ミイ
2025-11-23 22:10:22
8149文字
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ふたつの世界のあわいで

・舞-HiME&舞-乙HiME 20th Anniversary Blu-ray BOXのイラストを見てふわふわと思いついたものを書きました。
・深優さん視点のお話。
・静なつ、シズナツ
・ゆきはる、ユキハル
・深優アリ
など好きなものを詰め込みました。

・素敵なイラストありがとうございます…。
・舞-HiMEと舞-乙HiMEのクロスオーバーというか、違和感のない組み合わせにびっくりして見ていました。
・何度も見ているうちに、二つの世界を結ぶ存在である深優さんの目から、あの
状況はどううつったのかなと思って書きました。
・舞-HiME、舞-乙HiMEの世界のみんなにたくさんの幸せが訪れますように。

 目を覚ます、という表現が正しいものなのか、未だわからない。……だが、一度活動が停止した状態から再起動した場合、ヒトの見た目をした自分には、その表現が適切なのかもしれない。

 ヒトのニューロン結合をした樹状連結型、超高密度AIユニット。

 ヒトならざる
 ヒトの形をした
 ヒトの手によって作られた存在。

 Merciful
 Intelligence
 Yggdrasil
 Unit

 通称MIYU

 それが、私。

 時が経てば成長し、老いていく。決められたプログラムではなく、自らの意思と感情で動き生きる人間とは、異なる存在なのだ。

 それでも、愛しく輝かしいかつての主人に呼ばれたその美しい響きは。そして、彼女を守り続けると、電脳の中深く刻まれたそれは。

 定められていたから、ではない。

 名前を呼び、呼ばれ。彼女の喜ぶ顔を見て、私の中に「芽生えた」もの。

 自分の『意思』が宿っていると『思う』ことにしている。

 人工筋肉がパルスを受けて収縮する。自身の再起動に問題がないことを確認。

 活動を停止していた機体の中に電子が巡らされていき、目の前に広がる異様な光景の情報を、視界として示していく。

……これは」

 白く、広く、遠く。まるで絵を描く前の紙上のような空間。どこまで続いているのか、そもそもここが現実なのか。情報が足りないこの場所では、すぐには処理ができない。

 視覚での調査から切り替え、他の感覚を辿っていく。すると、真っ白な空間の奥に、いくつかの信号を捉えた。

 おそらくは、地球や惑星エアルとは異なる空間だと推測されるこの場所。自分だけ世界から切り離されたのかと思えば、先客がいたらしい。それも、大勢。

 賑わう声の中に、すでに自身の中に記録されている声紋と合致するものをいくつも見つけた。その声と人物、それらの関係性を加味すれば、おそらくは今回のこれも、高次物質化能力が関係しているのだろうということが推測できる。しかし、自身のニューロコンピュータに蓄積されているデータと、妙に数値が違うものがちらほらと見受けられる。いくつかはそれが「彼ら」だということを雄弁に語り、いくつかは「彼ら」ではないことを自身に告げる。

 どうして、このようなことが?

 考えても仕方がない、というのがおそらくは妥当なところだろう。この世界の理というのは、この科学の叡智の結晶たる自分のAIですら及ばない方向に進むことさえあるのだから。

 少し歩みを進めれば、見覚えのある顔が視界に映り始める。数百年以上も前、地球という場所で、あの祭の時までを、そしてその後を共に過ごした人間たちが。

「あれ? 深優さんだ。おーい! こっちこっちー」

 こちらに向けて大きく手を振っているのは鴇羽舞衣。こちらとしてはかなり久しぶりに目にする風華学園の制服に身を包んでいるが、あの人の良さそうな顔は変わっていない。どちらかというと自分も着ていた他の制服姿の方が記憶に新しいのだが。

「舞衣! 舞衣のご飯はまだか!? ワタシは腹が減ったぞ! ん!」
「はいはい。仕方ないでしょここ何にもないんだから。材料があればなんとかなるけど……。てか深優さん……なあに? そのカッコ、どしたの? コスプレ?」
「コスプレ、ですか?」

 言われるまま、自らに視線を落とし、姿をスキャンすれば、大きなつば広帽子にローブ。エアル時代、主人の残したものたちを守り抜くため、旅を続けていた頃のものだった。つまりは、地球時代には纏ったことのなかったスキン。

 どこから説明しようかと口をひらけば、それに関してはあまり興味が続かなかったようで、鴇羽舞衣の視線はすでに別の場所にうつっている。

「てかあれ、深優さんどうにかしてくれない? あたし目で牽制されちゃってて……

 助けてくれって言われてもあれは無理かも。

 そうため息をついた鴇羽舞衣が指差した先にいたのは玖我なつき。頬を赤らめて眉を下げ、困ったような顔で誰かと話をしている。その視線の先にいたのは。

……嬌嫣の紫水晶」

 その相手はかつての祭の記録に載っていた玖我なつきの想い人。……ではない。全くの別人であるから、彼女たちは初対面、ということになるだろう。柔らかい笑みを湛え、独特の言葉遣いで様々な人間を翻弄する。深優のデータには残っている、彼女たちからすると数百年後の人間。

 五柱の二たる嬌嫣の紫水晶。マイスター、シズル・ヴィオーラ。

「ナツキ、ほんにかいらしなぁ。……こっち向いて?」
……断る」
「いけず」
「いけずもなにもあるものか。お前が未来の静留だなんて……。信じられるか、そんなの」 
「そう言わはっても、うちには証明もできませんし……でもそっくりなんやろ? ナツキから話しかけてくれはるくらいなんやし」
「うぐっ……
「なあ、こんなところで会えるのもご縁やさかい、仲良うしましょ?」
…………
「ナツキ?」
「いやだ」
……うちの想い、伝わってないん?」

 あの上目遣いに耐えられる人間はどれくらいいただろうか。彼女の魔の手にかかって籠絡される重鎮たちは少なくはなかったのに加え、彼女がそのつもりでなくとも、その美貌に囚われてしまう人間は多かった。……いや、そもそもあの目はナツキ・クルーガー以外に向けられることはないのだろうけれど。

 しかし、意外なことに玖我なつきは少しの背伸びをしながらきっと睨み返す。その瞳に、シズル・ヴィオーラはわずかに気圧されたようだった。

「その気持ちは、私へのもの……じゃ、ないだろう」
……っ」

 シズル・ヴィオーラの瞳が見開かれる。何もかも見透かしたような碧緑に、紅色が細まり、うっとりと見惚れるかのように目尻を下げた。

「それくらい、私にだってわかる。お前の目が、何度も私の上を通り過ぎていることくらいな」
「ナツキ……
「私は玖我なつきだ。お前が知ってる私とは、別人だ。違うか?」
……ナツキにはかなんなぁ。そんなとこもかいらしいんやけど」
「だあああくっつくな! 大体こんなとこあいつに見られたら」
「まあまあ。もう一人のうちも楽しんでるんやないの?」
「そ、そんなことは……と、とにかく離れろ。私は静留と約束したんだ。もう不安にさせないと」
「ふふ。ほんにかいらしい子ぉやねえ。あかん。うち、そっちのうちに妬いてしまうかも」
「決してそうは見えないが!?」

 きゃんきゃんと吠えたてる子犬を弄ぶかのように笑顔で応対する主人のような様は、いつかのどこかで見た覚えがある。

「私の出る幕はなさそうですね」
「へえ、やるじゃない。なつきも」

 鴇羽舞衣は、誰よりも身近なはずなのに距離感の掴めないでいる二人を、まなじりを下げて見つめる。放っておいても良いと判断したのだろう。先ほどから腹が減った! と騒々しい子猫の方に歩いて行った。

 あたりを見回してみれば、見知った顔ばかりだ。……しかし妙なことに、自分の愛する主人の時代の人間と、その後の時代の人間が入り混じっているようだ。……しかも、おそらくは意図的に。

「あれ? ミユさんだ! ミユさーん!」

 背中側から届いた朗らかな声に、視界が明るく染まる。振り向かずともわかる。この声は。

「アリカ!」
「わーい! ミユさん久しぶり! 元気してた?」
「ええ。アリカも元気そうで」

 抱きついてくる愛しい人を抱きしめ返す。この胸に湧き上がる、機体の温度が上がるような感覚を「愛」と言わずなんというのだろう。

 一歩引いて確認したアリカの姿は、マシロ女王のオトメとして使命を果たしていた頃のものだった。まだ幼さの残る顔に、思わず頬の筋肉を緩ませてしまう。

「あのねあのね! すっごいことになっちゃったの! マシロちゃんがマシロちゃんじゃなくてね! ニナちゃん、イリーナちゃん、エルスちゃんはいつも通りなんだけど……あ、あとトモエちゃんも前会った時と変わってない。だけどそう! 准将が!」
「准将?」

 アリカの言葉に、膨大な記録の中を探り、最適解を導き出す。この世界に准将は星の数ほどいれど、彼女がいう准将といえば、エアリーズのアーミテージ准将のことだろうか。

 アリカの指の先を見てみれば、目立つ髪色をした騒々しい彼女はすぐに見つかった。……エアル時代の、見知った顔と共に。

「ちょっ、あなたなんなのよ! 離れなさい!」
「ハルカちゃんかわいい〜。地球時代のハルカちゃんだよね。学生さんなのかな? 制服ってやっぱりいいなぁ。エアリーズの学校も制服にした方がよかったかな」
「あれは、止めた方がよろしいのですか?」
「アタシもわかんないんだよね。大統領は嬉しそうなんだけど」

 准将ではない少女をぎゅうぎゅうと抱きしめたまま頬擦りをしているのは、エアリーズ大統領を任期満了まで勤め上げた、史上最年少の大統領、ユキノ・クリサント閣下。幼い頃からの親友であるハルカ・アーミテージ准将とはかたい絆で結ばれていると聞いていたが……何やら度が過ぎているようにも思える。

「雪之ー!? どこにいるの雪之! 返事なさい!」
「なあに? ハルカちゃん」
「なんであなたが返事するわけ? 雪之は……ってまさか!?」
「ふふっ。そう、実は私がユキノなの」
「はぁああああああっ!? おだまらっしゃいそんなことあるわけないでしょう!?」
「エアルと地球っていう違いだけだし、似てるはずなんだけどなあ。あなたが知ってる私は、私と違うの? ハルカちゃん今学生さんだし、私も同じくらいなのかな」
「な、何を言って……。雪之はあんたみたいな距離感おかしい痴女じゃないわよ! まるで藤乃みたいなことを!」
「藤乃……もしかして、シズルさんのこと?
「シズル……ってええっ!?」
「彼女なら、こっちに来てるみたいだけど……。ふうん。そっか。こっちの世界の私は、まだハルカちゃんに甘えて、守ってもらってるんだね」
「はあ?」
「「私」が迷惑ばかりかけてごめんね。会えたらちゃんと、私から言うんだけど」
「何知った口聞いてんのよ! 私が! この私が!! 雪之を選んだの。私がそうしたいと思ったから。たとえアンタが雪之だろうと、誰にも文句は言わせないわよ!」
……敵わないなあ、ハルカちゃんには。からかっちゃってごめんね。ハルカちゃんが可愛くって。ふふっ、私も負けられないな」
「な、何を」
「そっちの私のこと、ハルカちゃんのこと、いっぱい教えてね」
「は、はいいいい!? だ、だから離れなさいよおおおおお!!」
「アリカ、あそこにいるのはハルカ・アーミテージではなく、珠洲城遥という人間です。地球時代の人間ですね。同じような顔をしていますが、彼女とは別の生命体です」
「そっくりさんだけど別人、ってこと?」
「そうなります」
「そっかぁ。でも大丈夫かな? 准将、大統領に食べられちゃいそう」
「どうにかするでしょう。あちらはあちらで。一応元大統領ですし、犯罪にならない程度でおさめるはずです」
「そっか! あ! ナオせんぱーい!」

 意識の切り替えが早い。さすがアリカです。

 アリカが駆け出していく方向に視線を移せば、ローブを展開したままの破絃の尖晶石、ジュリエット・ナオ・チャンが不機嫌を隠すこともなく立っていた。

「アリカ。アンタもいたのね。てかなによここ。まじで意味わかんないんだけど」

 変わらず不遜な態度を取り続ける。アリカがいいと言うから見逃しているものの、アリカに対して失礼な態度を取り続けるのはいただけない。

「奈緒〜! お前ここにいたのか! 探したぞ! ん!」
「はあ? 誰アンタ」
「なに!? おまえワタシは忘れたのか……? な、奈緒、おまえ、私のこと、嫌いになったのか? 私がいると、迷惑か……?」
「はぁ? 何アンタ意味わかんな……ってなんで泣くわけ!?」
「ナオ先輩が泣かせた」
「泣かせましたね、アリカ」
「アタシのせいなの?! ちょっ、保護者! どこにいんのよ回収しにきて!」
「なおぉぉおおお……ワタシはおまえが好きだぞぉおお」
「ほんっとなんなのよアンタたちぃいいい!!」
「はーいそこまでー。ごめんなさいね。ってあれ? 奈緒ちゃん?」
「は? アンタだれ?」

 美袋命の首根っこを掴んだ鴇羽舞衣を確認し、その場を離れる。これでしばらくは持つだろう。アリカを雑に扱った罰としてしばらくは混乱しておいてもらおう。

 アリカはというと、キョロキョロとその宝石のような、あのお方と同じ瞳で辺りを見回しては、旧友たちと楽しそうに言葉を交わしていく。そして、その先に現れたのは。

「あれ? あれってもしかして」
……レナ」

 レナ・セイヤーズ。かつての主人。守るべき大切な人。そして、アリカの。

「お母さん!?」

 眩しい。そう思ってしまうほど、輝く。今にも駆け出しそうなのに、彼女は許可を得るようにこちらを見上げている。主人は。私が守るべきはあなただというのに。だから、言葉をかける。きっと今、この時に最適なその言葉を。

「いってらっしゃい、アリカ」
「うん! いってきます!」

 三つ編みを揺らし駆け出していった主人を見送り、一人になった。騒々しいあたりを見回す。旧友と再会した人間。旧友とは違う存在に戸惑いつつも心を許していく人間たち。そんな存在を見ていれば、自分の中の記録が、勝手に脳内に溢れてくる。

 かつて唯一の存在だった、己の主人。
 自分を愛してくれた、尊き存在。
 私の、かけがえのない人。

「深優」

 天使のような美しい声で名前を、彼女が呼んでくれたから。

 果てのない時間の旅を、続けてこられたのだ。

「深優」
……え」
「深優。やっと気づいてくれた?」

 上目遣いに自分の顔を覗き込んでくるその人は、数百年も前に、自分が見送った人。その姿は、愛らしい少女時代の、あの頃のままだった。

「もう。深優ったらあの子たちに夢中で、私に全然気づいてくれないんだもの」

 嫉妬しちゃうわ。

 ぷくり、と膨らませたほおは、年齢に相応しく、愛らしいものに映る。しかし己はその一方で、今目の前で起こっていることが処理ができていない。

 こんなこと、あるわけが。いや、だって、そうだ。その可能性はなくはなかったのだ。二つの世界が入り混じるこの、あわいで。

 彼女とまた巡り会える。奇跡にも等しいそれが、起こらないとも限らない。

「深優?」

 もう一度、名前を呼ばれ、これはそう、なのだと自覚する。

 アンドロイドは夢を見るのか。使い古された言葉が、脳内をよぎっていく。そんなこと、どうでもいい。科学的知見、記録、そんなことは、どうでもいいのだ。彼女が今ここにいて、私の名を呼んでいる。それだけで、十分すぎるくらいだった。

「お嬢、様」
「深優。……やっと会えたわね。ねえ、深優。お願いがあるの」
「貴女の願いならなんでも。それが、私の願いです」

 あの頃と変わらぬ瞳で、あなたが笑う。私だけを瞳に映し、私だけにしか向けなかった笑顔で。ああ、私はきっと、この時のために。

「名前を呼んで? あなたに、呼んで欲しいの」

 ずっと、見守ってきた。

 あなたの願いを、守り続けてきた。だけどあなたを見送った後、もう一度会うだなんて、考えたこともなかった。

 たとえ目の前にいるあなたが、私の記憶を使って作り出された存在だとしても、この全てが、世界が終わる数秒前の泡沫の夢だとしても。

「アリッサお嬢様……

 私の全ては、彼女のためのものだから。

 己にインストールされた人工知能は、アリッサと別れた後も進化を続け、人類が到達できない地点まで来ている。

 それなのに、それなのに。

 自身の中に湧き上がる、芽生えてくる未知の感覚に、私は言葉を紡ぐことができなかった。

「深優」

 その声でまた、名前を呼ばれたかった。

 私は、あなたのために生まれたから。

 あなたが、私の存在意義だった。 

 あなたの望みは私の望み。

 だからあなたは、あなたが失われた後、私が道に迷わないように、あなたが私の道を、敷いてくれていた。

 私が寂しくならないように、私があなたを忘れないように。

 あなたと、そしてあなたを継ぐものたちと共に、あれるように。



 だから、ここまで、歩んでこれた。



……ずっと、アリッサお嬢様のことを、想っていました」
「ええ。知ってるわ。ありがとう、深優。……私を、そして、あの子たちを愛してくれて、ありがとう」

 彼女と初めて出会った時に自身の中に芽生えた『歓び』。自律思考型とはいえ、知識以外にインストールされておらず、学習する可能性は低いとされていた項目であったのに。

 外界を映し出すはずの網膜フィルター。その近辺から溢れ出してくるこの止まらないエラーは、一体なんなのだろう。

「ふふっ。深優ったら。いつのまにか泣き虫になっちゃったのね」

 ふわり、と温かいものに包み込まれる。抱きしめられている、と理解した瞬間、世界がまた、あの時見ていたような黄金へと色づいた。ああ、これは。私の、一番、『好き』な色。

「今日は特別よ? 泣き虫な深優のわがままを、一つだけ聞いてあげる」

 まるで子供に言い聞かせる母親のように振る舞うアリッサを深優は目を細めながら見上げた。

「何がいい? 深優」

 慈愛に満ちた瞳。まるで天使のようなその笑顔に魅了されたかのように口から言葉が紡がれていく。

「歌を」
「あなたの歌声を、聴かせてください」
「ええ。あなたのためだけに歌ってあげる」

 そして黄金の天使は歌い出す。ただ一人、私のために。

 ……これ以上の幸福があるだろうか。
 もう時を数えるのも忘れてしまうほど遠い過去から今を繋いだ、この歌。

 彼女の歌は綺麗で、お優しくて、澄んだお水のように透き通って見えるといったあの日のことを、私は一瞬として忘れない。彼女との日々の記録が最優先事項。他の何も、立ち入れない領域。

 ああ、やはり。彼女は私の光だ。暖かくて柔らかな、金色の光。

「私は、幸せものです」
「当然でしょう。私がいるんだもの」

 手を繋ぎ、まるでつられるように微笑みをこぼした。主人の瞳に、私がうつる。あなたにしか見せないと、かつては言われた表情。必要がないとされていた表情筋は見事にその役割を果たし、私は今まで観測した中で、最も穏やかな顔をしていた。

「深優さーん! アリッサちゃーん! 一旦集合だって〜」

 鴇羽舞衣の声に、立ち上がる。視線を下げれば、すぐにその宝石のような瞳とぶつかる。きっと、お嬢様も私を見つめてくれていたのだろう。

「さ、深優。私はあなたのマスターなのだから。きちんとエスコートしてね」
「はい。アリッサお嬢様」

 繋いだ手は暖かく、彼女の存在がここに在るのだということを知覚させ、また、瞳の辺りに水分が集まっていくのを自覚した。

 人間の思考でいけば照れ隠し、というのだろうか。かつてそうしていたように彼女を肩の上に抱え上げれば、彼女は「久しぶりね」と無邪気に笑ってくれた。

「行きましょう、深優」
「はい」
「あれー? 深優さん肩車してる! マシロちゃん! 私たちもあれやろーよ!」
「い、いえ、ですから私はっ!」
「みんな楽しそうね、深優」
「ええ、アリッサお嬢様」
「私も楽しいわ、深優」
「ええ。私も楽しいです。アリッサお嬢様」

 人の縁とはわからないものだ。ここにこうして、時代も世界も異なる人間が集ったのだから。そしてこれからも、未来は紡がれていくのだろう。世界のために、そして愛する者のために戦った、HiMEとオトメ。その者たちのおかげで。