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旅人たちの野営

クリック君覇者実装一周年記念、ごはんをおいしく食べるクリ君のはなし
ソリス謎時空。野営にお邪魔することになったクリ君と旅人たちの一夜。

旅人たちの野営

 
 クリックが新しい配属先に向け本部を発ったのは三日前のことだ。モンテワイズ、フレイムチャーチで宿を取り、今日の夜中には目的地ニューデルスタへ到着できる見込みだった。
 ニューデルスタ平原に足を踏み入れたのは昼過ぎ。この街道は見通しが良く、遠くの景色までよく見える。豊かな草原が風に揺られるのを見ながらくねった道を進み、小川にかかった橋を越え、陽が落ちかける前にはニューデルスタの方角を示す看板に辿り着けていた。
 この調子なら、予定より早いな。そう思える順調な旅だった。が、クリックはここで足を止めることになる。暗くなる前だからだろうか、道から少し外れたところで野営をしている集団が見えたのだ。
 人数が多かった。見えただけで五人はいる。彼らは焚き火を中心に、何か手分けして作業をしているようだった。この時間だと、食事の準備かな。しかし、もう少しいけばニューデルスタなのに、なぜここで野営するのだろう。
 クリックは焚き火の周りで動く人影を見ながら、首を傾げた。無関係の自分が気にしても意味のないことだけれど、何か気になる。それに、なんとなくあの人たちの服装に見覚えがあるような……
「あれ? クリック君?」
「えっ⁉︎」
 急に背後から声をかけられ、不覚にも肩がビクッと跳ねてしまった。振り返って、そこにいる人物を見て、あ、この人はと思うのに頭が追いつかずに声が出ない。
「あ、ああ、あなたは」
「化け物を見つけたみたいな反応はやめてくださいよ。君、こんなところで何をしているんです」
 そこに居たのは、白銀の髪に深緑の法衣を纏った聖火教会の神官だった。その人の隣には、古めかしいケープ付きのコートの大柄な男性がいる。どちらもクリックには面識のある人物だった。二人は両手に水の入った木桶をぶら下げている。
「す、すみません……。お久しぶりです、テメノスさん。それから、オズバルドさん。僕はニューデルスタに向かう途中でして」
「ああ、そうなの。転属ですか?」
「はい。テメノスさんたちは、野営ですか?」
 そう、水を運んでいるということは、彼らもあの野営の集団の一員に違いない。どうも既視感のある人たちだと思った。
 クリックが尋ね返すと、神官はすぐに頷いてくれた。
「ええ、そうです。ふむ……君はニューデルスタか」
 確かめるようにそう言われ、クリックも神官に向かって頷く。
「そう遠くないですよね。テメノスさんたちは街には行かれないんですか?」
 クリックが純粋な疑問を口にすると、神官はふと野営の方に目をやり「ええ、まあ理由があってね」と小さな声で言った。
 なんだろう。気になるな。そう思っても、彼が敢えて言わないことを深追いするのも気が引ける。クリックと神官の間にしばしの沈黙が流れた。それを破ったのは、彼と一緒にやってきた学者だ。
……先に戻る」
 学者の大きな足が街道の石畳を砂利、と擦る。それでクリックは慌てて頭を下げた。
「あっ、お引き止めしてしまってすみません。僕も街へ行きますので。皆さんの旅路に」
 聖火のご加護があらんことを。そう続けようとした。が、そこで神官が言葉を遮ってくる。
「クリック君、急いでます?」
「えっ?」
「ニューデルスタに今夜中に着かなければならない?」
 そう言われ、日程を頭の中で確認する。転属する際、次の赴任先での勤務開始まではやや日数に余裕を作ってくれている。どんな移動手段を取るにしても、トラブルが無いとは限らないからだ。クリックはここまで順調にやってきたので、正式に着任するまでもう三日ほど時間がある。その間に借りる宿舎の部屋と身の回りのことを整えたり、街の様子を確認しておこうと思っていた。
 つまり、時間は充分に余っている。
「いえ、今夜中でなくても大丈夫です」
 クリックは考えをまとめ、しっかりと返事をした。クリックの答えを聞き、神官が唇の端をやや上げて微笑む。
「それは良かった。見ての通り、私たちは今、食事の準備をしているんです。君も食べていきませんか」
 神官の細腕が、水がなみなみと入った木桶を少しだけ持ち上げてみせる。学者は勝手にしろとばかりに、何も言わずに先を歩き出していた。
「え、えっ、いいんですか⁉︎ 僕が行っては貴重な食糧が減ってしまいますよ」
「それは気にしなくていいんですよ。気にしなくていいとすぐにわかりますから、まあ、来てみなさい」
 そう言って神官は、よいしょ、と木桶を握り直した。真っ白な手がもっと白く見える。すごく力を入れているからだ。重い物を持たせたままうだうだ長話はよくない。彼のいう通り、まずは野営地へ行ってみよう。
「では、ご一緒させていただきます……! それと、その水、僕が持ちますよ」
「おや、いいの? 持たせるつもりで誘ったんじゃありませんが」
「お安い御用ですよ。ちょっとした鍛錬にもなります。他にも手伝えることがあればやらせてください」
 神官が木桶を差し出すのを待たずに取っ手を握る。すると彼は笑ってそれを持たせてくれた。
 
 *
 
「こ、これは……!」
 神官に連れられ野営の現場へ足を踏み入れたクリックは、目を丸くした。火は三箇所に分けて焚かれ、それぞれに大きな鍋がかけてある。もう一つは石のフライパンのようなものが火にかけられていた。美味しそうな匂いが立ち込めている。
「おっ、クリックのあんちゃん! うっす!」
「あっ、ご挨拶が遅くなってすみません……! お久しぶりです!」
 狩人の少女(実は二十歳だそうだが、少女にしか見えない)に声をかけられ、クリックは調理中らしい旅人たちに向かって声を張った。みな、一度作業の手を止め、それぞれに歓迎の言葉をかけてくれる。
「クリック君にも手伝ってもらおうと思いまして。いいでしょう?」
 神官が食事の席にクリックを誘ったことを仲間たちに伝える。どこからも否定は上がらない。そのことに胸を撫で下ろしつつ、クリックは料理が進んでいる三つの焚き火に目を向けた。
「できることはなんでもお手伝いします!」
 クリックがどんと胸を張ると、神官が苦笑を浮かべつつ一番奥の焚き火を指差した。
「食べてくれさえすればいいんですがね。とりあえず、お水は奥の焚き火のそばに置いてください」
「はい!」
 指示に従い、水を焚き火のわきまで運ぶ。そこでは両手で抱えなければ持てなそうな大きい金属の鍋が火に炙られていた。
「ありがとうね、クリック君。助かるわ」
 その鍋の様子をそばで見ていた女性がクリックを労う。彼女は水色のスカートにエプロンで、今は袖を捲っていた。薬師のキャスティである。彼女が鍋の蓋を少し開けて中を確認すると、空いた隙間からもわっと白い湯気が溢れた。
「もうしばらくで食べられるから座っていて、と言いたいところなんだけれど」
 すぐに蓋を乗せ直し、薬師が息をつく。お疲れなのかもしれない。彼らは世界中を旅して歩いている。きっとここまでも長く険しい道のりだったに違いない。
「僕でお手伝いできることがあれば、何なりと!」
 言葉を被せる勢いで息巻くと、薬師は顔を綻ばせて笑ってくれた。彼女の透ける水色の瞳が、二つ隣の焚き火で調理をしている男に向けられる。黒い短髪で、がっしりした逆三角形の体型の男性だ。彼は商人のパルテティオ。今は黄色いコートも白い帽子も身につけていない。日に焼けて逞しい腕が、フライパンのようで妙に歪な形をした調理器具を懸命に支えていた。
「あの遺物……じゃなくて石鍋、とても重いのよ。ここは炊いてるお米の様子を見ているだけだから、あちらを手伝ってあげてほしいわ」
 今、料理に全然関係ない言い間違えをしたよな、と多少引っ掛かりを覚える。が、人間誰しも間違うことはあると気に留めず、クリックは薬師の頼みに従った。
「おー、元気にしてたか?」
 クリックがそばに寄ると、焚き火の前に屈んで調理していた商人が笑顔を向けてくれた。白い歯がきらりと光る。ついでに、額から輪郭を伝う汗も光っていた。火の前だし、石鍋はとても重いというし、すごく暑いのだろう。
「はい! 偶然ではありますが皆さんとまたお会いできて嬉しいです。食事まで誘っていただき……! その鍋が重いと聞いたのでお手伝いしたいのですが」
「お、手伝ってくれんのか? そいつはありがてーな」
 商人は木べらで石鍋の中身が焦げ付かないよう撹拌していた。木べらを鍋の端に置き、腰から片手で手拭いを一枚取り出す。それをクリックに渡し、彼は鍋の向こう側を指差した。
「そっち側にも持てそうな出っ張りがあるだろ? 一緒に支えてくれると助かる。すげー熱いからその手拭い使って掴んでくれ」
「はい!」
 すぐに言われた通り、商人の向かい側に回る。石鍋はやはりおかしな形をしていた。商人が掴んでいる方が出っ張りが長く、こちら側が短い。焚き火の上を覆えるくらいに大きいため、片手はさぞかしきつかっただろうなと思う。
 クリックはしっかり重さを負担することを意識し、自分側を少しだけ高めにして鍋を支えた。商人が「ラクになったぜ」と言いつつ、木べらで中身を混ぜる。中身は、米と細切れの肉だ。甘くて香ばしい湯気が上がっている。きっと玉ねぎや動物の脂なんかも使っているんだろうな。
「おいしそうですね……
「だろ。この石の内側にも旨みがこびりついてるっていうから一生懸命混ぜてんだ」
 鍋の内側に旨み……? 聞いたことがないが、クリックは特段料理に詳しいというわけではない。わからないまま頷いていると、今度は隣の鍋で腕を振るっている人物が声をかけてきた。
「パルテティオさん、どう?」
「おう、見てくれアグネア。いい具合じゃねーか?」
「うん! お肉にも火が通ってるし、出来上がりだね! 火から外して少し置いといたら、お焦げもついて最高になるよ!」
 商人に声をかけた女性、踊子のアグネアは、大きな瞳を輝かせて笑った。彼女の前の鍋にも米が入っている。そちらの鍋は調理用のごく一般的な金属の鍋で、取っ手の下に鍋を支える支柱がある。
「そちらもおいしそうですね……!」
 商人と一緒に焚き火から石鍋を外しつつ、隣の鍋を覗く。木の実のようで木の実でなさそうな青や紫の粒、サイコロのように真四角に切り揃えられた何かの白い身、橙色の薄い帯状の何か。これらとカラフルな野菜が米の上に並べられ、見るからにおいしそうだった。
「こっちはパエリアだよ! といっても、材料はあるもので作ったから、パエリア風、かな」
 言われてみれば、商人が料理していた鍋の肉の匂いに混ざってほんのり香草のいい匂いがする。パエリアと言えば魚介類。ということは、白い身は貝柱で、橙色の帯は貝ひもかな。じゃあ、この青い粒は……
「その青い粒々はなんですか?」
 海藻かな? そんなつもりで軽々しく聞いてしまった。すぐに返って来ると思った答えは返ってこず、踊子が少しの間目を空中に彷徨わせる。
「え、えーと……貝のたまご……?」
「貝の……たまご」
「たまごっぽくない? ぷちぷちしておいしいんだよ!」
 そう言って踊子は頬を赤くさせながらとびきりの笑顔を浮かべた。なんだかよくわからないけど、おいしいならいいか! そう思わせてくれる明るい笑顔だ。クリックは踊子の笑顔に釣られて笑い、それ以上の言及をやめた。
「さ! 第一弾は完成したし、クリックさんとパルテティオさんはあっちで先に食べて!」
 踊子が手のひらで焚き火の後ろを示す。そこには座るために置かれたと思われる丸太や敷布が用意されていた。
「アグネアさんは?」
「もう一回作らないといけないし、あたしとキャスティさんは味付け係だから最後でいいの! 水汲みと料理とお片付け、みんなで交代しながら食べるんだよ」
 なるほど、全員分作り終えてからでは冷めてしまうから、上手いこと交代しながら食事をするのか。クリックは大人数の野営を改めて眺め、すぐに納得した。
 最初に水汲みをしていた神官と学者は狩人に桶を渡し、食事の席についていた。食材を切り分ける役は盗賊から剣士へ。最初に食べたグループが片付けを担えば、とても円滑に進むだろう。
「わかりました! では、先にいただきますね」
「うん! たくさん食べていってね!」
 そうして食事の支度ができた頃には空が赤らみ日が沈み始めていた。焚き火とランタンの灯りが、木々の影になった野営地をあたたかく照らす。
 石鍋(?)や、貝(?)について結局あやふやなままだが、皆で囲んだ料理はとてもおいしそうで、何も気にならなくなっていた。
 
 *
 
「それでは皆さん、お祈りの時間です」
 先陣のグループが中央に置いた料理を囲み、思い思いの場所に座ったところで、神官がそう言った。クリックはそれにやや驚きを覚える。全員が聖火教信徒ということはないと思うのだけど。なのに、彼らの間ではこれが浸透しているのか、盗賊や学者でさえも一度姿勢を正し、丁寧に指を組んで目を閉じたのだ。
 もちろんクリックも祈りを捧げることに異論はない。皆と同様に手を胸の前で合わせ、目を閉じた。
「今宵の食事に感謝を……。では、いただきましょうか」
「いただきまーす」
……頂く」
「よーっしゃ、食おうぜ!」
 まだほわほわ湯気を立てる料理に、皆が匙を伸ばし始める。どちらも米もので、鍋ごと置かれている様はなかなか圧巻だ。米粒がきらきら光っている。こんなにたくさんのご飯、騎士団の野営でも見たことがない。
「ほら、クリック君、遠慮しないで食べて」
「あっ、すみません! こんなにたくさんのお米を見たことがなくて、感動してしまいました……! 僕もいただきます!」
 隣に座った神官に促され、取り皿と匙を握る。どっちから食べよう……。すでに他の仲間に取られているのに、全く減った感じがしない。どっちと言わず、半々に盛り付ければいいか。クリックは皿の上に二色の米の山を作り、丸太に座り直した。
「お米ね、平野の北の方に住んでいる農家さんをお助けしたところ、お礼にと持たせてくださったものなんですよ」
「あ、そういうことだったので⁉︎」
「ええ。荷車が壊れて困ってらしたんです。荷運びなら、こちらは人数でなんとかなりますから」
 神官はそこで喋るのを一度やめ、パエリアをひと匙口に入れ、ゆっくり味わった。うん、おいしい、と彼は頷き、クリックに目を戻す。
「それで、お米をもらったのはいいのですが、特大の麻袋二つ分もあってね。日持ちするのはありがたいけれど全部を持って歩くのは無理があるでしょう。なので、大半を今日食べてしまうことにしたんです」
「納得です……
 どうりで米ばかりな訳だ。神官が自分を誘ってくれた理由も、なんとなく推し量れる。八人いても、米が多すぎるからだ。これは本当に、遠慮せずどんどんいただかねば。
「たくさん食べればいいんですね!」
「その通り。期待していますよ。フフ……
「騎士の名にかけて、必ず成し遂げます!」
 クリックがそう言うと、料理を挟んで向こう側に座っていた盗賊が肩を揺らして笑った。
 さて、まずは石焼き飯をいただこう。クリックは盗賊に照れ笑いを返すのもそこそこに、飯の山に匙を突っ込んだ。肉の脂を纏って艶々したお米は、その見た目だけで充分食欲をそそる。味付けは見ていないのでなんの色なのかはわからないが、米粒はこんがり黄色っぽく焼けていてそれもまたおいしそうだった。
 口を大きく開き、お米とお肉をお迎えする。肉の旨み、米についた香辛料らしきものの味、米の甘み、全てが適度に重なり、クリックは口をもごもご動かしながら喉の奥で唸ってしまった。
「んん〜!」
 うまい! 声に出さずにはいられないうまさだ。レストランの丁寧な料理とは違う。大きな鍋でざっくり作った少し濃い味の料理。何か病みつきになりそうなうまさがある。
 石鍋(?)にこびりついた焦げの部分は、特に塩気を感じる。カリカリになったお米と相性抜群で、踊子の言う通り最高だった。
「こっちはどうかな……
 今度は、取り皿の反対側に盛った貝(?)のパエリアを掬う。ひと匙で貝ひもや身がうまいこと米と一緒にすくえて、にこにこしてしまう。
「ん、んん〜!」
 こちらもうまい! 魚介の生臭さを香草が抑え、味の良さを引き出している。魚介から出た出汁をたっぷり吸って炊かれた米がまた、とてつもなくおいしい。石焼きのご飯とは少し違う食感で、交互に食べると全く飽きない。
 そうだ、貝のたまご(?)も食べてみないと。米粒と同じくらいの青い粒を、ご飯と一緒に匙に乗せ、わくわくしながら口に運ぶ。
「お、本当にぷちぷちする……!」
 張りのある外側を噛み潰すと、中からとろみの強い液体が出てくる。それがまたうまい。濃い甘みに塩気が混じっていて、米と相性抜群だ。これだけを食べたら味がくどすぎるかもしれない。だからこそこうして料理に加えることでもっと美味しく感じられるのかも。
「このぷちぷち、おいしいですよねえ」
「テメノスさんもそう思われます⁉︎ 僕は初めて食べたんですが、皆さんはいつもこれを⁉︎」
 踊子の彼女も、最初からこの味を知っていたようだった。旅人の間では一般的な食材なのだろうか? クリックはそう考えた。
「うーん。いつもというわけじゃないです。ハーバーランドの方を通った時にたまに」
「ハーバーランドの味……!」
 確かに、言われてみれば魚介と言えばハーバーランド。港を持つカナルブラインでも、海辺の村コニングクリークでも、漁業が盛んだ。そこまで思い起こし、クリックの頭に一つの疑問が浮かぶ。
「しかし、海を越えるには日数がかかりますよね。魚介類を干したり漬けたりせず新鮮なままどうやってここまで」
 この貝(?)は貝柱(?)もたまご(?)も余計な味付けをされておらず、新鮮なままだ。米の入手経路から、彼らが今日野営をするのは突然決まったことだとわかっている。このために用意された食材ではないはずだ。
 クリックが尋ねると、神官はゆっくり一口パエリアを味わい、淡々とこう言った。
「簡単な話です。生きたまま連れてきたからですよ」
「はい……?」
「『かこう』はハーバーランドでされたのでなくここでされたということです」
「え、ええ……?」
 丁寧に説明されたようで、すんなり飲み込めない。クリックが飯を口に入れながら首を傾げると、神官はふわりと目元を緩ませた。
「別に隠しておくようなことじゃないですから、食材についても後でお話ししますよ。今喋っているとご飯が冷めますからね」
「はい……! では、後ほどぜひ!」
 そうだ。まずは一番おいしいうちにこの料理をいただかねば! クリックは匙を握り直し、山盛りいっぱい米を救った。こんなにおいしいご飯、次にいつ食べられるかわからない! 食後に旅の話を聞かせてもらえるのも、最高のデザートだ。
「みんな〜! 焼きメシ第二弾ができたよ〜!」
 もりもり食べ進めていると、焚き火の方で踊子が手を振って知らせてくれた。調理に参加していた剣士と狩人が、湯気をもうもうと立てる石鍋(?)を運んでくる。
「オーシュット、重さは大丈夫か」
「平気平気〜。キングイグアナくんの方が重かったよ」
 二人はそんなことを話しながら石鍋(?)をすでにある二つの鍋の隣に下ろし、敷布に腰掛けた。狩人が出来上がった飯に目を輝かせて身を乗り出し、耳をピンと立てている。
「うまそーっ!」
「そうだな。では、俺たちも感謝を捧げよう」
「うん!」
 剣士が敷布に正座をし、背筋を伸ばして手を合わせる。すると、狩人もその隣にちょこんと正座し、同じ格好をした。やっぱり感謝を捧げるのは彼らの通例らしい。なんだか胸が温まるな。クリックがそう思った時、狩人が元気な声で感謝を口にした。
「古代遺物くん、ヤドリガイくん、ありがと!」
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 名前?????
 疑問符が頭の中を飛び交う。曖昧になっていることだらけだが、ご飯がおいしいことには変わりない。それに、クリック以外の仲間たちは狩人の感謝に特に顔色を変えず食事を続けている。
 だから、クリックも笑って飯を食べ続けた。だってご飯がうまいのは真実だし、彼ら旅人たちと過ごすのはとても楽しいから!
 
 *
 
「皆、寝てしまいましたね」
「あんなに食べたらそりゃ眠いよ。名探偵は眠くないの」
「眠くないと言えば嘘になりますね」
 平原はすっかり夜に包まれていた。見上げる空には星が瞬き、夜でも明るく感じさせてくれる。
 仲間たちと客の聖堂騎士は、皆眠ってしまった。食事を並べていたあたりに敷布や寝袋を並べ、いろんな方向に転がっている。盗賊はそこから少し離れた切り株に腰掛け、夜を眺めていた。
「クリック君に食材は魔物だと説明しようと思っていたんですがね」
「ま、いいんじゃない。明日でも」
「ええ」
 テメノスがそばに立つと、盗賊は持っていた酒の小瓶を煽った。ほんの手のひらくらいしかない小さな瓶だ。
「飲む?」
 手元を見られていることに気づいた盗賊が、小瓶をテメノスの視線の上で揺らす。暗さで液体の色はわからないが、きっと琥珀色だ。
「いえ、私も休みますから」
「そ。おやすみ。ここは私がしばらく見張っといてやるから安心しな」
 酒を飲みながら? と苦笑してしまう。だが、その手にあるほんの少しで彼女が酔っ払うとも思えない。純粋に味を楽しんでいるのだろう。とすると……
……ソローネ君、持ってるでしょ」
「ん?」
「しらばっくれても無駄ですよ。持ってますね? おつまみ」
 指摘すると、彼女は笑って切り株の陰に手をやった。そこから、小皿が一枚現れる。青と紫の粒々ばかりが乗った、小さな皿が。
「ヤドリガイの粒々、こんなん酒のあてにするしかないじゃん」
「私たちの目まで盗むとは、呆れますねぇ」
「だって、子羊クン、ほっといたら全部食べちゃいそうだったんだもん。騎士の名にかけてさ」
 盗賊はそう言って、また笑った。彼女の鳶色の瞳が、向こうのほうで敷布に転がっている鎧姿をちらりと見る。その眼差しに、慈しみや優しさを感じ、テメノスも表情を緩めた。
「いいと思うけどね」
「ええ。私もいいと思います」
「旅が終わっても子羊クンがニューデルスタにいたら、酒に誘ってやろうかな」
「おや、楽しそう。私も誘ってくれません?」
「いいよ。代わりにコレ、見逃して」
 そう言って彼女は、青い粒々をひとつまみ口に入れた。