超高層ビルであるアルカディア・ソサエティには無数の部屋があった。中でも闘士だけに使用を許可されたフロアには、控え室を始めとしてジムやラウンジ、リング設計用のシミュレータールームまで、あらゆる設備が揃っている。一流揃いの設備をいつでも使えるという特権は、闘士が憧れの視線を向けられる理由の一つとなっていた。
そして、決して多くはない闘士たちのためにそれだけ無数の部屋があるのなら、人がほとんど立ち入らないエリアというものも存在する。
控え室がいくつも並ぶ薄暗い廊下。リングや他設備から距離があるため滅多に使われることのないそのエリアを、ヘクトールは一人で歩いていた。
一つ、二つ、と控え室の前を通り過ぎながら、ヘクトールは先日の試合を思い出す。
その日はライトヘビー級の王座を賭けて、ある男の挑戦を受けていた。男は新進気鋭の闘士であり、華やかな衣装と丁寧な物腰が評判の良い新人だった。しかし、闘士の間でのみ語られる実態はその真逆だ。
金持ちの御曹司である彼は試合の裏で八百長を行い、それに応じなければ秘密裏に妨害する。それを繰り返すことで勝ち星を重ね、ライトヘビー級王者への挑戦権を獲得したのだ。
堂々と反則の演出を行うブルートボンバーとは異なり、その挑戦者は自身の汚い所は見せず善玉を気取ろうとする。案の定ブルートボンバーとの試合でも妨害工作をしてきた彼だったが、その姑息な態度がヘクトールの怒りを買い、徹底的に叩きのめされ病院送りにされた、というのが試合の顛末だ。
それから数日経った今、その挑戦者から呼び出しを受ける形でヘクトールは控え室に向かっている。
話し合い、と呼び出しの文面には書かれていたが、わざわざ人のいない場所を指定する時点で穏便にはいかないことは分かっていた。
順当に考えればお礼参りだ。件の挑戦者はヘクトールを誘き出し、病院送りの復讐を果たそうというのだろう。
見え透いた罠に一人で向かうという行為は無謀でもあったが、ヘクトールに他者を頼るという考えはなく、通報するという発想もなかった。
自身の怒りが招いた復讐に、他人を巻き込む訳にはいかない。そして何より、己に噛み付いてきた相手を自身の拳で殴らずにいられるほど、ヘクトールは温厚な人間ではなかった。
指定された控え室の扉の前に立つ。自動扉が開いた先には威圧的な四人の男たちと、ベンチに座った一人の怪我人がいた。
扉の脇に潜んだ者がいないことを確認し、ヘクトールが部屋に入る。殺気立った男たちの顔ぶれを見ていくが、怪我をした男……病院送りにした元挑戦者以外見覚えがない。
だが、彼らの表情や装いには覚えがあった。闘士になるより前、親友と共に荒れた日々を過ごしていた頃によく目にした荒くれ者たちと同じ雰囲気を纏っていた。
座ったままの元挑戦者が、ヘクトールへ向けて小さく笑う。その顔には未だ包帯が巻かれており、右腕はギプスに包まれていた。
自由が利く左手に握られていたグラスをテーブルに置く。いくつもの酒瓶がテーブルの上に乱雑に置かれており、闘士の控え室らしからぬ酒の匂いが室内に満ちていた。
「御足労いただき感謝しますよ、先輩」
「随分散らかしてんな。怪我の痛みを酒で誤魔化そうってか?」
「いいえ、祝いの酒ですよ。長らく独占されていたライトヘビー級王者の座が、今日ようやく空くんですから」
元挑戦者は立ち上がろうともせず、どっかりと腰掛けたままヘクトールに向けて目を細める。
「単刀直入に言います。引退してもらえませんかね? もう十分王座は堪能したでしょう?」
「嫌だと言ったら?」
「闘士を続けられない身体になってもらいます」
元挑戦者の周囲に立つ男の一人が、これ見よがしに鉄パイプを持ち上げる。他にも酒瓶を手に取る者、わざとらしく関節を鳴らす者がいたが、ヘクトールはそんな彼らを一瞥すると呆れたように溜息を吐く。
「……つまんねぇ野郎だとは思ったがここまでとはな、興が醒めちまうぜ」
「あんたの言えたことじゃないでしょう? “爆ぜる悪意”ブルートボンバーさん。反則でのし上がってきたのなら、反則で引き摺り下ろされるのが道理だと思いますがね」
元挑戦者は嫌らしい笑みを向けるが、ヘクトールの態度が揺らぐことはなかった。悪役闘士である彼にとって、この程度の敵意など物の数にも入らない。
数多のラフファイトを重ね、悪役であり続けた彼は、たとえ見渡す限りの観客からブーイングを受けたとしても堂々と立ち続けるだろう。それは悪役闘士としての何よりの賞賛であり誇りだからだ。
だが、目の前の男が行う反則は違う。彼の行為はアルカディアの信頼を損ない、観客を裏切るものだ。そんなものと自身の振る舞いを同列に語られて、ヘクトールの胸に怒りの炎が燃え上がる。
「……確かに俺様は卑怯千万の悪役だ。だがな、それでも俺は闘士だ。“反則”はリングの上で客に見せつけてやる。……コソコソするしか能がないテメェは、闘士じゃなくてチンピラって言うんだよ」
元挑戦者の顔から笑みが消える。背を丸めて睨めつける様は、ブルートボンバーの泰然とした立ち姿とは真逆のものだった。
「大体その腕でどうやって俺様に勝つつもりだァ? まさか周りの取り巻きにやっつけてもらうとか言わねぇよな? 一人じゃ何もできねぇ坊っちゃんが王者とか冗談きついぜ」
口を開いたヘクトールの顔が嘲笑に歪む。目論見をそのまま指摘された元挑戦者は、睨むばかりで返す言葉を見つけられなかった。言われっぱなしの現状に耐えかねたのか、取り巻きの一人が前に出る。
「さっきからペラペラと……笑ってんじゃねぇよッ!」
怒号と共に手にした酒瓶をヘクトールの頭に向かって振り下ろす。大振りで分かりやすいそれを、ヘクトールはあえて正面から受け止めた。
派手な音を立ててガラス瓶が砕ける。髪から酒を滴らせながら、しかしヘクトールは目を開いたまま微動だにしなかった。
たじろぐ男の喉を、ヘクトールの手が掴む。みしりと喉に食い込む指が男の呼吸を奪い、血の流れを堰き止めた。はくはくと口を開きながら男は逃れようと暴れるが、丸太のようなヘクトールの腕は微塵も動じない。
「何だァ? 今の殴り方は……」
儚い抵抗を意に介さず、ヘクトールは嗤う。哀れな犠牲者を嘲る残忍な笑みだ。仇なす者は情け容赦なく打ちのめす、悪党の浮かべる笑みだった。
「頭ってのは、こうやって狙うんだよ!」
掴んだ腕を引き寄せて、勢いのまま男へ頭突きを食らわせる。白目を剥いた男は続けて横っ腹に蹴りを受けて、壁に頭を強かにぶつけた。酸欠状態の脳に受けた立て続けの衝撃に、意識を取り戻すことなくずるずると床に沈む。
目の前で一切の手加減なく振るわれた暴力に、取り巻きたちが一歩、二歩と後退る。思わず言葉をなくしていた元挑戦者は、そんな仲間たちに向けて慌てて怒鳴った。
「な、何をしている! 相手は一人だろッ! やれッ!」
そう叫び元挑戦者はテーブルの下に身体を潜り込ませる。テーブルの裏に貼り付けて隠していたナイフを手に取ると、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
テーブルの下から顔を出すと、鉄パイプを持っていたはずの男がヘクトールの足元に転がっていた。倒れた男は鳩尾と喉に拳を叩き込まれ、血を吐いたきり動かなくなった。
「テメェ……ッ!」
二人の男が同時にヘクトールへ殴りかかる。怯えを振り払うための大仰な拳は、格闘を生業とする闘士相手にはあまりにも遅すぎるものだった。
一人の顔面をヘクトールの拳が抉る。折られた歯が床につくより速く、そのまま振り返った勢いでもう一人のこめかみに肘鉄を食らわせた。
ふらついた男の膝にヘクトールの追撃の蹴りが突き刺さる。関節の砕ける嫌な音と共に足があり得ない方向へ曲がった。
控え室に絶叫が響き渡る。足を抱えて転げ回る男の隣で、歯を折られた男が倒れたまま酒瓶の破片に手を伸ばしていた。床に散らばる砕けたガラスを震える手で掴むと、ふと視界が暗くなる。
顔を上げれば、照明を背にしたヘクトールが男を見下ろしていた。逆光で陰になった顔から、金と赤の瞳が冷ややかに男を射貫く。ひゅっと恐怖で喉を鳴らした男の手が、ガラス片ごとヘクトールの靴底に踏み砕かれた。
二度目の絶叫が上がる。誰もが顔を顰めるであろう悲痛な声に、しかしヘクトールは眉一つ動かさず、筋肉質な腕を男の喉に巻きつけた。一気に締め上げると男は悲鳴さえも奪われ、何度か藻掻いた末に意識を失った。
左手にナイフを握ったまま、元挑戦者は動けずにいた。取り巻きたちは皆無力化されて床に転がっている。圧倒的な暴力で敵を打ちのめしたヘクトールは、何も語らずかつての挑戦者を見据える。
彼はただ待っていた。相手が覚悟を決めて己に向かってくる瞬間を。怪我人だろうと、力量差があろうと、敵にかける慈悲などヘクトールは持ち合わせていない。元挑戦者にできることは、ただ無謀な戦いに挑み、ヘクトールの勝利の贄となることだけだ。
「く……クソったれがぁああッ!」
怒りと自棄に顔を真っ赤にした元挑戦者が叫ぶ。左手に構えたナイフをヘクトールに突き刺すべく走り出した。
突き出されたナイフをヘクトールは身体を開いて躱す。刃先はヘクトールの腕を掠めることしかできず、伸び切った腕は褐色の手に捕らえられた。胸倉を掴まれ、足を払われた勢いで投げ飛ばされる。入り口の壁に叩きつけられ、男の全身を痛みと衝撃が襲った。治りきっていない怪我の数々が悲鳴を上げて、元挑戦者の男は蹲りながら苦痛に悶えることしかできない。
それでもなお取り落としたナイフを取ろうと男が手を伸ばしたその時、入り口の自動扉が開いた。
何者かと振り返ろうとした男の背を、侵入者は容赦なく踏みつける。折れた右腕ごと踏みにじられる痛みに苦悶の声が上がるが、侵入者のヘイザ・アロ族は気にした様子もない。
片足を元挑戦者の背に乗せたまま、レザラは気さくに片手を上げて挨拶した。
「やぁヘクトール、邪魔するよ」
怪我人を踏みつけながらレザラはヘビーフェイスらしい爽やかな笑みを浮かべた。ヘクトールは乱入してきた親友に向けて、不機嫌そうに舌打ちを零す。
「ちっ……本当に邪魔しやがって……あとそいつだけだったのによ」
「まぁまぁ、ボクにも心配させてくれよ。キミが一人でこんな人の寄らない所に向かってるって聞いたらそりゃ駆けつけるさ。先日の試合がアレなら尚更ね」
和やかに会話を交わす二人の足元で、元挑戦者は踏みつける足から逃れようと床を足掻く。しかし一向に抜け出すことは叶わない。朗らかに笑うクルーザー級王者の足は、ヘクトールのものより細身でありながら、その全てが引き締まった強靭な筋肉でできているかのように男の身動きを封じていた。
「しかし流石ヘクトール。ボクの助けなんていらなかったかな?」
「当たり前だろ。雑魚が何人群れようが俺様の敵じゃねぇよ」
「やるねぇ! 殺してもないみたいだし、これなら大して騒ぎにも……って……」
部屋を見渡したレザラが、ぴたりとその動きを止める。視線はヘクトールの腕に真っ直ぐ向けられていた。元挑戦者のナイフが掠めた切り傷から、僅かに血が流れている。
「…………キミ、その腕」
「あ? あー、掠り傷だ。大したことねぇよ」
乱雑に傷口の血を拭うヘクトールを尻目に、レザラは元挑戦者の傍らにしゃがみ込んだ。男の背に体重をかけて床に留めたまま、頭を掴み上げて語りかける。
「ねぇキミ、ヘクトールが怪我しちゃったじゃないか。どうしてくれるんだい?」
口調は温和なままだが、レザラの顔からは表情が消えていた。伏せている元挑戦者にその顔を見る術はなく、鬼の形相でただ呪詛を吐く。
「殺す……テメェら殺……」
言い終わらない内にレザラが男の頭を床に叩きつけていた。鈍い音が響き、男の折れた鼻から血が滴る。
「殺すじゃねーよ、お前のせいでヘクトールが怪我したっつってんの」
底冷えするような声が男に投げかけられた。レザラは男の頭を掴んだまま、再度持ち上げては床に打ちつける。
二度、三度、元挑戦者の顔面が硬い床と激突する。その度に潰れたような悲鳴が上がり血が飛び散っても、レザラの手が緩むことはない。
「殺すつもりだったなら殺されても文句言えないよな? 魂資源の一つや二つ覚悟しろよ」
「おい……」
諌めるようにヘクトールが声をかける。だがレザラの手は止まらない。昔からそうだ。かつて二人で荒れていた頃も、怒りや衝動に突き動かされたレザラには誰の声も届かなかった。
「や、やめ……許し……」
「やめるわけねーだろ。目玉潰れても続けるからな。オレのもんに手ぇ出してタダで済むと思うなよ」
歯が折れたのか、叩きつけられる度に元挑戦者は口から血を吐いていた。腫れ上がらせた血だらけの顔で命乞いするも、機械的なほど無慈悲に暴行は続く。もはやここにいるのは人気の善玉闘士などではなく、喧嘩に明け暮れていたかつての不良少年だ。
久しぶりに見たレザラの凶悪な姿に、ヘクトールは懐かしむでもなく溜息を吐いた。そして暴力を振るい続けるレザラへ近づくと、その頭をばしりと叩く。
「誰がテメェのもんだ!」
叩かれた衝撃とヘクトールからの叱責にレザラの動きが止まる。きょとんとした顔で見上げたレザラの目に、端末を握るヘクトールが映った。
「今連絡したからもうすぐ警備が来るぞ。大人しくしてろ、ベビーフェイス」
そこでようやくレザラは元挑戦者の男が気絶したことに気付いたらしい。頭を離した手には返り血が付いていて、このまま警備が来ればレザラの方が拘束されかねない様相だった。
レザラは立ち上がると、困ったように笑いながら肩をすくめた。やれやれと頭を振ったヘクトールが、控え室備品のウェットティッシュを手渡す。レザラの手の返り血が拭われ、どこからどう見ても善玉闘士の姿になった頃、廊下からは警備員が駆けつける足音が迫っていた。
数日後、レザラとヘクトールは揃ってオーナーの部屋から出てきた。事件についてオーナーから呼び出しを受けて、入室してから僅か数分後の退室だった。
「思ったよりあっさり終わったね。もっと怒られるかもしれないと考えてたけど」
「魂資源が減ってないならそんなもんだろ。アルカディア・ソサエティの中で起きたことは全てオーナーの采配次第だ。ありがたいことだぜ」
廊下を歩きながらヘクトールは安心したように笑う。何があってもオーナーは上手く収めてくれるという信頼を、その晴れやかな表情は物語っていた。
先の事件を受けて、元挑戦者は闘士の資格を剥奪されることになった。表向きはこれまでの八百長といった不正行為によるものとされているが、実際はアルカディア・ソサエティへの武器持ち込みや、関係者ではない取り巻きを侵入させたこと、それによる今回の暴行事件が決め手となったらしい。
『無論不正は把握していたとも。ただ証拠が足りなくてね。親御さんとのトラブルを避けるためにはもう一押し欲しかったんだ』
二人を呼び出したオーナーは落ち着いた笑みを浮かべて言った。彼はゆっくりと椅子から立ち上がると、ヘクトールの前へ歩み寄る。
『控え室の監視カメラに記録できたことが大きかった。結果がどうあれ、先に手を出したのはどちらなのか、はっきりと形に残ったのだからね。親御さんとも良い“話し合い”ができたよ』
にこりと微笑むオーナーの顔を、レザラは何も言わずに見ていた。監視カメラに一部始終が映されていたということは、ヘクトールが複数人に襲われているところを警備は見ていたということだ。その上で、連絡されるまで動かなかった。苦々しく思いながらも、レザラはただ黙って眉根を寄せる。
『君を危険な目に遭わせてしまったことは、オーナーとして大変申し訳なく思っている。けれど、私は信じていたんだ。君があのような者たちに負けることなどないと。……本当にありがとう、ブルートボンバー。君はアルカディアの敵を二度も打ち倒し、私を大いに助けてくれた、自慢の闘士だよ』
ヘクトールの肩に手を置いてオーナーが感謝を伝える。その言葉に感激したのか顔を明るくさせるヘクトールを見て、レザラは静かに表情を曇らせた。
廊下の突き当たりに軽快な電子音が響き、エレベーターの扉が開いた。
オーナーの部屋がある高層階から玄関ホールまで二人は一気に降りていく。狭い箱の中、落ち着かない浮遊感を紛らわせるように、レザラは声をかけた。
「それでもさぁ、ヘクトール。あんな見え見えの呼び出しにどうして一人で行ったんだい? どう考えても襲われるって分かりきってたじゃないか」
頼ってくれてもよかったのに、と唇を尖らせる。非難するようなレザラの言葉をヘクトールは一蹴した。
「俺に喧嘩売られたんだから俺が買わなくてどうすんだよ。人に頼ったりしたら俺の面子が潰れるだろうが」
さも当然のように言うヘクトールに、レザラは苦笑いを浮かべる。言っておきながら、レザラ自身もヘクトールは自分を頼らないだろうと分かっていた。彼はきっと逃げてはくれない。どれほど無謀な戦いでも、どれほど危険な行為でも。
「……クルーザー級王者として気持ちは分かるけどね、時折キミが心配になるよ。昔からキミはプライドや面子のためにキミ自身さえも粗末にする傾向があるから……」
俯いたレザラは横目でヘクトールの腕を見る。治療魔法を受けたそこは既に切り傷の痕跡すらないが、傷を負った事実が消えて無くなることはない。
薄暗い箱に再び電子音が鳴る。レザラが顔を上げると、エレベーターの扉が開き玄関ホールの景色が広がった。返事を待たずに踏み出すと、数歩遅れてヘクトールも続く。
しばらく黙って歩いていたヘクトールが、レザラ、と呼び止めた。立ち止まり振り返ったレザラの瞳を、ヘクトールは真っ直ぐ見据える。
「……プライドも面子も捨てたら俺には何も残んねぇよ。そんなザマで生き延びて、何の意味があるんだ」
真剣な顔で言い放つ親友に、レザラは目を見開いて……少し寂しそうに笑った。彼にはそれしかできなかった。
「大体なぁ! お前にだけは危なっかしいとか言われたくねぇんだよ! 昔っからレギュレーターも着けずに無茶ばっかしやがって!」
「えぇ……この流れでボクが怒られるのは予想外だなぁ……」
賑やかに騒ぎながら、二人はホールを歩いていく。その頭上に設置されたモニターが、突然音楽を流しながら新たな映像を映した。ライトヘビー級に新たな闘士が加入したことを告げる番組だった。真新しい衣装に身を包んだ新人が、インタビュアーの質問に緊張混じりに答えていく。
「次の挑戦者はどんな闘士だろうね」
「ふん……俺様の元まで辿り着けるか見ものだな」
モニターを見上げる二人は、新たな戦いの予感に胸を躍らせた。流した血も痛みも全て、アルカディアの輝きの前に霞んでは忘れ去られていく。なべてアルカディアは事もなし。また新たな闘士が生まれ、戦い、そして消えていくのだろう。
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