ダベミ
2025-11-20 01:03:09
25079文字
Public
 

※ネタバレあり【都市伝説解体センター×この動画は再生できません】この動画は解体できません

【都市伝説解体センター】と【この動画は再生できません】のクロスSSです。
両作品とも好きなので混ぜたらどうなるかやってみました。
ファン制作の作品なのでツメの甘い部分などがあるかも知れません。
また、双方の作品のネタバレが少しずつあります。すみませんが閲覧注意でお願いします!

トシカイは4章くらい、この動画は映画後〜S3前くらいの時空で考えてもらえると……。



資料
動画:ガッツポチャンネル 20xx/xx/xx
   【編集版】ライブ配信『いわくつきゲームをガッツポしながら生攻略!!』

以下は三十代の男性(以下、配信者)が配信した、とある生放送配信の文字起こしである。
※なお、この生配信のアーカイブ及び、編集版としてアップロードされていたものは削除済み。
 この動画は、再生できません。


配信者「……おっ、映ってる?いいね〜、始め甲斐があるねぇ〜!」

薄暗い部屋でPCデスクに座った配信者。
黒縁の太い眼鏡、やや脂の付着した眼鏡、穏やかな笑みが特徴。
デスクの左側にゲーム用機材が見える。

配信者「それじゃあ……んんつ……

配信者「どうも、ガッツポチャンネルですっ、ガッツガッツ!」

配信者「はい〜、ということで始まりました生配信……おわー、すごいw」

配信者がPC画面を見る。
画面には配信者を見るために集まったリスナーのコメントが流れている。
『おっつぽ〜間に合った!』『おっつぽです!生放送ありがて〜』『おっつぽ〜』『おっつぽ!あのゲームプレイしてくれるの嬉しいです!』

配信者「はいおっつぽ〜つって……はいはいはい、気になるよね、気になるよねぇみんなぁ?実はぁ……

(数秒間、フレームアウト。その後、ゲームカセット(注釈1)を手に持って画面に戻る)

※注釈1:ゲームカセット
1990年に発売された家庭用ゲーム機、スーパーファミコン専用のゲームカセットに酷似した形をしている。

配信者「……はい!」

配信者はカセットをカメラに見せつけるように前に持ってきた。ラベルにはカタカナで「コノゲームハアソバナイデクダサイ」と書かれているようだ。
リスナーのコメントを見る。
『うわ』『出 た わ ね』『出た!』『まさかマジで!?』『やるじゃんガッツポ』『仕込みだろ』『見たことねーぞこんなの』

配信者「ええ、ええ、色んなコメントありますね〜うふふ……いや仕込みじゃねーから!」

配信者「ええ……改めて……

配信者「なんとリスナーである、ポーズネーム(注釈2)『毛屋定価』さんから、あの!『呪いのゲーム』をお借りすることができました!拍手〜!!」

(SE:拍手(注釈3))

※注釈2:ポーズネーム
チャンネル内のハンドルネームの総称。

※注釈3:拍手
生配信時の音声をそのまま使用した。
配信者の両手は画面に収まっているのに、編集不可の生配信でSEが鳴っている。後日判明したが、この配信者は足元に特殊なコントローラーを置き、それを操作して生配信中に効果音を鳴らすことができる技術があった。

リスナーのコメントを見る配信者。

配信者「っふふw やっぱ信用なんないよねw」

配信者「どれどれ……『うそつけw』?嘘じゃないって!『ヤラセ乙』ヤラセじゃねーって!」


中略。


配信者が実際のゲーム画面を映しながらリアクション、コメントをしている映像の途中から。
全画面のうち、左寄りに大きくゲームのプレイ映像。右端にコメント欄、画面下にはチャンネルの登録依頼やメールアドレスなどが流れ続けている。
ゲーム映像の右上に、小窓のように配信者の顔が映っている。右半身が映っていることから、配信機材の横にゲーム機材があることが分かる。

ここまでで一時間ほどゲームをプレイしている。

配信者「薄気味悪いですね……

画面はやけに暗い。
ストーリー上、廃教会に行く必要があり、主人公はそこに立ち寄っている場面である。
ところどころバグなのか、見えない壁のようなものがあり、進行を妨げられているようだ。

配信者「あとちょっとだと思うんですけどね……はぁ……

配信者の顔には疲労のような色が見え始めている。やや具合が悪そうに息を吐いていた。
プレイ画面では、行けそうな場所に行こうとするが、阻まれているキャラクターが映っている。
時折、低い『ヴーン……』と言うような感じの音や、ビリビリとしたデスクラックそのものが震えるような音が入っていた。

配信者「この時代のゲームはバグが多いのなんのって……ん?」

コメント。
『左端に何かいない?』『え、うそ』『うわ』『いやいやいやw』『さすがにねーよ』『いるじゃん!!』

配信者「左端……?」

荒いドットのある画面左端を見る配信者。

配信者「……っ!?」

がたっ、と立ち上がる。
同時にコメントも湧き上がる。
『キターーー!!』『なんかすごいな』『こわ……』『ヤバすぎ』『ドット技術すげー!』

画面左端には、苦痛に歪んだ女の顔、に見えるような模様が書かれていた。

配信者「うわっ……なに、これ……えぐ……

明らかに顔をしかめている配信者。
(数秒間、画面を凝視しているような様子)

配信者「……あ、これ床の模様か!」

コメント。
『ドットが粗くて何にでも見える』『破片の置き方が確信犯』『ヤバすぎだろw』『てかこのゲーム何?』『ストーリーも陰惨だよね』

配信者「……

イスに座り直したものの、画面前で顔をしかめたまま数秒間止まる配信者。
言葉も無く、ただ重低音がズン……と響く嫌な時間が流れる。

コメント。
『どうした?』『ブルってるw』『なんかあった?』

配信者「……? なんか、具合悪いかも……

コメント。
『ビビってるwww』『どうした?』『ガッツポ珍しいね』『これでビビるか?』『なに?』

配信者「…………

突然イスから崩れるように倒れ、フレームアウトする。
大きな「どたん!」と言う音がするのが配信画面にも入っている。

コメント。
『は?』『え?』『マジ?』『流石にヤラセ』『どういうことなの……』『茶番おっつぽ』『え……』『ガッツポ?』

かろうじて画面下から伸びてきた配信者の手で生配信が強制中断される。

ぷつん───。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

//この動画は解体できません

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「あざみさん、ゲームの都市伝説を知っていますか?」

都市伝説解体センターのセンター長である、廻屋 渉(めぐりや あゆむ)さんが私に突然話を振ってきた。

「都市伝説って……あるんですか?ゲームって新しいものというか、都市伝説と結びつきにくそうに思うんですけど……

「インターネットが発展した現代で発生することは稀でしょう。ですが、かつては多くの都市伝説が発生していました。日本国内でも『すぐにけせ』などが有名ですね」

何の話ですか……?疑問を持った私には説明しないまま、センター長さんは手元のパソコンを操作しながら私の方へ視線を向ける。

「国外には、1981年初頭のアメリカに出現したとされている、アーケードゲームの都市伝説が存在しています。筐体の名は『ポリビアス』」

「ぽり……?」

随分聞き慣れない名前だと思った。

「ええ。話によれば、アメリカのとある州に設置されたそのアーケード筐体は、珍しさもあって多くの人で連日賑わったと言います。
プレイデータを収集するために、黒い服の男達が頻繁に筐体に訪れていたそうですよ。
遊んだ人は激しい精神活性と、強い中毒性を与えられたとか。……しかし」

ふっ、とわざとらしく言葉を途切れさせて、それからセンター長さんは不敵に笑みを浮かべる。

「『ポリビアス』を遊んだ人は、健忘や不眠症などと言った副作用に見舞われました。一ヶ月ほどで筐体は撤去されてしまったそうです」

「け、健忘に不眠症……

恐ろしい話だ。毎日プレイしたくなるくらい熱中してしまい、その上プレイしたら忘れっぽくなったり寝れなくなったりするってことだよね?
ゲームに病みつきになるのは、いつの世も恐ろしい……と言う警鐘を鳴らすためのお話なのだろうか。
なんてぼんやり考えていたら、前方のセンター長さんは、都市伝説によって興奮をしている。

「この『ポリビアス』の話が面白いのは、そもそも2000年まで『ポリビアス』の都市伝説に紐づくようなストーリーが見つかっていないことなんですよ。多くの人が調査をしましたが、本当に『ポリビアス』が存在していたと言うことを証明できた人はまだいません。つまり、この話は近代における創作ではないかと言われています。大本になるような事件について、アメリカのプロデューサーであるブライアン・ダニング曰く『1981年の同日に、ポートランドで二人の人物がアーケードゲームを遊んた後に体調を崩した』と言う事実、そしてそれから十日後に複数のゲームセンターにFBIが捜査に訪れており、その前段階として『ゲーム筐体を賭博に利用しているのではないか』という嫌疑を調査するため捜査官たちが筐体を監視していたということが重なりあって、『政府が監視しているゲーム筐体を遊んだ人が、突然体調を崩した』という伝説に変化していったのでは、という説を提唱していましてね───」

「せ、センター長さん!私を呼び出したってことは、また調査依頼ですよね?」

……まだ全く話終わっていませんが、仕方がありませんね」

このまま話を聴いていたらそれだけで日が暮れてしまいそうだ。調査しなきゃいけないのに。
気を取り直して、センター長さんは一枚の写真を見せてきた。

「いいでしょう。今回、あざみさんに調査を依頼したいのは───


『呪いのテレビゲーム』です」





「呪いのテレビゲーム?」

「ええ。最近そういう噂の動画が流れてて、それでうちに届いたんですよ」

相変わらずごちゃごちゃした事務所だな、と思いながら、僕はその話を聞いていた。
僕の目の前にいるのは『梅田 レイ』、WEBメディア『クロス』の編集長だ。普通のWEBメディアかと思いきや、こうしたオカルト系の噂もよく取り扱う。

「よく取り扱うってことは?」

(……そうだよなぁ)

苦い顔をする。
僕と梅田さんは、色々あってこうしたオカルト系の仕事をする間柄でもある。
これまたわけあって、オカルト系動画の調査の専門家……のようになってしまった僕は、梅田さんから『恐怖動画』の調査を依頼されることがあるのだ。
ただ、めちゃくちゃキビシい。
突然振られるし、なんか締切もすごくキツイ。
僕だって、色々大変な、時期なのに!
編集の仕事あといくつ残っていると思ってるんですかっ!


「毎回大変なら、断ればいいのに」

そうなんだけど、

(……言えるわけないな……)

はあ、とため息を吐くにとどまる。

「お人好しなんだから」

さて、そんなことをしている内に、梅田さんが一本のゲームカセットを取り出した。

「これがそれです」

……は?」

現物?
このパターンはあまりない。

……まさか、僕にやれって言うんじゃ……

「まさかぁ!そんなわけないじゃないですか」

梅田さんは笑顔を消してゲームカセットを僕に改めて見せてきた。

「ん?……なにこれ。『コノゲームハアソバナイデクダサイ』……?趣味悪……

僕は梅田さんと顔を合わせる。
梅田さんは言った。
あ、すごく嫌な予感がする。

「素材はお送りしておきます。この噂の発端になった、ある動画を見てほしいんです」

ほら出た。

「えぇーーーっ………とそれは、いつ頃まで……とか……

「なるはやで」

「なあーるはやでぇ……

梅田さんってこんなキツイ仕打ちする人だったっけ。

「あ、それで!」

僕が泡吹いて倒れそうになっている前で、梅田さんが思い出したように言う。

「この件、調査依頼を出してるのは江尻さんだけじゃないんです」

「は……?」

と。
そんなことを言った途端に、『クロス編集部』の扉がギイと開いた。

「ごめんくださーい」

明るい少女の声だ。
少女?





「あざみー、声小さいんじゃない?」

誰も出てこないので、とうとう扉を開けてしまったジャスミンさんを見ながら、バツの悪い顔をするしかなかった。
少し遅れて、中から

「すみません、そのまま入ってきちゃってください」

という女性の声が聞こえてくる。
行こう、とジャスミンさんが言い、私も頷いて続く。
足を踏み出し、建物に入った瞬間、言葉にしにくい熱気のようなものを感じた。

……う」

ものがいっぱい置いてあって、圧迫感があるのかもしれない。
そんな廊下を無視して歩いていくと、机の奥側に依頼者らしき方がいた。奥にもう一人男性が座っている。顔色が悪いが、もしかして……

「すみません、ちょっと話し込んでしまって」

スーツ姿の女性が会釈してくれた。
こちらも会釈し、自己紹介をする。

「都市伝説解体センターから来ました、福来 あざみ(ふくらい あざみ)です。こちらは止木 休美(とまりぎ やすみ)……

「ジャスミンでいーっすよ」

ジャスミンさんも合わせて(適度な)会釈をしてくれる。
女性は慣れた手つきで名刺を取り出した。

「『クロス』の編集長、梅田 レイ(うめだ れい)です。それと……

奥にいる男性は、ぼんやりこっちを見てから、数秒遅れでハッとしてばたばた立ち上がった。

「あ、えっと、江尻 真(えじり まこと)です。普段は動画の編集マンをやっています……





「江尻さんと言えば」

「わあっ!?」

私の脳内にセンター長さんがぬっ、と現れた。このタイミングで現れられると驚いちゃいますよ!……って、このタイミングを選んでるのも私の脳なのか……
説明すると、センター長さんから徹底的な指導を受けた結果、私の脳内には時々こうやって『幻覚のセンター長さん』が現れて私に話しかけてくることがあるのだ。
こうやって説明すると怖いかも……

「ご存じですか、あざみさん?彼はオカルト界でも有名な人物なんですよ」

「え、そうなんですか?」

こういうものにはあまり詳しくないので、毎回悪い気持ちになる。

「はい。江尻さんは『本当にあった ガチ怖投稿映像』、通称『ガチ怖』シリーズの名物編集者でして……

胡散臭いタイトルだなと思ったのを飲み込む。私の脳内で繰り広げられている会話劇だから、意味はないんだけど。

「近年の作品は彼がナレーションまで担当しています。」

「何でもやさんじゃないですか」

「そうでしょうね。」

そうでしょうね、じゃないですよ!
笑い事じゃない気がするんだけど、いいのかな……

「志半ばで倒れられた、監修の『鬼頭 和弘(きとう かずひろ)』さんのためにも続いて欲しいシリーズですね……ああ、鬼頭さんと言えばオカルトライターとして非常に著名な───」

「センター長さん、私の妄想でも情報を付け足してこないでください!」

おっと失礼、とわざとらしく言ってから、センター長さんは話を戻した。

「江尻さんは動画配信者の監禁事件など、複数の事件を『動画の中の情報』から解決している、実績のある方です。最近では映画監督をされたとか」

「すごいじゃないですか!……えーと」

「どうしました?」

「なんでそんな人がここにいるんですか?」

「それは、この後の話を聴いていればわかりますよ」





「全くさぁ、ぼーっとしてないで、ちゃんと挨拶しなきゃだめだよ」

真横から聴こえる声を無視せざるを得ないまま、僕は曖昧な笑顔を浮かべるに至った。
なんだか急に緊張してきた。よく考えたら、最近は梅田さんか、幾人かのスタッフかとしか話してないもんな。
まさかこんな……えっ、女性とお話できる機会なんて。いや、梅田さんは特別なんですよ、こう、色々あって。

「ちーす」

目の前のジャスミン……さん?と言ったか、金髪の女性は、なんかそんな感じのことを言って軽く会釈してきた。

「で、なんで呼ばれてるの、この人達は」

その声で、僕はやっと梅田さんに聞きたいことを思い出した。

「あの、それでこれは……

「ど、どういうことなんでしょう?」

同じくして福来さんが、僕と同じような疑問を抱いて梅田さんに質問をしてきていた。

「そうですよね。説明します」

そう言って僕達の前で梅田さんが今回の趣旨を説明し始めた。

「ゲームにまつわる都市伝説って、実はいくつもあるんです。存在しないゲーム筐体『ポリビアス』とかもそうだし、発売されなかったゲーム『手紙』や、クリアできなければ不幸が訪れると言われた『Misfortune』……

「あ、『ポリビアス』は私も知ってます!」

「お!すごい。さすがは都市伝説解体センター、と言ったところかな」

「その他にも、話し始めれば快挙に暇がありません。そんな中現れたのが、このゲーム」

改めて、梅田さんはそのカセットをここにいる全員に見えるように回した。

「突然現れた謎のゲームカセット『コノゲームハアソバナイデクダサイ』。こんなの、私も聴いたことがありません。知人のオカルトに詳しい人にも当たりましたが、誰も知らないと」

それを聞いたジャスミンさんが、なるほど、と頷いた。

「だから、これが新しく発見された都市伝説なのか、それともただのヤラセなのか、うちらに調査してほしいってことですね」

「なるほど!……って、ヤラセって?」

福来さんが首を傾げた。ピンときていないようだ。なので助け舟を出す。

「ホラー系の動画投稿者にあるんですよ、たまに。自分で事件を自作したり、幽霊の写真を捏造したり……そうして注目を集めようとすることです」

「きのこみたいなもんか」

ジャスミンさんが何かに合点が言った様子で頷く。きのこ?

「ん?……えーとね、谷原 きのこ(たにはら きのこ)さん、だっけ。心霊系の動画投稿者だよね。でも俺、あんまり好きじゃないかもな。彼の動画はヤラセって噂もあるし」

「ああ……谷原さんか……僕達はお会いしたことはないですけど……そうなんですか?」

それにしても、谷原きのこの名前が出てきたのは少しだけ驚いた。
オカルト系の動画投稿者をそらんじているのは、さすがは都市伝説解体センター……なのかな。彼は心霊系だから、都市伝説とは離れた場所にいると思ってたけど。

「どんな子だったっけな……

そんな声を聞きながら、僕もなんとか思い出そうとしたのだが、どうしてもピンとこなかった。
あいつの人気も大したことないじゃん、とジャスミンさんが言うのを聞いた。
申し訳ないのでなんとか思い出そうとしたのだが、やっぱりどうしても分からなかった。
マスムラさん、知ってるかなぁ。





それからしばらく。
動画を確認するために編集部屋に戻る江尻さんを見送ってから、私達は梅田さんにさらに話を聞いていた。

このゲームを送ってきてくれたのは、『ガッツポチャンネル』という、ホラーゲームを専門としたゲームプレイを生配信している動画配信者の人だったと言う。
生配信の大体二週間前くらいに、ガッツポさんに『ライセンサー非公認のゲームカセットを手に入れたが、これが呪いのゲームカセットらしい』と言うタレコミがあった。
すぐに写真を確認したが、ガッツポさんも見たことがないパッケージをしていて、不思議だったという。

「非公認の違法改造ソフトと言うのは、かつて一部あったみたいなんですが……それとはまた違うってことで、ガッツポさんも珍しがって話題に取り上げたみたいですね」

すぐさま放送内で話題になり、情報提供者に「そのソフトを借りられないか」とガッツポさんが呼びかけたところ、程なくしてそれが届いた。
そして、本当に呪いのゲームカセットなのか?検証の生放送を行ったが……

「その間に倒れた、と」

話をメモしながら、私はこの奇妙な事態に首を傾げていた。
確かこれを提供したのは『毛屋定価』さんと言う……ポーズネーム?ええっと、ハンドルネームの人か。
そもそも、この毛屋さんはどうして呪いのゲームカセットだとわかったのだろう?やっぱり見た目から?
あんな不気味な見た目をしていたら、知らない人はプレイすらしないんじゃないだろうか。

(それにもう一つ気になることが)

脳の中で再びセンター長さんが喋りだした。あの、今はちょっとお静かにしていただきたいような、そうでもないような。
あれこれ思案してメモをしながら話をまとめ終わる。しかし、これだけでは真偽がはっきりとしてない。

「それじゃあ、これはお借りします。また何かわかったら連絡しますね」

「はい、お願いします!」

「行くよ、あざみー」

ジャスミンさんが立ち去ろうとしている。
その前にどうしてもひとつだけ確認したいことがあり、一言断りを入れる。

「少しだけ待ってください」

……何?なんかあった?」

私は、カバンから取り出して眼鏡をかけた。
この眼鏡は、センター長さん曰く『ピントを合わせてくれる』らしい。普段から『変なもの』が見える私のピントを合わせてくれる。
そうして、いろんなものを可視化する……過去の様子を影のような形で見ることができる、『念視能力』が使える。

その念視をこのタイミングで使ったのは、気になったからだ。

───『僕達』。

あの時、きのこさんの話をした時。
江尻さんは確かに『僕達』と言った。
それはちょっと変だと思った。江尻さんが会ったことがないのなら『僕』で良いはずだし、複数だとしてその対象が梅田さんと江尻さんなら梅田さんも頷くはずだ。
でもその様子はなかった。
先程までその人がいたところをじっ、と見た。

私の視界には、影がふたつ見えていた。





資料
動画:鬼頭和弘のガチ怖チャンネル
   #xxx 現代の怪奇 より抜粋

現代のホラー、オカルトなんかは発達が早くて、情報社会になったからこそ生まれた都市伝説のようなものも多いんです。
かつての日本人は突風で皮膚が切れる現象を『かまいたち』と言う妖怪ではないか……と考えていたのですが、今そんなこと言って信じる人はほとんど存在しません。
神秘性、と言うか、不思議な部分の開示ですよね。これはこうだから、こうなる。そういうギミックを説明されたからこそ、かまいたちは現象として受け入れられた。

けれど、現代の都市伝説って、そもそも発生からしてちょっと違っていて。
例えば、映画化もされた『きさらぎ駅』。あれなんか、もとは2ちゃんねる……今の5ちゃんねるでの書き込みが発祥です。

(中略)

現代の都市伝説で特に特徴的なのは、やはり文明的なものが関わってくるってところでしょうかね……
あ、そうそう、テレビゲームなんて顕著。僕が子供の頃には考えらんないもん!すごい。
えぇっと、ゲームは非常にレアな演出が出たとして、それが再現できずに幻とされてしまう例なんかもありますし……
一見、それが真実かどうかがわからないようなものに対して、尾ひれがついて都市伝説化してしまうこともあるんですよね〜。
そうですね……例えばまあ、ゲームの主人公の名前を『ツナカユリコ』にしてはいけない……とか。これ発祥がどこか定かじゃないんですけど、この名前をつけると不幸が訪れる……なんて言われてます。

出処は不明だけど、奇妙な話が広まる。その速度は、インターネットの発展と共に加速しています。
もしかしたら、現代の方がよっぽど早く伝播するのかも知れませんね、都市伝説って。肝心の都市伝説そのものの発生が難しいことが多いのはまあ……ね?まあまあまあ……

(歯切れ悪く笑って誤魔化そうとしたままフェードアウトする)





……ああ、どうも」

ジャスミンさんが連絡を入れてくれたおかげで、私達は『ガッツポ』さん……こと、『勝田 力(かつだ りき)』さんに会うことができた。
近くのカフェで落ち合う。
話によれば活力のある男性だったと言うが、勝田さんは明らかに沈んだ顔をして、しょぼくれてしまっていた。

「それで、あのゲームについての話を聴きたいんですけど……

「あのゲームね……

苦虫を噛み潰す顔をする勝田さん。

「あれは間違いなく呪いのゲームですよ。プレイ中に具合が悪くなっちゃって……

「もう少し詳しく聞いていいですか?何か、ゲーム中に変なことが起きたとか……そういうことはないんでしょうか」

「うーん……

そもそも変だ。勝田さんはホラーゲームを専門とするゲーム配信者のはず。
その勝田さんが、あの日、あのゲームだけ、体調を崩した。
ゲーム内容がメンタルに響いたとか、そういう可能性はかなり低い、と思う。

「もしかしたら、もとから体調悪かったとか?それならゲーム中に体調が悪化して、倒れてしまったのも頷けるし」

ジャスミンさんが探りを入れる。

……そうなのかなぁ……いや、そうかも」

「心当たりがあるんですか?」

「うん、あの日……ゲームを始めた瞬間からかな。こう……耳鳴りみたいなのがしはじめたんですよ」

耳鳴り?
それもゲームを始めてから……

「それからどんどん具合が悪くなって。でも、視聴者の手前、簡単に辞められない……そう思って続けてたんですが……

「驚いたあのタイミングで、とうとう限界が来たってことね」

「具合悪い、と思った瞬間に配信を辞めておけばよかったのかも知れないですね……

勝田さんは後悔していた。心の底から。
その表情は本心だとしか思えない。勝田さん本人が望んだ結果ではないことは明白だ。

「確認ですけど、他のゲームではそんなことはなかったんですよね?今まで」

……はい、ありません。ゲーム配信のために必要だと思って、機材は友人に揃えてもらったんです」

「ご友人が?」

「ええ。昔、僕とそいつで二人でゲームプレイの配信をしていたんですが、色々あってそいつは裏方に回ることになりまして……

細かい部分を濁されてるような気がする。でもきになったところで突っ込める情報もない。

「あの日も直前までメンテナンスしてた、って言ってたから、機材の故障も考えられないし……やっぱり呪いなんでしょうか?」

「それはまだなんとも……

「お願いします、もし呪いだとしたら……俺は怖くて……ああ……

震えはじめて、話が難しくなってしまった勝田さんにお礼を言ってカフェを出る。
ちょうどいいタイミングでセンター長さんから電話がかかった。センター長は【千里眼】と言う能力を持っていて、私達がどこで何をしているのかを全て見ているのだ。
それにしたって良いタイミング……慌ててそれに出ると奇妙なことを言ってくる。

……なんて?」

電話を切ってすぐジャスミンさんが尋ねてきた。そこで、電話で言われたことをそのまま伝える。
なんでもセンター長さん曰く、この近くのスタジオを借りたので、そこで借りてきたゲームをプレイして欲しいとのことだ。

「やりたくないんですけど……やらなきゃだめでしょうか……

「はぁ……まああのセンター長がわざわざスタジオ借りてるってことは、無理だろーね……

「ううう……

ジャスミンさんが車を取りに行くのを見送る。
ホントにやらなきゃだめなのかなぁ……





「で?」

「で?じゃないですよ」

最近出入りするようになった編集スタジオにどっかり座って、振り返る。そこの回転椅子に、その人は『いた』。

鬼頭 和弘(幽霊)。

いないはずの人物。
確かに死んだはずの人が、間違いなく、死ぬ前のままの姿で僕の前にいる。

「なんか分かった?」

「早いな、もう!まだですよ」

動画の方は……画面が暗いからか一回さっと通して見ただけではわかりにくい場面が多かった。改めて確認してみることにしよう。

「て言うかさ〜、江尻くん、なんか固くなかった?なに、緊張してた?」

……そりゃあ、普段喋らないような人がいたら緊張くらい……て言うか喋りかけないでくださいよ、ああいう場面で」

「今日はよく無視できてたと思うよ」

「なぁんで鬼頭さんが僕のことを褒める側なんですか!分かってるんだったら黙っててくださいよ、邪魔なんだから!僕しか聞いてないんだから!」

鬼頭さんは、群馬のとある山にあるという祠を調査しに行った際、背後から殴られ、そのまま絶命した。
はずだった。
確かに鬼頭さんは死んでいる。
間違いない。けれど、何故か僕の前にいる。

なんなら家にいてくださいって、お願いしてるのに「暇だから」と言う理由で毎回ついてくる。ほんとに迷惑だ。

……はぁ……もぉ仕事が詰まって、……しょうがないか……

「ほんとお人好しなんだから」

「しょーがないじゃないですか!」

梅田さんからの依頼なら断れない。
……僕達にはそういう関係性がある。鬼頭さんの件を解決できたのも、生命の危機を回避できたのも、梅田さんのおかげだし。
ここでぶつくさ言っても仕方がないので、改めて梅田さんから送られた動画を見る。

「やっぱ、何回見ても苦痛に歪んだ女の顔に見えるねぇ……

「すごいですね、これ……ドットを打つ技術は僕にはないので、細かいことはわかりませんが……本当にリアルな女性の顔に見えます」

「すごいよねぇ。こんなの、ひとつひとつぽちぽちってやったのかな……ゲーム開発だって、今ほど技術も機材も無かっただろうし」

……

……? どうしたの、江尻くん」

引っかかるところがある。

「これ、そもそもライセンサー非公認のゲーム……、という話でしたよね。しかも、都市伝説解体センターさんに頼まなきゃいけないような、梅田さんでも真偽がわからないゲームソフトだって」

「ん?ああ、そうだったそうだった。それで?」

……そんなゲーム、ホラーゲームを専門としてるガッツポさんが全く知らないなんてことあるのかな、と思って」

大前提、そこが変に思えた。
そんなことあるのだろうか?

「ああ、確かに気になるよね。……でも流通本数が少なかったら分かんないんじゃない?」

「本当にそうでしょうか」

確かに、誰の手にも渡っていないとすれば一見筋が通っているように見える。
だが、そうすると別な疑問が生まれてしまう。

「そもそも、違法改造されたゲームとはいえ、こうしたものは流通するか、あるいは2ちゃんねるのような電子掲示板などに書き込みされて、その存在が発覚するものがほとんどです」

「なのに、ガッツポさんのところにタレコミがくるまで誰も知らなかった?」

「はい。それも、ガッツポさんだけではなく、そうしたホラーゲームの実況プレイを好んで見ているであろう視聴者達も、タレコミした人を除いて誰一人知らない。……それってなんか、おかしくないですか?」

「え、なに?もしかして」

鬼頭さんは信じられない様子で目を見開いた。
もしかしたら他に可能性もあるのかもしれないが、それにしたってやはり奇妙だ。
前提を確認すればするほど、状況がおかしいのだ。だから、もし有り得るとすれば。

……このゲームは、何者か……恐らく、情報提供者が制作し、ガッツポさんに送りつけた。そう考えた方がいいと思います」





「よーし、それじゃああたしが運転してる間、チェックよろしく」

「はい!」

私達は貸しスタジオへ移動する車中で、もう一つの調査を始めた。
SNS調査───現代の怪異を調べるためにも、噂の広まりやすいインターネットを調べることはとても重要だ。

〔ガッツポ〕 [検索]

////////

ガッツポ @gatsch_game 1週間前

配信中断、ごめんなさい(汗)
急に頭が痛くなって(>_<。)
倒れてしまいました。。。

////////

「これ、当日のガッツポさんの投稿ですね」

これに対するリスナーからの返信の内容はまちまちだ。
『おっつぽ!ご自愛ください』とか、『ヤラセ乙wwwwww』とか……
その中に気になるものがある。

////////

┗返信
._ @dEat1n_gpg 1週間前

こいつ、相方いなくなってから
おもんなくなったよな
【元相方】って今何してんの?
絶対呼び戻したほうがいいよ

////////

私が眼鏡をかけると、話題になっていそうなワードがぼやっと浮かんで見えてくる。

「あ、【元相方】に反応ありです」

「そういやガッツポは元々二人でやってたんだっけ。そいつの話題、探せそう?」

「はい!」


〔ガッツポ 元相方〕 [検索]
……何が出てくるだろう?

////////

イラゲ〜 @ira9am3 4日前

ガッツポの元相方【ぴーす】
なんで裏方になったんだっけ?

┗返信
貝屋カロ(セルフ受肉Vtuber) @kaiyakaro 4日前 

ぴーすくんとガッツポくんって
仲が悪かったって噂もあったけど
結局ほんとかどうか
分かってなかったんだよね???
ガッツポくんとコラボした時も
そんなこと言ってなかったよ><

噂マニア @uwasaDaiske 4日前

ぴーすさんはガッツポさんより
トークスキルもゲームスキルも高くて、
人気者でした

噂によると、ガッツポさんが
ファンに手を出そうとしたのを
ぴーすさんが止めようとした頃から
暴力を振るわれるようになったとか……

  ┗返信
  ガッツポガチ勢 @gpggachi 4日前
  
  アンチ乙
  ぴーすがシバかれてたソースは?
  確かによく喧嘩はしてたけど
  真偽不明な情報でガッツポの
  印象を悪くしないでくれない?

コタロー @k3UvbRW62 4日前

ぴーすは元々【副業】してたらしい
顔出しが不利になるってわかって
裏方に回ったって話らしいけど

実際はガッツポに殴られてたらしい
証拠がないから訴えなかったみたい
今でも殴られてるのかな

////////

副業……

「どったのあざみー、変な顔して」

「えっと、なぜか【副業】ってワードに反応があって……

「ふーん?それも検索してみたら?」

「そうですね」


〔ぴーす 副業〕 [検索]

////////

ともゆきくん @tmykkuuun 二週間前

元 ポーズチャンネルのぴーすくん!
副業がメインになって人生逆転!?
ガッツポさんとの現在は!?
今のお仕事聞きました!

【衝撃】元人気配信者の月収!?今は○○経営で大人気!?
http://✕✕✕✕✕✕✕〜〜

SaToRu @satoruhuman 2日前

ぴーすの手腕は本当に驚かされる
副業のはずのレンタル業をメインに
したのも英断だと思うし
先にゲーム配信で名前売ってから
仕事始めるって言うのがうますぎる
広告費カットの割合デカイだろうな

ゲームマン @gamemanDAYO 昨日

ぴーすくん、元ゲーム配信者なだけあって
ゲーム機材にもすごく詳しいんだよ
俺もゲーム用のPC環境整えてもらった

オーディオ配置も完璧!
音の広がりもすごいし、重低音もバッチリ
もっとレンタルスタジオも有名になってほしい

////////

なるほど……ガッツポさんの元相方は、今レンタル業を営んでるんだ。

(しかし、それではまだ【呪いのテレビゲーム】
の謎を解くに至りませんね)

脳内のセンター長さんがふむ、と言いながら私を見ている気がした。
もしかして【呪いのゲーム】は【実在】する【呪物】なのかも?
……うん、きっとそう。
そうじゃなきゃこんなことになってない!





改めて動画を通して見てみる。

「これ、なんかおかしくない?」

「え?何がですか?」

ゲームを始める前の自己紹介パート部分を見ながら、鬼頭さんが声を上げた。画面の一部を指差しているようだ。

「なんか……人が暮らしてる場所には見えないっていうか。生活感なさすぎない?」

「そうですかね……?そういう人もいると思いますけど……

念の為、音声の方を確認するが生活音らしいものは一切聞こえない。
代わりに聞こえてくるのは、オーディオから流れてくる音や、息遣い。
それからオーディオ類がPCデスクか何かを震わせるような「ビリビリ」というような音。
防音設備が整っている場所なのだろう、外の音が入らないのはそれはそれで説明がつく。

「でも、俺ここどっかで見たことあるような……ねえ、現場が貸しスタジオって可能性はないの?」

「ああ、そるとさんの時みたいにですか」

『そると』というのは、以前に僕達が相談に乗った動画配信者だ。
『そると&ぺっぱー』という有名な配信者で、彼らの動画は貸しスタジオで撮影されていたことがある。鬼頭さんはそれを覚えていたのだ。

「一応検索してみますけど……

そう言いながら可能性を探っていた。
配信画面にちらりと映っている機材類は、検索を掛ければ相当ハイスペックだと言うことが簡単にわかる。
それにデスクを震わせるような音と言うことは、低音域帯を賄うサブウーファーが設置されている可能性もあるだろう。
すべて揃えるのにいくらかかっているか……計算したくもない。
だが、だとしてこの情報から場所を特定なんて無理すぎる。部屋の外を映すようなヒントもないし、どこを拡大しても何も見つからない。

「そもそも住所が分からないので調べきれませんよ。室内も結構暗いですし、一概に貸しスタジオなんて断言は……

できません、と。
そう言いかけて別な部分が僕の目に入る。

……あれ?」

「どうしたの?」

それは画面横、映像の他に音声ファイルを管理するためのUIに映った奇妙な動き。
……なんだ、この波形?





(こうして『呪いのゲーム』の存在そのものがうっすら広まっていくなんて、まさに都市伝説の生まれた瞬間を目撃しているようなものですね)

私の脳内センター長が頷いた。
Excellent!
と言う文字が目に見えるようだった。

貸しスタジオの管理人さんとは、スタジオの建物前で待ち合わせした。程なくやってきた管理人さんは、すらっと縦に長い体型の男性だ。

「ああどうも、話は聞いていますよ」

女性二人で心配なので管理人さんも同席してほしい、とセンター長さんから依頼があったそうで、この後のゲームプレイも見てくれるらしい。
ありがたいけど、一体何のためにセンター長さんはそんなことを……

そんなことを考えている内にジャスミンさんが戻ってきて、三人でスタジオの中に入っていった。
建物の中は広く明るくて、手入れがきちんとされている。
スタジオはいくつかの部屋に別れており、そのうちの一室へ招かれた。なんでも、そこにはゲーム配信などに推奨されるような機材を用意してあるんだとか。

「最近は身バレや住所の特定を嫌ったゲーム配信者の方も多いので、こういう部屋の需要が高いんですよ」
と管理人さんは言っていた。

……それにしても凄い部屋ですね」

パソコンやゲームに詳しくない私でも、置かれているそれらの機材が真新しいものだということははっきり理解できる。

「防音対策も完璧。音響機材も最新に近いものを用意してます。配信用PCも定期的にメンテナンスしてますし、ゲーム機も複数用意してますよ。もちろん、ゲーム機の持ち込みも歓迎」

ものすごくゲーム配信に理解のある人なんだろうか。
驚きながらも、しっかりセッティングされたデスクの方に行く。

部屋に入って正面に置かれているのが、配信スペースとしての機材類だ。
正面にゲームプレイ用のディスプレイ、そこから斜め右に配信用のディスプレイが並んでいる。キーボードやマウスなんかも右側に並んでいるから間違いないだろう。
なるほど、パソコン向けのゲームじゃない場合はゲーム画面を見るための画面も必要なんだ。

ゲーミングディスプレイの両脇には、立派なスピーカーが一対置いてある。
詳しくないけど、これもきっと相当高級なものなんだろうなとなんとなく思った。
足元にはデスクトップPCの本体……と、大きいスピーカーが置いてある。あれ?なんでここにもスピーカーが?

「すっごい立派じゃん。へえ、こんなところ借りてたのか」

「いくらくらいするんでしょう……

不安になるくらい良質な環境だ。

「ジャスミンさん、それじゃあ私、ゲームをプレイしてみることに……

しますね、と言いかけて、突然部屋の扉が開いた。

「しないで、くだはい!」

「なんて?」

ジャスミンさんが気の抜けた声をあげてそちらを見た。
何故か、そこには江尻さんが立っている。
額に大粒の汗を垂らしながら、ぜーはー言ってそこにいた。

「え!?な、なんで……

「その……はひ、そのゲーム……だめです、【この環境でそのゲームをやっちゃダメ】なんです……!」





──時間を巻き戻して、少し前。

僕は、映像の横に表示されている波形を指差していた。

「あ、いや……音声の話なんですけど……

「え?なに?」

「波形がなんかおかしくて。音はよく聞こえませんね……

僕は慣れた手つきで音声ファイルを操作した。中音以下のボリュームを絞り、低音域を少し強調してみると……なにか、低い音が断続的に続いているように思えた。
ベース音のようにも思える。
なるほど、デスクを震わせている音の正体は恐らくこれだろう。
最近のマイクは高性能で、どんな音でも拾うんだなとひとしきり感心しながら、一つの可能性にたどり着きかけていた。
いや、まさか。

「なにこれ?」

他方、鬼頭さんはピンとこない表情をした。
当たり前だ。僕だって、これを聴くまではこんな可能性は考えていなかった。
それはなにか、と説明しようとした瞬間、けたたましい音を上げるものがあった。

「うわ!?」

「ひぃ!?……ちょっと江尻くん!?」

僕の携帯電話が鳴っていた。仕事用のメールアドレスに連絡が入ったのだ。
差出人は───【廻屋 渉】。
誰だろうと思っていたら、正体は本文で簡単に明かされていた。

「都市伝説解体センターの……

「センター長さん?そんな人からメールなんて、なんで?」

「え、いや……ええ……?」

メールの中身を見て僕の困惑はさらに広がった。

廻屋さんからのメールはこうだ。
「貴方達のおかげで、事件の犯人に目星がつきました。今、センターの職員がとある貸しスタジオに向かっています。
江尻さん、貴方は今からそこに行き、センターの職員とともに犯人を取り押さえていただきたいのです。
貴方も真相に辿り着いた頃でしょうから。
(住所はこの下に記載されている)」

随分な無茶振りだ。

「やっぱり!あそこ、自宅じゃなくてスタジオだったんだ!」

推理が正解したことに喜ぶ鬼頭さん。
だけど、僕は少しだけ緊張してしまった。センター職員を、なにより僕のことをあまりに信頼しすぎてないだろうか?
いやまだ辿り着いてないんだけどな……

「真相ってどういう……

と。
……ん?貸しスタジオ?
改めて思い返した瞬間に、そこで唐突な閃きが起こった。
あまりにも唐突で驚いたが、同時に全身が脱力するような錯覚を起こした。

……あーーーーなんだ、そういうことだったのか……

「えっ?なに、もしかして?なんかわかったってこと??」

       ・・・・ ・・
ああ、そうか、それなら可能だ。


「行きますよ鬼頭さん」

「ちょっ、ちょっと待ってよ、俺まだなんにもわかってないんだけど!」




──時間を戻して現在。

扉を締めながら、江尻さんは汗を拭っていた。
息を整え、何もない隣を一瞬見て頷き、それから私達を見る。

「えっと……どこから説明すればいいか……

「えーと、ゆっくりでいいすよ。うちら、そういうの待てるタイプなんで」

ジャスミンさんが朗々と受け答える。焦る相手の前で随分ゆったりに見えるだろう。
答えるように江尻さんが数回頷いて、ふうと大きく息を吐いてから、私を見た。

「福来さん、まだゲームはプレイしてませんよね?」

「え?はい、まだです」

「ああよかった……しないでください、そのゲームは本当にダメなんです」

どういうことだろうか。
ジャスミンさんの後ろで、管理人さんが当惑しているようだった。
そりゃあ突然知らない人が入ってきたらそうなるか。……と思ったけど、そちらに構っている余裕は私達には無い。

「いや……正確には【その環境で、呪いのゲームをプレイしちゃダメ】なんです、その……簡単に言うと」

どこから説明すべきか悩んでいる江尻さんに、管理人さんが少しムッとしている。
ゲームをしちゃいけない、なんて、自分が作った最高の環境を悪く言われたようなものだから、怒っても仕方がないかも知れない。

「どういう意味でしょうか?」

「そうですよね……あなたならそう言いますよね、管理人さん」

……?」

「僕も信じられないんです、色々……でも、現物を見てピンと来ました。随分高価な機材を揃えたんですね、お友達のために」

まるで確認のように、わざわざ告げられた言葉だった。
と私は思った。
江尻さんの疑念はもはや確信になっていて、あとは多少の裏付けだけが必要だった。

「お友達……ねえ。」

一方のジャスミンさんはそちらの言葉に引っかかっているようだった。

「僕もあまり機材に詳しい方ではないと思うんですが、このスピーカーってハイエンドモデルですよね。」

「そうですが……なにか」

「変換器を噛ませて、レトロゲーム機の音声もきちんと出力できるようになってる……そして」

ちらり、と視線が下に行く。
パソコンの置かれた机の下に、機材がいくつかまとめておいてある。その中央に、立派なスピーカーがあった。
このスピーカー、何なんだろうと思っていたんだけど……

「これ。サブウーファーですよね。これもすごくいいものを使っています。そんな設備が整っているなら、どんな音でも出せそうですよね。 例えば……とても低い音、とかも」

音?さぶ……
と、その言葉を合図にしたかのように、私の携帯電話が鳴り始める。

『あざみさん』

……センター長さんだ。
つまりこれは……

『ええ、クライマックスです。』

そうして私は、いつものように、センター長さんからの言葉をそのまま、その場にいる全員に聴こえるように話し始めた。
そしてこれが、事件の真相だ。


『いでよ、天眼錠(アイ・オープナー)!!』


そしてその空間に、それは現れた───私とセンター長さんにしか、眼に関する能力を持ったものにしか見えない、特殊な錠前が。





『こんにちは、皆さん。私は、都市伝説解体センターの廻屋渉と言います』

『今、あざみさんに私の言葉をそのまま、皆さんに伝えていただいています』

場が静まる。その言葉に全員が耳を傾けているようだった。

『それでは……この都市伝説を解体します』

「はい、お願いします」

管理人さんが睨みつけた。
急にこんなことを始めていたら、そうもなるかも知れない。
得体の知れない集団が、ついにいよいよ謎解きをすることになったのだ。普通に考えたら警戒されるのもやむを得ないよなぁ。

『まずは事件のあらましを振り返りましょう』

センター長が(私伝いではあるけど)みんなにまずは事件の全体図を振り返るように告げる。

『今回の一件。対象の都市伝説は【呪いのテレビゲーム】……いえ、これが本当に都市伝説なのかを調査するのが目的でした』

『実際に、このゲームをプレイしたガッツポさんは倒れた。それだけ聴けば、まるで本当に呪いのテレビゲームが存在しているようでしたが……気になる部分がありましたね』

そして意外な方向に舵を切った。

『───江尻さん?』

「へぁっ?あ、えっ?」

『今のは推測からでも導き出せることです。さて……江尻さん。このゲーム、何かおかしい部分がありました。貴方はもう気がついていますね?』

いるはずのない人が、センター長さんに呼ばれてここに来ているんだから、真相に到達したのだろうと言うことはすぐに推測出来た。
……らしい。
そして、突然呼ばれて動揺する自身をなんとか宥めてから江尻さんは答えた。

……はい。それは、【音】です」

解を聞いたジャスミンさんが首を傾げる。

「音?」

こくりと頷いた江尻さんが解を示す。

「ガッツポさんの、ゲームプレイ中の音声。一見すると変なところはありませんでしたが、低音域に強い反応がありました。人の耳で聞き取れる限界の、20ヘルツ前後の音域です。
一般的に、100ヘルツ以下の低音のことを【低周波音】と呼ぶんです。ここからさらに、20ヘルツ以下の低音は【超低周波音】と呼びます」

低周波音……あまり聞き慣れない単語だ。
それがなにか、と言わんばかりの管理人さんが江尻さんを睨む。

『Great、素晴らしい!』

天眼錠の一つ目の文様が光る。
ガッツポさんが倒れた理由は、呪いや祟りなんかではなく、低周波音が原因、ってことなのかな。
え、でも音だよね?これが倒れたのと何の関係があるの……
そんな疑問を抱えていると、江尻さんは更に解説を続けた。

「低周波音は、人の耳では聞き取りにくい音です。低すぎる音って聞こえづらいですよね。
だから、PC環境やゲーム環境でも、立体的な音を出すために【サブウーファー】を取り付けることがあるんです」

「そのサブウーファー?ってのは何なんです?」

ジャスミンさんが質問すると、はい、と一言言って江尻さんさんは言葉を繋いだ。

「100ヘルツ以下の低音域帯の音を出すためだけの役割を持ったスピーカーです。音の広がりを補完するために用意して、地面の震えや空気の振動などを感じられるようにするんですよ。ほら、ここにも」

と、ゲーミングディスプレイ下の大きなスピーカーを指差した。ああ、あれってそういう機能を持っていたんだ!
私が感心しているのをよそに、そこまで説明してから江尻さんが更に切り返した。

「低周波音は、長時間聴くことで健康被害が出るとされているそうです。まあ、これはまだ原理が完全に解明されているわけではないんですけどね……

ああ、なるほど。
今回のガッツポさんが倒れた理由は……低周波音による体調不良?
でもそんなことあるのかな?
そもそも原理が解明されていないって……

『そう、そこで次の問題です、あざみさん』

と、センター長さんの質問が、今度は私に降りかかる。

『さて───』

『あざみさん。今、低周波音が出るから何だ、と思っていますね』

「う……

なんでバレたんだろう……

『先程江尻さんが仰った通りで、低周波音及び超低周波音は、長時間の視聴で健康被害が出ると言われていますが』

『これらは、通常のスピーカーでは再生できません。それこそサブウーファーのような、それ専用のスピーカーでなければ』

……あざみさん。この事実から、何がわかるでしょうか?』

「えっと……ガッツポさんのプレイしていた環境にも、サブウーファーが設置されていた?」

ガッツポさんの配信に乗っていたという、非常に低い音。それがその裏付けだ。

『その事実から、もう少し踏み込みましょう。そのサブウーファー、誰が用意したものだと思いますか?』

センター長さんは何を言わせたいのだろう?

「馬鹿馬鹿しい……

管理人さんが吐き捨てるように言っているのを背後に、私は思考した。
ガッツポさんの近くにいて、ゲーム環境に詳しく、機材を揃えられるような人、って。
そこで閃光が走った。

「元相方のぴーすさん?」

『Great!その通りです!』

天眼錠の二つ目に輝きが灯る。
つまりこの考えは合っている。
合っていて、だからなんだろう。
これじゃあ、まだまだ謎が解けそうに思えないけどな……

『真相にかなり近づいていますよ』

……本当にですか?

『ええ。最後に考えなければいけないのは、このゲームを送ってきた人についてです』

その言葉を聞いて息を呑むような音が聞こえた気がした。
誰かの緊張感だろうか。

『謎に包まれた【呪いのテレビゲーム】。しかし、それはオカルトの知識を持った梅田 レイさんも知らない、特殊なゲームソフトでした』

『そして、ホラーゲームを好んでプレイしているガッツポさんや、ホラーゲームのゲーム実況が好きなプレイヤー達も、全く知らないゲームのようです』

『では、なぜその情報提供者は、そのゲームのことを知っていたのか。』

そう話しているところに、江尻さんが推測を投げかける。

「ひょっとして、その情報提供者さんが『自作したゲーム』だから……じゃないでしょうか」

……なるほど』

「だから誰も知らなかった。だからその人以外知っている人がいなかった」

それは……あるかもしれない。
でも何のために?

『さて、あざみさん。この情報提供者……毛屋さんとは、誰でしょう?』

……え?」

『今までの情報から推理してみてください』

センター長さんは、相当な無理難題を言っているように思えた。だって、まだその情報提供者についての情報は何も集まっていない。
私が言葉に迷っていると、ふいに江尻さんが言った。

「管理人さん、ですよね?」

「何?」

電話の奥で、やり取りに興奮するセンター長さんが見えた……気がした。
江尻さんは続ける。

「僕も盲点でした、まさかそんな方法で自己主張するなんて……『毛屋定価』さん」

……

その視線が向いている先は──

「閃いた時、僕もやられたなと思いましたよ……建物の管理人のことを、英語でこう呼ぶんですよ」

その言葉が、放たれる。

「『ケアテイカー』。」

「毛屋定価……ケアテイカー、あれは管理人さんのハンドルネームだった!?」

『Excellent!』

天眼錠三つ目の鍵が点灯した。
同時に、騒然とする。

「ってことは……!?」

『あのゲームを提供したのは管理人さん。そう考えて差し支えないでしょうね』

「で、でもなんで……?」

『さあ、あざみさん。ここまで情報が揃えば、もうわかりましたね?』

…………?」

『よく考えてください。

ガッツポさんのお友達で、ガッツポさんのそばにいておかしくない、ゲーム機材に詳しく、サブウーファーも設置ができて、スタジオを貸すことができる人物。

『毛屋定価』こと、管理人の正体は?』

……まさか。
先程の答えがそれなら、この人は、まさか!

「この管理人さんが……ぴーすさん!」

『Fabulous!!』

天眼錠はすべての鍵が点灯した。
謎は全て解けた。


都 市 伝 説
  解 体


私とセンター長さんだけに見える鍵が弾けるように崩壊した。
これが……都市伝説【呪いのテレビゲーム】の真相……





「だけど、どうして……

福来さんの疑問はごもっともだ。

「調べる限り……こういうことです」

全員が呆然と管理人さんを見つめる中、僕はその前後を語った。


かつては二人で配信をしていたガッツポさんと、ぴーすさん。
しかし、ガッツポさんは不満があった。
ぴーすさんばかりが褒められる。自分のナイスプレーも、いい発言も、なかなか取り上げられない。
それもそのはず、ぴーすさんはプレイングも盛り上げの技術も、かなり高い人物だった。

ガッツポさんが劣っていると言うわけではないが、それでも一緒にプレイするとどうしても、ぴーすさんにばかり話題が行ってしまう。

そうなるとガッツポさんは満たされない。そしてぴーすさんに暴力を振るい始めたのだろう。
ぴーすさんは、ガッツポさんと揉めることは望んでいなかった。
だから、いい頃合いと見て『生配信からは引退する』と告げ、レンタル業をメインにした。


「元人気配信者、ゲーム実況や機材の知識がある……そうなれば、その方面の配信者からの信頼は厚かったでしょうし」

ひとえにぴーすさん本人が積み上げてきたものの結果と言えるだろう。

「それでもガッツポさんに協力したかった。だからあなたは、貸しスタジオをガッツポさんに貸していた……そうじゃないんですか?」

……

「そんで、それでも暴力振るわれたか、それともスタジオの設備に文句言われたかで、あんたは限界になった」

ジャスミンさんも加勢する。
スタジオまで貸していて、それでもガッツポさんにこんなことをするんだ。
きっとそのきっかけがあったはずだ。

「そんで?サブウーファーの出力いじって、低周波音で体調不良にさせた?そんな一か八かの作戦、よく実行できたね」

「低周波音での体調不良は……完璧には証明されていない。だから、これで訴えることもできない。そうですよね、管理人さん……いや、ぴーすさん」

僕とジャスミンさんは、管理人さんに近づいた。
管理人さん……ぴーすさんは、観念した様子で一瞬項垂れた様子で床を見る。
これで終わりか……

……江尻くん、気ぃ抜かないで」

背後から聞こえた声で、僕ははっとする。
眼前の男は、ぴーすさんは……タガが外れたような笑みを浮かべて僕達を見ていた。

「なぁ〜〜〜〜んで、バレちゃったんですかぁ〜〜〜〜?」

「今までの私達の推理は、全部合ってるってこと……でいいんですよね?」

「はあぁぁい。バレないと思ったんですけどね〜〜〜〜?おかしいな〜〜〜〜??」

なんだ……
不気味な姿に僕の背は凍りそうだった。
まるで、これそのものが呪われた姿のような錯覚さえある。

「あの方が教えてくれたんですよ〜〜〜〜、こうすればバレずにガッツポを潰せるってねぇ〜〜〜〜!!」

「あの方……?」

「ヒハハハ、GR!ですよ〜〜〜〜、さぁて」

そしてぴーすさんはニコリと笑んだ。

「こんなことがバレたんだから困っちゃうなぁア。あ、じゃあ、」

ふ、とその姿が目の前から消える。

「全員消すしかないかぁ」

僕の体に強い衝撃が走る。

「江尻くん!」

叫ぶような鬼頭さんの声。
恐ろしいほどの速さで、ぴーすさんが僕に接近し、首を捕んでいた。

「カ……っ!?」

この細腕にどれだけの力が、というか振りほどけな……い、まず……苦し……
なんとかしようと……してるけど、ぜんっぜん……ああもう、体とか……鍛えとくんだったなぁ……!!

「ちょっ、江尻くん!しっかりして……!」

ごめ……んなさ、い……ぼく……もう……


「あざみー、ちょっとどいて」

「え?はい」

………おりゃああああ!!」


叫び声と同時、かかとがぴーすさんの腕に突き刺さる。
と、んだ……
ジャスミンさんがかかと落としを繰り出したのだ。
衝撃にぴーすさんの手が外れ、僕は投げ出された。背中を強く打ち付け、息が全部漏れ出る。

「あ……あぁ〜〜〜もぉよかったぁ、江尻くん無事!?生きてる!?俺みたいになってないね!?」

「大丈夫ですよ……ジャスミンさんのおかげで」

苦しい呼吸を整えながら前方に視線を向ければ、ジャスミンさんのボクサーさながらのパンチがぴーすさんの顔面を捕捉していた。
クリーンヒットだ。

「おーし、暴行罪でしょっぴけそう。あざみー、警察呼んで警察」

「はい!」

「あ、救急も……

「ああ、いや……大丈夫ですよ、無事です」

まだ痺れる背中を擦りながら立ち上がった。
死ぬかと思った……
警察を呼ぶために部屋の外に出た福来さんを見送りながら、お礼をする。

「すみません、ジャスミンさん。助かりました」

「いーってことよ。こういうの得意なんで」

にっ、と笑いながら答えてくれた。
ぴーすさんは、先程のパンチを食らってしっかり伸びている。しばらくは起きないだろう。

「結局、都市伝説でもなんでもなかったですね」

「はい、心霊現象や呪いでもなくて、安心しました」

僕達はやっと安堵した。
この事件は解決した……そう思っていいだろう。
サブウーファーの低周波音で体調不良を起こさせるなんて、あまりにも想定外だった。
体調や体質によって変わってしまうから、100%成功するなんて言えないのに……それも、ぴーすさんがガッツポさんの体質を掴んでいる元相方だからこその犯行、ということなのだろう。

福来さんが警察を呼んでくれたらしい。
間もなく貸しスタジオに警察が来てくれるだろう。あとはその到着を待っだけだ。


「ところでさ、江尻くん、一つ聞いていい?」

ジャスミンさんにバレないように、僕は鬼頭さんに視線を向ける。
何だろう?

「福来さんって、センター長さんと電話してたんだよね」

そのはずだけど、何がひっかかってるんだろう。

「江尻くん、ここ電波ある?」

僕は何食わぬ顔でスマホを取り出した。
扉が閉まるまではかろうじて立っていた電波のアンテナマークが、扉が閉まると同時に全て消え、そこには、【圏外】と表示されていた。

……ねぇ」

………

「あの子、誰と電話してたんだろうね?」