お芋さん太郎
2025-11-23 14:02:03
1343文字
Public ちいさなSS @ONEPIECE
 

大好きの裏側




 メリー号の甲板でロビンが本を読んでいると、自分と本の間に一枚の手配書が滑りこんできた。犯人はルフィ。彼が満面の笑みでロビンに問う。
「ロビン、この手配書の名前読んでくれよ」
「〝モンキー・D・ルフィ〟」
「おう!」
 ロビンはルフィが言う通り、ルフィの手配書の名前部分をそのまま読んだだけ。なのに彼は、まるで自分が呼ばれたみたいにニッコニコで返事した。意図はまるでわからない。いつも通り。
「そんなのズルいわ、ルフィ!」
「航海士さん、どうかしたの?」
 上機嫌のルフィにナミが掴みかかった。どうやら彼女は何かを知っているらしい。
 ロビンが首をかしげてナミに聞くと、ナミは標的をロビンに変えて詰め寄ってくる。
「そもそもねえ、ロビンが悪いのよ! あんたがいつまでたっても私たちの名前を呼ばないから!」
「名前?」
「そうよ! 一緒に冒険してる仲だっていうのに、私のことはいつも〝航海士さん〟だし」
「おれは〝船医さん〟だ!」
 チョッパーが足もとでピョコンと跳ねて主張する。
「いいかげん、名前くらい呼んでくれたっていいじゃない!」
「おれは呼ばれた」
「ルフィ、さっきのはズルよ、ズル」
 ルフィが嬉しそうに笑っているのは、そういうわけだった。
 ナミの怒りがかわいらしくて、ロビンは思わずクスリと笑う。それを見たナミが、もっとプリプリ頬を膨らませた。
「あんたねェ!」
「おれも! 名前で呼んでほしいぞ、ロビン!」
「まあまあ、ロビンにだって自分のペースってもんがあるだろうしよ」
 ヒートアップしたナミとチョッパーを、ウソップがなだめる。しかし彼も名前の件は気になっているようで、目線はチラチラロビンに向かう。
 わかりやすくて可笑しいけれど、ロビンは笑うのをグッとこらえた。これ以上、火に油を注いだってしょうがないので。
「みんなが航海士として、船医として優秀すぎて、思わずそう呼んじゃうの」
「え?」
「ごめんなさいね」
「ええ⁉」
 いつもみたいに手を生やす。ナミのほっぺにつるんと添わせ、チョッパーの頭をフワフワなでてあげた。
「そ、そんな、ロビンったら……そりゃあ私は優秀でかわいくてスタイルも良いけど……
「褒められたって、嬉しくねーぞコンニャロがっ!」
「おれは⁉ おれは〝長鼻くん〟なんだけど⁉」
 ツッコむウソップの鼻をチョンとつつく。「かわいくて」と弁解しながら。
 三人はまっ赤に照れて、とろけてしまって、まるで海賊じゃないみたい。
「ずりィぞお前ら! ロビン、おれもおれも!」
 船長からしてこうなのだ。
 ルフィのほっぺをモニモニしながらロビンは思う。こんなに人懐っこい麦わらのクルーは、両手に満たない人数で偉大なる航路を臆せず進む。大切な仲間や友達のために、強大な敵にも立ち向かう。
 なんて力強くて、まっすぐで、かわいくて、愛おしいのだろう。温かい空気が流れるこの場所で、大好きな彼らに囲まれていたら、なんだか自分のことも大好きになれそうな気がする。
 ロビンは彼らに知られぬように、困ったように眉尻を下げた。
 彼らのことは大好きで。
 でも。だからこそ。

 ――怖いの。

 忘れちゃいけない記憶の中で、巨木は今も燃え続ける。