白殊皎(しらよし こう)
2025-11-24 16:58:49
2456文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

壬生狼のさいはて

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
北新さん広告の全身アクスタで衝撃を受けて書きました。
はい、それだけです。

というか、猛る日本犬3匹を笑顔で制する近さん、さすが筋力Aや……。
この二人は恋人同士です。

 土方と訪れた北の大地。
 そのおそらくペットショップかドッグカフェらしき建物の前、そこで近藤は一目惚れをしてしまった。
 真っ黒な鼻、ピンと立った耳、ふわふわの毛並み、くるりと巻いた愛らしいしっぽ、しっかりと大地を踏みしめて立つ四足。
──そう日本の天然記念物・北海道犬に。
「歳!」
「だめだ」
 わくわくを宿した瞳で振り返り、恋人の名を呼べば相手はきっぱりと言い切った。
「どうして!」
「あのなぁ。あくまで俺たちは一時の来訪者だ。生き物なんぞにかまえる訳ないだろう?」
「え~。カルデアにはセタンタ殿とか、馬琴殿とか、マルタ殿とか生き物を連れている方もいるじゃないか」
 唇をとがらせてぶーたれる近藤に土方はバリバリと頭を掻いた。
「あの人らはなんだ、霊基や宝具の一部みたいなもんだろう。言いたかないが、いつ退去するかわからねぇこの状況で、本当の犬を、生き物を飼うという責任、あんたに果たせるか?」
 ちょっとキツい言い方だとは思うが、本当の事なので釘を刺す。
 おそらく、本当に飼うとなればこの人はやることはやると思うが、それでもカルデアにペットを持ち込むのはいかがかと思う。
……むぅ……
 手を胸の前で組み、両の親指をちまちまを動かす近藤を見て、諦めてくれるかな、と思っていたのだが──。
「どうされましたか?」
 そこに目の前の店のドアが開き、店員らしき女性が顔を見せた。
「あぁ、なんでもないんだ。連れがこいつらを気に入ったみたいで、眺めてただけさ」
「うふふ。わんちゃん、お好きなのですね。お散歩レンタルもありますよ」
「え!!」
 聞きたくなかった。
 土方はそう思ったがもう後の祭りだった。

 多くても一人一匹の二匹でいいだろう、と言ったのに、近藤にごねられて何故か三匹になった。
 知らない人間にリードを渡され、犬ははしゃいで飛び出そうとしたが、近藤は引きずられることもなくビシッとリードを締めた。
「ほら、歳。その子もこっちにおくれ」
 きらきらと笑顔を振りまき、土方がリードを手にしていたもう一匹も奪うように受け取ると、ウキウキとお散歩に出発した。
「可愛い彼女さんですね。それに、犬の扱いとてもお上手。三匹もちゃんとお散歩させるなんて大変なのに」
「あー……まぁ、なんだ。ありがとな」
 近藤が自分の彼女。
 確かに恋人同士ではあるが、男なので厳密に言えば彼女ではない。
 そうは思いはしたが、傍目から見ても自分たちがそう見えるのなら、土方はそれが少し嬉しかった。
「じゃ、時間までには返しに来るからな」
「はい、行ってらっしゃい。寒いのでお気をつけて」
 照れている土方に微笑みかけて、女性は二人と三匹を見送った。



「ははっ。こらこら、余り引っ張るな。総司みたいに元気だなお前は」
 渡されたエチケット袋入りの五稜郭バッグを片手に、三匹に引きずり回され……いや、ほぼ引きずり回している。
「おいおい。言うに事かいて沖田かよ」
「だいぶ個性が見えてきたぞ、この子は総司みたいに元気で、明るい」
 リードを手繰り直して走り出そうとする犬を制御する。
 いやだいやだもっと遊ぶ、というように暴れる犬も、別の犬ががう、と御するように牙を見せると、仕方ないなぁ、というように大人しくなった。
「こっちの子は、歳、お前みたいにしっかりしてる」
「近藤さん……
 俺は犬か? せめて狼に、と思ったが物凄く近藤が嬉しそうなのでそれ以上は言わず黙った。
「で、こっちの子は……俺だな」
 やがてじゃれ合いを始めた二匹を見つめて、ぱたぱたとしっぽを振るもう一匹の背を近藤は撫でた。
「まるで昔の俺たちを見ているようじゃないか」
 おや、と土方は思った。
 普段一人称は『私』の近藤が『俺』と言っている。
 懐かしい生前の、まだ多摩にいた頃が思い出される。
 京に上り、新選組を立ち上げ、局長になってからは常に『私』で通してきた近藤。
 その時は盲目的に突き進んでいたためわからなかった当時の重責は今ならわかる。
 近藤には心がボロボロになるほどの余りに重いものを背負わせてきてしまった。
「まぁ、な」
 それがこの散歩で、少しでも童心に帰れたのなら、いいか、と思ってみる。
 おまえも遊びに加わりなさい、というように近藤はリードを微かに緩め、二匹の輪に一匹を向かわせた。
 犬はいいの? というように近藤を見たが、すぐに二匹の方へ歩み寄り、無邪気に追いかけっこをしたりじゃれ合いをしたりし始めた。
「時間はたっぷり取ってあるから、十分可愛がってやりゃあいいさ」
 土方はカルデアとの通信機を兼ねた腕の時計をチラリと見遣って言葉を続けた。
「あんたがどこか行きたいところがあれば話は別だが」
「今日はこのまま、この子たちと遊びたいな。あと丸二日はあるだろう?」
 他サーヴァントの為の素材狩り、超高速周回という重労働を二人+αで約半月ほどこなしたという事でもぎ取ったこの二泊三日の旅行の権利。
 それを半日わんこにかまけてしまうのは土方としてはもったいないとも思えたが、近藤がいいのなら異存はない。
「今日は宿でゆっくりして……。明日から案内をしておくれ」
 言うことを聞いた犬に褒美のおやつを食べさせながら近藤は呟いた。
──おまえが最後に戦った場所を、と。
「案内になるかなァ」
 土方はフッと笑うと遠く空を仰いだ。
「歳?」
「あんたがここにいるだけで、俺は何もかも報われているからな」
 静かに舞い降りる雪が周囲を閉ざそうとしていく。
 本降りになるとマズいから、と土方は自分のマフラーを近藤に掛けてやりながらバッグを手に取った。
 あれだけはしゃいでいた犬たちも、今は二人の傍らで指示を待つように大人しくしている。
「戻ろうか」
 近藤は微かに微笑んで、バックのなくなった手で土方の空いている手を取った。
「あぁ」
 春はまだ遠いけれど、繋がれた手は何よりも暖かかった。