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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第26回お題「枕」
両片想いの赤安。無自覚れいくんが少しずつ自覚中。モブキャラがいます。周囲の人たちは赤安が付き合っていると思っています。
街ではクリスマスの装飾がよく見られるようになった。今年も残すところあと一ヶ月と少しとなっている。
先日、FBIに三名の増員があった。男性が一人と女性が二人。三人は赤井と顔見知りのようで、赤井と彼らが談笑している場面をよく目にする。
三人はアメリカ人ということもあってか、ボディタッチが多い。特にナタリーと呼ばれる女性は人懐っこい性格をしており、誰に対しても軽いスキンシップをよくしていた。彼女は男女関係なく、日本のメンバーとも打ち解け合っているようである。同じ目的を持つ者同士、仲が良いのは良いことだ。
しかし、降谷にとっては不思議なことが起きていた。
ナタリーが赤井の手を握ったりするとき、降谷は胸がぎゅっと締めつけられるような気持ちになるのだ。
なぜそんな感情が生まれるのか、降谷にはよくわからなかった。ナタリーが赤井以外の人間に触れているときには、何も感じない。それなのに、彼女が赤井に触れているときだけは、自分の感情が揺れ動くのを感じてしまう。
赤井に触れる人がいると、自分はそうなってしまうのだろうか。原因を突き止めたいと思っても、赤井に触れる人物が自分の目の前に現れないので、降谷は確かめることができない。理由もよくわからないまま、降谷は自宅に帰れぬほど忙しい日々に突入することとなった。
降谷は庁内にある個室で、多くの時間を過ごしている。睡眠も十分な時間が取れず、個室にあるソファの上に寝転んで仮眠をとっていた。
疲労の蓄積は顔にも出てしまっていたようで、会議の間に挟まる休憩中に赤井に話しかけられた。凝りや張りが気になり、首や肩に触れていたときだった。
「随分と疲れた顔をしているな」
「最近ソファで仮眠をとっているので、どうもすっきりしなくて
……
。せめて枕がほしくなりますね」
降谷は笑いながら言った。今この状況で、柔らかな布団の上で寝たいと願うのは贅沢である。とはいえ、身体の凝りや張りからは解放されたい。だからせめて枕だけでもと、ささやかな願望を口にするだけに留めた。
組織は活発な動きをみせており、各国の捜査官も目まぐるしい日々を送っていた。
降谷もまた、なかなか休むことができない立場にいた。それでも、身体は限界を訴えかけてくるので、そういうときは昼夜関係なく仮眠を取ることにしていた。
最近ではおなじみとなってしまったソファの上に降谷は寝転がる。持ち込んだ毛布を身体にかけて、やはり頭の高さに違和感を覚える。降谷は赤井に話したことを思い出しながら、ひとり小さく呟いた。
「枕、ほしいなぁ
……
」
静寂に満たされている空間では、声がよく響く。降谷はひとつ苦笑して、ゆっくりと目を閉じた。
目が覚めたとき、カーテンの向こうが真っ暗なことに気がついた。寝すぎてしまったかもしれない。降谷は慌てて飛び起き、スマホの画面を見た。午後八時を少し回ったところだった。三時間ほど眠っていたようだ。しかし、思わず寝すぎてしまったのかと心配してしまうほど、よく眠れていたような気がする。
ふと、降谷の指に触れるものがあった。自分が寝る前にはなかったものだ。この部屋に辿り着くのは難しく、自分以外に入室できる者は限られている。
降谷の脳裏にまっさきに現れたのは、赤井秀一の姿だった。
降谷は指に触れたものを手に取った。自分の頭の下に敷かれていたそれを、ゆっくりと広げる。それは赤井が普段よく着ているジャケットだった。
なぜ赤井のジャケットがこんなところにあるのか。そのこたえには心当たりがあった。
自分が枕がほしいと言ったから、赤井が自身のジャケットを丸めて枕代わりにしてくれたのだろう。
黒色のジャケットからは、赤井の吸っている煙草の匂いがかすかに漂ってくる。この枕のおかげで、ぐっすり眠ることができたといってもいい。
降谷はそっと顔を近づけた。ほっと胸が落ち着くような心地がした。
降谷はジャケットを持って、FBIのメンバーが詰めている部屋へ歩いて行った。今の時間ならば、赤井が部屋にいる可能性は高い。
赤井が部屋の中にいますようにと願いながら、降谷は部屋のドアをノックする。すると、すぐにドアが開いた。
「あ、フルヤレイ!!」
ドアを開けてくれたのは、ナタリーだった。こちらから用を伝える間もなく、「シュウイチ!」とナタリーが赤井を呼ぶ。
ジャケットを羽織っていない赤井が、こちらに向かって歩いてきた。ジャケットを着ていない赤井を見るのは、少し新鮮な気がする。
「やっぱり、あなたのだったんですね」
降谷はジャケットを赤井に差し出した。赤井はそれを受け取り、羽織りながら言った。
「ああ。少しは疲れがとれたかな」
「はい、ありがとうございます。すみません、皺になっちゃって
……
」
「君が気にすることはない。これくらいの皺、着ていればすぐに消える」
赤井はそう言って微笑んだ。降谷は胸がどきりとした。どう言葉を続けてよいかわからなくなり、無意識のうちに仕事の話を振っていた。
「ところで、そちらの状況はいかがですか?」
「ああ、現状、待機中だ」
ふと、部屋の中が静かなことに降谷は気がついた。部屋を見渡しても、赤井とナタリー以外のメンバーが見当たらない。なぜか胸がざわつく。
「他の人達はどうしたんですか? あなた達ふたりだけで待機中?」
そう問いかけると、ナタリーが自分たちの間に入ってくる。
「違うのよ! メイソンとエミリーも待機メンバーなんだけど、今ちょうどコンビニに買い出しに行ってて
……
」
メイソンとエミリーは、ナタリーと同時期に増員されたFBIの捜査官だ。ナタリーはスマホのメッセージアプリを開き、彼らとのメッセージのやり取りをこちらに見せる。そこには、『おにぎり、種類がたくさんあるよ。どれがいい?』『シーチキンと鮭!』などと書いてあった。
彼女の発言を疑ってはいないのに、こうして証拠を示そうとするナタリーに、降谷は圧倒される。
「別にあなた方のことを疑っているわけじゃ
……
」
そう告げると、ナタリーはほっとしたような表情を浮かべた。何やら妙な誤解をされているような気がする。
ナタリーは赤井と自分の顔を交互に見たあと、続けて言った。
「それにしても、あなたって本当にシュウイチのことが大好きなのね~」
ナタリーの突然の言葉に、降谷は目を瞬かせる。ナタリーの言葉の本意が理解できず、降谷は思わず聞き返した。
「どういうことですか?」
ナタリーは、勢いよく降谷の両腕を掴んでくる。彼女の目は真剣だ。
「大丈夫よ! シュウイチと私はそんなんじゃないから!」
「
……
いったい何の話をしているんです?」
ますますナタリーの言っていることがわからなくなる。
すると、赤井の手が自分の手を握った。ぎゅっと力強く手を握られたあと、赤井にぐいと手を引かれる。
「降谷君、こっちに来てくれ」
「え?」
突然のことに抵抗ができず、赤井に手を引かれるままに、降谷は歩き出した。ナタリーは「またあとでね~」とのんきな表情で手を振っている。
男がふたりで手を繋いで歩いている、この状況。もし誰かに見られたら、どうすればいいのか。不安と緊張も混じり合って、胸がどきどきとする。
幸い、誰にも出会うことのないまま、静かな廊下を歩き、休憩室に辿り着いた。他に休憩をしている人間はいないが、誰もいないからこそ声が響く。
赤井は声を抑えて言った。
「ナタリーも、メイソンもエミリーも、俺達が付き合っているという噂を知っているようだ」
「そう
……
なんですか」
日本にいるメンバーだけではなく、アメリカにいるメンバーにまで広がっているとは、噂とは恐ろしい。
「ああ。それで、君がヤキモチを妬いていると、どうもナタリーは勘違いしているらしい」
「僕が、ヤキモチ?」
自分とはまったく縁のない言葉だ。
赤井にしては珍しく、言葉をひとつひとつ選び取るような口調で言った。
「あくまで一般的な話だが
……
交際している相手が異性とふたりきりで一緒にいるのを見たとき、ヤキモチという感情を抱くことはままある。だから、俺とナタリーが二人で部屋にいるのを見て、君がヤキモチを妬いたと勘違いしたんだろう」
「そういうことですか
……
」
ナタリーがあのような反応をした理由を、降谷はようやく理解することができた。赤井とはそんな関係ではないとナタリーが言ったのも、これで合点がいく。
赤井と自分が仲違いしないよう、ありのままの事実を伝えてくれたのだろう。そしてそれは、ナタリーだけではなかった。
「それから
……
念のため言っておくが、俺とナタリーはただの同僚だ」
なぜか赤井からも同じような言葉を言われて、降谷は堪えきれず笑ってしまう。
「ええ。わかっていますよ」
そう答えながら、心の中にふっと疑問符が浮かんだ。
あの胸のざわつきはいったい何だったのか。本当に、自分は二人の仲を疑ってはいなかっただろうか。
二人が同僚以上の関係ではないと告げられて、胸のざわめきが静かに引いてゆく。
これは、安堵と呼ぶほかない感情だ。
自分のこの心の動きはいったい何なのか。
その答えだけは、降谷にはまだよくわからなかった。
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