つきのせ さぶろく
2025-11-23 11:52:04
1247文字
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2025/11/23 習作

ワンライしようとして40分くらい使いました。 NOネタバレ。
自探の話ですが誰か分かった人は天才です。

 雨が降ったその日を境に、気温は随分と下がってしまった。同僚がタイヤ交換のことを憂いていたことを思い出していると、首都高の電子掲示板でも早めの交換を促す掲示がなされているのが見えた。薄暗い空の下、冷えた風を切って覆面パトカーは目的地を目指していた。
……なあ、お前は前の職場で何を見た?」
 助手席に座るベテラン刑事の神妙な声音に少しだけ笑いが漏れてしまった。23区内の方がよっぽど悲惨な事件が多いだろうに。
「なんすか先輩、俺がよっぽどなことしたって思ってるんすか」
「んなわけねえだろ、本当にそうならそもそもここに抜かれないだろうが」
「ま、そりゃそうすね。上は買い被りすぎなんすよ、ノンキャリアをわざわざ警視庁に引き抜くとかどうかしてますって」
「異例っちゃあ異例だが……ゼロではないし、そういう奴は大抵何かを見てんだよ」
「何かって、霊感的な話です?」
 少しだけ速度の落ちた車は料金所を潜り抜けた。そしてまたスピードが上がる。
「お前、一課には持ってるやつが集まるって聞いたことあるだろ」
「ああ、まあ。実際どうかは知りませんけども」
「あれは本当さ。まずほとんどの奴が交番勤務時代に殺人相当の事件に出くわしてんだよ。そうでなくとも、刑事になった先であり得ないものを見ている」
 そういうもんですかね、とハンドルを握りながら記憶が脳内で反射した。直近で思い当たるものは、確かに殺人相当の事件ではあったが、この内容を一体誰が信じるのだろうか。
「誰も信じちゃくれないだろうなってことが、お前ん中にもあるんだろう」
 心臓が跳ねた。もしかしたら、この人は同じ立場なのかもしれないと、一瞬よぎる信頼と親近と同情の間にある感情が、頭頂部のあたりで静電気を起こして消えた。
「はは……、もしあったとして、信じてもらえなさそうなことなんか話せませんって」
 警察の道に身を沈めてから、もう15年以上が過ぎていた。それなのに、解決しても信じることができないものをどうしていいかはいまだにわかっていなかった。わからないことが空中浮遊したままで、事件は終わったと書類上決められているはずなのに、それはただ決められただけで自分たちが無理やりに目を瞑って見ないようにしているだけのような気がしてならない。そういうことは、ここだけの話ではないのだ。
 あんなことが当たり前に起きる可能性があるなんて、1%でも2%でも、起きる確率は存在しているなんて、そう思ってしまうなんて、それが信じられない。あってたまるかと叫ぶ背後に、悪夢はゆっくりと手を伸ばしてきているのではないだろうかと、少しでも考えてしまう自分は、もう明らかに前の自分ではなくなっている。
「あーあ、なんつう仕事だって話ですよね、刑事って……
 車は高速道路から降りて時速40キロになった。見えてきた赤信号に合わせてさらにスピードは落ちていく。助手席の刑事は、無言でその言葉を肯定した。雨の最初の一滴が、フロントガラスを滑り落ちていった。