お芋さん太郎
2025-11-23 14:04:37
1829文字
Public ちいさなSS @ONEPIECE
 

ある夏の海の日常




 夏島の気候域に入り、泳ぐ魚が煮えるほどに暑い日のこと。ルフィとチョッパーは額にじっとりと汗を浮かべ、パチンコをかまえるウソップをワクワク顔で見つめていた。
「いっくぜェ〜! 必殺〝竹ジャベリン〟!」
「ギャ~! 竹だー!」
「竹がはえた〜〜〜!」
 着弾と同時に伸びゆく竹は、限りなく天に近づくも。
「いまだ、刈りとれ!」
「二刀流居合・羅生門!」
「ゾロナイス!」
 ゾロが刀を抜き、鞘へと収めるその一瞬。竹はパカンと縦に割れ、いい感じの長さに切りそろう。その早業に、たきつけた三人は目をまんまるにして遠くの空までさらなる歓声を飛ばした。
 ゾロは当たり前だと言わんばかりにフンと鼻を鳴らしたが、心中はまんざらでもなく、上がった口元は隠しきれていない。
 さて、続いて飛び出したのはフランキーだ。腕を掲げるいつものポーズを華麗に決め、そこかしこから工具を取り出す。
 ノミの扱いは一級品。小さな仕事も手抜きを知らないプロ根性で、瞬くあいだに竹のふしを取り除く。ロープだけでそれらを器用に組みあげ、おまけに小粋な装飾などもつけてやった。ディテールにこだわる派なのだ。
「ん~~~、スーパー!」
「いいぞフランキー!」
「流石だぜアニキ!」
「すっげ〜!」
 あっという間に長い長い竹の道が完成した。サニー号のキッチンからぐるりと伸びて、ゆるりと上がったり急に下がったり。たくさんのギミックを越えて、芝生の甲板に五分ほどかけて到達する仕様だ。
 満足なデキにフランキーが誇らしげに頷いていると、ナミが船室のそばから「じゃあやるわよ!」と声をかけた。
「おう! やれやれ!」
「やれー! ナミー!」
「冷却気泡!」
 天候棒から出る冷気が、夏の海の暖かく湿った空気と出会う。生まれた雲を大きく大きく育てあげ。
「できた、入道雲!」
「はいどうぞ」
「ありがと、ロビン」
 ナミがロビンから傘を受け取った。それをさしたタイミングで雨が降り始め、どんどん激しさを増していく。
「スコールだ!」
「雨水をためろー!」
 上の階に設置したタンクにたっぷり水をため込んで、準備は完了だ。
 男部屋からブルックがひょっこり顔を出す。彼が歩くたびに、チリンチリンと涼しげな音が響いた。はたから様子を見ていたジンベエが、不思議そうに首をかしげて近寄る。
「ブルック、それ可なんじゃ? クラゲのようで可愛らしい」
「今日みたいに暑い日、ワノ国ではみんなこれを軒先に吊るすそうです。楽器ではありませんが、興味深くて」
 小さなフックに風鈴を取り付けて、これで完璧。潮風に揺られて、耳触りの良い――ブルックに耳は無いが――澄んだ音色が船をつつむ。ジンベエはじっと目をつむって「これはいい」とその響きに聞き入った。
 計ったようなタイミングで、キッチンの扉が開いた。船一番の大食漢であるルフィが目をキラキラさせてサンジを見上げる。彼はこの時を、腹を空かせて今か今かとずっと待っていたのだ。
 ルフィだけではない。それぞれバラバラに活動していたクルーたちが、ぞろぞろと集合してきた。
 いよいよ準備は万端だ。
「おーい、麺の用意ができたぞ!」
「やったー! メシだ〜!」
「メーシー!!」
「ナミさんとロビンちゃんは上流の方へ。こちらです」
「ありがとうサンジくん」
「席を用意してくれたのね。嬉しい」
「幸せ〜〜〜♡♡♡」
「早くしろよクソコック」
「ンだとォ⁉ オロすぞクソマリモ!」
「おいサンジ〜! 早く早くー!」
「サンジさん、私お腹減りすぎてお腹の皮と背中の皮がくっつきそうです。お腹にも背中にも皮なんて無いんですけど! ヨホホホ!」
 バタバタと思いのままに席につく一同を横目に、ウソップが拡声器を掲げた。
『アーアー、みなさまのリクエストにお応えして、麦わらの一味No.2と名高いこのウソップ様が音頭を』
「よーし、みんなタレは持ったな? それじゃ、流しそうめん大会の――
『ってオイ』
「始まりだ〜〜〜!!」
「おー!!」
 船長のかけ声とともに、大量のそうめんが滝のようにしぶきをあげて滑り下りる。口いっぱいにそれをほおばり、つるつると喉越しを味わい、鼻をツンと刺激するいじわるなワサビに涙した。
 ジリジリ肌焼く太陽の下、千の海を超える太陽の船の上。賑やかな昼間の宴は時計がぐるっと一周し、月が眠るまで終わることはない。
 そんな、ある夏の海の日常。