お芋さん太郎
2025-11-23 14:06:26
2162文字
Public ちいさなSS @ONEPIECE
 

きみはともだち




 キュロスは人を探している。ドレスローザがドフラミンゴの支配から解放されて以来、ずっとだ。
 探し人がどんな人間か、キュロスは知らない。どんな目の色をして、どんな音楽が好きなのかもわからない。なぜなら彼と知り合ったとき、キュロスも彼も、お互いおもちゃだったからだ。
 つらく苦しいおもちゃ生活の中にも、キラリと光る友情があった。キュロスと同じくシュガーに操られていない彼には常に支えられたし、ドフラミンゴとの戦いにも危険を顧みずに協力してくれたのだ。
 彼には感謝が尽きない。直にあって礼を言い、ぜひ娘のレベッカにも紹介したい。
 その一心で、キュロスはとあるパブに通い続けている。

『おれはいつもコロシアムの東の通り、ドーナツ屋の隣のパブにいる。カウンターにね。店を見渡しながら、マスターの話を聞くのがおれの仕事だ』
『それが仕事だって⁉ 冗談だろう』
『冗談だったらどんなに良かったか! マスターは世間話が下手なんだ。ドーナツと一緒に揚げられた方が、まだマシさ』
『まったく、君ってやつは……ハハッ!』

 かつての会話を思い出し、クスリと小さく笑いをもらした。調子のいい言葉はこびと、彼によく似合うカウボーイハットがやけに懐かしく感じる。
 彼の言っていたパブは、ドフラミンゴの糸にはギリギリ切られずに済んだらしい。ドフラミンゴの連行後まもなく営業を再開し、復興に携わる人の日々に潤いを与えている。
 キュロスは今日もそのパブに足をのばし、カウンター席に座った。テーブル席はいくつか埋まっているが、カウンターには、キュロスを除いて誰もいない。
「軍隊長さん、訓練でお疲れかい」
「そうでもないさ」
「そりゃ頼もしい」
「いや、私はまだまだ……。ビールと、ベーコンとブロッコリーのやつを頼むよ」
「いつものだね、ちょいとお待ち」
 キュロスが力なく微笑んで注文をすると、マスターが準備に勤しむ。良くも悪くもいつも通りの様子に、拳をキュッと握った。

『銃を捨てろ! 手ェ上げな!  と、兵隊さんか。こりゃどーも』
『なんだ? 君もおもちゃなのか?』

『レベッカと喧嘩した⁉ あんたらしくもない!』
『大人げないことは分かってる。しかし……

『兵隊、あんたは強い。おれが保証する! だから大丈夫だ』
『君にそう言ってもらえると勇気がでるよ』

『あんたはドフラミンゴの元へ。おれは街を見てくる。これも保安官の仕事さ。まあ、おもちゃだけど!』
『ああ、君も気を付けて――

 お互い振り返ることはなかった。それぞれの守るべきものが、目の前にあったからだ。それでいつしか、彼のことだけ見失っていた。
 ドフラミンゴの一件で、犠牲者は少なくなかった。行方不明者だって多くいる。
 だから彼も……とは思っていないが、果てなく待つには思い出が多すぎる。大きいはずの背中を小さく丸めて、キュロスはジョッキを傾けるしかなかった。
 今日はもう帰ろうと立ち上がりかけたとき、白髪の老人がカウンター席についた。キュロスから二つ離れた席だ。マスターは旧友に会ったみたいに大興奮で、キュロスはじっとそれを眺める。
 老人は早々にシェリー酒を頼み、小さなグラスに入ったそれをマスターと乾杯。一気に飲みほして、手元の箱をマスターに渡した。
「待ちわびたよ!」
「苦労したさ。なにせ道具も素材も少ない」
「だけどあんたは腕がいい! 最高だ」
 マスターは箱にひとつキスをして、優しい手つきでそっと開ける。そして、片手で掴めるほどの人形を取り出した。
 まだこの国の人間は『おもちゃ』に敏感で、キュロスも一瞬、肩を震わす。しかし人形の風貌を見て、今度は違う感情で肩を揺らした。
「こいつとは、おれが寝小便していたころからの付き合いなのさ」
 マスターが声を弾ませながら、トレードマークのカウボーイハットをちょいと直す。
「ここにいないとしっくりこなくてね」
 保安官のバッジもしっかり確認し、カウンターの空きスペースへ。ちょうど店内を見渡せる位置だ。
「だから助かったよ、じいさん」
「仕事だからさ」
「またまた、謙遜して!」
 キュロスは人形に釘付けだった。小さな保安官の新品みたいにピカピカな眼も、意思をもってキュロスを見ているように見える。
「気になるかい、軍隊長さん。ではご紹介しよう! おれの友達の」
――ウッディ。ウッディだ」
 キュロスがかぶせ気味に言った。忘れるはずがない。キュロスが探していたのは、彼なのだ。
 彼は、ウッディは、『本物の』おもちゃだったのだ。
「あ、あれ、知ってたのか。まいったな、こいつそんなに有名だっけ?」
「マスター、ビールをおかわり。あと、ウッディにも頼む」
「え? えーと、ウッディにも?」
「乾杯したいんだ。彼と」
「そ、そうかい。わかったよ」
 マスターが首をひねりながら、ジョッキをふたつ、キュロスとウッディの前にそれぞれ置いた。
「それじゃあこいつはサービスだ」
 ウインクしながら、マスターがウッディの背中のひもを引っ張る。彼の声を聞くのも久しぶりだ。

『あんたはおれの相棒だぜ!』

 同時にジョッキをコツンと合わせる。キュロスの戦いが、これでやっと終わった気がした。