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シノハラ
2025-11-24 19:21:21
3777文字
Public
アルカヴェ
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添い寝するアルカヴェ
さすがに今年のスメールイベはwikiに全文載せておいた方がいいんじゃないですか?
アアル村で宿泊させたりしてもらいながら、ようやくシティまで戻ってきた。
うんうん悩みつつ夕食を外で買って、今日は二人ともさっさと眠ってしまおうなんて話したのを覚えている。
そう、その時はカーヴェもさっさと眠るつもりだったのだ。
それなのに、もう日付も変わったはずのベッドで体を丸めて時間を浪費してばかりいる。
体はしっかり疲れているはずなので、何とか眠ろうと呼吸を深くしてうとうととする矢先に足先が引きずり込まれるような感触がして目覚めてしまう。
心臓をばくばくとさせながらシーツの感触を確かめて、ここが砂漠ではないとカーヴェは自身に言い聞かせようとした。
ここは木々が生い茂るスメールシティであり、砂漠のようなからからに乾いた砂の気配はどこにもない。
頭では分かっているはずなのに、口の中に砂が残っているような気がしてならなかった。
おそるおそる触れた足先にも埃にも似た砂があるような気がして、触れた指先を擦り合わせてカーヴェは眉間に皺を寄せる。
蘇る流砂の感触を振り払おうとぎゅっと瞼を落としてから、呼吸を深くして眠ろうとして、をカーヴェは延々と繰り返していた。
おそらく今夜はまともに眠れないだろう。
ひょっとして、このベッド自体都合のいい幻覚に過ぎないのではなかろうか。
そうこうするうちに、荒唐無稽な発想がカーヴェの思考を汚し始めた。
そんなはずはないと思うのだけれど、どうしても馬鹿げたただの思いつきでしかないと振り払う事ができない。
堪らずベッドから逃げ出して、台所で砂漠では貴重な水を飲み干してここが雨林であると言い聞かせる。
清涼な水が食道を滑り、胃を撫でる感触を意識してから自室に戻ろうとしてカーヴェははたと立ち止まった。
さっさと部屋に向かうべきだと分かっているのに、一点から視線を反らせずに釘付けになったかのように足が上がらない。
嫌な想像が頭の中で再びぐるぐると回り出すのは、目の前にあるアルハイゼンの部屋の扉の向こうに彼がいるか確信が持てなかったからだ。
一緒に帰ってきて一緒に夕食を共にした。
以降は騒ぎ立てるなとばかりにもう寝ると宣言して、彼は居間から自室に引っ込んだ。
はずである。
ただ、その姿を最後までカーヴェは確認していなかった。
だからどうした、とも当然思う。
今頃すやすやと寝入っているに違いないと理性ははっきりと認識している。
なのにどうしても扉の向こうはもぬけの殻になっているのではないかという思いつきに囚われてしまい、恐ろしくて仕方がなかった。
そのありえない考えがカーヴェの腕を振り上げさせて、控えめに扉に拳を打ち付けさせた。
とんとん、と木を叩く音が鳴ってそれからすぐに廊下は静まり返ってしまう。
あまり大きな音は出なかったので、アルハイゼンが目覚めなくともおかしくない音だった。
だから、彼が起きてこなかったとしても
――
そもそも起きたとしても再び寝入ってしまっても何もおかしなことはない。
そう、空回りしそうになる心臓に言い聞かせながらカーヴェはアルハイゼンの部屋の扉の前で立ち竦む。
「
――
…………
」
床が軋む音が扉の向こうからした気がしたと思った瞬間、扉が空気をかき混ぜながら開き、カーヴェの頬を微かな風が撫でていく。
何か言わなければならないと思うのに、うまく言葉が出てこないままカーヴェはアルハイゼンを見つめる事しかできなかった。
「酷い顔だ」
眉を顰めているのは夜中に起こされた上にその張本人が理由も説明しないからだと思ったが、どうやらカーヴェの様子を気にしていたらしい。
どんな顔をしているのかはさっぱり分からなかったものの、おばけを見たようなと表現されてもカーヴェは否定できなかったかもしれない。
眠りに就く瞬間に感じるそれが、自分が最も愚かだった頃の記憶である可能性をカーヴェは否定できなかった。
「
……
砂の感触が忘れられないんだ」
そう口にする先から舌先がざらりとしたような気がした。
幻覚でしかない事を確かめようと手の甲を口に押し当ててちろりと舐め上げても、当然ながら砂粒が皮膚に移るような事はない。
小さな溜め息とただの呼吸の中間のような音がして、眠気に負けて体を支えるのが億劫とばかりに壁にもたれていたアルハイゼンがカーヴェの持ち上げていた手を引っ掴んだ。
突然の事に悲鳴とも呻きともつかない声を上げてしまって、そのまま後ろに下がりたくなるが腕を取られているため叶わない。
「随分と冷えている」
「ごめん」
布団でぬくぬくと眠っていたはずのアルハイゼンの手が、指先を湯につけた時のような温かさを伝えてくる。
彼の指摘の通り、カーヴェの指先は冷え切ってしまっているようだった。
睡眠はおろかアルハイゼンの眠るための体温まで奪ってしまっている事実に申し訳なくなって、カーヴェは会話上では脈絡の感じられない謝罪をする。
「だが、これで分かりやすいだろう。俺は流砂に踏み入ったが、怪我一つなく無事だった。君もだ」
少し手を掴む指が緩められてもう一度握り込まれると、自分の手がアルハイゼンに与えられる圧力に合わせてくにゃりと形を変える。
この柔らかさは生きている生き物特有のものだと認めた瞬間、急に自分の四肢の重さを自覚した。
大丈夫。
自分はこの体をコントロールして生きている。
「うん
……
ありがとう、アルハイゼン。少しほっとした」
生きている。
君も僕も、砂漠に集まったみんなも。
そう確認するように口にすれば、アルハイゼンの手が離れた。
思わずあ、と声を上げてしまってカーヴェはすぐに後悔する。
その声には自分でも分かるくらいに寂しさと名残惜しさが詰め込まれていた。
アルハイゼンがカーヴェの声に反応して視線を合わせてきて、諦めに近い溜め息を洩らした。
それに反応する前に、アルハイゼンはカーヴェの手首をがっちりと掴む。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! どういう事なんだこれは!」
それから彼はカーヴェを引きずって有無も言わせず扉の内側に引き込み、あれよあれよと言う間にベッドに押し込もうとした。
突然の事に頭が追い付かないままなんとか抵抗の意思を示すと、アルハイゼンが一度カーヴェにかけてくる圧力を緩める。
「俺が眠くて君がこうしていたいなら、一緒にベッドに入る他ないと思うが?」
「
……
そうかも」
さも当然と言った調子で説明されてしまうと反論できない。
実際同じベッドで眠る以外の妙案が思いつかなかったので、カーヴェはアルハイゼンの主張に同意した。
とはいえ、枕も自分用の掛け布団もないのでは奪い合いになってしまいそうだったので、一旦自室に戻る事にして彼の部屋を後にする。
カーヴェの主張に納得して放された手がすうすうと冷たい。
使い慣れたベッドにある枕と布団を一度に抱えながら、とんでもない事をしようとしているのかもしれない、なんてちらりと考えた。
成人男性二人が一人用のベッドに押し込められるのを想像しながら、それでもアルハイゼンが許容するなら構わないだろうと結論づける。
そう思ってしまうくらい、今夜のカーヴェは一人でベッドに戻りたくなかった。
「先に寝ていてくれてよかったのに」
「いや、君が奥だ。俺は君より先に起きる」
畳んだ布団の上に枕を置いてから抱えてアルハイゼンの部屋に戻れば、部屋の主が眠たげにベッドに腰かけていた。
我慢する必要などなかっただろうと指摘したところ、アルハイゼンはゆるゆると首を振ってカーヴェが眠るべき場所を指さす。
どちらにせよ目覚ましの音で一度目覚めるだろうが、上を乗り越えられてしまうと二度寝もできなくなるかもしれない。
何よりこの部屋の主はアルハイゼンなので、彼の指示に従うことにした。
それじゃあ失礼、なんて言いながらベッドの奥に枕を置いてから姿勢を考えて、カーヴェは壁に背中を押し付けた。
窮屈に見えるかもしれないが、この姿勢でもアルハイゼンは寝返りを打つとベッドから落ちるに違いない。
もぞりと体を動かして居場所を定めようとすると、アルハイゼンがカーヴェと壁の間にカーヴェが持ち込んだ布団をぎゅうぎゅうと詰めてくる。
そうすれば背中からひんやりとした感覚がしなくなって、口元を緩めてカーヴェはアルハイゼンに礼を述べた。
それからナイトライトの明かりを絞ったアルハイゼンがベッドにもぐりこんで、布団の下から手を出してくる。
彼の指先が急かすようにとんとんとマットレスを叩く振動を感じながら、カーヴェも布団の下から手を出して今度は自分から手を繋いだ。
最初は布団を被せないと冷えるのではないかと思ったものの、アルハイゼンの手のひらが暖かくてすぐに気にならなくなってしまった。
布団に温められるせいか、それとも眠気によるものかは定かではないが、じわりと彼の手の温度が上がるのが分かる。
その温度にカーヴェもまた眠気を誘われながら就寝の挨拶をすれば、薄暗がりの向こうからアルハイゼンの返事があった。
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