勢いよく閉めた扉の音に、トルガは大袈裟に身を竦める。好んで喧騒の中に身を置くために屋敷をゆけ出していく男が、この程度の物音で驚くわけがない。芝居がかったわざとらしい動きは、ひどく鼻についた。
「熱烈だな。愛の告白ならもう少し手順を踏んでくれないか」
軽口に付き合っている暇はないのだ。
下賤の男に黙れというのを億劫で、手で顎を掴んで塞ごうとする。
その手首をトルガが握り、押さえた。
存外に強い力は抗えるようなものではない。
「確かに家令は家の中で俺に継ぐ地位があるのだろうな。その知識も手腕も当てにしている」
ぐ、と力がこもり腕は無理やり下ろされた。逃れようとすれば肉が裂けるような痛みが走った。
トルガは目元の笑わぬ笑顔で、言葉を続けた。
「だが、この家の主は俺で、お前はこの家に属するものだ。これは家の決定で、更にいうならレシーの差配だ。堅苦しいのは好かないが、度を過ぎた無礼を許すと使用人たちに示しがつかん。それもお前が教えてくれたことだったな」
灰青の瞳が、窓から差し込む陽の色だけで照らされた薄暗い部屋の中で細められる。
「俺に罰を与えされてくれるなよ」
頭に血が上り、顔が赤くなった。
言葉は正しい。しかし、その言葉をよもや平民に投げかけられることになるとは思わなんだ。
人の言った言葉を返すような小賢しい真似で、してやられた。
何度か口をパクパクさせたあと、ジョアンはようやく何か言うとしても今ではないと言うことに納得し話を先に進めることにした。
腕を振り払うと、今度はなんなく放してもらうことができた。
「聞きたいことがある。あります」
「なんだ?」
「港の件だ。あれは間違いか? 傭兵が入って来るのを止めるとあった」
「あったな。まぁ、だいぶ渋られたが、船長たちにも商人にも他の仕事を受けてもらうことで納得できた」
お前に教えてももらったことが役に立ったよと、トルガは笑う。
政治はともかく、じゃあなんとしては優秀な男だったと聞いていた。それこそ海を越えて名声が届き本国を動かす程度には、商機にに聡い男であったはずだ。
権力を握っただけで、ここまで愚昧になることができるのか。
ジョアンは眩暈がして気が遠くなった。
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