目の当たりにして宗雲は頭と胃を痛め、浄は困ったなとからからと笑った。
そうして毎年浄の誕生日は少なからず混乱し、ウィズダムのイベントの中で上位に来るほど盛大なものになった。
俺はその様子から誕生日というものの特別さを嫌というくらいに学んだのだった。

今年もその日がやって来た。
浄の誕生日前日、十一月十一日。
遅刻スレスレの時間に浄は店に着き、厨房に顔を出した。
「やあ、おはよう」
いつもと変わらぬ様子で挨拶をする浄の元へと素早く移動すると、彼は少しびっくりしたような顔を見せる。
「店が終わったら家に来い」
それだけ言って厨房の奥へと引っ込む。
こっそりと浄の様子をうかがうと彼は不思議そうな顔をしてこちらをうかがっているようだった。
誕生日らしいことをしてみたい、そう思ったのは親父とジンバと暮らしていた時以来だと思う。
明日、彼のバースデーイベントが終わったら、宗雲と颯と俺の三人で店で浄の誕生日を祝う。
だからこその今日だった。
今日は早く退勤したい、計画的に後片付けを進めていこう、そんなことを思いつつ開店準備をしていった。
閉店後、予定通りに浄より早く店を後にする。
家に着いてから、出勤前に用意することが難しかったものを作り始める。
店から持ってきたティースタンドをキッチンの天板に置き用意を始める。
本当はこの準備も浄から見えないように出来たら良かったが、残念ながら三段のティースタンドを隠すような場所は家にはなかった。
さて、一番下はサンドイッチ、きゅうりのサンドイッチとサーモンとクリームチーズのサンドイッチを見映えよく並べてやる。
真ん中は焼き菓子、スコーンは焼き立てを出したいからまだオーブンの中だ。
クロテッドクリームとちゃんと俺が作った林檎のジャムも用意してある。
それだけでは足りないだろうからカボチャとさつまいものペーストをそれぞれ包んだパイも用意した。
一番上はスイーツだ。
洋梨のタルトに一口大のショートケーキ、ほうじ茶とミルクのムースを重ねたもの。
空いた部分には一口大にしたフルーツにチョコレートを絡めたものを適当に置いてやる。
ウェルカムドリンクにシャンパンを冷やしてあるし、紅茶は彼が来てから用意をする。
紅茶のいわゆる味変用に薔薇のジャムも作ってある。
はっきり言ってこの小さいあれこれをこれだけの種類揃えるのはえらく面倒だった。
当然一つずつ用意する…… なんてことが出来るはずもなく冷蔵庫には余りがたんまりと控えている。
まあ、あいつなら喜んでお替りするだろうから良しとしよう。
そんなことを思いながらティースタンドへと盛り付けをしているとガチャリと玄関の扉が開いた。
音のした方へと顔を向けると浄が玄関に立っていた。
「まだ準備中だ。部屋に行ってろ」
そう言うと彼の視線が俺の手元へと動く。
目を大きく見開き驚いている様子の浄を俺は早く上がれと急かした。

準備が整ってティースタンドを片手に部屋に入ると浄は珍しく落ち着かない様子で俺のことを見た。
ローテーブルの上にティースタンドを置くと彼は一段一段をまじまじと眺める。
一度キッチンに戻り、紅茶をポットに並々と用意してから保温用のカバーを被せ、シャンパングラスとボトルを手に部屋へと戻った。
自分の目の前に置かれたグラスにシャンパンが注がれるのを眺め、浄の目がキラキラと輝く。
「これは豪華だな」
答える代わりにフンと鼻を鳴らす。
そのまま浄はキョロキョロとテーブルの上を眺めた。
「皇紀のグラスはないのか」
「は?」
「俺の誕生日を祝ってくれるんだろう? なら皇紀と乾杯したいんだが」
彼はグラスを顔の横に持ち上げるとにこりと笑った。
面倒臭えな、そう思い思わず舌打ちをする。
が、そう言われては拒絶する理由もない。
腰を上げキッチンに戻り、ついでだとトレイを出して紅茶一式も準備する。
部屋に戻ってトレイからグラスを下ろすと待ち構えていた浄がグラスへシャンパンを注いだ。
「皇紀。誕生日を祝ってくれてありがとう」
優しい笑みを浮かべる浄と乾杯をする。
グラスがぶつかりカンと高い音を響かせる。
浄はそのまま一気にグラスの中身を飲み干した。
「ふふ、随分クラシカルなアフタヌーンティーのセットだね。近ごろあまり見ないから逆に新鮮で楽しみだ」
「お替りはあるからいくらでも言え」
ふふっと目を細めて笑うと浄は早速サンドイッチへと手を伸ばした。
嬉しそうに顔を緩め咀嚼する浄の姿を眺め、彼の客の気持ちが少し分かったような気がした。
誕生日という多くの人にとって特別な日の時間を僅かでも独占出来るのはなるほど、優越感で充たされる。
こいつといるとまだまだ未知の感情を気が付かされる、そのことに感心する。
浄はいちいち丁寧に感想を述べながら一通り全ての菓子を食べると次々とお替りを所望した。
そうして時間をたっぷり掛けて俺たちは真夜中のティータイムを過ごした。
カボチャとさつまいものパイはお替りとは別に土産用にラッピングしてあるが、それは帰るまで秘密だ。
案外気に入ったようだから渡すのが楽しみだなと浄の様子を眺めながら思った。