宮腰
2025-11-23 00:07:17
10842文字
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水龍3分クッキング

リオセスリ殿お誕生日おめでとう!
リオセスリの誕生日を祝うためにヌヴィレットさんがスペアリブ作りに挑戦するお話。
▼メタネタ盛りだくさん
▼ヌヴィレットさんは大真面目だけど内容はおふざけです
▼かっこいいヌリはいない


【②リブの表面をさっと炙り、その間にソースを作る】

 料理においてソースの役割は重要だ。ここを失敗してしまうと、どんなに良い材料を使っていても台無しになってしまう。
「まだフリーナが水神の座へ在った時、気の進まぬ会食へ何度か同席させられたことがある」
「その時にデーツナンをお口にしたのでしたっけ?」
「ああ、思い出したくもない。あの時は凄い顔をしていたと、フリーナが必死に笑いを堪えているのをテーブルの下で窘めたものだ」
 永遠の宿敵、デーツナン。あの者とは永遠に分かり合えない。できればもう二度と出会いたくないものだ。あれだけはどんな味付けをされても口にできない自信があるが、リオセスリがソースをたっぷり塗って膝の上であーん♡をしてくれるのならば、やぶさかではない。
「公爵がお嫌いな食べ物って何ですか?」
「リオセスリ殿か。基本的には何でも美味しいと言ってくれるが……
 もわもわんと、肉をホイルで包みながらこれまでリオセスリと共に食事へ行った時のことを思い出してみる。
 初めてのデート(ヌヴィレット視点)は、自分の執務室でだ。定期報告を終え「お茶でも」と声をかけ、三回目でようやく了承してくれた。リオセスリはお茶の時間と甘い物が好きなのだとシグウィンからの手紙で知ってはいた。パレ・メルモニアの給湯室にあった一番高級そうな茶葉と、可愛らしい箱におさめられた色とりどりのケーキたち。それを拝借し、リオセスリへと出してみた。
 余談だが、この茶葉とケーキはフリーナの物であったらしく「ああーっ!? 僕が楽しみにしていた限定品がないー!?」と、悲痛な叫び声が給湯室へ響き渡っていたらしい。後日、同じ物を入手して謝罪をしたのはいうまでもない。
「ふふっ! フリーナ様は本当に可愛らしい方ですね」
「ああ、そうだな。過去には確執もあった立場ではあるが……今は彼女のことを心から応援している」
「スペアリブが出来上がったらフリーナ様にもお裾分けしましょう!」
「うむ」
 そうしようとメリュジーヌの提案へ素直に応じ、味の決め手ソース作りへと移行した。
…………
 シグウィン作のミルクセーキ、あれは虚無だ。そうリオセスリがポツリと零していたのを思い出したが、黙っておこう。自分が同席している時は、恋人の胃袋と愛娘の心遣いを守る為に、リオセスリの分も代わりにこっそり飲んでやればいい。
 さて、ソース作りへ戻ろう。
 リオセスリがたまに自作しているスペアリブは、大抵は流行のスパイスを使用した同じ味付けになる。男の手料理なんてその程度で良いのさ、とリオセスリは笑っているし、ヌヴィレットは恋人が作ってくれた料理ならばどんな料理も世界一美味しいと思っているので問題ない。ただし、デーツナン。お前は駄目だ。
 そんなリオセスリにも、恋人の料理は世界一だと喜んで貰えたら嬉しい。その一心で、ソースから手作りをすることにしたのだ。スープ以外に料理をした経験は皆無だが、ヌヴィレットの心意気に感銘を受けたメリュジーヌたちがこうして集まってくれた。失敗する訳には行かない。
 サメおにぎり柄のエプロンを着け、前髪をシグウィン特製のメリュジーヌ型ヘアピンで留めてもらったヌヴィレットは、もう一度レシピをじっくりと確認をする。
「ふむ……? まずは玉ネギ、りんご、ニンニクをすり下ろす。そうだ」
「あ! それ小説で読んだことあります。悪人の頭を鷲掴みにし、アスファルトへ擦りつけすり下ろすように……
「食べ物を地面に擦りつけるの? 衛生的に問題がありそう」
「いや、食物の場合はこのような器具を使用するらしい」
 サッと、ヌヴィレットは生活感皆無なキッチンの引き出しからグレーター、いわゆるおろし金を取り出した。メリュジーヌ達から「おおーっ!」と再び歓声が上がる。
 以前の話だ。リオセスリとの待ち侘びていた初夜を過ごした際に加減が分からず、抱き潰してしまった。初めての経験であったこともあり無我夢中になってしまったのだ。
 そして、いくら彼が強い人間だとはいえリオセスリにとっても初めての経験だった──初めての経験だった。ここは太字で強調させて頂きたい。つまり、彼の全てを得たことがあるのはヌヴィレットだけなのである。ここも水龍ハピハピポイントなので入念に記させてもらう。
 初夜のあと熱を出し寝込んでしまったリオセスリを甲斐甲斐しく看病したのだが、その時にすり下ろしたリンゴが良いと聞き購入したのである。
「すり下ろすのには少々自信がある。任せたまえ」
「わっ、すごーい! リンゴが一瞬で粉々になりましたね!」
「じゃあ私たちは玉ネギを……うう……目が、目が……!」
 硬いリンゴはヌヴィレット、玉ネギのみじん切りは水中メガネを着用したメリュジーヌたち。そしてニンニクは、自称料理が得意なシグウィンとリュティンヌが担当することになった。
「ニンニクの匂い好きだな。良い匂い~」
「ふふ、そうね。ニンニクは滋養強壮の効果があるから、特別許可食堂でも人気のあるメニューなのよ」
「そうなんだ? ルエトワールとも相性が良さそう」
 リュティンヌの提案へ、シグウィンは小首を傾げてしばらく考えていた。
……たしかにそうね! とても美味しそう」
「ね! 隠し味に入れてみよう」
 一気に雲行きが怪しくなってきた。すり下ろしたと言うより握りつぶしたに近いリンゴ、涙ながらにメリュジーヌたちが刻んでくれた玉ネギ。そして、看護師長特製すりおろしニンニク・ルエトワール入り。
「ルエトワールをニンニクで焼いたやつをスペアリブへ添えれば、見た目も華やかだし箸休めになるのよ」
「なるほど……料理には彩りも大切だと、何かの書物で読んだことがある。ありがとう、シグウィン」
「どういたしまして! ふふ、公爵もきっとヌヴィレットさんに惚れ直すのよ」
「料理上手でハンサムで年収1000万以上の旦那様が理想だって、パレ・メルモニアの女子職員達もパウダールームで話していましたよ」
「え、すご! 料理ができるようになったらヌヴィレット様完璧ですね!」
「ふむ……?」
 料理上手な旦那様。それはなんとも蠱惑的な響きである。自分のことを自慢の旦那♡と周囲へ話してくれるリオセスリを想像してみると、なんともホワホワと幸福な気分で蕩けてしまう。そんな幸福へ無意識に浸っていたらリンゴをもう一つ握りつぶしてしまったので、ソースへ追加しておこう。
「まぜまぜ、まぜまぜ……おいしくなぁ~れ」
「ええと、刻んだ材料とAの材料を混ぜ合わせ……A?」
 ソースの材料、A。
 トマトケチャップ、ウスターソース、はちみつ、お酢。
「分量は書いてあるけど……お肉が増えちゃったから正確には分からないね」
「ソースは多めの方が美味しいよね、ヌヴィレット様」
「うむ、そうだな」
 不測の事態へ備えソース類もたくさん用意してある。スペアリブはリオセスリとデートをしている時に良く食すが、確かにソースが多めにかけられている方が美味だ。
 まあ、ソースの量や料理の味も重要ではある。だが、私にとっての一番のスパイスは「美味いな、これ」と嬉しそうにスペアリブを頬張る可愛らしい君。その見た目よりもずっと柔らかく心地良い唇へ付いたソースを舐め取る赤い舌は、非常に蠱惑的で。そんな恋人を微笑ましく見守る私の視線へ気が付き「そんなにジッと見られると食べにくいだろ」と少しはにかむ君の笑顔だ、リオセスリ殿。
 それは流石に多すぎじゃないですかね~? と、案ずる愛娘たちの声は幸福な妄想へ浸るヌヴィレットの耳へは届かず、ドバドバとソース類を大きな鍋へ注いだ。
「じゅる……良い匂い。タイダルガにも合いそう」
「あ、それ美味しそう~。刻んでソースへ入れたら食感が変わって良いかも」
「そうね。公爵ったらいつもミルクセーキ飲んでくれないから、隠し味に入れてみましょうか」
「好き嫌いは良くないよね。トントントン……タイダルガをみじん切りにして……と」
「ぐつぐつぐつ……う〜ん磯の香り……
 スペアリブのソース作りと言うよりは、秘薬作りの一場面みたいなビジュアルへ近付いてきているのには、まだ誰も気が付いていない。