お芋さん太郎
2025-11-23 14:15:33
2223文字
Public ちいさなSS @ONEPIECE
 

熱烈船長




 美味しい料理に美味い酒。気の合う仲間と陽気なリズムを奏でれば、それが宴の合図になる。
 麦わらの一味とハートの海賊団が出会えば宴が始まるのは、もはや必然だ。
 ワノ国での同盟解消後から敵同士に戻ったはずなのに、それで済まないのが麦わらのルフィという男。彼の中で、敵と友達はなんと両立するらしい。隣あったふたつの船の甲板が宴会の会場に早変わりするのは、誰にも止められないのである。
 まあそんなこんなで、とにかく宴は最高潮。
 歌い踊るアホ面たちから少し離れた段差に腰かけ、ローはひとり酒瓶を傾けていた。そんなローに麦わらの一味の考古学者、ロビンが声をかける。
「となり、いいかしら?」
 いつも地獄のようにうるさい麦わらの一味の中でも、ロビンはどちらかというと話が分かるタイプだ。慣れ合うつもりは毛頭ないが、だからといって無下にする理由もない。ローはちらりとロビンを見やり、その問いに無言で肯定した。
 ロビンは花びらが舞うように、優しく腰を下ろした。ローに話しかけるでもなく、ただ皆の騒ぐ様子を見て楽しそうに微笑む。
 目線を辿った先は、腹をパンパンまん丸にして踊るルフィとその一味。そしていつになく羽目を外すハートのクルーたち。
 ロー自身、バカみたいに騒ぐのは好きではない。しかし気を許す仲間たちの楽しそうな姿は、見ていてなんとも心地良い。普段は気の張った海上生活――ハートの場合はもっと過酷な海中生活だ――を送る海賊だからこそ、この瞬間が永遠のように尊く、愛おしく思えるのだ。
 ふと気をそらすと、遠くから声が上がった。シャチがウソップと肩を組みながらジョッキを高く掲げ、ゲラゲラ笑って大声で叫ぶ。
「おーい! ローさァん! おれたちのキャプテーン! 乾パァ~イ!」
 するとそれを皮切りに、いたるところでハートのクルーたちが杯を上げだした。
「おいシャチてめェ、なに抜け駆けしてやがる! キャプテン! おれも乾杯~!」
「あッ、ずりィぞ! キャプテーン、おれもおれも!」
「我らがトラファルガー・ロー船長に!」
「キャプテ~ン! ヒューヒュー!」
「飲んでるか、船長~!」
 ローは律儀な男だ。「あいつら飲みすぎだ」とこぼしながらも、乾杯に応える。
「フフ……ずいぶんと熱烈ね」
「慕われねェよりはいいだろう。だが……それを言うならお前らもよほどだと、おれは思うがな」
「そうね」
 からかい口調のロビンにそっくりそのまま言葉を返すも、彼女は当然と言わんばかりにあっさりと答える。ローはそれがおもしろくなくて、フンとひとつ鼻を鳴らした。
「でもうちは船長の方がよっぽど熱烈」
 ロビンが耳をすますように、静かに続ける。
「ルフィは仲間のためなら、どこにでも何度でも手を伸ばすから。だから、つい応えちゃうの」
 それはどこか、遠い日を懐かしむような語り口。ハートの海賊団が今日まで航海してきたように、きっと麦わらの一味にも彼ら自身の物語があるのだろう。
 仲間が困っていれば平然と手を伸ばし、敵が世界政府だろうと四皇だろうと無理やりにでもすくいあげるあの船長である。ロビンが『熱烈』というのも頷ける。ただの大バカ野郎とも言えるが。
「怖いものが無ェのか、アイツは」
「あるわ」
 いつだって心のままに動くルフィは、相手が誰であろうと臆するようなイメージは無い。だから迷いないロビンの返答は、ローにとって意外に思えた。
 そんなローの心中を察したロビンが、小さく笑う。
「『仲間を失うこと』だそうよ」
 合点がいった。ロビンの言葉がストンと心に納まって、自身にじわじわと馴染んでいく。
 癪ではあるが、ひとつの海賊団の船長として、その気持ちは痛いほどにわかるのだ。
 ふと思う。二年前、頂上戦争で助けたルフィは、仲間と離れ、兄を失った直後だった。
 取り乱す彼を見て「自分の力量をはき違えたバカ」だとか「弱いのが悪ィ」と思ったが、それと同時に自分への戒めとしてその光景を心に留めた。
 仲間たちとの可笑し気な日常も、背中を合わせた戦闘も、笑ったことも、泣かせたことも、彼らの覚悟も、決意も。命と一緒にそれらも全部、船長であるローの預かりだ。黄色い宝箱に綺麗に並べた二十の愛しいハートたちは、ひとつだって取りこぼせない。
 自由であればあるほど「悪」といわれるこの海で、大切なものを護るのに「最悪」の称号はちょうどいい。手あたり次第の肉を吸い込むアホと並ぶのは、いささか不服であるものの。
 ロビンのグラスで遊ぶ氷が、カラカラと軽く笑った。彼女はまるで昇る朝日を浴びるように夜色の瞳を細め、黄色い麦わら帽子を見つめる。その眼差しは、ローの知る「あの人」のものとそっくりな温度をはらみ、そこに宿る感情の正体をローはすでに知っていた。
 ただし、その視線がローたちにも注がれることはまったくのお門違い。非難の意を込め、ジロリと睨む。このロビンという女は、人の一番やわこい部分を突いてくる。
「私が思うに、船長が熱烈なのはうちだけじゃないと思うけど?」
……うるせェ」
 踊る波の音や、肌を撫でるそよ風さえも茶化してるような気がして、ローは持っている酒を一気に飲みほした。安酒が鼻の奥をツンと刺激し、喉の奥から食道がカッと焼ける。頬も耳も熱いのは、きっと酒のせいだろう。
 ロビンはその様子を見て「あら、かわいい」とクスクス笑った。