白殊皎(しらよし こう)
2025-11-20 20:00:00
3184文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

泥濘の中にも華は咲く

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
土方さんと近藤さん1臨・黒の剣士。

珍しく一人で食堂を訪れた土方。近藤になにかあったのだろうか。

 昼時の食堂はやはり混み合っていた。
 だが、その中にも目指すべき姿はない。
 やっぱりな、と思いつつトレーを二つ、手に取った。
「よぅ、土方じゃねぇか。今日は一人か?」
 カウンターに立つとビーマが笑いながら話しかけてきた。
「まぁな。こういう日もある」
 苦笑しながら答え、二人分の注文を済ませる。
 ふと、カウンターに見慣れないものがあるのを見つけた。
それは?」
「あぁ、今日のエミヤのオススメだ。良ければ持っていくか?」
「頼もうかな」
 土方は目を細めそれもトレーに乗せてもらった。
 
 
 
 食堂の喧噪を抜け、部屋を目指す。
 行き先は自分の部屋ではなく……近藤の部屋だ。
「近藤さん、入るぜ」
 解除キーも何もかも知り尽くしているので、勝手知ったるという感じで部屋に入る。
………………
 室内灯をともし部屋の奥に目をやれば、返ってきたのは剣呑な視線だった。
 鮮やかな紅に縁取られながら、その目はあくまでくらく、無機質な寝台の上で掛布を頭から被りうずくまっている。
 こりゃ今回も手強そうだ。
 土方は改めて臨戦態勢に入った。

 近藤勇は時々、こうやって殻にこもる。
 過去に己がなしたこと、隊士たちに課した呪いの宿命、最終的に耳目を遮り全て投げ出したことへの自責などなど。
 それらによって、感情のコントロールができなくなり、自分などいない方がいいのだ、罰されるべきなのだ、今、このまま消えてしまいたいとマスターからのパスや食事による魔力供給、睡眠……は基本必要ないが、そういったものを拒否してしまう。
 当然完全には拒否出来ないので、すぐに霊基に異常がでるわけではないが危うい状態にはなる。
 どの霊基でも頻度に差はあれ起こすのだが、一番割合が高いのはこの、黒の剣士の姿である。
 おそらくあの特異点で起こした騒動に対する自責が一番わかりやすい形で体現されているからだろうし、本来の自分の姿とかけ離れているから客観視しやすく、闇を受け入れた身だから罪を被るのに丁度いいと思っているのだろう。
『まぁ、俺にはそんなことは関係ないわけだが』
「メシを持ってきたぜ、どうせ何も入れてないんだろう」
 そう言ってサイドボードにトレーを乗せる。
「いらぬ」
 近藤は短く答えて顔を隠す。
 ひっくり返したりしないだけましではあるが、とりつく島もない。
「そうかい」
 意に関せず、といった感じで土方は近藤の横に割り込むように座り、自分の分に手を付ける。
 近藤は土方のその横顔をじっと見つめた。
「なんで、いつもおまえは俺に関わろうとする」
 他のものは皆、関わろうとしないのに、といった響きを持たせて近藤は呟く。
「俺だけが関わろうとしてるわけじゃない。他の連中だって呼べばいくらでも来るぜ」
 ばり、と添えられた沢庵を噛んで、ぶっきらぼうに応える。
 これも常からあるやりとりだ。
 近藤がこんな状態になると知って、心配しているのは自分だけではない。
 沖田は言うに及ばず、斎藤も、山南も、永倉も、原田も、藤堂だって等しく心を痛めている。
 自分が近藤の元にいつも向かうことについて、新選組の皆が口に出さないのは、まぁ、自分が信頼されていると思うことにしている。
──異論は認めるが。
……物好きばかりだ。こんな俺に」
 おそらく、近藤がこんな時に欲しい言葉は肯定ではなく否定。
 誰がおまえについていくものか、局長などと祭り上げられてお高くとまるのもいい加減にしろ、結局おまえは何も成せなかったではないかと。
 綺麗事ばかりで事が成れば苦労はしないと、芹沢や伊東のように文句をつける人間がカルデアにいれば、近藤の息はもう少し楽だったかもしれない。
 近藤を一番苦しめているのは自分のような全てを容認し、受け入れている人間かもしれない。
 だが、今更変えられないのだ。
 自分にとって近藤はなにものにも変えられない世界の全て。
 それを否定してしまったら、自分の世界が壊れる──今度こそ、正気ではいられまい。
「あぁ、物好きだらけさ。あんたの周りにはな」
 被っている掛布の上から頭の辺りを撫でる。
 近藤はふるふると頭を振って、触るなと言うように身体をよじった。
「それともなんだ。俺が牙を剥いてあんたを喰らい尽くせば、満足か?」
 当然、そんなことはしないが聞いてみる。
…………その方がましだ。何もかも受け入れられるより」
「そうかよ」
 寝台の上で近藤の身体にわざと体重をかけ、被っている掛布を引き剥がし、押し倒す。
「──ツ!」
 そう来るとは思ってなかったのか、近藤は目を見開いて一瞬抵抗の色を見せたが、土方の凪いだ目を見て大人しくなった。
「それであんたが癒やされるなら応えてやるが、違うだろう?」
 優しすぎるその目を見ていられないのか顔を逸らす。
「ほんとうに……なんでおまえはいつも……
「近藤さん」
 近藤の紅い目元を土方はそっと拭い、額に口吸いを落とす。
「あんたがどんだけ苦しいか、俺にはわからん。けれども寄り添って立つことはできる」
 手の力を緩め、そっと心臓の辺りに耳を持っていく。
「俺が──俺たちがいることを感じてくれていればいい。世はあんたが思うより悪かないぜ」
……ばか」
 少し早めの心音を聞くように目を閉じる土方に近藤は顔をゆがめ、新たな涙を零した。
「なんで、俺を見限ってくれない。なんで、俺をいつでも受け入れる……!? なんで、おまえは……
 誰が見限れようこの人を。
 世を拒み彷徨いながらも、誰かに受け入れて欲しがっているこの寂しい魂を。
 唯一の──自分の片割れを。
 自分はこの人だけを見て、求めて、果たされぬとわかりながら──それでも手を伸ばしてきたのだ。
 その魂がそこにいる、それだけで、それだけが土方の理由だった。
 追い求めた百五十年の間に学んだつもりだ。
 近藤にそれを押しつけるつもりはない。
 けれど、闇の中でも微かな光を灯せるのならば、自分がこの人のそれになれるのならば、自分はその為に動くだろう。
「なんでだろうなァ……?」
 身体をずらし、近藤に添い寝するような体制になると、その胸をぽんぽんと優しく叩く。
「わかんなくていいんだよ、他人の心なんか。本当にわかるやつなんかいやしねぇ」
 土方の言葉に、近藤はさっきまで消えたいだの、いなくなってしまいたいだの思っていた自分が急にちっぽけに見えた。
「とし……
 近藤は鼻をすすり、半ベソで起き上がった。
 土方もそれを支えて一緒に身体を起こす。
「食事……
 そして今更気付いたようにサイドボードに目をやった。
 それを認めもったいない、食べようという気持ちが湧いたのならばもう大丈夫だろうと土方は思いを巡らす。
「あぁ、冷めても大丈夫なようなものにしてあるから。あと、これな」
 トレーを近藤の膝の上に置く。
 そして、そこにあの追加でもらってきたものを置いた。
「あんた好きだろう」
 それは竹を模した小さな器に入ったあんみつだった。
………………
 このカルデアに来てすぐに一度口にしたそれを随分と気に入って、ことあるごとに土方に話した記憶がある。
 それを覚えていてくれたのかと、つい口元がほころんだ。
「ありがとう、とし……
 変わらない土方の愛情にほのぼのと胸が暖かくなる。
「どういたしまして、だ」
 人の心がわからない、なんて嘘じゃないか。
 近藤はしみじみとそう思った。
 だって、この男は誰よりも自分の心を汲んでくれる。
 その時一番欲しい言葉を、心をくれる。
「いただきます」
 近藤は折り目正しく、トレーの上の食事に手を合わせた。

 お楽しみは、最後に──。