三毛田
2025-11-24 22:15:22
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86 086. 落とし穴のように突然に

86日目
恋に落ちる

 それは本当に突然で。
 まるで落とし穴に落ちた時のように感じ、とても驚いた。
「穹。大丈夫か」
「あ、うん」
 表情は変わらないけれど、出会った頃よりも声色は柔らかく。俺を心配しているのが伝わってくる。
 彼に心配させたくないから、何があったと聞かれたら正直に答えたくない。
 でも、もうちょっと心配して欲しくもあって。
 うん。
 何があったかと聞かれると、恋しちゃったんだよな。
 丹恒に、恋したことに気づいたんだ。
 どうってことない。けれど、優しくされたからとそんな単純な理由じゃない。
 本能に近いだろう。
「丹恒。手を繋いでもいいか?」
「何故」
「なんとなく。って言ってもお前は納得しないだろうから、さ。俺が迷子にならないように。お願い」
「それなら仕方ない。ほら」
 肩をすくめ、差し出してくる。そこにそっと重ねれば。一瞬、怯えたように肩が震えたのが見えた。
 それに気づかないふりをしておく。
 触れた手は俺よりも温度が低くて、気持ちがいい。
 ますます好きになる。
「丹恒は、こうやって誰かと手を繋ぐことはあるのか?」
「ない。お前が初めてだ」
「ふふふ」
「なんだその笑いは」
「俺がお前の初めてで、嬉しい」
……言い方」
「うぐっ」
 肘で小突かれた。思ったよりその力が強くて地味に痛い。
「丹恒先生、痛い」
 脇腹を押さえ、丹恒を見ると少々困ったような顔になる。
「それはすまない。まさかそんなに痛むとは思っていなかった」
「お前、自分の力が強いこともうちょっと自覚して」
「そんなに強いだろうか」
「自分で思ってるよりも、強いよ」
「そうなのか……気をつけよう」
「お願いします」
 ちょっとまだ痛いので、ゆっくり歩いてもらう。
 なんだかんだ、こうやって他者を気遣える人。
 そういうところも好きになった理由でもあるのだと気付いた。
「丹恒」
「なんだ」
「誰かを好きになったことある?」
「ない」
 いつになく速い返事に目を丸くしていると、気まずそうに目をそらされて。
「もしかして、聞かれたくなかった?」
「お前からそう問われるとは思わなかったから、驚いただけだ」
 これも早口。
 意外な一面に、ちょっとニヤケが止まらない。
「なんだその顔は」
 むすっと唇を曲げ、繋いだ手に力を籠める。
「丹恒先生、痛い」
「お前が悪いだろう」
「えー。そんなことないけど」
 肩をすくめるけれど、それは本当だ。
 別に悪いと思ってないし。
「丹恒」
「なんだ」
「今じゃないけど、いつかお前に伝えたい大事な言葉がある。聞いてくれるか?」