お芋さん太郎
2025-11-23 14:23:01
1812文字
Public ちいさなSS @ONEPIECE
 

やぶ蛇




 ハートの海賊団の潜水艦〝ポーラータング号〟の食堂の一角を、ワノ国先行組のゾロ、ウソップ、ロビン、フランキー、そして侍たちが陣取る。これはロビンの指摘があってこその配置だ。
 同盟を組んだからといって、船内を他人がウロつくのは気分が悪いだろうし、万が一なにか思わぬ事態になったときに疑われないため。常に船員の目に届く場所にいることで、お互いが不信感を抱かずにすむという配慮だ。
 潜水中は二十四時間稼働しっぱなしということで、ハートのクルーたちは三交代制で仕事をしている。あたりまえのように食事の時間がてんでバラバラになるため、食堂や厨房には常に人がいるからちょうどよかった。
 とはいえ、麦わらとハートは船長同士が恩人だし、ハートのクルーも麦わらのクルーに命を救われている。もともと互いにフレンドリーな気質もあり、一味も侍たちもハートによく馴染んでいるので、要らぬ心配かもしれない。
 だからこそ、彼、トラファルガー・ローの行動は異質に思えた。
 ポーラータング号がゾウを出航して、半日はたつ。ローはそのあいだ、ずっと食堂にいた。一味たちとは反対側の部屋の隅で、黙々と本を読み続けている。
 特に何か言ってくるわけでもないし、あからさまな視線を向けるでもない。何というわけではないが、けっこう気になる。そういう気配に人一番敏感なウソップにとっては、特にだ。
 ドレスローザでともに戦った仲である。ゾウにも力を合わせたどり着いた。それなのに、そんなに信用されてないのか。
 正直にいうと、ちょっとショックだ。
「おーい、トランプやらないか?」
「あら楽しそう」
「おれは寝る」
「海外の花札でござるか!」
 休憩に入ったペンギンに誘われる。彼ともずいぶん仲良くなった。
 チラとローを見る。こちらに興味はなさげだ。
「おーい、トラ男はやらねェのか?」
 わざわざ近寄って声をかけると、さすがに目が合った。
「おれはいい。お前らでやってろ」
「なんっでお前はそういう……はぁ、おれたちは悪さなんかしねェし、ペンギンたちの目の届くところにいるからよ。無理しねェで、部屋に戻ってもいいんだぜ」
 自分の胸を拳で軽く叩き大丈夫アピールをすると、ローがワンテンポ遅れて「部屋?」と呟いた。
「自分の部屋のほうが休めるだろ」
 ウソップが補足すると、後ろのペンギンから声がかかる。
「あー、無駄無駄。この船、船長室ないから。お気遣いどーも、ゴッド」
「船長室がない⁉ 普通あるもんじゃねェのか? トラ男みたいなタイプは自室に引きこもってばかりだと」
「あァ⁉」
「ア、ごめんなさい……
 ウソップが驚きのあまり口にしたイメージが癪にさわったらしい。ローがめちゃくちゃ不機嫌顔で迫るものだから、ウソップはすっかり縮こまる。
「まー、ウチの船にも船長室はないがよ」
「船長がルフィですものね」
「この船にもないってのは、少々意外だぜ」
 フランキーとロビンの助け舟に、ウソップは「だろ?」と返した。
「じゃあトラ男は普段どこにいんだよ」
「そこ。あと、たまに医務室」
 ペンギンがローを無遠慮に指さすと、ローが顔をしかめた。
「昔はあったんだけどさ、船長室。でもキャプテンずっとここにいるもんだから、意味ないな〜って集中治療室にしちゃったんだよ」
「部屋なんて寝れりゃ済むからな。寝床は一般クルーと同室だ」
「べポとね」
 思ってたのと逆方向に徹底的である。ローの風貌から、てっきり一人が好きだと思い込んでいた。偏見はいけないなとウソップはひとりで勝手に反省した。
 しかしルフィは例外として、船長ともなれば機密事項などもあるのではないか。こんなにオープンでいいのだろうか。
 秘密を探るというよりは、少し心配になった。潜水艦で閉鎖空間ということもあり、この船のクルーはなにかと距離が近いので。
「でもよー、船長として大切なものとかあるだろ? そういうのはどうしてんだよ」
 ローがしんそこ不思議そうに首を傾げる。
「船長として大切? こいつらの他にか?」
 ペンギンたちを指さして、そう言った。ほとんど同時に。
 厨房でナベをひっくり返す、ド派手な音がした。
 ローに駆け寄るハートのクルーたち。
 足元にトランプが散らばる。
 もみくちゃになるロー。
 あっけにとられる侍。
 どうやらウソップは、やぶ蛇をつついたらしい。