アクシズ落としを食い止めた英雄の凱旋。メディアは連日その話題で持ち切りだった。テレビからはアムロ・レイの口から総帥は死んだという証言、そしてボロボロのモビルスーツと一緒に半分程が潰れてしまっている赤い色の脱出ポッドが映されていた。
優秀な先導者を失ったネオ・ジオンへの連邦軍への粛清は一方的なものであったことは言うに及ばずだった。アースノイド達は一年戦争の英雄の復活だと沸き立ち、スペースノイド達は悪魔の所業に涙した。
そして、歴史とは常に勝者によって作られる。連邦による偏向報道により連邦自身が行った都合の悪いことも全てネオ・ジオンによる陰謀という事になった。こうして連邦軍による支配はより強固なものとなった。変わらぬ日々に戻ったアースノイド達は何時ぞやの様に、徐々に表舞台に姿を見せなくなった英雄の事など気にも止めず、スペースノイド達は以前にも増した圧政によりアムロ・レイへの恨みを募らせていくのだった。
そして、当のアムロ・レイ本人はといえば―まもなく死にゆく運命にあった。
「はは……まさか、ここまでだったなんてなあ」
手のひらの小瓶を握りしめ、窓一つ、そも家具一つない白塗りの部屋で一人アムロは力なく笑った。多くの命を奪った身だ。ろくな死に方はしないだろうと覚悟はしていたが。まさか身内から自死を命じられるなんてことは想定していなかった。
「戦場で死ぬ覚悟はできてたけど、これは流石にな……」
死ぬタイミングは選ばせてやると一人にはされたがどうせ首につけられた拘束具から行動は全て監視されている。だからといって何も喋らずに心の整理をつけられるほど、アムロの精神は強くはなかった。
シャアという巨悪を失ったとはいえ、地球を滅ぼされる寸前にまで陥ったのだから、少しばかりは自分たちの行動を省みるのではないかと期待した己の能天気さにアムロは情けなくなった。連邦は省みるどころかこれで安泰だと何一つ変わることはなかった。だが反乱への備えだけは万全にと、連邦はアムロに関するあらゆるデータを取り尽くし、優秀なAIを生み出した。そうして、いくらでも替えがきく従順なAIと、隕石を食い止める程の人知を超えた能力を持った唯一連邦に反旗を翻す可能性を持つ人間、連邦にとってはどちらが都合が良いかなどと明白だった。
「あんな大口を叩いたのに、これじゃ笑われてしまうな」
死ぬのならあの時、宙で散りたかった。なんて。それこそ出来すぎた話だ。
英雄は宙を駆ける翼をもがれ、無力な人間へと堕ち、ついぞ救いの手が差し伸べられることは無かった。
「……で、なんで貴方がそんなに怒ってるんだよ」
「そういう君はなんでそんなに平然としていられるんだ!?」
「あーほら、自分より怒ってる人を見たら冷静になるって言うだろ」
薬を飲んで気を失ったあと。目覚めたらいきなり目の前に死んだはずのシャアがいた。それも間違いなくアムロ自身がvガンダムによって跡形もなく握り潰したはずなのに、五体満足の姿で。延々と連邦に対する暴言を言い連ねており死んでもまだ現世に囚われてるなんて難儀だなと思った。だが宇宙にいた頃、ララァの夢を見たり、サイコフレームの超常的な力に触れた後だったので自然と、そういうものだと受け入れることができた。
「あんまり居座ってたらホントに悪霊になるかもしれないぞ」
「しかしだな……!」
「連邦の一方的な搾取はそう続かないよ。いつの時代も貴方のようにきっと立ち上がる人間が出てくるさ」
「だが、人々のために戦った君が、君があんな……あんな最期を迎えるなんて……!」
「……え、貴方、な、泣いてるのか!?」
あのシャアにまさか泣かれるとは流石に予想だにしていなかった。シャアとは最後の最後まで結局諍いを起こしてばかりだった。シャアはてっきりアムロのことが嫌いだとばかり思っていたが。……本当に、よくわからない男だ。けれど。
「……俺のために怒ってくれてありがとう、シャア」
「ふん、怒らない貴様の方が余程おかしい」
「はは、そうかもな。でも、俺はずっと自分のために戦っていただけなんだよ」
確かに連邦に対して憤り変革を望んでいた事は事実だ。けれど、心のどこかでは腐りきった連中は変わらないと諦観していたのかもしれない。結局自分にはシャアのように世界を変える才能はなかった。
そもそも自分はずっと自分の信じる道のために戦ってきたのだ。幼馴染を初めとする信頼出来る仲間たち、自分にとっての居場所守るために。
―そして好きな人が決定的な間違いを犯して壊れてしまうことがないように。
「だから、ちゃんと貴方を殺せた。それだけで充分だよ」
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