レシーがバンデイアの地に見出したのは、良質な木材だ。ここよりも南の地は雑多な混成林を形成する。しかも樹木の特性上、枝が多く途中で曲がってしまうことが多い。それに比べて北の地には、単一の針葉樹林がある。一種類だから切り出しやすく、真っ直ぐに伸びる木は製材に適している。
海を渡る国家にとって、これは魅力的な資源だった。
代わりにレシーがこの土地にもたらしたのは、傭兵と鉄だ。
南の地は、北よりも生存に必要なものが少ない。それは人口増加をもたらし、食糧や諍い、水不足など別の問題を生じるから一概にいいものとは言えないのだが、少なくとも出稼ぎの傭兵は売るほどにいる。
大量の人間を運びこむには、相応の大きさの港が必要になる。船から下ろした人間が旅立つまでの間、生活するための場所が必要になる。港から各地へ運ぶための道が必要なる。そうして、野放図に人が流れ込まないように、それらの流れを管理をする人間が必要になる。
そうしてできたのが、バンデイアにおけるリュネストの最初の領地だ。
もちろん今となっては、穀物や海産物、工芸品といった様々なものが入ってくるが、バンデイアの諸国がリュネストに求めるのは傭兵や奴隷や武器だといっても過言ではない。
傭兵の渡航を止めるということは、自国の兵力を増強するチャンスを逃すということでもある。海外からの兵力に依存しているリュネストにとっては致命的だ。
どう考えても悪手だ。せめて、自国の兵を増強し、他の国が兵を増やすのを防ぐというならわかる。それが定石ではないのか。
それをディルストーンの顔色伺いだという。これからその椅子を奪おうというのに、阿ってどうするのか。
トルガは独断専行が過ぎる。先に一声相談があれば、止められたというのに。すでに触れを出してしまった後では、それを撤回するのは簡単なことではない。
どうしてそれをしてはいけなかったのかを、説明しなければいけないと思うと気が遠くなったのだ。それ以上言い合いをする気力はなく、ジョアンは部屋を辞した。
そして考えた。
現状を放置したら、王位を取れないばかりかリュネストが没落し、誇り高きレシーの血筋が、バンデイアの野蛮人と対等な交渉をすることすらままならぬ、単なる犬に成り下がってしまうかもしれない。
いや、むしろ望んで犬になろうとしているのかもしれない。
トルガはいつだって、薄っぺらい笑顔を貼り付けた忌々しい顔をしている。
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