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shika
2025-11-20 14:29:07
2816文字
Public
渡🇺🇲組
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Hooper hope
渡米後の沢のはじまりとドラフトのお話。
作者の好みと想像に偏っています🙏🏼
十七歳の夏、バスケットを追いかけて海を渡った。
それまでのバスケット人生で一番悔しかったあの敗戦を抱えて、夜の空を飛ぶ飛行機の中で日付変更線を跨いだことを今でも覚えている。飛び込んだアメリカで慣れない英語と、でかくて上手い奴らと、高カロリーな食べ物にもみくちゃにされながら、ひたすらみっちり自分のバスケットと向き合った。
身体能力、勘、スキル、それと駆け引きのずる賢さ
―――
一対一でも敵わない相手がごろごろいる。どうしたら目の前のこいつを抜けるのか?自分がこいつの弱点になるためにはどうしたらいいのか?腹の底からグツグツと湧くような闘争心を掻き立てられた。これは今でもずっと変わらないけれと、身体も強くてしかも上手い、となれば向かっていくだけ。オレだって負けたくないから、対峙する僅かな時間の中で盗んで吸収する。どれだけ相手が隠しているものを見破って盗めるか、盗んだものを自分に落とし込んで実践できるか。その一瞬一瞬が悔しいと楽しいの繰り返しで
――
やっぱり全部ひっくるめて楽しい。
試合も一対一も、勝つことと同じくらい負けることも増えていった。自分の中に重ねられていく負けの経験は、メンタルをかなり鍛えてくれた。
カレッジに進学すると、NBAプレーヤーという夢に向けて計画やビジョンを具体的に考えるようになった。学生アスリートが所属するNCAAは週単位で練習時間が厳しく定められていて、練習がない日でスケジュールに余裕がある時には地元のチームのホームアリーナまでよく試合を観に行った。目の前で行われている試合はテレビを通して観るより当然迫力があったけれど、ひとつひとつのプレーの速さやタイミング、その凄さの感じ方もまったく違う。なんていうか、温度を感じるのだ。
うわっ、あの人すげーな
……
何あれ、どうやったらあのタイミングであんなことできんの
……
。
バスケしかしてこなかったのに、バスケを初めて観るような感動。けれどどんなにすごいプレーをしていても、動いているのは生身の人間なのだ。その点は、憧れるあの選手もオレも同じだ。
観戦後に帰宅してから、マッチアップする自分を置いてゲームプランを練るなんてこともよくやった。仮想空間の中で実際に目の前で見て感じたプレーをできるだけ正確に頭の中で再生して、現状の自分を置く。この人を止めるためにどうするのか
――
。そして同時に「自分はいつそれを現実にできるのか」を考えるまでがセット。
ドラフトエントリー。エントリーの第一条件にして必須資格は、ドラフトが行われる年の十二月三十一日に十九歳を迎えていること。
もう自分の中で遠い話ではなくなっていた。
NBAのドラフト名物といえば、みんなして「絶対普段そんなキャラじゃないじゃん」と思うような気取って洒落たスーツを着て、コールされたら家族とハグして、指名されたチームの帽子を被って爽やかに笑って、コミッショナーと握手
―――
あの映像。たまに髪がブレイズだったりアフロだったりの選手がいると帽子が頭というより髪にちょこんと乗せられているように見える。カレッジのカフェテリアで友達と集まって見ていた時は、いずれ同じ舞台で対戦するかもしれない同世代の選手を意識しながら誰がどこに指名されるかをみんなが真剣に見ていた。そして想像するのだ。コミッショナーに名前を呼ばれて、家族とハグして、あのキャップを被った自分を
――
。オレの頭にはシックなスーツを着てキャップを被った自分がはっきり見えた。どこのチームでも嬉しいけど、キャップは地元チームのロゴが入っていた。
絶対に現実にする。問題はエントリーの時期だった。選択肢は二つ。一つはカレッジを卒業して自動資格を得る。そしてもう一つ、卒業を待たずにアーリーエントリーを使う。アーリーエントリーを選択する場合、NCAAでのプレー資格をなくし、カレッジは休学か退学することになる。この頃にはコーチにも両親にもNBAを目指すと明言していたから、個別ミーティングや国際電話で何度も話し合った。
そして二十歳を迎える年の三月、NCAAのトーナメントを勝ち上がりマーチマッドネスへの出場を果たした後、友達やチームメイト、コーチに激励されてカレッジを退学した。
進学から二年。じっくり時間をかけて考えて悩んだ末、二つ目の選択肢をとった。
――――
六月、ニューヨーク、バークレイズセンター。
ドラフト二日目、都合をつけて日本から来てくれた両親と会場にいた。自分で探して買おうと思っていたスーツは、「栄治、スーツ買っといてやったぞ!」と丁寧にスーツケースに入れられて日本から遥々飛行機に乗ってやってきた。光沢のあるネイビーの生地に赤と黄色のアイビーストライプが入った個性的なスリーピース。
テツだろうなぁこれは
……
。ミサだったらもっと落ちついたシックなものを選ぶよな
……
。
こっちに来てから体格だって変わったのになぜかジャストサイズのスーツを着て、晴れて「普段絶対そんなキャラじゃないじゃん」を体現した形となった。
二日目は初日と別の会場で行われ、観客もいない。大きなモニターの前に黒いドレープがかかった丸テーブルが横一列に並び、そこに選手と家族だけが座る。オレと同じように二巡目に指名されることを待つ選手が緊張の面立ちで座っていた。
モニターに映る副コミッショナーは簡単な挨拶が終わると、すぐに選手の名前を呼び始めた。そして
――――
。
『With the thirty-three pic, Milwaukee selects, Eiji Sawakita.』
二巡目、全体三十三位。
立ち上がって両親を力強くハグした。言葉はなかったけれど、背中に回された腕の力がおめでとうと伝えてくれた。指名されたミルウォーキーのチームのキャップを受け取って被る。ぶかぶかだった。
一巡目じゃなくても、順位が低くてもよかった。カレッジでのプレーを認めてくれて、可能性を信じて指名してくれるだけで。あの舞台でバスケットができるなら、本当にどこでも嬉しかった。選んでよかったと思ってもらえるように精一杯やろう。なんで選ばなかったんだろうと思わせるくらい活躍してやる。
後から見た映像には、子どもが父ちゃんのキャップを被ってかっこつけたような、なんとも不格好なオレが副コミッショナーとハグした後、たどたどしい英語でインタビューに答えている様子が映っていた。日本でそれを見たらしい高校の先輩たちから次々と祝福と冷やかしのメールが届いた。
おめでとう、なんだあのスーツ、キャップくるくる回ってたぞ
―――
。
十七歳の夏、バスケットを追いかけて海を渡った。
二十歳の初夏、湧き上がる衝動と激励に背中を押されてミルウォーキーへ飛び立つ。
二巡目三十三位を胸に飛行機の中で標準時子午線を越えた。
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