お芋さん太郎
2025-11-23 14:21:43
1712文字
Public ちいさなSS @ONEPIECE
 

交渉




 ファミリーに入ってたかだか数ヶ月のローが、ドフラミンゴの部屋にやってくるのは珍しい。ドフラミンゴは常に忙しい身のため、細かい面倒ごとは部下たちが処理するからだ。
「ドフラミンゴ、ちょっと話したいことがあるんだ」
 だからロー自身が幹部たちの目をかいくぐり、こうして部屋までやってくるということはよほどの事態に違いない。ドフラミンゴは余裕たっぷりなふりをして、内心なにが飛びだすのかと身構えた。
「どうした、ロー」
「なあ、――デンゲキブルーっているだろ」
 なんだそりゃ。
「あ? ……デン、なに?」
「おいおい、デンゲキブルーだよ。海の戦士ソラの。敵の。あいつの技についての解釈なんだが、おれは……なあ、聞いてるか?」
「あ、あー、どちらかというと聞いてる」
 その答えに真面目な顔で頷いたローは、堰を切ったように講釈を始めた。ドフラミンゴの様子を見ながら、時には補足を追加して、「そんなことも知らねェのか」とあからさまにため息をつきながら。
 ローはもともとフレバンスの一般ご家庭の出身。つまりこの世界の中では裕福な層の人間。苛烈な過去と情熱的な行動原理があるとはいえ、理解力と共感力はそれなりにあると聞いている。
 良くも悪くも感性は「普通」寄りの、小憎たらしいクソガキ。じゃあこの時間はいったいなんだ。謎のジェルマ考察に相槌を打ちながら、ドフラミンゴは困惑の渦の中にいた。
 一方的な講義は時間にして数十分続き。
「まあ、こんなところか。あんたは頭は良いが、たまに常識を知らねェよな」
 一方的に閉じられた。クソみたいな言葉を残して。
 しかしドフラミンゴは、ガキの失礼を受け流せる器のデカいクールな大人である。あえてそれに乗っかって返す。
「ああ、そうだな。また今度教えてくれよ、お前の言う常識ってやつを」
「悪くない判断だ。ここらで一番知識があるのはおれだからな……だが断る」
 ローが自信たっぷりに答える。どこまでも失礼なガキだ。
 ちなみに彼の「ここらで」というのは、彼とバッファロー、ベビー5のちびっ子三人組のことをいう。子どもの世界というのはあんがい狭いのだ。
「調子に乗るなよドフラミンゴ。おれは海賊だぞ、情報にはそれ相応の対価ってのが必要なんだ」
 調子に乗ってるのはローである。
 だがドフラミンゴは感づいた。ここからが本題だ。
「フッフッフ、そりゃもっともだ。それでお前の望みはなんだ、ロー。金か? 自由か?」
 見定めるように、ねっとりとした口調で問う。ドフラミンゴはローに素質を見出しており、未来を買っている。彼を手放すつもりは微塵もなく、要求によっては手荒なマネもやぶさかではない。
 ローの一挙一動を見逃さないよう、サングラスの下でギョロリと目を動かす。むやみやたらと暴れるようなガキではないが、手りゅう弾を体に巻いて乗り込んでくるようなクレイジー野郎である。何が飛び出すのか分かったモンじゃない。
「アイス、三段、三人ぶん」
……ほう?」
「だから! アイス、三段、三人ぶん!」
 想像よりもずいぶん可愛らしい要求だった。
 チラリと部屋のドアの方を見る。こちらを覗く影が二つ。おそらくバッファローとベビー5だ。
 ドフラミンゴはいつも上向きの口の端をいっそう釣り上げ、ローの頭を乱暴になでた。そして電伝虫をつなげ。
「おい、誰か手の空いてるやつはいるか」
『どうしました、若』
「ちょうどよかった、セニョール。五段アイス、三人分を大至急だ。トッピングは全部つけろ、惜しむなよ」
『ただ今』
「それと明日からローに交渉のレクチャーを。あまりにもひどいぜ、こりゃあ」
 目線を下げると、こっそりとバッファローとベビー5にガッツポーズをするローがいた。手触りの良い帽子の上からもう一度なでつける。
「おい、やめろよ!」
「フッフッフッフッフ!」
 ふり払われた手で、ローに「もう行け」と合図する。ローはもう用など無いとばかりに走り去ったが、それすら愉快に思った。
 ドフラミンゴはいつも余裕で、クールで、ガキの甘えを正しく受け止められる、懐の深いスマートな大人なのである。