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宮腰
2025-11-23 00:07:17
10842文字
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水龍3分クッキング
リオセスリ殿お誕生日おめでとう!
リオセスリの誕生日を祝うためにヌヴィレットさんがスペアリブ作りに挑戦するお話。
▼メタネタ盛りだくさん
▼ヌヴィレットさんは大真面目だけど内容はおふざけです
▼かっこいいヌリはいない
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【④HAPPY HAPPY BIRTHDAY】
『歳の数の薔薇、高価な宝石、最高の夜景に高級レストラン。そんな誕生日もまあ悪くはない』
『だけど俺は、大好物とたくさんの友人、そこに美味しいケーキでもあれば文句無しだな』
パン! パパパン!
パーティー会場であるダイニングへ本日の主役が到着すると「せーの!」と、可愛らしい掛け声と共に一斉にクラッカーが鳴らされた。
「お誕生日おめでとうございます、公爵様!」
「おめでとー!」
「公爵、おめでとうなのよ。さ、早く座って座って」
テーブルの中心にはスペアリブマウンテンと、綺麗にデコレーションされたドゥボールケーキ・デラックス。ケーキの上には小物作りが得意なメリュジーヌが作ったらしい青いサメの形をした砂糖菓子が、ちょこんと乗せられている。これはヌヴィレットも知らなかった。とても可愛らしい、メリュジーヌ達からの嬉しいサプライズだ。
クラッカーから飛び出したキラキラテープや紙吹雪を頭の上にたくさん乗せたリオセスリは「豪華すぎやしないかい」と満面の笑みを浮かべ、一番良い席へと着席する。その両隣にはシグウィンと、同じようにメリュジーヌに背を押されたヌヴィレットが着席をした。
「皆様、ご準備はよろしいですか? では、今日は公爵様のお誕生日を祝って
……
乾杯!」
「かんぱーい!」
「おめでとーございまーす!!」
司会を買って出てくれたのは、パレ・メルモニアの顔セドナだ。そうして手作りの料理とたくさんの友人達による、アットホームな誕生日パーティが始まった。
「このご馳走をヌヴィレットさんが用意してくれたのかい? 手作りで?」
「うむ、流石にケーキは無理だったが
……
だが、料理とは難しいものだな。彼女達の協力なければ成せなかっただろう」
スペアリブ、と呼ぶには少々大きすぎたか。チキンレッグみたいなビジュアルをしたこんがり肉をリオセスリは手に取り、目を輝かせている。
「今日のテーブルマナーは?」
「不要だ。家族での祝い事に肩肘を張る必要はない」
家族、と言う単語がくすぐったかったのだろう。リオセスリは「そっか」と小さく呟き少し照れ臭そうにしつつ、そのままぱくりとスペアリブへ齧り付いた。その様子をヌヴィレットは固唾を呑んで見守っている。
ぱりっ、さく
……
、モグモグ
……
。
こんがり焼けたリブへ齧り付くと、パリパリに焼けた皮からスパイスの良い香りが漂い、続いて中に閉じ込められた肉汁がジュワッと染み出す。たっぷり塗りつけられたソースは様々な旨味とスパイスが絶妙に絡み合い、少々形が残っているリンゴが逆に肉のジューシーさを引き立てている。怪我の功名、というやつだろう。
噛み締める度にリオセスリの表情が少年のように徐々に輝き始め、ヌヴィレットと目が合うとうんうんと何度も深く頷いてくれた。
「
……
うんま
……
! 凄いな、肉もソースも最高のスペアリブだ」
一切含みを持たない素直なリオセスリの喜びを聞き、メリュジーヌ達はワッと歓声を上げ、ヌヴィレットはホッとようやく肩の力を抜くことができた。良かった、何ヶ月も前から準備をしたかいがあった。
口に合ったのは本当だろう。一つ目のスペアリブを食べ終えたリオセスリは、指に付いたソースを舐め取りながら二つ目へと手を伸ばしていた。
この話に年齢制限があるのならば、ここで琥珀色の液体がツ
……
と伝う彼の節くれだった指から目が離せず、気が付けばその手首を捕らえてしまっていた。ヌヴィレットは衝動のまま長い舌をその指へ絡め、ソースを舐め取る──となるのだが。今回は全年齢なので我慢しておこう。夜のお楽しみだ。
そんな楽しい夜の妄想へ浸っている間にもパーティは進んでおり、スペアリブを食べたメリュジーヌ達からも「うわっ、おいしー!」と、喜びの声が上がっていた。父としても嬉しい限りだ。
「なあ、このソース本当に美味いな。レシピはどうしたんだい?」
「難しい調味料や手法は私にはできないと思い、歴戦のご婦人方へお伺いをした」
「街中の主婦に? あんたが?」
「ああ」
カーネル・デセールは当然のこと、レストランの味など普段料理を嗜むことのないヌヴィレットには、とてもじゃないが再現できないだろう。だが、なんとかリオセスリの夢を叶えてやりたい。そうヴァザーリ回廊の本屋でレシピ本と睨み合っていたところに、買い物カゴを手に立ち話をしていた主婦の強襲を受けた。
『あんら~!? 最高審判官様じゃない!』
『あらあらあらあらまあ! ちょっと佐藤さん!田中さんも!』
『いつも新聞見てるわよ~ヌヴィレット様!』
『あんた写真よりも良い男じゃないの! こんな格好で恥ずかしいわ〜』
『お買い物? あら〜忙しい人なのに偉いわね。ウチの旦那にも見習わせたいわ~』
と、あっという間に囲まれたらしい。おばちゃん元素力は世界どころか宇宙共通で最強なのだ。
その光景を想像してしまったのか、リオセスリは肩を震わせ息が止まりそうなほど笑っている。
「ハ、ハハハハッ!! ハハ、い
……
息が苦し、い
……
ッ」
「彼女達のコミュニケーション能力は非常に優れているのだな。最初は少々圧倒されてしまった」
「そ、そうだ、な
……
アハハハッ! それで、フフッ
……
! レシピを教えてもらったのかい?」
「ああ、料理下手でもできるスペアリブのレシピを探していると話したのだが。すぐに快く教えてくれた」
時短メニューなら任せて、と。ベテラン主婦達はあーでもないこーでもないと意見を出し合い、ヌヴィレットへスペアリブの作り方を教えてくれた。感謝する、といつもの慇懃な仕草で礼を述べると「頑張ってね」「喜んで貰えると良いわね」「お幸せに!」と容赦なく背中をバシバシ叩き鼓舞してくれたそうだ。
「
……
俺の考えすぎなら問題ないんだが、まさか俺の名前は出していないよな?」
「む? いや、恋人の誕生日祝いでとは話したが君の名前は伏せてある。安心したまえ」
「──なるほど。来週のゴシップ紙はその話題で持ちきりだな」
リオセスリの予想通り、次の週に発売されたゴシップ紙には『最高審判官様、ヴァザーリ回廊で市民との触れ合い!? 〜庶民的な一面を紹介』の見出しと、マダム達に囲まれ中央で記念撮影へ応じるヌヴィレットの写真が掲載されていた。いつもの真顔でピースをしていたのは、おそらく周りのマダム達に合わせたのだろう。
だが、恋人の話は書かれていなかった。その場にいたマダム達が気を使って内緒にしてくれていたらしい。それは、そう思わせるだけ彼女たちもヌヴィレットを敬愛している証拠だ。
ヌヴィレットはその時のことを思い浮かべ、自然と心へ浮かんだ感想を口にしてみた。
「
……
以前に君は、もう他所者ではないと私に教えてくれたな」
「ん? ああ、そうだな」
「市井の人々と触れ、それを改めて肌で実感した。ありがとう」
「
……
ヌヴィレットさん
……
」
美味しい手作り料理。
たくさんの友人達の賑やかな声。
特別なバースデーケーキ。心がこもった沢山のプレゼント。
そして、大好きな人。
どれもこれも、リオセスリが欲しかったものに囲まれて。
「公爵、ヌヴィレットさん! ケーキのろうそくに火を点けるわよ~!」
「ああ、いま行く」
歳の数だけ立てられたろうそくの火を主役が吹き消し、おめでとうと祝福を受ける。そんな当たり前の幸福さえも、リオセスリにとっては初めての経験で。まさか、こんな日常を自分が享受する日が訪れるなんて考えてもいなかったのだろう。
ケーキの前へ行こうと腰を上げたタイミングで、そっと皆から隠れるようにリオセスリからキスをされた。間近にあった彼の瞳には間の抜けた自分の顔が映り込んでおり、その姿がぐにゃんと大福のように弧を描く。彼が微笑んだからだ。
「礼を言うのは俺のほうさ。〝家族〟に誕生日を祝ってもらう。その夢を叶えてくれてありがとう」
「リオセスリ殿
……
」
「来月はあんたの番だな。楽しみにしていてくれ」
──〝リオセスリ〟が生まれた日。それは、二人の運命が交わり始めた日でもある。
あなたの生まれたこの日に、心からの祝福と変わらぬ愛を捧ぐ。
おめでとう。
私と巡り会ってくれて、ありがとう。
最愛の君へ。
【了】
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