白殊皎(しらよし こう)
2025-11-23 00:00:00
3851文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

Rose of May

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
潜入先にはドレスコードがあり、カップルもしくは夫婦しか入れなかった!
白羽の矢が立ったのは土方歳三と近藤勇。
果たして結果はどうなる!?

近藤さんの女装あり。

ぐだ鯖WEBオンリー『ボイラー室横より愛をこめてW 』中限定公開だったものになります。
1ヶ月経過し、ちょうどクリスマスイブなので全体公開に切り替えさせていただきます。
よろしくお願いいたします。



 潜入先はパーティ会場だった。
 ドレスコードもあり、その上夫婦かカップルでしか入れないらしく、中々に難しそうである。
──誰かにペアを組んでもらってお願いするしかなさそうだね。
 少女マスターはそう言って同行サーヴァントをぐるりと見回す。
 そして、ターゲットに狙いを定めた。
──〝二人で〟お願いできる?
「はぃ?」
「あァ」
 指名されたのは近藤勇と土方歳三。
 近藤は何が何やらと頭が追いついていない顔をしているが、土方は落ち着いたものだ。
「主……。会場には夫婦もしくはそれに準ずる二人しか入れないのですよね?」
──うん。
「それを、私と歳とで……?」
──うん。
「それは一体どうやって……
──だから、どっちかに女装してもらって、お願いしたいです。
 まぁ、この場合土方さんだと迫力ありすぎるから近藤さんだよね、とマスターはさらりと言ってみせた。
「えぇえええ!? どこにこんなごつい女性にょしょうがいるんですか! 歳も『あァ』じゃなくてなんとか……
「ん? あんたはその辺の女より、よっぽど綺麗だ。ドレスなんて着てくれたら、誰でも釘付けだろうよ」
 あぁ、でも潜入なら目立ちすぎるのはヤバいし、俺も心配だな、とすっかり大人になった幼馴染みは、サラッと言ってのけた。
「〜〜〜〜〜!!」
 その自然な様子に近藤は真っ赤になって沈没する。
──じゃあ、そういうことでよろしくお願いします。
 なにがそういうことでなのかいまいちわからないまま、近藤はドレスを選ぶハメになった。



「だめだ、そんな安っぽいのを近藤さんに着せられるか。あの奥のそう、それもってこい」
 隣の本人が物凄いへこみようであるにもかかわらず、土方は淡々とドレス選びを進めていった。
 最終的に背中が大きく開いた、裾が長くスッキリとしたラインの美しい薔薇色のイブニングドレスに、肩幅と胸を隠すための滑らかな絹のストールを纏うことになった。
 本来なら足元は高めのヒールなのだろうけれど、身長が185センチもある近藤には流石に無理があるので脚が隠れるものにしたらしい。
 髪は編み込んで背に流し、メイクを施して優美なバッグを持てば完璧、パーフェクトな美女の誕生! なのだが……そこまでされても近藤は憂鬱な顔をしている。
「うん、綺麗だ。せっかくの機会だから楽しもうじゃねぇか」
 タキシード姿の土方は、笑顔で近藤に手を差し伸べる。
 その自然な所作に、つい手を差し出した。
 普段あまり服装に頓着していないように見える土方が、当世の正装に身を包んだ様は荘厳かつ男の色気があり、近藤のみならず他のサーヴァントたちも驚いた様子を見せた。
 そして、こんなカップルが会場にいたら目立ちまくって調査にならないんじゃ……と誰もが思ったという。
 ちなみにマスターはというと、二人を並ばせ、写真の撮影に余念がなかった。


 で、調査の方はというと、ずばりそこが親玉の巣だった。
 やはり目立ちまくったため、早々に調査から実戦に切り替えて、マスターが駆けつけるまで時間を稼ぐ。
 近藤は戦いにくい、とストールを投げ捨て、ドレスの裾を自分で引き裂いてしまったほどだ。
「冷えるし、目の毒だ」
 全てが終わり、聖杯の回収が済むと土方は近藤のドレスの裾を直し、自分の上着を着せかける。
「いいだろう、別に……
「いや、惜しいさ。その姿、また見せてくれよ」
 さて帰還となった時、土方はごく自然に近藤の手を取り甲に口づける。
 本当に心からに聞こえるその言葉と色男ぶりに近藤は再び赤くなって撃沈した。
 他のサーヴァントたちももれなく砂糖を吐いたらしい。


 カルデアに帰還して、近藤はいま自分が割り当ててもらっている部屋に戻った。
 浴室で汚れた顔と髪、身体を洗い、化粧も一緒に落とすと浴衣を身につけた。
 そして考える。
 土方のあの手慣れた所作は一体どこからきたのだろう、と。
 確かに生前から自分たちは女性にはもてはやされてきた。
 組で花街などに繰り出したときは吸い付け煙草の雨が降ったくらいだ。
 土方のあの精悍な男振りは確かに女性を惹きつけるだろう。
──しかし、今回の様子はいかにも当世風に慣れているような気がした。
 自分が死んだ後とか、このカルデアに召喚されてからとか、そういったことで磨かれて来たのだとしたら──近藤は心穏やかではなかった。
 なんせ、土方と自分はいま恋仲なのである。
 百五十年待った、と土方は言った。
 決してそれにほだされたわけではない。
 自分だって土方を想っていた。ただ近すぎてそれが自覚できなかっただけで。
 早くカルデアに馴染めるようにと心を砕いてくれたのも知っている。
 が、中には土方が他の女性サーヴァントと仲良く話していたとか、以前はもっと付き合いがよかったのに女の話に乗ってこなくなったとか、余計な事を吹き込む輩もいたりした。
 それを聞く度に自分の心はざわついた。
 もしそれが真実なら……
「──ぜっったいに、許さない!!」
 思わず口に出た。
 案外自分は悋気りんき持ちなんだなと冷静に思う反面、疑われる行動をする歳が悪い!! と思う冷静ではない自分もいる。
 けれど確かめるとしても一体どうすればいいのか。
──やっぱり……



「近藤さん、いるか?」
 近藤が何やら決心を固めたところに部屋のロックを解除して土方が顔を出した。
「化粧無理矢理落とすと肌が荒れるから、これを……うぉ!?」
 洗顔用のクレンジング剤と思われる物を持って訪ねてきた土方は、どろ〜りとした雰囲気の近藤に驚いて声を上げた。
「近藤さん? 何があったんだ!?」
 本来女性が使うであろうそれに、近藤は確信を持ったようだ。
「歳、そこに座りなさい」
「!?」
 据わった目で寝台を指さす。
 床ではなかったのは少し残った憐憫れんびんの情だったのかもしれない。
「それは、一体、誰にもらったものなんだい?」
 素直に座った土方の前に仁王立ちになり腰に両手を当てて詰問する。
「誰にって、カーミラのやつに聞いて売店で……
 言ってから、あ、多分これはマズいやつだと思って口をつぐんだ。
「ふーん、そんな事を聞ける〝親しい〟女性がいるんだ」
「こん、どう、さん。落ち着いてくれ、俺とあいつはそんな仲じゃ……
 ただ、生前の話として拷問のことで話が合っただけだと弁明をするが近藤は聞いていない。
「そうだろうね、歳は女性にはとてもとーーーっても受けが良かったよね。花街では知らない者がいないくらい」
 本気で怒った近藤は土方に勝る鬼と化す。
 だが生来の性格で、ここまで怒ることは滅多にない。
 土方ですら片手で足りるくらいしか見たことはなかった。

 その近藤が、自分に対して、女性問題で本気で怒っている。
 もしこの怒りの理由が、自分へのヤキモチだとしたら、なんて嬉しいことだろうと不謹慎にも思ってしまった。

「聞いているのかい?」
 その形の良い眉を怒りにつり上げて眼光鋭く問いただす。
「聞いてる」
 誤解は解きたいが、まだその時ではないと土方はじっと耐えた。
「どうせ、私がいなくなったあとも、女性たちと懇(ねんご)ろにしていたんだろう? 邪魔者がいなくなったと思って」
 ついでこのカルデアでも随分と奔放にやってきたみたいだね、と言われて土方はカッと目を見開いた。
「それは違う! 俺はあんたのことを邪魔だと思ったことは一度もない!!」
 夢中で立ち上がり、近藤の肩を摑む。
 次は近藤が驚く番だった。
「俺は、あんたに置いて行かれて以来、心から喜んだことなんか何もない!!」
 土方の叫びはもはや悲鳴のようだった。
「酒も、女もやめた。ひたすらあんたを追い求めて、ずっとずっと、あんたしか見ずに。なにも……あんた以外望まずにここまで来たんだ!!」
 だから誤解とはいえそんなことは言わないでくれ、と近藤を抱きしめるようにしながらその胸に縋る。
 子供のようにしゃくりあげ、自分の胸元で涙を流す土方に、近藤の怒気はしゅるしゅると音を立てるようにしぼんでいった。
 それと同時に罪悪感が芽生える。

──そう、土方を裏切ったのは自分じゃないか。
 土方は自分を護りたい一心で、ただ生きてほしいだけで、あの手段しか思いつかなくてやったことなのに。
 まるで空蝉のように逃げ出したのは自分。

「歳……
 そっと土方の頭をなでる。
「ごめん」
 冷静になった頭に、感情の波が押し寄せてくる。
「いや、俺も悪かった……。わかってくれると、勝手に思ってた」
……うん、私もだ。おまえなら言わなくてもと思ってた」
 こんなことで、やっぱり自分たちは言葉が足りないのだと思い知るとは考えてなかった。
「ちゃんと話そう、歳……
「あぁ……
 まっすぐに向き合い、目を合わせる。
「まずは聞いてくれ、俺の百五十年を……
「うん。そのあとは私だ。どれだけ長くなっても全部聞くし、全部教える」
 互いに抱擁を交わし、寝台の上に腰をかける。
──長い長い昔語りの始まりだった。


 後に、歳との仲を誤解していましたごめんなさい、と菓子折付きで近藤に謝りに来られたカーミラは「仲が良いのは結構だけど、知らないところで当て馬にしないでもらえるかしら」とあきれ返ったらしい。