お芋さん太郎
2025-11-23 14:10:19
1715文字
Public ちいさなSS @ONEPIECE
 

ハートとバラティエ




 そういえばお前ら、海上レストラン〝バラティエ〟って知ってる?
 誰ともなく尋ねたのは、同盟相手のクルーに東の海出身者が多いと聞いたからだ。まさにその一人であるウソップが首をかしげる。
「どうしたァ、突然」
「グランドラインを一周したら、今度は四つの海を回りたいって話でさ」
「まだ一周してねェのにか? ずいぶんと気が早ェな」
「いいんだよ、どうせするんだから」
 茶化すフランキーに、ペンギンがあっけらかんと答えた。
 背負う誇りと船長を微塵も疑わず、さらにその先を夢想する。それはハートの海賊団ではおなじみの光景だ。
 気質としては海賊というよりも旅人の方が近いかもしれない。いずれにしたって、楽しい目的は多いに越したことはない。
「グランドラインは四つの海から海賊が集まるだろ。酒場で他の海賊と居合わせると、いろんな話を聞くんだ。西の海には島全体が醸造工場になってる、酒の島があるとか……
「そりゃあいいな」
「南の海では、歌と踊りでプロポーズするとか」
「おもしろそうだな~」
 聞き耳を立てていたゾロとチョッパーも話に加わった。
 海賊というのは自慢話をしなければ死んでしまう生き物らしい。どこまで本当でどこからが嘘かは知らないが、どの島のどの酒場にも面白い話が集うから、この手のネタは山ほどある。
「じゃあ北の海では?」
「世界一くさい缶詰の話が定番だ」
「欲しいならやるぜ。まだ船にあったはず」
「なんでそんなモン持ってんだよ!」
「使い勝手がいいんだよ。敵船に投げつけたり」
「武器かよ!」
 ウソップのツッコミにひとしきり笑ったあとで、話は初めに戻る。
「それで東のやつらが口そろえて言うのが、海上レストラン〝バラティエ〟よ」
「海のど真ん中に魚でできた船のレストランがあるんだろ?」
「その味たるや、食ったら天にも昇るほどだとか」
「かわいい女の子が給仕してたりすんのかな~?」
「しかもオーナーが元海賊ときたもんだ!」
「だから東に行くんだったらバラティエは外せねェってワケ」
 あること無いこと口々に言いながら、ハートのクルーたちはポヤポヤうっとり顔をほころばす。心はもうすでに東の海の波に揺られているようだ。長く航海を続けていると、三度の食事も娯楽のひとつとなるので無理もない。
 その様子を見てニヤニヤいじわるに笑うのが、ゾロとナミとウソップ。ゾロは無言で酒瓶を傾け、ウソップは長い鼻を高々と天に向けた。ナミにいたっては金勘定をはじめる始末。
 その空気を、ハートのクルーは正しく読んだ。
「お、おい、なんだよその顔! まさかお前ら行ったことあるのか⁉」
「なに⁉ どうだった? やっぱりうまいのか?」
 掴みかかる勢いで詰め寄る。ローまでもが興味深そうにやり取りを聞いていた。
 能天気に答えたのは、麦わらのルフィ。食べることが大好きな彼は、ニコニコ笑顔の上機嫌だ。
「うめェぞ! サンジのメシはいつもうめェ!」
「おい麦わら屋。話を聞いてなかったのか」
「黒足のメシがうまいのは十分わかってるって」
「おれたちが聞きたいのはバラティエの話でさ」
「いいな~、おれも味わってみてェよ~……
 ぶーぶー文句をたれてると、キッチンに続く扉から>噂のサンジが顔を出した。大皿をひとつ、ふたつ、おまけに頭にもうひとつ。それぞれ焼きそばが山のように盛られていて、麺のすき間からはピカピカ光る貝やエビがチラリとのぞいた。その美しさに歓声と拍手がわいて出る。
 鼻がよろこぶ出汁の香りを体にまとい、サンジは重たい皿を器用に並べ。
 そして、たったの一言。
「おらよ。海上レストラン〝バラティエ〟元副料理長さまの、おれ特製、海鮮塩焼きそばだ。ありがたく食え」
「え?」
 投げやりに言って。
「ナミさ~~~ん! ロビンちゅわ~~~ん! イッカクちゃ~~~ん! デザートはいかが~?」
 嵐のように去っていった。
 大小あわせて二十一個の口がポカンと開く。
 ハートたちが正気を取り戻したのは、ルフィが焼きそばの山をほとんど片付けてしまったころ。
 ナミからは後ほど、高額な請求がされたのだった。