墨色
2025-11-20 20:48:24
1382文字
Public れめししお題
 

きみへのドライブ

れめししお題企画「ドライブ」お借りしました

喧嘩しちゃったれめしし


……魔が差しただけだったんじゃない」
……そうか」
 ヤバい、やらかした。
 そう思ったときには、既に遅かった。
 敬一君の短い返事とともに、電話が切られる。机の上に置かれたスマホに、無情にも『通話終了』の文字。そのまま画面はブラックアウトする。


 発端は些細な言い争い。些細過ぎて、発端が何かなんて思い出せない。
 そこで、売り言葉に買い言葉。
「じゃあ、なんでオレと付き合ってんだよ!」
 声を荒げた敬一君への返事。
……魔が差しただけだったんじゃない」
 冷えた今の頭なら分かる。投げやり過ぎる言葉。
 そんなわけないのに。そんなこと分かっているはずなのに。なんで敬一君は納得してるんだよっ!
 責任転嫁して、心の中で悪態をつく。
「くそっ!!」
 乱暴にスマホを引っ掴んで立つと、ゲーミングチェアのキャスターが勢い良く回転した。
 キーケースをポケットに突っ込んで、部屋を出る。エレベーターのボタンを力任せに押す。オレ以外の住人のいないマンションでは、常に地下かこの階に止まっている。すぐに開いた扉をくぐり、狭い箱に乗り込む。
 ゆっくり降りるエレベーターに苛つきながら、小さくなっていく階数表示を睨みつける。
 十数秒後、地下駐車場へと着くと、どこにでもある大衆車に乗り込む。オレの趣味には、敬一君の愛車のように目立つものは向かないから。
「今度、別の車も買うか」
 恋人の元へ向かうには、分かりやすくカッコいい車がいい。敬一君の運転する助手席から見るより高い視界に、ボヤきながらため息を吐く。
 気が紛れるように、適当に音楽を選ぶ。敬一君の車で流すと嫌がられる、うるさい音楽。狭い車内に流れる曲は、オレの頭をかき乱すだけなので、すぐに切った。
 無音の車内で思うことは、敬一君のことだけだ。
「まさか、オレの世界を埋め尽くすヤツが出てくるとはな」
 赤信号で止まると、ハンドルに身体を預けた。ポケットからスマホを取り出す。メッセージが来ていないことなんて、分かっているのにアプリを開いてしまう。
 信号が変わり、アクセルを踏み込む。早く怒っている愛しい恋人の元へ行きたいのに、都会の渋滞はソレを許してくれない。
 あれで頑固な敬一君は、今頃何しているだろう。……頑固だけど、オレにとことん甘い敬一君だ。オレがやって来ることくらい見越すくらいに成長もしている。
「うん、きっと温かいスープかシチューだな」
 家に招き入れたら、多分無言でそれが出てくる。敬一君からの仲直りの合図だ。敬一君はそうやって、自分の中でスイッチを切り替えるタイプなんだ。
「けど、流石に今回はオレからも反省の証を示すべきか?」
 止まった交差点で腕を組み、背伸びがてら視線を上に向けると、大型ヴィジョンが目に入った。
 流れていた映像は、白いドレスに身を包んだ女性モデル。名前は知らない。
「イイな」
 ナビの目的地を変更する。『フラワーショップ』マップにいくつかチェックが付く。
「指輪……は、気に入るものを贈りたいしな」
 プロポーズに必要なのは、ムードとサプライズだろ?真っ赤な薔薇一〇〇本は、用意するのが容易くはない。だが、たった二本で十分だ。
 花言葉は『この世界に二人だけ』
 待ってろよ、敬一君。
 オレは何より、オマエの驚く顔が好きなんだからな。