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凪田シロ
2025-11-21 23:04:26
2658文字
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シャ誕生日によせて
シャがアムの髪を切る話です。固定にあるアフターししえの二人ですが無人コロニーで二人暮ししてる設定だと思ってもらえれば大丈夫なシャアムです🫶まあまだこれで付き合ってないんですけどね
「ん
……
?」
昼食の支度をしているとアムロが部屋から出てくる音がした。
……
珍しいな。普段は一度機械いじりを始めると部屋にこもりきりになるアムロをシャアが呼びに行くのが常だった。シャアに声をかけられて思い出したようにトイレに駆け込むことも多いアムロが自ら出てくるとは今日は腹の調子が悪いのかもしれない。全く、あんな薄着でいるせいだろう。戻ってきたらもう何度目になるかも分からない注意をしなければ。とリビングを横切り手洗いの方に消えていったアムロの背を見送りかけて。
……
気のせいでなければ、アムロの手に用を足すには不釣り合いな物が見えたような。
「っ、やめろ!」
「うわっ!!いきなり驚かすなよ、危ないだろ!!」
「
……
とにかく、その手に持っているものを離せ」
「な、何をそんなに怒ってるんだ?」
危なかった。あと一秒シャアの静止が遅れていたらアムロは見るも無残な状態になっていただろう。
……
アムロによって無造作に握られた前髪にハサミが入れられたあとの姿を想像しただけでも恐ろしい。宿命のライバルである男のそんな情けない容姿は見たくなかった。確かに、共に暮らし始めた頃よりも随分と髪が伸びたなとシャアも感じてはいたのだ。
「きみ、どう考えても似合わない髪型を人に見られて恥ずかしいとは思わないのか」
「はあ?見るのなんてあなたぐらいしか居ないだろ」
「私が見るから問題だと言ってるのだ!」
とはいえシャア自身何故こんなにもアムロの行動に目くじらを立ててしまっているのか、わからない部分があったのだが。とにかく前髪がぱっつんになっているアムロは見たくないという一心だった。
―
俗に言う解釈違いである。尚、その感情を言語化できる存在はこの場には居なかったが。
「あーもう、うるさいな!そこまで言うならあなたが切ればいいだろう、ほら!」
「言われずともそうさせてもらう!」
目の前に差し出されたハサミを後先考えず奪い取り、リビングでのセッティングを済ませたものの。目の前に座らせたアムロを前に、シャアはふと冷静になり気がついてしまったのだ。くせ毛の散髪をするのはかなり難しいのでは?と。直前まで適当に前髪の長さを整えれば良いのだと謎の自信に満ち溢れていたのだが。よく見てみるとこの謎にうねっているような前髪はどうやってセットされているのだと疑問にぶつかった。
「おい、いつまで待たせる気だ。はやく整備の続きをしたいんだ、これ以上かかるなら坊主にするぞ」
「ええい!今切ろうと思っていたのだ」
「ならはやくしろ」
そもそも髪がそこまで長くないだから一手ミスを犯せば取り返しがつかないことになるだろう。だが坊主のアムロ・レイは嫌だ。覚悟を決めてハサミを近付けながら目を瞑ったままのアムロに、無防備なものだなと思う。いくら和解したとはいえ殺しあった相手に刃物を向けられて警戒の一つもしていない。
……
随分と心を許されたものだ。
「そうだよ。あなたのこと信じてるからね」
「む、」
「言っとくけど、能力で心を読んだワケじゃないぞ。あなたがこんなくだらない方法で俺を殺すわけがないって意味での信頼もある」
……
全く、敵わないな。アムロという人間は、シャアの抱えるアムロに対する複雑な感情を全て知った上で尚受け止めてくるのだから。ならば全力でその信頼には応えるべきだ。よし、大抵のこと器用にこなせる自負はある。きっとなんとかなるはずだ。
……
あ。
「あは、あはははは!ちょっ、これは、これ、ひどっ、」
「
……
」
結局、出来上がったのは見るも無残な髪型になったアムロだ。一度手を入れた瞬間自由に暴れ回る髪の処理など素人には土台無理な話だった。罵られることを承知で鏡を渡せばアムロを怒るどころか笑い飛ばされていることが余計にシャアの心を重くしてくれた。せめて叱責された方がマシというものだ。
「くく、あなたにもできないことがあるんだな
……
って、何をそんなに落ち込んでるんだ」
「大切な人間の見目をちゃんと整えたいと思うのは当然だろう!
……
だと言うのに私自身が君をみっともない姿にしてしまった」
「あー、あっ、そう
……
。えっと
……
実際、シャアならなんでもできそうだと思って任せたんだけど。そうじゃないあなたを知れたことも嬉しいというか。それに、俺のために頑張ろうとしてくれた気持ちは十分伝わってきたからさ。
……
だから、あー、その
……
ありがとう」
「アムロ
……
」
とっちらかった髪先をいじりながら、はにかんで笑うアムロの顔に事実、嘘には見えなかった。
「人間、苦手なことがあるくらいがちょうどいいんだって。だからあんまり落ち込むなよ」
まわりの期待から応えられて当然であり、そして誇りをもって生きてきたシャアにとって、そうでない自分を肯定されるというのは、いまだに慣れない感覚だ。何物でもないシャアをアムロが受け入れてくれたことを頭ではわかっていても、まだ実感を得られていないのも事実だった。こうやって日々を重ねていくことで、私たちは本当の意味でお互いを受け入れられるようになるのだろう。
……
ただし次は絶対に上手くやる。さっそく片付けたら資料を探そうと心に誓った。
―
おかあさま、こわいよ。
―
さびしい。
―
ひとりにしないで。
―
だれか、だれか。
……
夢か。元からよく自分は夢を見る。ネオ・ジオン内で愛した少女の名を寝言に呟くという話が出回ってしまう程度には。だが今日の夢は少しばかり毛色が違った。やけに意識がはっきりしているし、幼い頃の自分が出てきたのも初めてのことだ。妹を不安にさせない為に誰にも見せたことのなかった、母を亡くし独りで涙を流した、遠い昔の自分の姿。けれど決して忘却することはない、原初の記憶。
「
……
大丈夫だ、もう泣かなくていい」
気がつくと、幼い頃の自分に語りかけていた。
「確かに先の道は苦難に満ちている。
……
だが、どんな私の事も受け入れてくれる人達に出会えるのだから」
この世に産まれ、私は自分の使命を理解してからは自分の思う正しさを貫き通した。そして愛した少女を失い、結局独りで私は死んでいくのだと思っていた。だが、いま私の傍には心の底から憎み、そして、なによりも共に歩みたかった存在が私を受け入れ、傍に居る。全く人生とは、わからないものだ。
「アムロ!どうだ今回のカットは!ふふ、我ながら完璧だ
……
」
「まあ、熱中できることがあるのは良いことか
……
」
二人きりのコロニーには今日も穏やかな時間が流れている。
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