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お芋さん太郎
2025-11-23 14:03:02
1598文字
Public
ちいさなSS @ONEPIECE
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鳴らせ満月
今日はロックな気分。
音楽ではなく、酒の話だ。
ぬるい潮風を感じながら、月見酒を楽しむ。泣く子も笑うルンバー海賊団の船長ヨーキと副船長のブルックは、慌ただしい航海中でも、そんなひと時を大切にしている。
ちょうど今日は満月で、甲板はライトが当たったステージみたいに明るい。長く伸びたふたつの影が、グラスをカチンと合わせた。
会話の中身はなんてことない。最近あった面白いことや、船の床板のきしみ具合、新入りの様子、明日の天気などの取り留めのない話だ。
くるくると話題は変わり、行き着く先は音楽の話。あの島の歌手は最高だったとか、ピアノの調律のコツとか、音楽についての話題は尽きることがない。
なんてったってこの船の乗船条件は、『音楽が好きであること』ただひとつ。クルーたちは全員音楽が大好きで、いつでも楽しく歌って踊る。陽気な音楽は鳴りやむことなく、泣いた子だって笑顔にさせるのだ。
ヨーキもブルックも、そんなクルーたちのことが大好きだ。かけがえのない、家族のような存在である。
しかし、すべてが順風満帆とはいかない。ヨーキは少し酔っていて、普段は歌ってばかりの口からポロポロと愚痴がこぼれだした。
「わかるぜェ、あいつらの言い分もよォ
……
自分の好きな楽器をやりてェ。そりゃあそうだ、おれたちゃ海賊だ。自由でなければ意味がねェ」
「ええ。わかりますよ、ヨーキ船長」
「でも、だからって! だからってなんで
……
十人いるクルーのうち八人がシンバル担当なんだよ~!」
「い、いいじゃないですか。好きですよ私、シンバル。なんか元気でますよね!」
そう。音楽好きが集まったルンバー海賊団だが、その内訳はシンバル奏者が異常に多い。しかもそれぞれ自分の楽器をこよなく愛してるので、楽器を変えろなんて言えるわけがない。
それどころかシンバル組合を自主的に作り、勉強会までしている。その姿勢は実に素晴らしい。
素晴らしいのだが。
「おれだって好きさ! だが八人は多すぎだ、うるさくってかなわねェ! おれは朝、いったい何デシベルで起こされてるんだよ! どうせなら毎日ブルックのバイオリンで優雅に目覚めたい
……
」
「キャ! なんだかプロポーズされたみたい!」
「オエ
……
いまのお前、不協和音より気持ち悪かった」
「失礼だな、あんた!」
せめてもう少しバランスの取れた編成であったなら。そう思うことも、なくもない。
「でもホラ、私は楽器全般できますし、シンバルじゃない方も二人いるじゃありませんか」
「一人はフルートな。合わねェだろ、シンバルとは! ゾウとアリがダンスできると思うか?」
「いやでも、もう一人はフルートじゃありませんし
……
」
「ワダイコな。なんだよワダイコって、どこの国の楽器だよ! 見たこともねェし
……
そしてなぜ代わりの楽器に銅鑼を選ぶ⁉」
ヨーキの目からこぼれる涙、涙、そして涙。ふだんの彼はめちゃくちゃ痛い注射をするときにしか泣かないというのに、よほど鼓膜が限界なのだろう。
しかしここは泣く子も笑うルンバー海賊団。ブルックはバイオリンを取り出し、高らかに叫ぶ。
「シンバルが八人なら、この海のどこかにまだ見ぬバイオリン弾きの仲間が五十人! フルートやクラリネットは二十人! トランペット奏者は十人はいるはず!」
「お、おお
……
大所帯だ」
泣く船長には、楽しい歌を。
「チェロやホルンやカスタネットもいるかも!」
「おれは手拍子!」
「いいですね!」
いつもの、あの歌を!
「歌いますか⁉」
「ああ、歌おう!」
さて、二人がこんなに楽しそうなのにクルーたちだって寝ていられるわけがない。次々と歌に加わり、ついには宴が始まった。
もちろん手にはシンバルを。ぴかぴか光る、満月みたいに空に掲げて。
そして朝日が昇るまで、五線譜が白紙になることはなかった。
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