⛓️誕2025小噺。⛓️のお誕生日にいつものようにお茶を楽しむ⛓️🌧️。誕生日メールでもナド・クライの話題に触れていたのでちょうどよかった。お誕生日おめでとう、⛓️殿。大切な人たちに沢山祝ってもらってね。
ヌヴィレットは目の前で繰り広げられる光景をまるで質の良い映影を観るような心地で眺めていた。ヌヴィレットの前ではリオセスリがティータイムの準備に勤しんでいた。リオセスリとの交際を始めて以降、リオセスリの趣味である紅茶に関する知識や自身で紅茶を淹れる機会も増えたが、リオセスリがティータイムの準備をする様は、いつ見ても素晴らしく美しく、どこか特別なもののようにヌヴィレットは思っていた。しかし。
「今日は君の誕生日だというのに、リオセスリ殿自身にお茶の準備をさせてしまうとは……」
本日はリオセスリの誕生日、と申告されている日であった。リオセスリが己の罪と向き合い、罪を償う為に新たな人生を歩み始めた日である。その審判を下した、いわば新たな生を与えたヌヴィレットと懇ろになるとは思いもしなかった、とリオセスリは思う。
ヌヴィレットとしては大切の誕生日を祝いたいと思い私室にリオセスリを招いたものの、結局いつもの逢瀬と同じように、リオセスリからお茶を振る舞われることになっていた。
「ヌヴィレットさんと一緒に飲みたいと思ってたお茶が手に入ったから、せっかくなら誕生日に飲もうと思ってな。これは完全に俺の個人的な趣味だし、それに付き合ってもらうだなんて、恋人としての特権じゃないかい?」
申し訳なさそうに言うヌヴィレットに、リオセスリは微笑みながら言う。
「それに、俺が好きなものをヌヴィレットさんにも楽しんでもらえたら、それが何よりの誕生日プレゼントさ」
「リオセスリ殿……」
リオセスリが言うように、もしリオセスリがヌヴィレットの好きなものを共に楽しんでくれたならば、それ以上に嬉しいことはないだろう。リオセスリの言葉に、ヌヴィレットは改めてリオセスリへの想いを実感した。こうした気遣いができるところが、やはりとても好ましかった。
「……だが、私としても君へプレゼントを用意している故、後で受け取ってもらえると嬉しい」
「もちろんさ」
ポットとカップを温め終えると、リオセスリはヌヴィレットと共に楽しみたかったという茶葉と、何かの瓶詰めを取り出した。
「それは?」
「ジャムさ」
「ジャム?今日のお茶請けということか?」
「ははっ別にダイエットしてる訳じゃないんだがな」
リオセスリは丁寧に、かつ手慣れた所作でポットに茶葉を多めに入れ、お湯を注いだ。
「これはナド・クライの紅茶なんだ」
「ああ。先日仕事で行っていたな。土産で貰った水は、非常に素晴らしいものだった」
ヌヴィレットは土産としてリオセスリから受け取ったナド・クライの水の味を思い出す。
「気になっていたお茶が手に入ったというのは、出張先で手に入れたものだったのだな。ナド・クライの茶葉というのは、有名なのだろうか?」
「茶葉がどうこう、というよりは飲み方が気になってたんだ」
「飲み方?何か特殊なルールでも?」
「ルールなんて大それたもんじゃないが、その飲み方に必要なのがこのジャムなんだ」
そう言って、リオセスリは瓶詰めを示した。
「ナド・クライもそうだが、スネージナヤでは濃いめに入れた紅茶にジャムや蜂蜜を添えて楽しむそうだ。なんでも北国では砂糖なかなか手に入らないかった時代に、砂糖代わりにジャムを用いたらしい」
リオセスリは博識で、ヌヴィレットと話す際もその豊富な知識を惜しみなく披露していた。殊、紅茶とマシナリー技術に関しては特に饒舌になる。
「成程。それでジャムが必要なのだな」
「ああ。これはナド・クライで採れるホワイトベリーのジャム。これも一緒に手に入れてきた」
リオセスリはティースプーンでホワイトベリージャムを掬うと、ヌヴィレットの前に差し出した。ヌヴィレットは一瞬ためらったが、行儀が悪いなどと見咎める者は誰も居ない。差し出されたジャムを口に含む。
「うむ……良い味だ。甘味は強いが、爽やかな酸味もある故、さっぱりとしている」
「そいつは良かった」
ヌヴィレットの反応に気をよくすると、リオセスリはスプーンに残ったジャムを迷わず口へ運んだ。リオセスリと交際をする中で、ヌヴィレットはこうした摘み食いや味見といった怠惰で横着な、しかし言い方を変えれば魅力的な行為を覚えていった。品行方正などという自身への賛辞とは程遠い姿だが、それでもヌヴィレットはそんな自分も悪くはないと思えるようになってきた。
「しかし、リオセスリ殿のお茶に関する知識は実に目を見張るものがある」
好きなものの話をするリオセスリはどこか少年のようで、ヌヴィレットはその様を見るのが好きであった。
「まあ、俺のはあくまで趣味の範囲だけどな。世界には色んなお茶の飲み方があるんだ。茶葉にフルーツの香りをつけたもの、茶葉を半発酵させたもの、茶葉を乾燥させて粉末にしたもの。国が違えばお茶の楽しみ方も違う。そう言った違いを味わってみたいんだ」
「それは良い」
「もちろん、ヌヴィレットさんと一緒にな」
「ああ。無論だ」
茶葉の蒸らし時間を計測していた砂時計の砂が落ち切る。
「良さそうだな」
リオセスリは、もうすっかり使い馴染んだ、二人が交際を始めた際に購入したティーカップに紅茶を注ぐ。小皿にジャムを取り分け、ティーカップと共にヌヴィレットへサーブした。
「召し上がれ」
「ありがとう」
リオセスリの教えに倣い、ヌヴィレットはまずジャムを一口含んでから、紅茶に口をつけた。
「うん。うまいな」
「ああ。ジャムの甘酸っぱさと、濃い紅茶の渋みとコク、それぞれの良さが際立っている」
「気に入ってもらえたみたいで、よかったよ」
ヌヴィレットの好反応に、リオセスリは満足気に笑う。ジャムと紅茶を楽しみながら、ナド・クライの土産話に花を咲かせた。
「そういや、ヌヴィレットさんからのプレゼントって何なんだい?」
次の一杯を注ぎながら、リオセスリはふと思い出したように言った。
「いや、別に催促してるわけじゃないんだが……」
決して物欲は強くない、むしろほぼないリオセスリだが、大好きな恋人からプレゼントの予告をされてしまえば、いやが上でも期待はしてしまう。
「ああ……そうだったな」
そう言ってヌヴィレットはキャビネットから縦長の箱を取り出した。マリンブルーのリボンが掛けられラッピングされたそれをリオセスリに手渡す。
「誕生日おめでとう、リオセスリ殿。君と出会えて本当に良かった」
「ありがとう、ヌヴィレットさん。ふむ……随分と重いな」
「開けてみると良い」
「じゃあ、失礼して」
断りを入れてから、リオセスリは丁寧にラッピングを解いた。
「これは……酒か」
「ああ。ブランデーだ」
「へぇ。ヌヴィレットさんにしては珍しいチョイスだな」
瓶に入った琥珀色の液体を眺めながらリオセスリは言った。リオセスリはそれなりに酒を嗜むが、ヌヴィレットはあまり好まず、二人で飲んだことは数える程であった。
「君の好むものを、と思い紅茶について色々調べていたのだが」
「なんでか酒になったのか」
「いや。それを紅茶と一緒に楽しむのだ」
「ほう?」
興味津々と言った様子でリオセスリがヌヴィレットを見た。
「リオセスリ殿は先程ジャムと紅茶を楽しむ方法を教えてくれたが、ナド・クライやスネージナヤでは体を温めるためにブランデー等を紅茶に入れる方法もあるそうだ」
「成程な。地域性が良く出てる」
「実は先程リオセスリ殿がナド・クライの話をした時、ブランデーの話題も出るのではないかと内心落ち着かなかった」
嘘をつくことができず、サプライズが苦手なヌヴィレットが心のうちを明かすと、リオセスリはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「ははっ例えそうだとしても、ヌヴィレットさんからのプレゼントはちゃんとありがたくいただくよ」
「……ありがとう、リオセスリ殿」
「それはこっちのセリフさ。ありがとうな、ヌヴィレットさん。俺の好きなものを調べてくれて、嬉しいよ」
ヌヴィレットから贈られたブランデーの瓶を嬉しそうに眺めながら、リオセスリは言った。
「また要塞に戻ったら楽しませてもらうよ」
「何故?ちょうど新しい一杯を淹れるのだから、今からでもたのしんでも良いのでは?」
「だが、ヌヴィレットさんは酒が苦手だろう?すぐ前後不覚になっちまうじゃないか。確かに俺の好きなものに付き合ってもらえて嬉しいとは言ったが、苦手なものを強要するつもりは……」
「リオセスリ殿」
途端、ヌヴィレットはリオセスリとの距離をぐっと縮め、ずいっと顔を近づけた。ともすればすぐにキスができるほどの距離であった。
「な……ヌヴィレットさん?」
「私は、リオセスリ殿の好きなものを共にたのしみたいと言ったつもりだ。確かに酒は得意ではないが、君と居るのだから問題はないだろう?」
「それはそうだが」
ヌヴィレットの詰め方にたじろぎながらリオセスリは言う。
「今日はせっかくの君の誕生日なのだから、多少は我儘になってみても良いのでは?」
「こんなことで我儘を言ってもなぁ……」
何故急にこのように詰め寄られているのかと思いながらヌヴィレットを見る。ヌヴィレットはリオセスリをじっと見据えていた。その眼差しに、リオセスリはヌヴィレットが言わんとしていることを感じ取った。
「ヌヴィレット、さん……」
「せっかくの誕生日なのだ。共に〝愉しんで〟くれないか?リオセスリ殿……」
潤むロマリタイムフラワーの瞳。まだブランデーを口にすらしていないのに、リオセスリの体温が一気に上がった。
「えらく情熱的なお茶のお誘いだな。もちろん、ありがたくいただくよ。ヌヴィレットさん。一緒に〝愉しもう〟?」
とは言え、ブランデーの力は借りなくてもよさそうだが。そう言ってリオセスリは、触れる程の距離にあるヌヴィレットの唇に、意思を持って触れた。
end.
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