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つくも軌
2025-11-23 12:22:10
4047文字
Public
神×晴
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【神晴概念SS(私服×かうらヴぁ)】ワンナイト・ワンルーム
2025.11.23 ぐだ鯖WEBオンリー展示作品
神晴アウトローパロ 葉っぱ屋ラーメン店✕若頭
いろいろあって疲れた晴信が神玄さんとホテルで一泊するだけの話
前略
アウトローな世界で生きている甲斐の若頭・武田晴信は現状、非常に疲れていた。
毎日毎日殴っては潰し殴っては潰しの自転車稼業が続く厳しい抗争の中、あんなことやこんなことを散々やらかしてきたツケが回ってきたといえばそれはそうだが、
とにかく今は川中島だなんだと騒がしい戦場から逃避したうえで安心して眠れる、ただの『休み』が欲しかった。
そんな時、
『晴信、疲れていないか?』
なんとも狙ったタイミングで、親戚の『神』から急にトークが送られてくる。
彼は実子である勝頼がなんやかやあり「諏訪明神に祈ったら現れた」という神の類。
地元ではラーメン屋を表の顔とする〝徳栄軒神玄〟である。
そんな男が何故自分に連絡を送って来たのかといえば毎度「お告げである」とだけ言い残し、
「戦に勝ちたい」と口にすれば褒賞の約束を果たすまでは見守ってくる、そんな関係であったからだ。
「疲れてますけど、何かお告げですか?」
『うむ。ちょうどそなたと話がしたいと思ってな。近くのホテルを予約しておいたのだ。そこを使用するとよい』
「有難いですけど
……
そちらは迎えに行かなくて大丈夫なんですか?」
すると、少しのラグがあった後、無機質な文字列のトーク画面に〝シュポン〟と返事が返ってくる。
『そうだな。近くの駅まで来ておるのだが、改札が一向に反応せん。すまんが迎えを頼む』
……
そういうわけで、晴信は不思議な親類の『神様』を連れて、
急遽ワンナイトと洒落込むのであった。
■ワンナイト・ワンルーム■
「ようこそいらっしゃいました。それではごゆっくりお過ごしください」
そう言って、フロントの受付がエレベーターを押して宿泊者を見送ると、ドアが閉まり、予約した部屋のある階層まで送り届けられる。
「しかし、『あいしー』とやらはか弱きものよ。今回は勝頼のものを借りたのだが、やはり係員の世話になってしまったわ」
「
……
言ってくれれば車を手配したんですけどね」
「我も『ピッ』てしたい」
「そうですか
……
」
そんな〝下界への興味〟を示す神の反応に心底頭を抱えながらも壁に背をもたれていれば、あっという間に目的の階層にエレベーターが止まり、指定の部屋に辿り着く。
【当日予約朝食付き/ダブルベッド】プランでチェックインしたワンルームは『余り部屋』としては案外広く、清掃の行き届いた寝るには文句のない空間だった。
「いい部屋ですね。どうしてここをお選びに?」
「
……
予感がしたのだ。このあたりで晴信を泊めぬと、持病が悪化するだろうと」
神玄は懐から取り出した予約確認のメールのコピー(紙)を晴信に見せると、確かに数時間前にこの部屋の予約を入れたことが書かれている。
……
先の改札口の通り、恐ろしく機械と相性の悪い気質の上、予約自体は勝頼にやってもらったのだろう。
「それは、
……
まこと有難きことですが、もし、俺が来なかったらどうする心算だったんです。毎度のこと、改札で詰むような人なのに」
「ふふ
……
その時は末代まで呪うまで」
神玄と晴信は荷物をデスクの傍に置いて上着をハンガーにかけ、早速バスルームの扉を開くと、ちょこんと、浴槽の上に二匹のアヒルが歓迎するように置いてある。
どうやらアメニティのひとつらしく、フロント内線のあるベッドサイドのあたりを確認すると、ラミネートされたアヒルの絵とともに「アヒルちゃんがお風呂で貴方をお待ちしています。どうぞ連れて帰ってください」と書かれていた。
「愛いな。なかなかに気の利いた事をする」
「
……
持ち帰るんですか」
「当然よ。晴信は連れていかぬのか?」
「あー
……
その」
「
…………
」
神玄は二匹のアヒルを両手にのせて晴信のほうに近づけてみせると、黄色いボディのつぶらな瞳が2匹、じっとこちらを見つめているような感覚に陥る。
「
……
っ、分かりました、連れていきます、連れて行きますから!まずは湯水に浮かべましょう!」
そうして湯水の蛇口をひねり、水を混ぜて温度を調整しながら狭い浴槽に湯を張ると、神玄の手から放たれた二匹のアヒルがぷかぷかと水面を泳ぎ始める。
そのようすをじっと見つめては微笑んでいる神の姿は、まるで幼子を愛する母のようだ。
「
……
えっと、それでは湯に浸かっても?」
「
……
ああ、すまぬ。それが目的であったな。では、我は寝床にて待つとしよう」
そう言って、神は2匹のアヒルを最後に手のひらの上に浮かべると、「晴信をよろしく頼むな」と言い聞かせてから外に出る。
……
相変わらず、不思議な人だ。
傍から見ればスピリチュアルに『変な人』だと思われるだろうが、実際のところ数々の窮地を救ってくれた、まさしく『本物の神』である。
衣服を脱ぎ、湯に浸かると巨体の脚が湯べりにはみ出るが、寝そべるのに丁度いい斜面に頭を置いて天を仰げば、自然と長いため息が空に浮かぶ。
…………
しかし、今日は本当に疲れた。
『神』の宣託は正しかったようで、一度気が緩んでしまった体はだんだんと水の中で重くなり、思考が熱に浮かされていく。
頭が回らない。このまま、眠ってしまいたい。
そうして、目の前が真っ暗になると、肩のあたりにツン、とぶつかるものを感じてすぐに目を覚ます。
見れば、ふよふよと浮かんだアヒルが2匹波に乗ってこちらにぶつかってきており、まるで「ここで寝るな」と言わんばかりにつぶらな瞳をじっとこちらに向けてくる。
「ああ
……
すまん、つい、心地がいいばかりに
……
」
と、自然と声をかけてしまったが、当然だがアヒルは何も答えない。
少し、気恥ずかしくなって2匹のアヒルを連れて浴室を出ると、ちょうど持ち込んだ袋の中身をデッキに広げた神玄が朗らかな顔でこちらを迎えた。
「早かったな。もう少し浸かっていても良かったのだが」
「ああ
……
俺もそうしたかったんだが
……
こいつらに起こされてな」
神玄はタオルで水気を拭きながらデッキに置かれた2匹のアヒルに目を丸くすると、みるみるうちに口端が弧を描き、小さな働き者を指で撫でる。
「そうか。成らばよい。
……
して、我が店より軽い食事を持ち込んだが、そなたもどうだ?」
そこには綺麗に三角に握られた新米のおむすびと、水筒に入った温かい緑茶が置いてある。
現代人の夕食としては実にシンプルだが、真っ白な米は粒立っていてまだ温もりがあり、見るからに美味そうだ。
「では
……
いただきます」
体を拭いてホテルに用意された寝間着を着こんでからそれらをひょいと口にすると、絶妙な塩気の効いた米の中に自家製と思わしき梅干しが一粒入っており、
酸味としょっぱみに支配された口内に熱いお茶がとても合う。
「美味いか?」
「
……
とても」
ふっくらとした米の甘みを味わいながら、もう一つのおむすびにも手をつける。
こちらはラーメン屋の〝まかない〟に近い物なのだろう、醤油と鶏ガラがベースの甘い漬けダレを混ぜたご飯に細かく切ったチャーシューが入っており、
油分が多めのソレは夜に食べるにはだいぶ罪の味がする。
「ところで、勝頼は元気にしてますか」
「ああ。アレは良くも悪くも諏訪の子よ。そなたよりもよっぽど戦に飢えておる」
「そうですか
……
血気盛んなのは若い証拠ではありますが」
「
……
不安か?」
頬杖をつく神玄に対して晴信は素直に頷くと、噛み終えた米の塊をゴクリと呑み込む。
「出る杭は打たれる、というものです。ゆえに、戦は勝ち過ぎてはいけない」
ごちそうさまでした、と呟いてからふらふらと晴信はベッドに体を横たわらせると、急激に上がった体温がシーツを温め、自分が今、徐々に発熱しているのだと実感する。
「
…………
まだ、後悔しておるのか」
ひやり、と冷たいものが額に触れる。
それは体を丸めた晴信をいたわるようにくしゃりと髪をかきあげて、愛玩の如く優しく撫でる。
……
嗚呼、これが実の親の、愛する兄弟たちのものであったなら。
「そなたが甲斐に尽くす以上は、決して逃れ得ぬことであろう。それでも、あの者達はそなたを選んだ。成らばそれらを受け入れるまでよ」
「わかっています
……
わかって、おります」
体が熱い。
段々と息も上がってきて、息をするのもつらくなる。
眠らなければ。早く、眠ってしまわなければ。
「
……
辛いか、晴信」
頭を撫でられ、愛でられるうちに、意識が暗闇へと沈んでいく。
髪を梳く冷たい手の感触だけが自身の熱を取り払って、乱れた呼吸に、心地よい安堵を植え付けていく。
「何も悔いる必要はない。何も惜しむ必要はない。安心して、その身の熱に委ねるがよい」
最後に、ちゅ、と柔らかい感触が眉間のあたりに押しつけられると、晴信の意識はゆっくりと沈み、やがて闇へと落ちていった。
…………
朝。
晴信がパチリと起きると、その身は腕の中におり、自分よりも幾分か肉付きのいい体に押し付けられるようなかたちで眠っていた。
「
……
起きたか、晴信」
もぞ、と髪を撫でる手つきがやはり心地よく、無意識に「もっと」と目を細める。
添い寝など、いつか愛人にしてもらった時以来のことだが、熱く燃え滾る病熱の体を冷まし慰めて朝を迎える穏やかな時間は、存外悪くないものだ。
「体調は、大事ないか?」
眠い目を閉じては開きながら晴信は唸ると、雪のように体温の低い神玄の背中に手を回して頬を寄せる。
確かに、昨日よりは幾分か体の調子がいいが
…………
もう少しだけ、自身を沈めた冷たい湖に溺れたい。
「かみさま
……
」
そう、年甲斐もなく甘えて見せれば、神はくつくつと笑いながら、晴信の頭を包み込む。
「良い。朝食まで、まだ時間もある故な」
そうして背中を叩かれてしまえば、とろりと意識がまた落ちる。
……
ホテルを出れば、また元の窮屈な世界だ。
そんな鬱屈な気持ちを抱えながら寵愛を受ければ、夢か現か、デスクのほうから小さな鳥の声が「クワッ」と鳴いたような気がした。
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